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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第四章 雪山の旅
34/213

いざ雪山へ1

 早朝。

 各々準備を整え、先に準備を終えていたグレンは雪山方面にある村の出口で立って、他が来るのをいまだに子供姿のアッシュと待っていた。

 片手で抱きかかえられたままのアッシュはムスクれながら動く足をパタパタさせる。



「いい加減、自力で足動かないかな……」

「一応立つことはできただろ」

「いや、立ったり、こうやってプラプラさせることしかできなくて、魔法も使おうとすると激痛だし、歩くことすらできないのが歯がゆい~……。あ、でも逆立ちはまだだけど、匍匐前進(ほふくぜんしん)は出来たよ。ワンチャンいけるかな?」

「お前、匍匐前進(ほふくぜんしん)で山登る気か?馬鹿か」



 何故それで登れると思ったんだろうか。

 アッシュの馬鹿さ加減も(あい)まってズキズキと痛む頭に眉間のあたりに手で押さえてる。


 押さえていると顔を覗き込むように見てくるアッシュに気づいた。



「なんだ?」

「顔色悪いけどどうしたの?」

「魔力酔いだ」

「え、なんで? 別にここ一帯はそんなマナそんな濃くないよね?」



 空気と同じでマナが漂っている。マナの濃度が高いと身体に深刻なダメージを受けたり、まだ軽度の魔力酔い、いわゆる二日酔いみたいな症状が起こることがある。


 だがここはあの森が近いためかそんなにマナが濃いわけではない。なので魔力酔いになることはないはず。



「これは昨日の夜、エドワードに魔力循環を教えていたんだ。初めては魔力の出力が安定しないから受けとるこちらは過剰な魔力を受け取ってる状態だったからな。魔力の変換も間に合わなかったんだ」

「あー、そゆことね。ごめんね、僕ができればよかったんだけど」

「いや、お前で試そうと思ったがまだ魔力回路が治ってないし、試して治りが遅くなっても困る」

「……心配なのかそれとも面倒だったからと遠巻きにいわれてるのかな」

「さぁどうだろうな」


(後者な気がする……)



 諦め顔でアッシュは雪山の方を向こうとすると、バタバタと走ってくる音がする。振り向けばアリスが走ってきてその後ろからエドワードたちが歩いてこちらに向かってきていた。

 それぞれ暖かそうな防寒着で着てるのにも関わらず、いつもと変わらない服装、フード付きの黒マントと上下共に黒い長い服のグレンにエドワードは、えっ、という驚く。



「おい、グレン。その格好で登るのか?」

「そうだが?そもそも私は何度も通ってる。私の事より自分の心配をしたらどうだ?」

「え、僕、なんも着てないけど……」

「私が抱えてるから問題ない」



 いや、安全性では問題ないだろうけど寒さは別なのではと思ったがグレンは気にしない様子。その隣でソワソワしてるアリスが目を輝かせながら両手を何故か出す。



「私がアッシュを持っておこうか?」

「僕がやだ」

「なんでよぉ!」

「君、この姿になってからやたら触ってくるし、何より……」



 ジーッとアリスを見てグレンの服を掴む。



「君の方にいると僕の身が持たない」

「なんでよぉ!」



 二回同じ叫びをするアリスに対してアッシュはプイッとそっぽを向いた。


 一応、僕は成人してることを理解して欲しい。


 ブーブーっ叫ぶ彼女を無視してグレンは全員いることを確認し終えると、羽織っているマントを捲り、その中にアッシュを入れ込む。


 中は思ったよりも暖かいし、何よりマントの中なのに外の景色も見える。かなり分厚そうな見た目なのに身体には全然重さを感じない。



「さて、全員揃ったなら行くぞ」

「そうだな」



 雪山へ向けて出立する。



 ――――――――――――



 山に入って数時間。すっかり周りは雪景色。白さが際立ち、何より町にいた時と比較にならないほど寒い。

 それでもマントの中にいるアッシュは思ったよりも寒さを感じてはいなかった。

 不思議なマントのおかげで周りも見えるし、何より後方で歩いてるエドワード達の様子も確認できる。あまり動くと怒られそうだけど。



「どうした?」

「あ、うぅん。結構登ったなぁて思って」

「雪山と言ってもさほど標高がある訳では無いからな。地形の影響で山が積もりやすくなってる可能性もある」

「どのくらいの高さあるの?」

「さぁ?3000mくらいとは以前聞いたな」

「……高いのかどうかも僕もよく分からないかも」

「同感だ」



 そんな会話をしながらクスクスとアッシュは笑うとグレンも少し口元が笑う。


 それにしても雪は何処までもある。

 迷子にはならないようにとグレンがロープを準備してくれてはいるが、慣れない山登りにアリスたちもかなり辛そうだ。


 そう思っているとアリスが叫んでいる。



「あー!もう無理ぃ!!寒すぎて凍える!!」

「つーかグレンのやつなんであんな平然と歩けてんだよ……。寒さにもあんま気にしてる様子ねぇし」

「あんた良いじゃないのよ!ユキに肩車してもらってんだから!」

「俺は雪に足持ってかれそうだからユキに肩車してもらってんだよ!」

「……雪だけに?」

「うわ、しょうもな」

「ふ、2人とも落ち着いてください……」



 アリスとノアはわりと元気そうだ。

 リリィに関しても変わらず涼しい顔で進んでいる。少し鼻が赤いがそこまでは無い様子だ。ユキに関してもアリスとノアに挟まれて言い合いの方に疲れてる気がする。


 問題は1番後方にいるエドワードだ。



「……っ く……っ!うわっ?!」



 よく足を積雪に持っていかれてしまい、時々転ける。それに他の人と比べかなり息が上がってしまっていた。


 心配そうにアッシュがエドワードの方を見ていると、それに気づいたグレンが後ろを振り返る。

 エドワードが遅れてることには気づいてるが、あれだとすぐにバテてしまいそうだ。


 1度足を止めて、エドワード向かってグレンが声をかける。



「エドワード!1度休むかぁ?!」



 少し遠いので声を張って聞くと、返事をする元気はないようだが、首を横に振る。肩で息をしながらもどうにか進もうと足を進めていく。


 その様子にグレンはため息を吐く。吐いた息は白くなっていった。



「……ったく。アッシュ、一瞬飛ぶぞ」

「ん。大丈夫」



 グレンは持っていたロープを括っている棒をその場に刺す。グレンから落ちないようにアッシュが服を掴んでいることを確認し、そして軽くジャンプをして、エドワードがいるところまで綺麗に着地をした。

 つけていたマントのボタンを外して、アッシュごと、エドワードにマントを渡す。



「そのアホ抱えながらになるが羽織っておけ」

「え、いや、大丈夫だ……」

「大丈夫ならそんな息が上がることは無いだろ。一旦休憩だ。どちらにしろそろそろ天候が悪くなる」

「今サラリと僕のことアホ言わなかった?」

「アホだろ」

「えー……」



 否定できないから尚困る。その場で座り込むエドワードの膝の上に座るように置かれ、マントをエドワードごと包む。

 寒さで震えてるエドワードの肩を撫でながら、マントが落ちないようにアッシュは掴む。


 2人をその場に置いて、グレンはアリスたちの所へ行き、休憩することを伝えに行った。



「……エドワード、本当に無理しないように」

「ハッ……ハッ……っくしゅ!!」


(これは風邪ひいちゃったかもなぁ……)



 そう思いながらアッシュはエドワードのそばでじっとしておく。マントが暖かいおかげもあり、そこまで待ってる間はキツさは無い。


 戻ってきたグレンが膝に乗ってるアッシュごとエドワードを持ち上げる。



「うわっ?!」

「動くなよ。動いたら落とすぞ」



 持ち上げた勢いのまま、雪山を駆け上がる。アリスたちがいる所まで走っていき、棒を刺していた場所で、エドワードを降ろした。


 洞窟も何も周りには見当たらない。グレンがその場に屈みながら魔法を唱える。結界魔法が発動し、棒を刺していた所を中心に大きく円状に張った結界内は暖かい。

 外気が遮断されたからか、暖かくなったことでアリスがキャッキャッと喜びながらジャンブする。



「わーい!あったかぁい!」

「外の様子を見えるようにはしてるが外からはこちらの姿は見えない。だから絶対に結界外に出るなよ。出たら分からなくなるからな」

「はーい!」



 軽い返事をするアリスに”こいつ本当に理解してるのか”と言わんばかりの疑いの目でグレンは見ていたが、ひとまずは休憩できるところは確保出来た。

 グレンはまだ震えたままのエドワードの所に行き、額に手を当てる。その際にマントの中にいたアッシュが顔を出す。



「多分、エドワード、熱出てる」

「だろうな。本当に身体弱いんだな、お前」

「……す、すまない……っ」



 まだガタガタ震えながら膝の上にいるアッシュを湯たんぽ代わりに後ろから抱き締める。寒いのは分かってるアッシュも何も言わず、そっとしていた。



「さっき気候が悪くなるって言ってたけど、外を見る感じはまだ晴れてるよ?」

「山の気候は変わりやすい。あそこからつるし雲が来てる。吹雪が来る可能性も無くはないからな」

「詳しいね」

「ある程度の常識だ」

「ごめん、僕そんな登山詳しくない」



 山登りの常識を申し訳ないが持ち合わせてなかった。


 というか、今回たまたまグレンが同行してくれてるからいいものの、グレンがわざわざ準備してくれてるものは多い。

 準備不足だったというか、甘かったと思う。



「テントたてた方がいいでしょうか?」

「少しして吹雪いた時は考えがある。変わらなければ1時間後に再度先へ進む」

「わかりました。念の為すぐにできる準備だけしてときます」

「いや、使わないでいいと思うからなおしてていいぞ」

「? そうですか?」



 そしてテキパキと進めるからみんな動きやすい。


 グレンは懐から薬品を幾つか取り出して、それを片手で調合していく。カラカラと最後になにか丸薬入れたあと数回ほど降ると、薄い青色の薬が出来上がった。


 出来上がったものをエドワードの前に出す。



「薬だ。即効性はないが少ししたら効いて楽になるはずだ」

「……君、調合早くない?」

「普段、仕事で色々しながらするからな。それで慣れてるだけだ」



 そう言いながら持っている薬をエドワードに渡し、グレンはその場に座って、エドワードの背中を撫でる。

 震える手で少しずつ飲むと彼はちらっと隣に座るグレンに申し訳なさそうな顔をしてしまう。



「……すまん、その、マントも借りてしまった」

「そこまで寒くは無い。大丈夫だ」



 それは絶対にないとアッシュは思ったけど、もうグレンだから何も言わない方がいいだろうと思い、落ち込むエドワードの頭をアッシュは撫でることにした。

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