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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:束縛1

 上を見上げた二人の上には顔の整っており、派手な装飾を着いた煌びやかな格好した男と執事のような服装をした猿臂(えんぴ)服をしていた男。執事服を着た男は先に下に降りる。ソラはその男たちを見た途端にソラはまた怯えた顔に変わる。



「き、来た……!」

「まさか、追ってきたって、アイツらのこと?」

「う、うん……ッ」



 ガタガタと震えるソラを守るようにリクは前に出る。


 その姿に上に吊るされるようにこちらを見ている男はニヤニヤと笑う。



「ビビってらビビってらぁ! いいなぁ、その怯えた顔!」

「はぁ、元はと言えばあなたが見てないからですよ、ドリー。そこの可愛らしいお嬢さんたち、今は忙しいタイミングでバタバタと問題を起こさないでいただきたいものです」

「お嬢……! お、オレは男だよ!!」

「おやおや、そうか。それは失礼しましたね。で、そこのお兄さんはよくここまで来れましたね。ロウとキメラを殺して来たのですか?」

「ろ、ロウ? そ、そんな人かは知らないけど、助けて貰ってここにオレは来てんだ!」

「……なるほど。はぁ、あの男、息巻いてたクセに所詮は口だけの性欲の塊のような男です。仕事が適当ですね」



 呆れた顔をしている男の隣にドリーと呼ばれた男はストンッと降り立つ。ジリジリと間を詰めて来ようとする男と一定の距離を保つように下がる。



「でもまぁいいじゃねぇか、マダラオ。それよりも――」



 ニヤリと黒い笑みを浮かべる。それはコチラを、獲物を見るような目で二人を見据える。



「許可なく、逃げ出したモルモットには、お仕置が必要だろぉ?」

「普通に捕まえてください。さっきも言いましたが侵入者がいるのでソレを捕まえにも行かないといけないんですから、ね」

「ッ!」



 キリキリッと音が聞こえた気がした。糸を引くような、軋んだ音。


 嫌な予感がしてソラを掴み、その場から離れる。離れたその場は、何かを切り捨てたような斬り跡だけが残っていた。



「おやおや、よく躱しましたね」

「な、何、あれ……?」



 理解し難い現象、と言ったらいいのだろうか。目の前で起こったのは何も無いはずの場所で斬り跡だけが、結果だけが残っている現象。理解が追いつかず、ハッとして、ソラの手を強く引いて走る。


 逃げないと。逃げないと、逃げないと、逃げないと!!


 逃げないとまずい!!



「ソラ、走って!!」



 手を繋いだまま急いで走っていく。走る二人にドリーは同じように走る様子もなく、ニヤニヤとしながらマダラオの隣まで歩いていく。



「おぉ? なんだよなんだよ、鬼ごっこか? いいじゃんいいじゃん! 追いかけっこ、俺は好きだぜぇ!」

「遊んでる暇無いって、言ったばっかなんですけどね……」



 ニヤニヤと笑うドリーは走って向かう。その後ろをマダラオはコツンッコツンッと靴の音を響かせながら歩く。


 リクとソラは障害物となるガラスケースや機器の隙間を通り、撒こうとする。それでも、コツンッコツンッと鳴る足音は聞こえてくる。それが近いのか遠いのかも分からない。


 それでも、リクはソラの手を引いて走る。息が苦しい。吐く息と吸う息が合わず、息が持たないが、それでもソラを助けないといけない。生きて、ここから逃げないと、という言葉が頭の中を掻き乱すように響く。



「ほぉら、早く逃げねぇと、捕まえちまうぞぉ〜?」


(ち、近いのかも分からない! ど、どうする? 隠れるべき? それとも、このまま逃げ……いや、でももう道が分からない……!)



 小回りをきかせる為にガラスケースや機材の隙間を通ったせいか、グレンたちと降りてきた道がもう分からない。



「ほらほら、見つけちゃってますよ」

「うわっ?!」



 いつの間にか前に出てきた男に驚く。でも、立ち止まらず、急いで逆方向へと走って逃げる。


 何処に逃げても先回りされ、現れる。


 遠くには先程のドリーと呼ばれた男が楽しそうに追いかけ回してくるが、もう一人は走ってもないのに何故追いつくのだろうか。


 訳の分からない状態、極度の恐怖と緊張感に思考が狭まる。良くないとわかっていても頭が回らない。


 右のガラスケースの隙間を通ろうとすると――


 ――カツンッ


 今までで一番近い足音。その音が聞こえて思わず足を止めて、通ろうとしたところを少し戻り、しゃがんで隠れる。



「り、リク……?」

「あ、足音が、近い……」

「足音なんて、ずっとしてるよ……ッ」



 息を殺すようにリクは潜める。近い足音の正体を確かめるために、ソッと覗き込む。


 近いのに、いない。何処にいるのかも分からない。


 これ以上、進んでいいの? 隠れるべきなの……?!


 どうしたらいいか分からなくなってきたリクは息が荒くなっていく。恐怖で心臓が破裂しそうなくらいドクドクと脈打つ音が耳のそばで聞いてるようにうるさい。



「おやおや鬼ごっこなのに、今度はかくれんぼですか?」



 やっぱり、見えてるのかと言うような言葉。本当に何処から見ているんだろうと。辺りをもう一度見てもいない。



「あー、そうそう。かくれようが鬼ごっこだろうが、関係ないんですよ」



 キリキリッと再び軋むような音が鳴る。



「ソラ!」



 妹を引っ張るようにガラスケースと機器の間から飛び出す。いた場所が、ガラスケースごと、切り刻まれ、粉々になってしまう。


 それよりもまたキリキリッと音が聞こえる。


 またさっきのように刻まれると思い、走ろうとソラの手を引こうとするが、動かない。岩のように重いような感覚。なんだろうかと振り返ると、ソラ自身も驚いた顔をしていた。


 身体が動かないのか、座ったままだ。



「そ、ソラ? は、早く立って……!」

「い、いや、いやよ……っ ダメ、嫌だ、いや……!!」



 ソラの大きく見開いた目からボロボロと涙が溢れている。それは身体の自由が効かないからか、それとも恐怖からか……。


 それとも、オレに向けて、短剣を振り上げているからなのだろうか。



「ソ、ラ……?」



 唖然としているリクに向けて、短剣が、振り下ろされる。


 ガキンッ


 金属音が響く。けども、痛みは来ない。


 恐る恐る目を開けると黄金の髪が目の前に見える。



「やぁリク、お待たせ」

「あ、アッシュ、さん……うわっ?!」



 剣を持ったアッシュが短剣を受け止めて直撃を免れる。グイッとリクを引っ張り、共に走ってきたマリアの方へ、彼を投げる。



『え、ぇえっ?! ちょちょっ!!!!』



 慌ててマリアはリクをキャッチする。無事にマリアの方へチャッチしたところでアッシュは短剣を振り上げていたソラへと視線を移す。



「顔がソックリどね。アレが君の妹かい?」

「そ、そうだよ! で、でも、変なのに追いかけられて、逃げていたら、キリキリって音がしたかと思ったら、そ、ソラが……っ」

「ふぅん……」



 ジィッとソラを観察する。よく見ると動きがぎこちなく、行動とは裏腹に本人の表情は恐怖し、怯えた様子だ。操られているのか……なんとも、まぁ嫌なことを思い出させる。



(あの時、アレックスが、”操り人形(マリオネット)”でエドワードを操った時と同じような……。あの魔法、正直嫌いだな……)


「い、いや、た、たすけ、助けて……」



 助けを求めるソラへと視線を向ける。


 泣いているソラだが、先程のこともある。変異しないとは限らないし、他の子と同じように黒いチョーカーが付いている。意識ははっきりとしているようだけど……。


 泣いているソラの隣にドリーが再び現れる。現れた事でソラは恐怖でその場から逃げ出したいほどガタガタと震えるが、その場に縫い合わされたように動けずにいた。その後に、コツンッコツンッとマダラオも姿を現す。

 マダラオはアッシュとマリアの出現に驚いたような様子をしていたが、すぐにニッコリと笑い、パチパチと手を叩く。



「おやおや、こんばんは。先程はお見事ですね。あなたはマーテル様から指示のあった方、でしょうか?」

「どう僕らに対しての指示があったかは知らないけど、そうじゃないかな? 殺さず捕まえろ、って言われてるならだけどさ」

「えぇ、あってますよ。それにしても、そこの坊やにも言いましたが、上にいたあの男、ロウを振り切ってここまで来たんですか?」

「ロウ? ……あぁ、うるさかった人のことかな? あんまり興味は無い人だけど、キメラになった人たちで襲いかかってきた人ならそうだね」

「えぇ、認識的には間違ってませんよ」

「アレならもう殺してきたよ。信用ならないなら首が転がってるから確かめてくれば」

「殺した?」

「うん、殺した。キメラになった人も含めて」

「…………冗談、を言ってる様子はないですね」



 ヘラヘラとしていたマダラオの目付きが変わる。急に雰囲気が変わった。それはもう一人いたドリーも同じで、舌打ちをし、鉤爪のようなものを取り出す。



「んだよ、ロウのやつ死んだのかよ」



遊び感覚でいたであろう男は仲間が殺されたからなのか、それともキメラを殺したからだろうか、それを聞いた途端に殺気が溢れ始めた。


 その殺気に当てられたリクとソラは小さく悲鳴をあげる。敵意を露わにするドリーに対して、マダラオは静かに見据えるようにアッシュを睨む。



「そもそもロウは慢心するが故に、油断していたと思いますが、キメラを殺したとなると話は変わりますね。あなたを生け捕りは少々骨が折れます。マーテル様の目的のため、悪いですが――」



 キリキリッと音が鳴る。



「死んでいただきましょう」



 その言葉と同時にアッシュが剣を振るう。


 バキンッと金属音と火花が散る。弾かれたことに驚いたのか男は目を見開く。平然と防いだアッシュは次はこちらの番と言わんばかりに少し体勢を低くしたかと思うと、一気に距離を詰め、眼前まで迫る。



「見え見えな攻撃で僕を殺せると思ったなら幼稚だね、君」

「ッ!」



 切り捨てようとするアッシュの攻撃をギィリリリッと見えない何かで防ぐ。防がれたとしても関係ないようで、さらに剣を持つ力を入れる。



「なんともまぁ、馬鹿力です、ねぇ!!」



 バシンッと弾き飛ばされ、マリアたちの方まで下がる。先程、マダラオがしたように笑顔でアッシュもニッコリと笑いながらパチパチと手を叩く。



「あはは、お見事だねぇ」

「随分とまぁ、余裕なものです。こちらにはお仲間のご兄妹がいるというのに……」

「そうかなぁ? 別に余裕はないよ。僕も時間ないし、そこの妹ちゃんも助けてあげないとグレンに怒られるだろうし、いやぁ、参った参ったぁ。あははっ」



 余裕が無いと言う割にはヘラヘラとしている。


 けど、時間が無いのは実際そうだ。上で人を殺している。マリアの解呪の魔法をかけて貰ってても、苦しい。



(動けなくなる前にグレンのサポートに行きたいんだけどね。現段階でも彼の魔力が弱まっている。マナポーションを飲んでいる様子もない。手元にないのか飲めない状況なのかは分からないけど、せめて、魔力を渡さないと危険だ)



 そのためには、目の前のこの二人の男と、リクの妹……。執事服の攻撃のカラクリは何となくわかったけど、不確定要素の妹が気がかりだ。キメラにされているのかは、この男たちを縛り上げれば、わかるだろう。


 威嚇をするようにアッシュは殺気を放つ。



「さて、と、申し訳ないんだけど、君たちのお遊びに付き合う気はこれぽっちもないんだよね。選ばせてあげるよ。上にいたアホな男と同じように殺されたいか、それとも、大人しく降参してくれるのか……。どっちがいいかい?」

「あぁ?! 何言ってんだテメェ」

「……おやおや、お優しいですね。選択の余地をくださるなんて」

「さっきも言った通り時間ないんだよねぇ。先を急いでるし、時間かかるならぶっちゃけ僕としては殺した方が早いから拒否するなら速攻、君たちの首を跳ねる」

「それは、舐められたものですね、そう簡単に――」

「あぁ、そうだ。判断材料として追加で言うと、君のその幼稚な攻撃、裸眼では見えないほど糸鋸(いとのこ)のような細い糸を使って攻撃してきてるんでしょ。残念だけど、それよりも細くて鋭い、君と似たような攻撃をする子に最近、会っててね。その子の時の応用ではあるけど、対策は簡単。……だから、もし君がまだやる気なら、そこにいる妹ちゃんを使おうが何をしようが問答無用で殺すよ」



 スイの攻撃と似たような攻撃方法。やり方は違うがほぼそれと同じだ。攻撃さえ分かれば、あとは簡単だ。



「それをふまえて、君らはどうする? 降参するなら殺さないよ。一応」

「……おい、どうすんだよ。テメェの手口バレてんじゃねぇか」

「……ふ、ふふ……」



 アッシュの問いに、マダラオは小さく笑う。

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