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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第一章 神子と守護者
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神子と守護者1

 ◇




 暗い夢、最近は繰り返し、繰り返し、同じ夢を視る。

 暗い、酷く寒い、儚く、二度と戻ってはきてくれない。


 そして今日も僕は夢視る。


 目の前にいるのは僕の伴侶。僕が愛していた人だ。それなのに君の顔が見えない。君の姿が朧気で見えない。

 それでも彼女の声は、はっきり聞こえる。



「待っています。この子と一緒にずっとあなたの帰りを待ってます」



 君の顔は見えないはずなのに、あの時と同じように微笑んでくれていることは分かる。



「ですから、早く帰ってきてくださいね。約束ですよ」



 そういって君は、愛しい我が子の頭を撫でて僕に優しく微笑んでくれる。



 あぁ、そうだね、だってその日は大事な日で、約束も覚えてたんだよ。


 覚えていたのに……。



(その約束を、僕は……)



 そして僕の意識はまた此処で途絶える。




 ◇




 ゆっくりと目を覚ます。見えたのは見慣れたテントの天井が見えた。苦しい夢ではなかったがこの夢は何かととてもきつい。二年以上経つのに、僕はこの夢をずっと視ては、あの時の後悔が、胸の奥で永遠と残ってしまう。



「はぁ……。もう朝だし起きないとなぁ……」



 ため息をつき、クシャクシャと長い金色の髪を揺らしながら翡翠の瞳の彼は起き上がった。

 気だるそうにあくびをし、そろそろ起きようかと思いつつ、座ったまま、背伸びをしていた時にそれは起こる。


 ドォンッ! という朝から耳を塞ぎたくなるくらいけたたましい爆音と共に、目覚めたばかりの彼とテントの床を残して、テントの上部が何故か吹き飛んだ。

 キーンッと耳鳴りで頭も痛い彼は、吹き飛ばした張本人を見上げる。



「あ、あの、アリスさん……。朝から勘弁してほしいなぁ。せめて起きてるかどうか確認して頂けるとホント、僕も助かるなぁ」



 苦笑しながら彼は目の前で仁王立(におう)ちをしている。純白を思わせる白い髪に毛先が少し紅いグラデーションとなっている、黙っていれば綺麗な少女――アリスと呼ばれる人は、『フンッ』と言いながら肩へ引っ掛けてる銃口から煙の出ている大きなバズーカを片手に見下すような目をしていた。

 が、それは軽蔑な目ではなく、少々、小馬鹿にしてるような感じだ。



「あら、アッシュ。なによ、起きてたの?」


「いや、普通ね、撃つ前に確認しようよ。それと、起きたのはついさっきだよ」


「チッ、残念ねぇ。起きてなかったらもう少しキツめな起こし方を考えていたのに」


「……それは、起きてよかったと心の底から思うよ」



 露骨に残念がっているアリス。そんな彼女にアッシュは苦笑いをしながら頬をかく。



 以前、寝坊した時は散々なことが起こった。

 人がまだ寝ているっていうのに、容赦なく、全体重を人の腹の上にのしかかってきたことがあった。それ以外にも、鉄の板を耳元に置いて、キキキィ~ッと鳴らしてきたりと、様々だ。

 他を思い出すだけでも正直、怖い。というか、勘弁してほしいとも思う。



「て、言うか、そもそも守護者が神子よりも遅い時間に起きるなんて、のんびりしすぎよ」


「普段、寝溜めしてる君に言われたくないんだけど……」


「なんか言った?」



 アッシュの言葉にムスゥッと頬を膨らませて、持っていた武器をこちらに向けてきた。それに彼はギョッとして両手を前に出して振る。



「あ、いえ、何も言ってな――」


「おい! お前ら、さっさと支度して飯を食う準備しろ!!」



 アリスとアッシュの会話へ割り込んできたのは、銀髪の長い髪を高く結った紫水晶の瞳を持つ彼はエドワード。彼はまるで鬼のように険しい顔をフライパンを片手に怒っていた。

 エドワードに対して、アリスはヘラッとしていたが起こされていたアッシュは困ったように笑いながら思う。



(あぁ、めちゃくちゃ怒ってる……。むしろ、怒ると怖いのはアリスより、エドなんだよなぁ)


「それと私は起こせって言ったのに何故テントを吹き飛ばしてるんだ!!」


「起きてたそうよ」


「……お前、それ撃つ前に確認はしたのか?」


「してないわ」


「しろよ。いつかうっかりで殺すんじゃないのか?」


「あらやだ、私がそんなヘマすると思う?」


「やりかねないから言ってるんだ、大馬鹿者! はぁ、もういい。アッシュ、一応、聞くが怪我は?」



 呆れ半分ながら、心配そうな様子でアッシュを見て言うと、ヘラッと笑いながら、『大丈夫だよ』、とアッシュは言いながらテントを片付け始める。吹き飛ばしたテントをアリスが片付けることは無いのでせっせと畳む。


 テントを畳んでいる最中に案の定、彼女はどこかへ行ってしまっていた。多分、エドワードの説教から逃げるためだろう。ちなみに彼女とエドワードは幼馴染だ。同じ街で育ち、共に旅をしている。


 僕は途中からの参加だけど……。


 そして、彼女ともう一人、彼女たちの幼馴染の子がいる。



「おい。アッシュ」



 怒り混じりな声で槍を背中に突きつけられた。

 そんな彼女の槍先が少し刺さっており、地味に痛い。


 そう、この声の主こそ、彼女がアリスのもう一人の幼馴染だ。



「ちょっ、え、なんだい?」


「せっかくアリスが起こしてくれたんだ。さっさと顔を沼にでも頭から突っ込んで洗ってこい」


「せめて川がいいな。余計、汚れそうだよ」


「知らん。それか川に埋もれる手伝いならするぞ」


「え、待って、僕、川に埋もれさせられるの?! 沈めるのではなく?!」



 バッと振り向き、テント袋を盾に構える。

 物騒なことを言う彼女は紺色のショートヘアに琥珀色の瞳を持つ彼女の名前はリリィだ。


 そんな彼女からは槍をつけながら睨まれていると、エドワードはまだ不機嫌そうにフライパン、ではなく、今度は皿を片手に持って二人の間に立ち、槍を突き付けるリリィからアッシュを引き剥がす。



「おい、リリィ。お前は川の汲みに行ったんじゃないのか?」


「汲んできていない。私は、アリスから5メートル以上離れたくない」


「……大概、アリス離れしろ、マジで」



 ツンッと口を尖らせるリリィに対して、頭が痛そうな表情をしている彼は近くに置いてあるテーブルまで歩いていき、4枚の皿を並べながら重いため息を吐く。



「はぁ、もういい。アッシュ、すまないが顔を洗うついでに水を汲みに行ってくれ」


「うん、いいよ」



 ようやく畳んだテントを袋へ直したあとアイテムボックスへとしまう。リリィから空っぽの水袋を渡され、それを片手に川へ向かう。



 そう、僕らは旅をしている。僕とアリス、エドワード、リリィの4人で。


 彼女たちは女神の元へ行くための旅。この世界にいる神々の神託を受け、神子に選ばれたアリス。その守護者である、エドワードとリリィは昔からずっと一緒に過ごしており、数年前に彼女たちは三人で旅を始めた。

 僕は、まぁ、ちょっと訳ありだ。僕も守護者ではあるが、アリスの守護者じゃない。けれど一緒にいるのは、簡単に言うと自分の大事なものを探すため、アリスたちの旅に二年前から同行させてもらっている。


 とはいえそこそこ強くないとこの旅は本当に危険だ。魔物や魔獣、盗賊、それ以外にも危険はつきものだが、僕はそこそこ強いと思う。その辺の一般の人間よりは役立つくらいには。



 そして、ようやくたどり着いた湖。水面に映る眩しい太陽に目を細める。冷たい水を両手に汲みながら顔へ。ひんやりとした水で目がだんだんと彼は冴える。

 アイテムボックスから手ぬぐいを取り出して、顔を拭く。あとは、エドワードに頼まれた水袋を湖に沈めて、ポコポコと音を立てながら水を袋の中へと入れていく。



「ふぅ」



 水を汲みながら、湖の向こう、さらに遠くを見つめる。



 世界のどの場所から見ても何故か目に届く、不思議な大木――生命の世界樹。あそこが旅の終着点となる場所。ここからどれだけの距離があるかは分からないし、どんなところなのか知らない。あの場所には僕も行ったことがないところだからだ。



 世界樹に見とれていると水袋から聞こえていた音が止み、そちらに視線を降ろす。十分に汲み終えた水袋を持ち上げ、アイテムボックスの中へとしまう。



「さて、戻らないと。エドワードたちに怒られちゃうな」



 湖からテントへ戻ると、朝食の準備を済ませており、いい匂いがした。


 食べることが大好きなアリスはまだかとまだかと指をくわえて朝食を待ち遠しい様子。彼女の隣に座っていたリリィは腹を空かせている彼女に食べたせようとしているが、恐らく揃うまで待てと言わんばかりにエドワードにそれを阻止されている。


 どうやら結構、待たせてしまっていたようだ。



「ただいま。戻ったよ」


「おかえり、飯は出来たぞ。空いているところに座れ」


「うん」



 ちなみに今日のメニューはハンバーグのようだ。


 朝から朝食メニューとしてはかなり重いと思うが、昨日、アリスがどうしても作って欲しいと言われたためである。それでも重くならないようにとエドワードは肉ではなく大豆を使った大豆ハンバーグにしたと聞いている。


 アッシュも空いた席に座り、全員で頂きますと言い、朝食を食べながら話も始める。


 たわいのない話。昨日の振替。


 そして、今日の流れを話す。

 朝食の時のいつもの打ち合わせだ。


 だが、その中で今日は少し違った。



「あ、そうそう。私の守護者、もう1人見つけたわ。次の町にいるようなのよ」



 フォークを咥えながらアリスは言う。

 彼女の言葉にアッシュは食べようとした手を止めて、少し首を傾げながら彼女に問う。



「君の? あ、そういえば3人だったね。君の守護者は」


「えぇ、そう。まぁ、見つけたのは私じゃなくてエドワードだけどね。予知夢で見つけてくれたのよ」



 守護者にはそれぞれ秀でた能力を持つ。

 予知夢はそのひとつだ。ただし、彼の場合は意図的に見ることは出来ず、特定なものを視るには厳しいと聞いている。意図的に見れればもっといろいろと出来そうだけど、それは()()いだろう。


 アッシュの隣で食事をしているエドワードは舌打ちをして、コトッと皿を置いてアリスのほうへと目をやる。



「今回、私の予知夢に関してはコイツのせいだ。人が寝てるのにずーっと、『守護者を見つけろぉ〜、守護者を見つけろぉ〜』と、耳元で言われてたし、お陰様で寝不足だ」


「あ、あはは、それはお疲れ様だね……」



 最近、目のくまがすごいのはそれが原因だったんだ。元凶のアリスに目をやると、清々しいほどのガッツポーズをしている。


 最後の一口を食べたアリスが立ち上がり、テーブルに足をかける。



「さぁ!! 早速向かうわよ!!」


「アリス、また他が飯食ってるだろ。足どけろ、バカ」


「あっはっはー! 楽しみだなぁ! 新しいおもちゃ――もとい、守護者!」


「今、おもちゃって言ったよ……」



 若干、引いてるアッシュと注意するエドワードをそよにアリスは高笑いをやめない。満面な笑顔を向けて、彼女は右手の拳を高く空に向けて突き上げる。



「さぁーて、と! ご飯も食べたところだし、この場所抜けたら街に向かうわよ!」



 彼女の言葉にはアッシュとリリィは頷き、食事を終えた一同は食事を片付けをする。


 ちなみにアリスは片付けをしていない。


 その度に、エドワードが怒るも毎度の事ながら、改善されることはない。怠惰な彼女の性格も分かっているし、そんな朝の恒例のような二人のやり取りにアッシュはクスクスと笑いしながら荷物をアイテムボックスへしまっていく。


 出発の準備を終えた一同は予知夢で視たという街へと向かう。

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