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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:母と娘と……4

 発砲された弾丸をほぼゼロ距離からの距離に構わず身を翻し、躱した。躱すと同時に大剣を振るう。その攻撃にグレンも紙一重で躱す。


 ギリギリの攻防をする二人を眺めて、うっとりとマーテルは笑っていた。



「ふふふ、嫌だわぁグレンはん。そげなうちらの家族に成りたいちゅうんなら、歓迎したるで? ちょうど、息子が欲しいと思っとったところなんよ」

「ハッ 息子、ねぇ」



 やはり、知らない。


 ニヤリと笑い、バキンッとアルベルトの攻撃を弾き、パイプの上にストンッと着地して、見下ろす。グイッと袖で滴る汗を拭う。



(あとは、コイツのこだわり、次第って言うところだな)


「せやで、息子としてうちらの家族になってぇや」

「……それよりも、貴様は随分と色んな実験をしているようだな」

「? そうやで、今更なんなん?」

「ここまで来る途中、キメラ、混合獣、そして、ここで改造された女ども。あぁも雑な錬金等をするのは、その男を作り出すため、だったな」

「もちろん、そうや。コレも今までのモルモットはんたちのおかげで」

「ふぅん、なら、その実験の賜物でソレが完成したのか。さぞ、いろんな人間、まぁ女どもと言った方がいいか。ベースが私とはいえ、女嫌いの貴様が混ぜて造るソレは見た目が目的の者ならいいんだな」

「あら、何言うてますの? 戻ってきてや、アルベルトはん」



 両手を広げて、アルベルトを自身の元へと戻す。


 帰ってきた彼を優しく抱きしめ、愛おしそうに身体を撫でる。



「アルベルトはんの身体にはナギ以外の女の素材は使(つこ)うておらんよ。不潔すぎて使えんわ。使われとるんのは、あんさんと足りない部分はマナとうちに忠実でアルベルトはんにちょっと似とる子を素材にしておるんや」

「ふぅん。なんだ、てっきり混ぜているかと思ったんだがな」

「唯一、女の素材はナギの血くらいや。嫌やったけど遺伝子情報のためやし、元々はうちと旦那の娘ってとこでギリギリな許容範囲や」

「ほぉ、それだとおかしいな」

「?」



 グレンはパイプの上で立ち上がると、パチンッと指を鳴らす。髪は黒く、マナから発光する光が月明かりのように彼を照らす。


 姿が変わるとおもむろに着ていた服を捲り、ニヤリと嗤う。その姿は、身体つきは完全な女性だった。胸の部分にはサラシが巻かれているが、押し潰すように巻かれている。


 突如とグレンの姿が変わった事でマーテルは目を見開く。



「……なんや? その姿は」

「ナギから聞いてないのか? いや、盗み聞き、と言った方がいいか。私の本来の姿はコレだ。普段は胸も鬱陶しくて潰しているんだが……、ふむ、私の身体を調べている割には知らなかったんだな」

「女……? はぁ? グレンはん、おんな、おんな、やて……?!」



 ワナワナとマーテルは身体を震わせながら頭を掻き毟る。


 実際は普段から男性の姿ではいるからサラシなんざつけたことはない。わざわざ服装もそれっぽくするために変えてはいる。だが、奴にはこれが効果的だ。


 マーテルは唸るように頭を抱えて俯きながらブツブツと金切り声にも近い声で喚いていた。



(ナギから聞いてないやと……?! いつ、何処でや?! ………………ッ!! まさか、あん時……?!)



 チョーカー越しで話を彼らの聞いておった。監視カメラは同じ動きをしたはったから妨害されてとったと思い、見とらんかった。けど、ナギの言葉と、会話で、気になっとたとこはあった。


 ”これは、私の生前の姿だ”

 ”せ、生前の姿て、マジなん?!”

 ”そうだぞ。まぁ、今はどっちでもないから動きやすい姿で過ごしているがな”


 あの時や。生前の姿でナギは驚いとった。”生前の姿”、”どっちでもない”、というあん言葉……。あん時や……!!



「うちを、騙し取ったんかぁ?!」

「アッハッハッハッ! なかなかいい声で吠えるじゃないか。だが、騙していたとは人聞きの悪い、勘違いしていたのは貴様だろ? それに、私の身体の一部を使ったのも、誤った判断だったな」

「ど、どういうことや……?!」

「私の身体は私の意思で、どんな姿へと変えられる。年齢、容姿、性別も含め、だ。分離していたとしても、それは私だったもの、マナを通して変えられる、と言うことだ」



 そう言いながらパチンッと指を鳴らす度に男性へ変わったり子どもの姿へと変わったり、最後は先程の女性の姿へと戻る。


 そして、再度、パチンッと指を鳴らす。


 瞬間、グレンの姿が消えた。



「ど、何処や?!」



 恐らく使ったのは瞬間移動の魔法や。何処へ、何処へ消えたんや?!



 グレンを捜すように周りを見たが見当たらず、先程のこともあり、かなり神経が張り裂けそうになっているマーテルだったが、ふと、後ろからトンッと音がした。


 振り返ると、アルベルトの背後に降り立つ、グレンの姿があった。



「貴様の傑作も、これで終わりだな」

「な、何をする気――ッ!!」



 察してしまった。グレンが今からすること。



「あ、アカン、アカンアカンアカンアカンッッ!! やめぇや!!!!」

「もう遅い」



 拳をそのままアルベルトの背中へと突きつけ貫く。そして、空いている方の手でパチンッと指を弾き、アルベルトの姿が変わった。


 短髪だった髪は長く黒い髪へと変わり、ガッシリしていた身体は着ていた鎧もブカブカなほど縮み、丸みを帯びたしなやかな身体へと変わっていった。


 呆然とするマーテルは、ガクッとその場にヘタリ込み女性の姿へと変わったアルベルトを見て放心してしまう。



(う、うちの、旦那、が……?!?!?!)


「ふむ、これで貴様が嫌う女になったな。あ、違うか。元々女の身体をベースにしてしまったから簡単に言えば……元に戻った、そう言えるな」



 クスクスと笑うグレンにマーテルは声を震わせながらグレンの方をゆっくりと睨むように視線を向ける。



「な、なんて、事をしてくれるんや?! ああああああああぁぁぁ!!!! うちの、うちの旦那が、アルベルトはんが、忌々しい、穢らわしい女の姿にぃぃいぃいいいいッッ!! よくも、よくもよくもよくもよくもぉぉぉぉ!!!! コレやから女は卑劣でいっつも、いっつもうちから、大事な(もん)を下劣に意地汚く奪い去る淫売めぇええええ!!!!」

「酷い物言いだな。私が女だったのを見落としたのは貴様ではないか。それなのにあんなベタベタベタベタと触ってきて、貴様が嫌う女そのもののようだろ」



 呆れた様子でグレンは貫いていた腕でグチグチと中身を探る。コツンと指先に触れた硬い石のようなものの感触からそれを掴み、引き抜く。


 グレンの手には菫青石(きんせいせき)のような色をした魔鉱石。マナの結晶だ。



(やはり、魂の代わりに魔鉱石を核にしていたのか)



 核を引き抜かれた姿の変わったアルベルトはガシャンと鎧の金属音を立てながら力なく膝を着く。


 コレでコイツは動くことは無い。魂もない、核もない人形が動くことは無くなる。


 マーテルは姿が完全に先程とはかけ離れたソレを見る。先程までの愛おしさを向ける目ではなく、おぞましいものをみるような目だった。



「あぁぁあぁ……ッ ちゃう、ちゃうんや、アルベルトはんは、コレ、やない……、コレないんや……!!」



 喚くだけになったマーテルを横目に、グレンは戦意を喪失したであろう二人を置いて上にある装置を見上げる。



(これで、コイツらの無力化はいいだろう。あとは上にある装置を壊せば……)



 マナの発光する装置に目を移すとグラリ視界が歪む。


 魔力を使いすぎたのだろうか。姿を変えるだけでも無駄な魔力を使うし、普段と違う姿だと無駄に疲れる……。


 ため息を吐いて、ツェリスカを装置に向け、魔力を込めると標準を定める。


 引き金を引こうとすると、殺気を感じる。



「グレンはん!!!!」

「ッ!」



 彼女の声ですぐさま屈むと、ババンッとナギが発砲し、背後にいたソレに当たる。


 振り返ると核を引き抜いたはずのアルベルトが動いていた。


 ……いや、アルベルトだった者だ。

 先程、姿を女へと変えた、はずだったのに顔は爛れてドロドロと溶け始めている。核を取っただけでそんな姿になるはずはない。機能が停止して止まるだけのはず。



「……ッ! チッ、あぁ、そういうことか」



 先程までは鎧で見えなかったが、鎧を脱ぎ捨て、鎧下の姿。首にはあの黒いチョーカーが着いていた。あのチョーカーで無理矢理に動かしているのかもしれない。


 その奥でフラフラと立ち上がるマーテルの左手には先程引き抜いたのとは別の魔鉱石が握られていた。ピシピシと音を立てて大気中の魔力が靡いている。

 目を見開いたままブツブツと呟いているその姿は人、と言うよりも取り憑かれた怨霊にも近いようにも見える。


 ガリガリと頭を掻きながら血走った目でマーテルはこちらを凝視する。



「よくも、よくもよくもよくもよくも……!! あんさんのせいで、あんさんの、――いや、ナギぃいいいい!!!!」

「ひぃっ?!」



 グリンッと上の階にいるナギの方を向いて叫ぶ。その声にビクッと身を震わせ、数歩下がって逃げるようにするがその下にいる母親から目を離せない。



「ま、ママン……」

「なんで、コイツが女だと報告へんやったん?!?! 大切な、大切なオトンが穢れてしもうた……!! いったい、誰のせいやと思っとるんやぁあああああああ!!!!」



 叫ぶマーテルの手にある魔鉱石の光が増す。


 瞬きをした瞬間、先程までグレンの前にいたアルベルトの姿が消えていた。


 まさか――!!


 ナギの方を見ると、アルベルトだった者がナギのすぐ真後ろに立っていた。



「ナギ!! 逃げろ!!」

「えっ」



 振り返ったナギの視界に大きな手が眼前に迫っていた。

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