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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:母と娘と……1

 リクたちがいる階層から下へと向かう道の扉へとアッシュは到達する。扉を開くと階段が見える。近寄ると下へと続く螺旋階段が見えた。


 覗き込むと暗く灯りのない。暗闇が大口を空けているようにも見え、下から吹く風に髪が揺れる。



(この下からグレンたちの気配を感じる。……、階段だと時間かかるな)



 そう思い、迷いなくアッシュは手すりを乗り越え、そのまま暗闇の中へと身を落とす。




 ◇



 何度目の階段だろうか。


 リクと分かれてから、ひたすら長い螺旋階段を下へ下へとグレンとナギは降りていっていた。


 ジャンプしてしまえば早かったのだが、ナギはさすがの底の見えない高さは落ちられないし、そもそも今のグレンがそれに耐えれなさそうなため、飛び降りようとしたところをナギに止められ、駆け下りていた。


 長い階段を降りていくと広めの廊下のある階層へと到着した。


 廊下を進もうとしたが――


 ドサッ


 ナギの後ろからそんな音がして、振り返ると息を切らしているグレンが壁に寄りかかるような体勢からズルズルと落ちていき、膝をついていた。



「グレンはん!」

「はぁはぁ.....っ」



 駆け寄ると肩で息をしながら苦しそうに胸元を抑えている。


 息が絶え絶えになり、視界がグラつく。頭の奥がチクチクと刺されているような感覚と酷い耳鳴りがする。手の感覚が、ほとんどない。


 それでもグレンは壁に手をついて立とうとするが足に力が入らず、起き上がることが出来ない。


 そんな彼にナギは心配そうな、不安な顔をする。



「だ、大丈夫なん?」

「…………ッ 少し、休めば、大丈夫、だ……」

「いやいや、大丈夫やないやろ。動けんなってきとるやん」

「…………」



 返事もしきれなくなってきたのだろう。頷きも返事もない。


 休めばと言ってはいたが、休んでいても魔力を取られているのは変わらない。立ち止まるだけでも無駄だと言うのは彼自身がよくわかっているはず。


 肩を貸して無理にでも立たせるべきかどうかと悩んでいると、走って来た方向から、ドスンッと重いものが落ちるような音がした。



「な、なんや?」



 ナギはそちらを見、グレンは首を少し傾け視線を音の方へと向ける。


 これだけ魔力がない状態では魔力探知も使えない。だが、何かが来ているのは、間違いない。


 ドスンドスンッと地響き鳴らしながらこちらへ向かってきていたのは、魔獣、いやキメラとなった混合獣だろう。

 人の数倍あるだろう大きさの巨体、虎がベースだったのだろうか鋭い牙と爪、背鰭があり、プスプスと嫌な音を立たせる。グルルッと唸り声を上げている混合獣は獲物を見る目を二人へと向け、大きな手を振りあげてくる。



「んなバカでかい肉球はゴメンやで!!」



 巨大な混合獣にナギは慌ててグレンを肩に担ぐとその場を躱す。



「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいッ!!」



 彼を担いだまま、スナイパーライフルを顕現して撃つが、片手腕では反動で標準が定まらない。とはいえ、片手で使えるハンドガンで対抗は厳しい。いや、ハンドガンで使えるものは無くにはないが……。



(つ、ツェリスカを出すか……?! それでも片手やとうちの腕がやられる。今動けんの、うちしかおらんのに撃ってもうて、動けんなったらそれこそマズイッ!!)



 迷っていると、さらに向こうからタタタッと走る音が聞こえてくる。


 その音に気が付いたグレンが霞む視界で目を懲らすと、揺らめく蒼い光が見えた。



「ナギ……! すみに、よれ……」

「はぁ?! 今、そっちに寄ったら潰されるで?!」

「いいから、よれ……!!」



 何だと思いながらナギは隅へと寄る。


 混合獣は二人に向けて腕を振り上げると、同時にその腕は蒼い炎によって燃やされ、腕ごと炭と化した。悲鳴に近い雄叫びを上げた混合獣の頭上に見覚えのある人物が現れた。



「よっと」



 アッシュが振るう剣はスパンッと音を立て、混合獣の首を両断した。ズレ落ちた首の上に彼は乗ると、二人を見下ろしつつ、笑顔で”やぁ”、と呑気に声をかける。



「アッシュはんやん! いやぁ、助かったわぁ……」

「あはは、いや、まぁね。遅くなってごめんね」

「えぇよ、えぇよ。それより上は大丈夫なん?」

「んー、一応大丈夫かな。ただ、まぁそうだね。あまり時間もないから僕の要件だけ先に終わらせようか」

「要件?」



 なんの要件なのかと思っていると身体の一部が薄く透けてしまっているグレンの方へと駆け寄る。そんな彼にアッシュは少し悲しいそうな顔をしたがすぐに笑顔に変わる。


 力の入らないグレンの手を持つと手を添えて蒼い炎を灯す。



「魔力、わけに来たよ。僕が動ける程度の魔力だけ残して後は君に渡すからさ。一緒に先へ僕も向かいたかったけど、ごめんね」



 その言葉に言いたげな顔をするグレンだったが、灯された炎をアッシュの手を借りながら口元へと持っていく。


 口の中に炎を入れ込み、呑み込む。


 喉を通って胃のあたりに入る感覚を感じそれが身体全体に溶け込ませるようにしていくと、半透明になっていた身体は元に戻り、顔色が少し戻った気がする。


 グラグラとしていた視界がようやく鮮明になってきた。まだ倦怠感は残るが、動けないほどでは無い。


 ふぅ、と小さくグレンは息を吐くと、顔を上げてジィッとアッシュの顔を見る。視線を向けられた彼はニッコリと笑う。



「どう? 身体、動かせそうかい?」

「あぁ、一応な。……それより、お前、()ったな?」

「あはは、まぁね」

「お前が()らなくてもよかったんだぞ。呪い(アレ)が発症するとキツいだろ」

「……彼女たちの苦しみに比べたら、どうってことないよ。それに、僕の役割も一応、果たせたしね」

「やった? アレって何の話や?」

「コイツの事情だ」

「お、おぉ?」



 ナギは首を傾げる。


 そういえば、コイツにもアッシュの(のろ)い事を話してなかったな。アッシュから話すまでは、まぁ、言わなくてもいいだろう。


 それと……。



「ナギ、少し耳を塞いでくれるか?」

「お、おん? えぇ、よ」



 言われたとおりにナギが耳を塞ぐ。ある程度の声と音も聞こえなくなったところで、グレンはアッシュの方を見る。



「……アッシュ、お前に一つ聞きたいことがある」

「なんだい?」

「もしも、の話だが、お前はレイチェルが戻ってくるなら、生き返ってくるなら、お前は取り戻したいと思うか?」

「レイチェルが? そうだなぁ、戻ってきてくれる、生き返ってくれる方法があるなら、僕はどうにかしたい、とは思うよ」

「それは、どんな犠牲を払ってでもか?」

「……どんな犠牲、か……。それって、例えば?」

「レイチェルが戻ってくるために、もしもアティの犠牲が必要だと発覚した場合、お前はどうする?」

「……んん、それは、無理……、かな」



 困ったようにアッシュは笑いながら続ける。



「レイチェルが帰ってきてくれるなら、僕は嬉しい。でも、それがアティを犠牲にしないといけない、っていうのは難しいかな。もし、そうしたとして帰ってきた彼女は、それを望んでない。何よりもアティは僕にとっても大切な子だ。どちらを選ぶ、となったら、レイチェルには申し訳ないけど、僕は今を一緒に生きているアティを選ぶ。他に手を尽くせるなら、アティが犠牲にならない方法を僕は選ぶよ。それがないなら、さすがに諦めるかな。何よりも彼女自身がそれを望まないだろうし」

「そうか」

「それに、むしろ僕がレイチェルを選んでアティを犠牲にしてみなよ。レイ、きっと怒ると思うよ」

「はっ ま、それもそうだな」

「あはは。にしても、なんでそれを聞くんだい?」

「……いや、にしてもお前は他人に興味がないからしらんが、他者の命に関しては無関心な割に親の自覚は一応あるんだな」

「んんん?! 待って待って、それってどういうことかな?! 他者の命どうこうは、グレンには言われたくないかもなんだけど!」

「私は人思いだろ」

「いやいや、僕とどっこいどっこいじゃん」

「失礼だな。仕事だったら他人の命の勘定を見誤ったりせんぞ」

「し・ご・と・で! 仕事ででしょ、君の場合! それに僕は正直、自分の周りの人たちを大事にするだけで割と手一杯なんだよ?」

「どうだかな。余裕はあるが、興味無さすぎて面倒くさい、とか思ってそうだが?」

「うぐ……。ま、まぁ、そ、それはその〜……」

「ハッ なんだ、図星か?」

「……うぅ〜……。ぼ、僕のことはいいじゃん、もう。……はぁ、ホント、なんで急にそういう質問してきたんだい?」

「……ふむ、まぁ、ちょっとした確認、だな。その手の視点の感情や感性が私はわからんからな。私が思っているところと相違がないかの確認だ」

「ん〜? まぁ、いいや。ほら、立てるかい?」



 アッシュの手を借りてグレンは立ち立ち上がると、また向こうで地響きのような音が鳴る。そちらの方を見るとキメラ化とした人たちがこちらへとゾンビのように歩いてきていた。


 流石に耳を塞いでいたナギも地響きに驚いて思わず手を耳から放す。



「な、なんやアレ?! めっちゃ来とるやん?!」

「おー、ホントだ。結構来てるね」



 アッシュはそう言いながらチラッとグレンたちに視線を向ける。


 彼はまだ顔色も悪いし、分けた魔力でようやく動ける程だ。……無理はさせられないし、ここで彼らの手を借りて足止めも無駄だろう。



「……それじゃあ、僕は彼女たちの相手をしておこうかな。君らは早く先に進みなよ」

「大丈夫なのか?」

「あっはっはぁ〜、こんくらい余裕余裕〜」

「……殺さずにしろ、というとお前が怪我をしそうだな」

「いやぁ、困ったもんだねぇ。殺すことがダメ、怪我もダメ……。こりゃあ困ったもんだよ。ははは」



 アッシュは剣を顕現してクルクルと回す。回しながら彼女たちの方へ行こうとしていたが、足を止めて軽く振り返る。



「グレン」

「なんだ?」

「君が僕を心配するように僕も君が心配になるんだ。無茶だけは、しないように」

「……お前に一番、言われたくないんだがな」

「あははっ それはお互い様さ。ナギ、改めてグレンの事、任せるからね」



 ヘラッとして笑うアッシュは後ろにいるグレンたちの元へと行かせないように結界魔法で壁を作る。


 魔法を施すとズキリッと頭に痛みが走る。魔力をほとんど渡している状態での魔法の行使は良くないだろうけど、仕留め漏らしがあった時に彼らの後を追わせる訳にはいかない。



「おい、アッシュ」

「ん〜?」

「お前も無理せず、危険と思ったらすぐにマリアの元へ行け。……あと……」

「ん?」

「…………あと、余裕があれば、私の荷物を探しておいてくれ。その中に精霊の森で預かっている大切な物もある。上が片付いたらでいいから持ってきて欲しい。頼めるか?」

「いいよ。任せて」

「ん、頼んだぞ」



 軽く手を振るアッシュに背を向けてグレンは先へと走る。ナギはアッシュの方を一度視線を向けた後、走った彼の後を追う。



「え、えぇの? アッシュはんに来てもらった方がえぇんとちゃうん?」

「いや……」



 アッシュが先に行けと行ったのも(のろ)いで動けなくことも考慮して先に行くように言ったのかもしれない。


 けど……



(任せた手前、気にするのは野暮だろうが、彼女たちを止めている間に、動けなくなったらどうするつもりなんだ。アイツは)



 そう思いながらも任せた以上、信じるしかない。


 グレンとナギは先へと向かう。


 二人が向かったことを確認したアッシュは、コチラへと来る彼女たちへと目を向ける。


 右手で握る剣に炎を纏わせ、チリチリと痛む心臓に左手を当て、まるでダンスを誘うように軽く礼をすると彼はニッコリと嗤う。



「さて、と、君たちは僕とのダンスを楽しんでもらおうか」



 アッシュのその言葉への返事をするように彼女たちは雄叫びを上げながら走るようにアッシュへと襲いかかる。 

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