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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第三章 魔封じの森
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守護者とは2

 アッシュが眠りについたことを確認して、少し経ったあとテントから出る。


 そこには食事の準備をしているノアがいた。グレンがでてきたことを確認すると、軽く駆け寄る。



「お、出てきたな。お前も食べるか?」

「何をだ?」

「何って、シチュー」

「食べない」

「あ、なんでだよ?」

「元々食べん方だからな」



 そう言ってまた洞窟の入口の方に行こうとしたが、後ろから誰かがドンッ抱きついてしがみつく。

 振り向くとアリスが腰にしがみついていた。

 しがみつく腕を外そうとするが、がっちりと掴んで離さない。



「……なんのつもりだ?」

「せっかくなんだから、一緒に食べましょ!」

「…………」



 露骨にものすごい嫌そうな顔をするグレンに対してアリスはしがみついたまま。

 ニヤニヤしながら今度は首にしがみつく。



「せっかくだから!一緒がいい!!」

「……あー……はいはい、いつかな」

「いっ!まっ!がっ!いっ!いっ!」

「…………」



 アリスに服を捕まれガックンガックンとゆらされる。


 なんだか妙な懐かれ方をした気がする……。


 どうしようかと考えてるグレンは次第にしがみつきが激しくなるアリスに対してとりあえずどう引き剥がそうとすると、エドワードがアリスの首根っこを掴む。



「おい、グレンが困ってるだろ。食べられない事情があるかもしれないだろ?」

「えー……、一緒に食べたかったのにぃ……」



 ムスッとした顔でしょげている。



「あー……」



 グレンは頭をガシガシとかいたあと、ムスくれたままのアリスの頭をポンポンと撫でる。



「わかった……。食えばいいんだろ。それで大人しくするなら食う」

「やったあああああああ!!」



 ぴょんぴょんと飛び回る。やかましいくらいはしゃいでいる。


 それにしても誰かと食べるなんていつぶりなのだろうか。



「さっ!グレン!こっち来て!」



 グレンの手を引くアリスは笑顔で席に連れていく。


 あぁ、似ている。私の主(マイマスター)に。

 それのせいか少し口元が緩んでしまった。


 それを目撃したアリスがハッという顔をしてきた。



「あら……」

「…………なんだ?」

「なによぉ、あんた本当にアッシュそっくりね!ちゃんと笑ったとこ、初めて見たわ!」

「……うるさい」



 思わず口元をマフラーで隠す。


 調子狂う。


 アッシュ以外の全員は席に着いた。アリスが立ち上がり、コップを片手に振り上げる。



「んじゃまあ!いっただきまーす!」

「……いつもこんな感じなのか?」

「いや、今日が無駄にテンション高いだけだろ」



 エドワードの返事に”そうか”とグレンは呟いて、出されたシチューを口に運ぶ。



「どう?美味しい?」

「……まぁまぁだな」

「まぁまぁかよ!世辞でも美味いとか言えっての」

「世辞で美味いと言うと成長しないぞ。その身長と同じで」

「お前、喧嘩売ってる?」

「買ってくれるなら大いに売りつけてやろう」

「こいつが強くなかったらマジで殴ってたわ」

「いつでも来い。返り討ちにしてやる」

「コイツ!絶対煽ってるの分かってて返事返してんだろ!!」



 ガタンと吠えるノアを無視して数口、グレンはシチューを口に運ぶ。


 ふと、エドワードは考えてからグレンに気になっていたことを聞く。



「そういえば、お前はなんで普通に魔法が使えるんだ?ここで魔法はかなりリスクなのに」

「ん?あぁ」



 懐の中から板のようなものを取り出す。見たことの無い札でなんと書いてあるかも分からない。板の真ん中には何やら玉が填められている。

 それを目の前にカランと音を鳴らしながら出す。



「これがあれば問題なく魔法を行使できる。あとはここに赤い玉があるだろう。これが色が無くなれば効果は無くなる」

「へー、すげぇなこれ」

「マーダー兵の奴らもこれを使って魔法を行使していた。だからこの森にはいる際は必須なものだ」

「なるほど、だからあいつらはなんの苦もなく使えてるのか」

「……一応言っておくが、渡せないからな。これがないと私は死ぬと思う」

「死ぬの?!」

「私の身体は少々特殊でな」



 と言って、再度懐にしまう。


 グレンも冗談を言っているようでは無いし……。


 悩みながら考えてるとグレンは席を立つ。自身のお椀を持ちながら席を離れる。



「ん?もう食べたんですか?」

「いや、まだだ。もうひとつシチューを貰ってもいいか?」

「構いませんけど、2つも食べるのですか?」

「…………」



 ユキからもうひとつシチューを受け取り、アッシュが居るテントへ入っていった。

 入っていく姿を見て、アリスはスプーンを咥えながら言う。



「グレンって割と面倒見はいい方よねぇ。普通私たちのことも放っておくんじゃないかって思ってたし」

「ツンデレってやつじゃね?」

「あらやだ。今のところ私、デレしか見てないけど」

「もういいから黙って食え、お前ら」



 アリスとノアに注意しながら、一足先に食べ終えたエドワードは食器を片付けに向かう。



 ――――――――――



 みんながご飯を食べ始めた頃、テントの中に居たアッシュは、中でみんなの話し声がぼんやりとだが聞こえていた。身体の痛みでなかなか長く寝られない。


 楽しそうな声が響く。



「…………」



 何もない、薄暗い天井。

 なんだか、身体が思うように動かないのだから仕方ないとは思っている。けど……



「すこし、寂しい……」



 ポソッと呟くと、バサッとテントの入口が開く。ビクッとして音の方を見るとグレンが立っていた。その両手にはお椀が2つ。



「……君、わざわざ持ってきたの……?」

「まぁ、美味かったし、お前何も食べてないだろ」



 そう言って起き上がれないのを分かってしてるのか身体を起こすのを手伝ってくれる。倒れないように隣に座り、片方の手は僕の背中を支えながら、もう片方の手で持ってきたシチューを渡してくれる。



「手は動かせるか?」

「え、あ、うん……。ゆっくりだけど動く……」

「そうか。ならゆっくりでいいから食べろ」



 そう言ってもひとつ食べかけのお椀はあぐらをかいているグレン自身の足の上に器用に置きながら食べていた。

 わざわざ食べてる最中にも関わらず持ってきてくれていたようだった。

 チラッとグレンの方に視線をやるが黙々と食べている。



「……その、ありがと……」

「何がだ?」

「……うぅん、なんでもない……」



 辛うじて動く腕でゆっくりと食べる。


 温かい……。


 食べていると少し涙目になってしまってるのか目の前が潤んでしまう。



「……なんだ、寂しかったならそう言えばいいだろ」

「なっ?! そ、そんなこ……っゲホッゲホッ!!」

「はいはい、いいから落ち着いて食え。お前のいつもの回復が使えない以上、飯を食って体力つけておかないと後々がキツイぞ」

「ケホッ……、うぅ、釈然としない……」

「それは良かったな」



 グレンは噎せたアッシュの背中を擦りながら一緒にシチューを食べる。甘いシチューがちょっぴりしょっぱく感じてしまう。


 食べ終えてからはまた横になっている間、グレンはなにか本を読み始め、少し経つと今度はパジャマ姿のアリスが入ってきた。何事かと思ったら掛け布団をもって横にくっついてきてくる。


 一瞬、何事かと思ったが、こちらをアリスは座りながら言う。



「今日は私はこっちで寝るわ」

「え、急にどうしたの?」

「……今日のことで、私がちょっと怖いの」



 そう言ってアッシュの腕にしがみついて、顔を埋めながらぐりぐりと肩に捻り込む。

 その様子を見ていた本を閉じて、グレンは立ち上がる。



「寝るなら私はテントの外に出よう。用があったら呼べ」

「はーい、おやすみなさーい」



 その後にみんな入ってきた。アリスの隣にリリィがくっついて、アッシュの逆側の方はエドワードが寝る。



「……今日みんな同じテントなんだ」

「いつもいるだろ。女子メンバーが入ってきてクッソせめぇけど」

「はーん?! 何よォ、もっとそっち詰めなさいよ。狭いわよ」

「はぁ?!こっちギリギリだっての!つーか自分のテント戻れっての!」

「今日はヤダ!!」

「いいから黙って寝ろ。じゃないと外に出すぞ」



 ぽつりと呟いたアッシュの言葉にアリスとノアがうるさく答えると、アッシュの隣にいたエドワードが眉間にしわを寄せながら言うと再度静けさが戻る。



 時間が経ち、寝苦しさにアッシュは目を覚ます。


 身体のだるさはないが身体に力が入らない。どうにか少しだけだが腕は動きそう。それでも起き上がれるまではまだ無理のようだ。


 何時だろうかと思いつつ、アッシュはくっついたままのアリスをちらっと見ると、パチッと目が合う。


 さすがにビクッとして驚く。



「あら、おはよう」

「お、おはよう……。起きてるの珍しいね」

「あら?意外かしら?」

「普段寝坊の常習犯でしょ」

「否定はしなーい」



 そう言いながらクスクスとアリスは笑いながら体の向きを少し変え寝転がる。



「あ、ねぇねぇ、アッシュはどうやって覚醒してるの?」

「え、僕? ……というか君、覚醒のこと知ってたの?」

「うぅん、昨日グレンから教えてもらったの」

「……グレンがよく教えてくれたね」

「エドが聞いてたからそれに便乗しただけよ」



 そう言ってアリスは肘をつきながらアッシュの方へもう少し寄る。アッシュの腕にしがみつくような感じのまま、顎をアッシュの肩あたりに乗せる。



「ね、アンタはどうやってしたの?」

「んー、なんだろ。僕の場合は……、なんだったかな。小さい頃からできてたから」

「あんた小さい時から規格外だったの?」

「どうかなぁ、あんまり気にしたことなかったし、先代が早々に身につけさせてくれてたからね」



 当時は、父にあたる先代は子供としてではなく守護者として育てることをメインにしていた。正直、生きるのにも必死だったし、グレンから覚醒のことも当時聞いていたけど……。



「聞いてもわかってなくてグレンにめちゃくちゃ怒られた記憶しかないな……」

「ふーん。アッシュにもそういう時期ってのあるのね」

「あはは、そりゃあるよ」



 へらっと笑ったがアリスは少し暗い顔する。



「……それに、今後は守られるだけじゃなくて、私たちもあんたと並んで戦えるくらいはなりたいわ。今回みたいな思いはホント懲り懲りよ」

「……ごめんね、怖い思いさせて」

「うぅん、これは私にも責任があるの。あんたになんでもかんでも頼りすぎて、何も出来てなかった」



 そう言ってアリスは起き上がったかと思えば、それぞれの手はアッシュの顔の横に置いて上からアリスが覆い被さるような状態でジッとアッシュを見る。




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