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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:母と娘と……5

 アルベルトの腕が大きく肥大化し、ナギを覆い隠すように呑み込もうとする。グレンが舌打ちをしながらパチンッと指を鳴らす。


 呑み込まれる直前で魔法で保護し、再び、指を鳴らして転移魔法でアルベルトの頭上へと飛び、武器を振るう。ソレを腕で防がれるが半分以上呑み込まれていくナギを掴み、引き抜いてすぐさま距離を取る。


 無事に引き抜かれたナギは顔を真っ青にしていた。



「おい、ナギ、生きているか?」

「し、死んだかと思うた……」

「生きてるならいい。立てるな?」

「だ、大丈夫や。それよりも魔法かけてくれたんやつとってや。魔力、そげなもうなかろ?」

「……問題ない」



 そうは言うが、彼の腕が薄くなっている。魔力を分けてもらってたとはいえ、その症状が出るまでが早い。

 顔色も悪いし、冷や汗だろうか。汗をかいている。


 ナギから逃げられたマーテルはバキッと歯を砕いたような音を立てて頭を掻き毟る。



「ナギぃ……、ホンマに悪い子やなぁ……」

「ま、ママン、ホンマにもうやめようや。もう終わったんやろ? ぐ、グレンはんのこと、は知ったんは今日や。でも知っとっても言わんやった。もし、ママンが知ったらグレンはんを生け捕りにするんは変わらんやけどきっと酷い実験させるに決まっとるやん!!」

「だったらなんよ? オトンのためや、オトンが帰っくるためやったらどうでも良かろうが!!!!」

「もうやめてぇや! パパは、パパはもう出ていったんやん!! 諦めよぉうや!! こげなこと続けても意味ないやろ!!」

「はぁ? なん言っとるとや?」



 持っている魔鉱石はさらに光が増す。その光で照らされるマーテルはフラフラと歩いてくる。警戒しながらグレンは後ろいるナギと近寄るマーテルから距離を取るように下がる。


 それでも狂ったように視点の合わない目をこちらに向けたままゆっくりと近寄ってくる。



「お前さんら、絶対に許さへん……ッ 数十年、うちの大切な、大切な旦那のための研究も、実験も、何もかもを踏み躙った……。あんさんらを、許さへん!!」



 握った魔鉱石はピキッとヒビが入る。


 ヒビの入った魔鉱石から煙のようなものが漂い、それは、風に煽られてこちらまで臭いのようなものが飛んでくる。不快な臭いにグレンは顔を顰め、口元を手で覆う。



(何だこの臭い……。ピリピリする……?)



 そして、マーテルの声に反応するようにアルベルトだった者とガスマスクのキメラが一斉に襲い掛かってきた。銃を放ち、牽制する。


 それでも数は減らず、しかも、人の形から徐々に崩れるアルベルトの動きが読まないほど、不測の動きをし、剣を振り回してくる。


 アルベルトを無力化してしまえば大人しくなると思ったが、考えが甘かったか。



「……ッ くそ、往生際が悪い……ッ」

「ど、どないする? もう完全に殺す気やで?!」

「いいや、殺さへんよ……! 殺さず、生かして、再びアルベルトはんを再度復活させたる。そのために、生きたまま、解剖して、モルモットとして一生飼い殺したるわぁぁ!!!!」

「……全く、うるさいやつだな」



 ため息を吐きながら、いなして攻撃を逸らしていく。


 だが、息が上がる、し、視界が回る。魔力を分けてもらう前と、同じ症状……。ダメだ。この状態で動けなくかるのはマズイ。


 早々にケリをつけなければ……。



「……ナギ、もう殺すぞ」

「……ッ わ、わかったわ……!」



 涙をうかべるナギはグイッと拭い、覚悟を決めた目つきに変わる。



「殺して、止めなアカンのなら、止めるわ。うちも、そのつもりで殺るわ」

「…………すまんな。結果的に嫌な選択をさせてしまったな」

「よかよ! うちは、今はあんさんが一番大切なんよ」

「そうか、ありがとう……」



 グレンは少し悲しそうな顔をして笑う。


 目を合わせたナギと二手に分かれて、マーテルへと向かう。


 アルベルトの方はナギに近づける訳にはいけないため、剣技を使い、こちらへと注意を向けて、追わせる。アルベルト以外のキメラは動きが単調で躱せなくもない。


 キメラを切り捨てて一気に距離を詰めていく。


 マーテルに向けて銃を放つが、ガスマスクの妨害で弾かれる。それでも前へと進む。銃がダメなら、魔力を込めた一太刀なら、たとえ妨害されたとしても切り捨てられる。


 すぐ目の前まで迫るグレンにマーテルは軽く後ろへと下がり、煙を漂わざる魔鉱石を前に出す。



「ふふふ、あら、うちに近づきたいんか?」



 距離を詰められているにも関わらずマーテルはニヤリと笑っていた。持っていた魔鉱石をグレンへと向けて軽く投げる。



「プレゼントや」



 突然、投げられた魔鉱石を切り捨てると、煙がブワッと広がる。煙が顔へと直撃し、吸ってしまった。



「なん――、カハッ?!」

「ぐ、グレンはん?!」



 ボタボタと、口や目、鼻から血が垂れる。喉が、いや、喉だけ、じゃない、身体が妬けるように痛い、……?!


 血を吐きながらグレンは身体のバランスを崩してしまう。起き上がろうとするが、まともに呼吸が出来ない。手にも力が入らず、咳が止まらない。


 マーテルは倒れた彼の背中に足を乗せてグリグリと踏みつける。



「グレンはんとやるんやけん、奥の手くらい持っとるに決まっとるやろ。さすがはミゴはんの細い資料のおかげでこういうもんも準備出来るんやからなぁ。あ、ホンマやったら使うつもりはなかったとに、あんさんがうちを騙したから悪いんやで。せやから、飼い殺しにすん前に、お仕置が、必要やなぁ」

「くっ…ぅ……!」

「グレンはんから離れぇや!!!!」



 彼を踏みつける母親にナギはライフルを向ける。


 銃を突きつける娘にマーテルは軽く首を傾げ、手を広げ、挑発するような仕草をする。



「なんや? 撃つんか?」

「……ッ」

「うちを、母親を、撃つつもりなんか?」

「た、頼む、離れてくれぇや……!!」



 カタカタと震えて標準がブレる。


 撃たな、アカン。撃たないとアカンのに……!!



「う、撃たせんどいて、や……。ママン、お、お願いやから……!!」

「ナギのお仕置は、ソレにさせたるわ」

「えっ」



 ドスンッと背後に玉虫色の粘液を出し、異形の姿へと成り果てたアルベルトがいた。



(こ、これ、やと、グレンはんとおったときに何度か見た事あった、ダーティネスってやつやん……?!)



 ブスブスと腐った肉のような臭い。吐き気が込み上げるような臭い。”うっ……”と口を押さえる。



「ナギ、ホルマリン漬けにして、今度こそ、アルベルトはんの復活の時に必要になるまで、そばに置いとったるわ」



 その言葉を最後にアルベルトは身体を大きく広げ、呑み込もうとする。



「やめろ!!」



 マーテルを振り払い、痛みを無視して助けへと向かおうとグレンは足に力を入れようとすると、ガクンッと踏み込みが出来ず、膝から転けるように倒れる。



「ッ?! なっ……?!」



 足の、感覚がない。自身の足の方へと見ると膝から完全になくなってしまっていた。自分の手を見ると、手袋は落ちてしまい、手は薄く透けている。


 チリチリと頭が痛い。こんなにも、こんなにも早く動けなくなるとは……ッ


 それでも動こうとするが、ピシピシと手や頬にヒビが入る。無理に動けば砕けるかもしれないが、それでも動かなければ、ナギが殺される。


 必死に動こうとするグレンにマーテルは勝ち誇ったかのようにクスクスと笑う。



「あらあら、ついに限界のようやな。コレを使う必要もなかったんかぁ? まぁえぇわ」



 動けなくなったグレンの横をそのまま通り過ぎていく。



「ほな、ナギ、最後の親孝行は死ぬことでえぇよ。もう話する気もあらへんから」

「ッ!! う、うちも、ここで殺さる気はあらへんわ!!!!」



 別の銃を顕現し、アルベルトに向けて銃を乱射する。バラララッと弾が無くなるまで撃ち続けるが……。



「な、なんで、なんで倒れへんのや……!!」



 ついには、撃ち尽くしてしまった。全く効かない。


 恐怖で身体が震え、足が竦む。


 逃げたくても、恐怖で動けなくなってしまったナギへと無数の手が伸び、腕を、肩を、首を、足を、頭を掴まれてしまう。



「あ、あかん、わ……」



 そのままバクンッとナギは呑み込まれた。

 ぐちゃぐちゃと咀嚼する音が周りに響き渡る。


 アルベルトだった者の隣までマーテルは歩くと、不機嫌な顔をして、ソレに触れるとジュウッと手が焼けるが気にする様子もなく、ブヨブヨとした肉のようなものを掴み、もぎ取るようにちぎっては捨て、再度毟りながら捨てていく。



「あ〜ぁ……全く、最悪や……。せっかく、ようやくアルベルトはんが戻ってきたと思うたら……、とんだぬか喜びをさせられたわ……。娘やからって、アルベルトはんの子どもやからって生かしとったのは、アカン判断やったわ」



 でも、これでナギも至らないこともせんし、実験材料も手に入った。まぁ、後は、上に残ったアレらもいい材料になるやろう。



 ◇



 一方その頃、マリアはチョーカーの解除のためマダラオの案内の元、向かっていたのだが……。



「ふぅ、コレで片付きましたかね」

『片付き、はしましたが……、何故こうもあなた様以外の方々は頭のネジが弾け飛んでいるのでしょうか……』



 ロウとドリーのようなタイプの人たちしか会わず、その度にこちらへと襲いかかってくるわ話が通じないわで困り果てていた。


 後ろにいるリクやソラは被験者になりかけていた人たちの牢を探したりしていた。一つの牢にはだいたい10人程度だが精神的に壊れてしまっている人の方が大半だ。数は増える一方で結界にも範囲の限界もあり、身動きも厳しくなっている。



『あの、ここと後どのくらいありますでしょうか?』

「あぁ、そうですね。あと二箇所ほどでしょうか」

『……どうしましょう、移動しながら結界を張るのも限界がありますし……、かと言ってここに置いておくのも可哀想ですよね……』

「結界が壊れないなら別にいいのでは?」

『ダメですよ。意識が朦朧とされている方もいます。意識が戻った時にパニックになる危険性を考えましたら……一緒に行動した方が安全です』

「で、でも、マリア……、誘導して歩いてても、結構もう、大変だよ?」

『うぅ……、そ、そうなのですが……』



 とはいえ、この薄暗いし嫌な思いをしている場所でここに置いておくのも心配だ。どんな人がまだいるかも分からないのに、たとえ、リクやソラをここに置いていき、先に回収する手もあるが、彼らも犠牲者だ。



『ど、どうしましょう……』

「俺に聞かれても……ッ!」



 困っていた四人のところに強い殺気が向けられる。先に反応したマリアが今かけている結界からさらに別の結界を急ぎかけると、バキンッと弾く音が響く。


 弾いた結界には亀裂が入っていた。


 亀裂を入れた張本人の男は大きな鎌のようなものを持っており、結界に張り付くようにコチラまで迫っていた。



「あ〜ぁ、結界にヒビ入ってますじゃないですか」

『け、結構丈夫な結界なんですけど?!』

「テメェらぁああああ……!! なぁに勝手に抜けでて――ブキャッ?!」



 張り付いていた男の顔面に向けて、黄金の髪を持った人が蹴り飛ばす。



「あ、しまった。蹴り飛ばしたらダメな人だったかい?」

「いえ、そんなことはないですね」



 そう言ったマダラオは蹴り飛ばされた男が体勢が整う前に糸鋸で切り刻む。



『あ、アッシュ様ぁ〜!』

「やぁ、ただいま。今どんな感じだい?」

『あ、はい! マダラオ様のおかげで被験者の方々は保護してます。ですが、如何せん、数が多くてですね……』

「あー、なるほどねぇ」



 そう呟いたアッシュは結界内に入って保護した人たちを見る。


 見ている間、マダラオは”ん?”、と疑問が出た。



「あの、マリア、でしたっけ?」

『はい、マリアです』

「あの男、結界に張り付いていたやつを蹴り飛ばしましたけど、平然と結界すり抜けて来てませんか?」

『…………』

「…………」

『本当ですね。なんででしょう?』

「…………聞いた俺が馬鹿でしたか」



 呆れているが、張られた結界をすり抜けるなんて聞いたこともないと思うが、この規格外の男に疑問持つだけ無駄かもしれない。


 ため息を吐いてると、確認が終えたのかアッシュは抱えていた人を降ろして肩にかけていたバッグを取り出す。



『その方々は?』

「下で会ったキメラにされた子たちだよ。首のやつ解除してあげて」

『あ、は、はい! ……あとそれ、グレン様のじゃないですか?』

「うん、そうだね。腰に付けてたウエストポーチだね。確かこの中に……あぁ、あったあった」



 紙のようなものを取り出してソレをリクに渡す。



「リク、これは失踪者のリストなんだけど、リストにいる人かどうか確認してくれるかい?」

「う、うん、大丈夫だよ」

「失踪者リストですか?」

「そうだよ。元々騎士団の依頼で来てるからね。あ、君も失踪者リストに書いてあったよ」

「まぁ俺は冒険者でここに依頼できてましたからね。帰ってこないからリストに入れられたんじゃないですか」

「へーそう。まぁ良かったね。失踪者じゃなくなるから」

「あんたがそう言うと別の意味合いに聞こえますけど……」

「あはは、そんなことは無いよ」



 ヘラヘラするアッシュだが、剣も持ったままだし洒落に聞こえない。

 苦笑いしているとアッシュはさらに魔石を取り出す。



「あった。マリア、これで先に上に戻ろうか」

『地上に、ですか? ぐ、グレン様やナギ様はどうされるのです?』

「先にこの人たちを上に逃がすのが先だよ。きっとグレンもそう言うし、いない方が身動きができる。座標はわかるかい?」

『て、転移の魔法は専門外ですが……、魔石があるならどうにか』

「じゃあ頼むよ。魔石でもちょっと上手くいくか心配だからさ」

『地上からここまでの距離を考えると、アッシュ様だと地面に転移しかねませんもんね……』

「うぅ、実際有り得そうだから否定が出来ないなぁ……。あ、それともう一度魔法をお願いできるかい?」

『かしこまりました』



 ポォッと解呪魔法をかける。よく見れば顔色はかなり悪い。平然を装っているが動くのももうキツイだろうけど……。



『……無理せずに休まれないのですか?』

「下でグレンたちが頑張ってるんだ。それまでに僕らは僕らで出来ることをやろう。きっと片付いたらここを破壊すると思うんだ。なら、こんな研究している資料や機械をなるべく破壊出来るようにしておいた方がいい。龍脈や龍穴を使う関連はない方がいいからね」

『……かしこまりました。ですが、ご無理はしないでください』

「うん、大丈夫。あ、でも一通り終わったら下へ向かうよ。その時はリクとマダラオ、保護した人たちのこと、任せてもいいかい?」

「え、俺ですか? 別にいいですけど……」

「う、うん! オレも、だ、大丈夫だよ」

「お兄ちゃんに任せて大丈夫ですか?」

「あはは、大丈夫大丈夫。やる時はやるもんね、リク」

「もちろん、……と、思う」



 自信があるんだかないんだか……。


 彼らの話を聞いていたマダラオは”じゃあ”、と言いながら他の牢やルートの相談をマリアに話を始める。

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