雪男4
グレンとエドワード、アッシュたちはまだ洞窟の中で進んでいたが、まだ出口にはたどり着かない。氷に近い洞窟だからか、地上よりも寒い気がする。
寒さに弱いエドワードは両肩を擦りながら後ろを歩いていた。グレンは振り向くとマントを取ってそれをエドワードに渡す。
「使うか?」
「あ、いや、大丈夫だ。それにそれはお前のだろ」
「このくらいの寒さくらいなら大丈夫だ」
「……ありがと。借りる」
グレンからマントを受け取り羽織る。やはり暖かい。変わったマントだ。
それに抱き抱えられたアッシュは何も言わずに黙っている。顔はグレンの肩にうずくめて見えない。
「……アッシュは大丈夫なのか?」
「ん?あぁ、今は寝てるぞ。魔法で寝かせた。かなり疲れてるようだしな」
「え、そうなのか?」
「あぁ」
まだ無理が出来ないのに相当無理をさせてしまったのだろうか。せっかく回復してきたのに申し訳ないことをしてしまった……。
先を進むと広めの場所に出て、グレンは足を止める。何事なのかと覗くと、先程の魔物である、ビックフットがかなりの数がいる。ギョッとしながらエドワードも立ち止まった。
「数がかなりいるな」
「そうだな。しかも……」
「ブラッドラビットもまだ後ろについてきてる。先にウサギを片付けるか?いや、あの数を減らすのも時間が惜しい……」
ブツブツと考え始めるグレンが考え込んでいると、小柄なビックフットの一匹がこちらに気づいたのかのしのしと坂を上がって近づいてくるのが見える。グレンは気が付いていないようなのでエドワードは彼の袖を引っ張りながらそれに指をさす。
「ぐ、グレン……」
「ん?」
グレンが気づいた頃にはビックフットは目の前まで来ている。だが大きさは先程の通り小柄で高さは120cmくらいだろうか。しかも何か兜のようなものをかぶっている。それにしてもこの魔物からは殺意を感じない。
それでもグレンはすぐ妙な動きをしたら切り捨てれるように魔物の死角で銃を生成する。
「なんじゃ、ヒューマンかの?」
「ま、魔物が喋った……⁈」
「なんじゃい!失礼な坊主じゃのう!」
エドワードの言葉に目の前の魔物、いや小柄な男は羽織っておる毛皮を取ってこちらを再度見る。
顔とこの体格は……
「……ドワーフか?」
「さよう。にしてもこんなところで生きた人に会うとは思わなかったぞい」
「それはこちらのセリフだ。貴様はこんなところで何をしてる?」
「わしか?」
グレンの問いに長い髭を撫でながらニコリと笑う。ドワーフは見た目では年齢がわかりずらいがそこそこのお年なのだろうか?
だがグレンは警戒したまま睨むようにしながらエドワードを自身の後ろへ隠す。
「そう警戒しなさんな。わしはアンバー。ここにはかれこれ10年以上住んでおってな。まぁ国に戻る途中で落ちてからここに住んどると言う間抜けな理由じゃよ」
「じゅ、十年⁈」
「……そうか。私はグレンだ」
「エドワードだ。出口に向かう予定だが一緒に出るか?」
魔法で出口までわかっている。もしアンバーが出ることがずっと出来てないなら今回出れるチャンスでもある。
だが、アンバーは首を横に振る。
「いいや、出口はもうわかっておる。6年前に一度国に帰れたんだがの、わしの居場所なんてすでになくなっておったんじゃ」
「……そうか。すまんな。余計な世話だったようだ」
「よいよい。それにビックフットはここに来た時から何故かわしのことを仲間と思っておるようでの。よい遊び相手にもなって退屈はせんよ」
ホッホッホッと笑うアンバーの見た目では失礼かもしれないが正直、剛毛が似ている。先程の毛皮も羽織っていたらなおさらそれだ。にしても魔物と共存出来ているなんて本当にすごい。
再度アンバーは持っていた毛皮を羽織ると手招きをする。
「簡単な出口がある。よかったら案内しよう」
「そっち行って襲われないのか?」
「大丈夫じゃ。ここのビックフットは大人しい方じゃ。へたに近寄らなければそうもないぞ」
「そ、そうか……」
エドワードは少しホッとしながらアンバーの後ろをついていく。
進んでいくと、生活感のある場所に案内された。そしてその奥には壁から削り取ったのだろうか長く続く地上まで伸びた縦穴があり、そこから出られるようだ。
「久しぶり話が出来て楽しかったぞい。また機会があれば話し相手になってくれ」
「あぁ、助かった。いずれまた機会があればくる」
小さく頷いて、先にエドワードを登らせる。登ったのを確認してグレンは登ろうとする前に軽くアンバーに礼をしてから登っていく。
少し登って行ったあたりでエドワードがグレンに声をかける。
「グレン、アンバーのことずっと警戒していたのは何故だ?」
「…………お前、気付いてなさそうだから黙っていたが、私は奴が殺気を出したら殺すつもりだったぞ」
「え、どういうことだ?」
「あれはーー」
グレンの回答にエドワードはゾッとする。
そして、残されたアンバーはニコニコしながら見送ってくれた。
「ホッホッホッ 本当に人と喋るのは久しいことよの」
そういったアンバーは後ろにいる。ブラッドラビットとビックフットの群れのところに行き、そのうちの一匹のブラッドラビットを抱きかかえながら撫でる。
「にしてもあの紫色の男、グレンじゃったな、あやつは厄介じゃったのぉ。あれが来なければみんな久々のご馳走にありつけたのじゃが仕方ない。また新しい餌が来るまで待とうな。可愛いわしの家族たちよ」
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長い縦穴を登り、ようやく地上に出る。どうやら森の外側に出たようだ。
先程のアンバーの件で顔面蒼白になってるエドワードはその場でへたり込んでしまっていた。そんな彼にグレンは手を貸して立たせる。自身の召喚獣であるマリアの気配を辿ってアリスたちのところまで歩いていく。
見えるくらいまで来るとマリアもこちらに気づいたようでこちらを向いて軽くお辞儀をする。
『おかえりなさいませ。グレン様』
「敬称はやめろ」
『失礼いたしました。……おや、アッシュ様?』
「あぁ、そうっだ⁈」
「グレンんんんんっ!!」
アリスが走ってきた勢いのままグレンにしがみついてくる。突然だったのでさすがにびっくりしたが後ろで引っ付いたアリスを見ると泣いている。
ため息を吐きながらも引っ付くアリスを引き剥がしながらマリアとの話を続ける。
『……大丈夫ですか?』
「問題ない。最近こんな感じだ」
『変わられましたね』
「……うるさい。それより何もなかったか?」
『はい。特には』
返事をするマリアだがジッとアッシュから目を放さない。その視線にグレンは気付く。
「なんだ?」
『仲直りされたのですか?』
「……」
『私のことはお話されてます?』
「…………こいつが治ったらするつもりだ」
『治ったら?』
「今この姿してるのは魔力回路が損傷してるからだ。マリアは治せるか?」
『診てみましょう』
マリアはアッシュの背中に手を置く。ずっとグレンにしがみついていたアリスはなんだろうとグレンによじ登ってみる。大の大人がぶら下がっているのに全くぶれずに平然な顔でグレンはそのままアッシュとマリアの様子を見ているのはさすがだと感心してしまう。
エドワードたちも気になってアリスたちがいるところまで寄る。
しばらくマリアが目を閉じて触れていた手からは淡い光が出ていた。マリアは少し目を開ける。
『……損傷はかなり酷いですがここまで回復されているなら神聖魔法で治療は問題はないです。治ってから一週間ほどは絶対に魔力を使わないようにお伝えしてください。怪我もダメです。あなた様方の場合は魔力も使いますから』
「わかった。やってくれ」
『かしこまりました』
グレンの命令でマリアは神聖魔法を使う。アリスは神聖魔法と聞いて目を輝かせながら魔法を見つめる。肩までよじ登ってきたアリスのそろそろ鬱陶しいくなったのか、”降りろ”というと、”魔法終わったら!”とアリスは聞かず。
魔法による治癒が完了したのか手を放す。グレンが魔力回路の状態を確認すると確かに治ってる。あとは馴染むまでは行使しないように言い聞かせないと、と思っているとアリスがマリアに飛びつきて手を握る。マリアは驚くが優しく微笑む。
「神聖魔法すごい!どうやるの⁈教えて!!」
『ふふっ、アリス様は神子であられます。時が来ましたら女神様より信託で神聖魔法を頂けます。そしていずれ私よりも素晴らしい神聖魔法が行使できるようになりますよ』
「ほんと?やったー!」
嬉しそうにジャンプするアリスにマリアはまた微笑む。そのまま主であるグレンの方を向き、軽いお辞儀する。
『それでは私は還ります。……アッシュ様を傷つけましたらレイチェル様に代わって許しませんからね』
「わかった、わかった。さっさと還れ」
グレンを少し睨みながらも再度お辞儀して消えていった。
マリアの言葉はかなり棘のある言い方をされてたが、グレンはあまり気にしていない様子、いやそういう素振りをしてる気がした。
抱えていたアッシュを横に寝かせ、胸元に手を置く。
「”魔法解除”」
唱えるとアッシュの姿が元に戻る。久しぶりに元の姿を見た気がする。
グレンはまだアッシュが眠ったままなのを確認してから、アリスたちの方を向く。
「ここにマリアがいたことは黙っていてほしい。アッシュからは私から伝える」
「……わかったわ。じゃあアッシュが目を覚ましたら行きましょ」
アリスの返事に小さくグレンは頷いた。
マリアがレイチェルの名前を出したということは昔の話の件だろう。このことに関しては私たちは関与できない。
もどかしいような、なんとも言えない感じだった。