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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:母と娘と……2

 廊下を走っていると、最深部には大きな扉があった。そして、この扉に近づくに連れて、この場所に近付くにつれてマナが、魔力が吸い取ら(喰わ)れていくのを強く感じる。


 扉に手を触れようとすると、ナギがグレンの腕を掴む。掴んできた彼女の方を見ると、強ばった表情をしていた。



「どうした?」

「え、えぇとな。ここまで来てもろうて、なんやけど、さ」

「?」

「グレンはん、ホンマに危険やと思ったら、うちの事は見捨ててえぇからな」

「……どういう意味だ?」

「なんちゅうか、その、本来やったらグレンはんは、やらなくてもえぇことやし、巻き込まれてもうた側なんよ。うちらがやってもうた事やから、身の危険を感じたらあんさんは、転移魔法でもえぇけん逃げてな」

「私は巻き込まれたとは思っていない。それに、ここに来た時にも言っただろ。龍脈や龍穴が枯渇してしまえば世界樹にも影響が出てしまう。それは他の神子にも影響が及ぶ危険性があると。だから守護者としてやらない訳にもいかないからな」

「せやけど……」

「……とはいえ、私は自分の神子すら守れなかった守護者だ。罪滅ぼし、の方が近いかもしれんがな」

「守れんやった?」

「……その話はまた今度してやる。それと、お前も私が危険であっても助けようとするな。どちらにしろ、アッシュから貰った魔力が尽きてしまえば、私は使えないお荷物に成り代わるからな」

「そ、その前に決着つけたらえぇんやな! うちは、ママンを止めるけん!」

「…………そうだな」



 ナギが横でフンスッと意気込む。


 彼女が意気込むのはいいとは思う。だが……。



(お前の言葉や行動が、あの女に届けばいいが……。もし、届かないようであれば……)



 目を細めると黄金の色の瞳からは光が灯る。


 グッと力を入れて目の前の扉を開く。


 中に入ると、そこにはかなり大きな空間、まるでオペラ会場のように広い。ボックス席のような所にまで機械的な大小様々な管が這っている。そして――



「……アレが、元凶か」



 広い空間の中心部分、天井には巨大な機械がそこにはあった。機械はグオングオンという機械音を響かせて、巨大なクリスタルのようなものが面妖に光を放ち、その中には液体が満ちていた。


 夜空を刳り貫いたように淡く輝いている液体……、アレは、マナだ。



「ふふふ、ようきはったなぁ」



 二階のステップフロアからマーテルが現れ、手すりに触れながらニコリとこちらへ笑みを向ける。



「……あのクリスタルにあるのは、マナだな」

「そうやで、とっても綺麗やろ。普段見えへんマナ、大気中にもあるマナの結晶や」



 天井にあるクリスタルに向けてマーテルは自身の作品を見せびらかすように言う。



「はっ、まるで貴様の鑑賞用の道具のようだな」



 マナも、森も、ここでキメラにされた彼女たちも。コイツにとっては目的のため、必要な道具。どれだけの犠牲を払おうとも、コイツにとっては手段の、一つなのだろう。



「さて、そんなもんよりも、グレンはん。あんさんのお目当てのモンでもある元凶、それはこのクリスタルや。……でも、なぁ――」



 パチンッとマーテルが指を鳴らす。



「そう簡単に、壊されても困るんや。壊したいんやったら、こん子たちの相手をしたってぇな」



 ソレを合図にドスンッと現れたのはガスマスクをつけた者たちが6、7体ほど。


 アレは、どうも見覚えがあるし、厄介な相手だ。見に見える範囲での数だが、他にもいると考えた方がいい。



「チッ、コイツらか」

「な、何なんあれ? 関節ぐにゃぐにゃなっとるやん?!」

「アレに掴まれるなよ。潰されるからな」

「見たらわかるわ!」



 ナギがギャーギャー騒ぐが、ダーティネス程とは言えないが奴らの馬鹿力は相当なものだ。普通の人では押し潰されて終わりだ。


 だが、魔力で見えないだけで視覚で捉えれれば問題は無い。後は、今の状態で一撃で仕留められるかどうか。近付いて反撃でも喰らえば今の私は耐えられるだろうか……。まぁ、やればわかる話だ。


 大剣を顕現し、武器を構える。隣にいるナギも銃を二丁、左手にはマウザーを、右手にはマスティフを顕現する。



「ナギ、念の為、強い銃をもう一つ顕現しててくれ。必要な時に声をかける」

「わーった。どんくらいのがえぇ?」

「マグナム」

「今のあんさん扱えるん?」

「身体強化すれば恐らく問題は無い。頼んだぞ」

「うい」



 ダンッとグレンはガスマスクへと向かって走る。その間にナギは彼の要望の銃を顕現し、腰のフォルダーにしまい、マウザーを構える。



(うちが、今、出来るのはなるべくグレンはんの負担を減らして一撃で仕留められる隙を作ることや)



 スコープを覗き込み、ガスマスクへと発砲をする。ぐにゃぐにゃと曲がる腕だからか、援護射撃で撃ち抜くとグルンッと回転し、あらぬ方向へと回転しているようにも見えるが、彼には当たらないように上手く調整をしている。


 弾速、軌道、着弾の際の反動。


 それらを瞬時に暗算しながらナギは撃ち続ける。


 ナギの援護を受けながらグレンはガスマスクの方へと走りつつ、クリスタルのある機械の方へ目を向ける。



(コチラの勝利条件としてはあの装置の破壊だ。目の前の奴らをわざわざ相手する必要は、ないんだが――)



 大剣とは別に剣を顕現させる。


 逆手に持ち替え、身を翻し、天井にあるクリスタルの装置に向けて剣をぶん投げる。一直線に向かう剣を、やはりと言うべきか、ガスマスクが自身の身体を盾にして塞ぐ。



(邪魔な障害物を無くさなければ壊すのも厳しいか。殲滅魔法で(かた)をつけてもいいが、もし、それで仕留めれなかったら時のリスクは避けたい)



 スタッと降り立つと着地を狙うように数体群がり、のしかかろうとする。持っている大剣を弧を描くように大きく振るい、腕諸共首を飛ばす。その間も何体いるか不明なほどコチラへ捨て身の如く襲いかかってくる。


 着実に数を減らしていくが、いかんせん数が多く、キリがない。


 剣技で薙ぎ払いながらナギの方へ行かないように牽制していると、リンッと周囲から自身を含めた音と風景が突然と消える。



「なに……?」



 動きを止めるがこの感覚は、幻覚。


 くだらないと思いながら幻覚を解くために大剣に魔力を込めていると、背後から声が聞こえた。



「グレン」

「ッ!」



 ハッとして振り返る。


 懐かしい声だった。聞き間違える、はずがない。


 振り返ったその姿は、白い髪に毛先が水色に近い蒼。サファイアのような美しい瞳のその方は、私の、主様(マスター)


 だが……。



「ふざけるなよ……」



 ギリッと怒りを抑えるようにするが、目の前に現れた主様(マスター)の幻覚。自分の大切な者を土足で踏み荒らされているような気分だ。


 幻覚を払うようにダンッと片足を強く踏みしめ、空間に、ヒビが生じる。


 バキンッと空間ごと割れると先程の居た場所へと戻った。


 幻覚を破るのは簡単だ。術師より強い魔力をぶつければいい。いくら魔力が弱っているとはいえ、魔力の増えたアッシュから魔力を受け取ってはいる。それ以上の魔力の持つ者は少ない。だから、簡単に破れる――はずだったんだが……。



「グレン、どうして私を拒絶するのですか?」



 また、幻覚をかけられている。再び、主様(マスター)が現れ、悲しそうな顔をしていた。


 チリッとグレンの髪が一部白く変わり、早歩きのようにソレに近寄る。



「ねぇ、グレン、私を助けてくれなかったのに、他の神子は助け――」

「黙れ」



 喋る幻覚を両断して、再び幻覚を破る。切り捨てられたソレは悲しい顔をして消えていった。


 だが、グレンにとっては、そうは見えない。この幻覚はあの方ではないからだ。



「私の主様(マスター)はそのような事は言わない。例え、ご自身が犠牲になる可能性があったとしても、恨み言を言われる方ではない。それなのに、よくもまぁ、私の前であの方の幻影で戯言を抜かすな」



 慈しみを持ち、誰よりも神子であろうとする。


 そんなあの方の幻覚で私が止まると思ったなら腹が立つ。とはいえ、その姿を切るのは、なんとも……。


 再び幻覚の魔法の気配を感じ、その場から離れ、術者を見つけるためその場、全体に意識を向ける。


 ◇


 数の圧倒的な有利な状況にマーテルはスクスクと笑い、口元に手を置いてグレンを見た後、ナギの方へと視線を向ける。



「ナギ」

「ッ!」



 母親の声にハッとした様子でナギはマーテルの方を向く。


 彼女と視線が合うと目を細める。



「ナギ、いつでもうちの味方であってくれるんよなぁ?」

「ママン……。うちは――」

「うち、やなんて、女のような言葉使いはやめぇやて、()うたろ?」

「いいや、うちはママンの娘や!! 息子やない!!」

「……、まぁ、なんとも悪い子になってもうたんか。でもまぁ、もうえぇよ」



 冷めた目を見せてきたが、また再び笑顔に変わる。その違和感にナギは背筋に冷たいものが走った気がした。



「もうえぇって……どういうことや?」

「そんまんまの意味や。もうえぇよ、娘やろうが息子やろうか、もうえぇよ」



 意味がわからない。どういう事なのかと困惑していると、グレンの叫び声が聞こえた。



「ナギ!! 後ろだ!!」

「ッ!」



 マーテルに意識が向いてしまい、後ろが散漫になってしまっていた。グレンの言葉に振り向くと、男の人……いや、見覚えのある男の姿だ。



「え、あ……パ、パ……?」



 そう。目の前にいるのは微かに記憶にある、父の姿だった。


 その父は冷えたような冷たい目をしてコチラを見下ろしている。唖然としたナギの胸ぐらを掴み、そのまま持ち上げる。



「あぐっ?! な、なん、で、ここに、おんの……?!」

「…………」



 答えない。掴む腕に触れて振り払おうとするがまるで冷たい岩のように固く、振りほどけない。


 すぐさまグレンが駆け寄り、ナギの腕を掴み、顔に目掛けて蹴りを喰らわせる。蹴りを喰らったソイツはナギから手を放し、吹っ飛んで行く。



「おい、無事だな?」

「だ、大丈夫や……。でも、あん人……」

「知り合いか?」

「う、うちのパパや……」

「…………ふむ……」



 確かソレはここにはもう居ないと言っていた。コイツの父親、ということは……。


 グレンは蹴り飛ばされたであろうソイツへと視線を向ける。奴はものともせず起き上がる。奴の目は生気を感じられない。人形のようにも見える。


 魔力に関してもグレン自身のものと似ていた。


 私への幻覚は、奴が原因だ。


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