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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:葬送の炎2

 変異した人たちが襲いかかる。


 ……僕も甘くなっているな。怪物の姿をしている彼女たちを、()()()()人として認識をしている。


 これはきっと、アリスやレイチェルたちのおかげ、と言った方がいいだろう。目の前で往生際も無く喚き散らす奴は、一歩間違えれば僕も似たようなものだ。


 常識、というか、倫理観に関しては別として、興味のない人間がもし、こういうモルモットと云う存在になってしまっている人たちを人として扱わない。そういう扱いをしてしまう可能性。


 でも、今はアリスたちなら、レイチェルなら、主様(マスター)ならと大切な人たちならと考えて動くようになってからは僕もそういう目で見るようになってしまった。



「きっと、それは僕にとって迷いになる。でも、同時に彼女たちと同じ視点で見れるようになっていくことが、僕は何よりも嬉しく思うよ」



 危機的な状況なはずなのにニッコリと笑うアッシュに男は不気味さを感じる。感じた、それと同時だった。


 スパパパンッと切れる音がする。切れる音と同時に呼び出された彼女たちの首と胴体が切り離され、血飛沫が舞う。


 鮮血が舞うその中心でアッシュは微笑んだまま、左手を上へと挙げる。


 パチンッ


 指を鳴らすと、鮮血から蒼い炎が吹き出す。紅く、花のように舞っていた血が蒼く染まり、まるで鎮魂をさせるように、炎は首や胴体を優しく包み込む。



「”蒼炎(そうえん)葬送の炎フューネラル・フレイム”」



 燃え上がる炎は、火花はアッシュの周りを舞う。蒼い炎とは別にキラキラと光る魂があり、ソレに触れる。


 光る魂は声は聞こえないが燃えている炎のパチパチと弾かれた音は啜り泣いているようにも聞こえる。そんな魂は彼にすり寄るように集まっていく。



「君たちの魂が、女神の元へ還れるようにすることしか、僕には出来ないんだ、ごめんよ」



 手のひらに乗る魂に蒼い炎はまるで揺りかごのように魂を包み込む。光る魂を導くように上へと飛んでいった。


 炎が収まる頃には、アッシュとマリア、そして、男だけが残った。



「な、な、ななな……?!」



 突然のできごとに男は理解が出来ない。自分を守るため、そして目の前の金髪の男、いや、化け物を殺すために呼んだはずなのに、全て、いなくなった。燃えてしまった。


 自身を守る盾もなくなった男は尻もちをつく。



(数十人居たんだぞ?! キメラになった女どもは弱いやつでも国の一隊を潰せるほどの力を持ってんだぞ?! どう考えても一瞬で殺せるわけねぇのに……!!)


「彼女たちは、どんな思いで実験をさせられ、君に尊厳を奪われたんだろうね。君にはわかるかい?」

「お、おま、お前、な、なんなんだ?!?!」



 ガクガクと男の足が震える。これ以上もう手がないのだろう。持っていたスイッチをアッシュに向けて投げる。当たったところでいなくなるわけでもない。


 アッシュは自身が投げ捨てた剣を拾う。


 拾ったところでジッと男を睨み、すぐ目の前まで歩く。



「君に名乗る名前は無いよ」

「お、ぉお、俺を誰だと――」



 スパンッ


 男の首を跳ねる。聞くに絶えない声、コイツが口にする言葉は全て不快だ。これ以上喋らなくなった男の胴体はゴロンと倒れてしまう。


 仕留め終わったところでアッシュはマリアの方を振り返る。



「終わったよ」

『お、終わったというか……そ、そんな多くの方を殺して締まって大丈夫なのですか?』

「まぁ、いい訳じゃないよね。それに、僕の呪いの痛みよりも、きっと彼女たちが受けた痛みの方が大きかっただろうから、今回は甘んじて呪いを受けるよ」

『……、私が、その、した方が良かったのでは?』

「君は(せい)を司る召喚獣だ。人を殺すことなんて出来ないでしょ? 君の本質は癒すこと、違うかい?」

『…………ッ』



 違わない。人の命を、生物の命を奪うことを今までしたことが無いマリアは黙ってしまう。それでも少しでも緩和されるように神聖魔法で解呪を唱える。



『一旦はこれで……。痛みが酷くなりそうな時は仰ってください』

「ありがとう」



 ヘラッと笑うアッシュにマリアはそれでも不安が拭えない。


 ここからはグレン様と同様でタイムリミットがある状態。呪いの影響でいつ動けなくなってしまうのが先か、それとも元凶を止めるのが先か。


 それでも、彼女たちをあのまま生かすという選択肢はない。魔物と混ぜられた時点で意思があったとしても身体は戻らない。魔物として生きなくてはいけなくなる。


 そして最後はいつか、本当の魔物になってしまうなんて、誰も望まないだろう。


 アッシュは持っていた剣のピュッと横へと払い、血を払う。



「さて、下へ向かおうか。きっともうナギたちはグレンと合流しているはずさ」

『わ、分かりました!』



 ナギが入っていった扉を潜り、ナギたちの元へと向かう。扉を潜る際に首のみになった男とマリアは目が合った。



(……何故、あんな惨いことを平然と言えるのでしょうか)



 悲しくなると同時に酷く醜い現実に心を痛めながら、アッシュの後を追う。



 ◇ ◇ ◇



 リクはソラを捜していた。


 先程の見失いかけた影を追っていたが姿が見当たらない。見間違うはずがないのに、いたはずなのに、何処に行ったんだろうか?



「ソラぁ!! オレだぁ!! お兄ちゃんはここにいるよぉ!!」



 力の限り叫ぶ。ゴォンゴォンッも鳴る機械音に負けないくらい強く叫び喉が痛い。


 涙を浮かべながらそれでもリクは隅から隅を調べていると――



「ッ!」



 このフロアの奥の棚の中、そこに隠れるように蹲っていたその後ろ姿は見覚えのある姿だ。



「ソラ!!!!」



 叫ぶリクの声にビクンッと身体が跳ねたが、恐る恐る呼ばれたソレは振り返る。


 リクと似た姿の、銀色の髪をした少女。捜していたソラだ。


 彼女の姿にリクは急いで駆け寄る。駆け寄ろうとしたが、ソラはヒィッと小さく悲鳴をあげる。その目は恐怖をした目。怯えている彼女を落ち着かせようと一旦立ち止まる。



「そ、ソラ? お、オレだよ? オレだ、お兄ちゃんだよ!」

「嫌ァ!! 痛いのは、もう、もう嫌!! 助けて、助けてよぉ!!!!」



 泣き叫ぶ少女に戸惑う。どうしようと混乱しようとしたが、泣いている少女は、自分の妹。大切な、妹だ。


 ガタガタ震えている妹の元へ辿り着くと、ギュウッと抱きしめる。



「ソラ、ソラ! ごめん、ごめんね!! オレ、兄ちゃんなのに、オレが、オレがこんな街に行こうなんて、精霊の森を見に行こうなんて、言わなければ、ソラにこんな、痛い思いさせることは無かったのに……!!」



 力の限りリクはソラを抱きしめる。


 安心して欲しい。もう怖がらなくていい。もう泣かないで欲しいから。


 その想いが伝わったのか、ソラの身体から震えは止まる。



「お、おに、ちゃ……?」

「ッ! う、うん、そうだよ! オレだよ!」

「おにいちゃ……! お兄ちゃん!!」



 兄を認識したソラはリクを抱き締め返す。ようやくこちらを見てくれたソラにリクは安堵して、また涙が溢れてくる。


 正気に戻ってくれた妹から身体を放すと、涙を拭いながら妹の身体を確認する。



「ソラ、首元、見せて?」

「う、うん」



 言われた通り首元を見せる。やっぱり黒いチョーカーが付いている。自分の力ではこのチョーカーは取れない。自分やナギのチョーカーを外してくれたように、グレンたちにお願いしないとコレを今、無闇に外したらダメだと思う。


 グイッとソラの手を握り、立ち上がる。



「ソラ、ここから脱出しよう」

「えっ……、で、でも……!」

「大丈夫だ。ここに来るのを手伝ってくれた人たちがいるんだ。その人たちのところに一緒に行こう!」



 きっと、上に向かえばアッシュさんに会うことが出来るはず。ここまで降りるまでは伏兵も居なかったし、無事に合流ができるはず。


 そう思い、ソラの手を引く。



「ま、待って! リク!」

「ッ! ど、どうしたの?」

「い、今、動くとまずいの。わ、わた、し、私……、もう、耐えれなくて、たまたま牢の鍵が空いてて、隙をついて逃げようとしたの……! きっと、近くに、アイツが……!!」

「あ、アイツ?」



 酷く怯えていたのは誰かに追われていたからかもしれない。でも、もし追いかけてこようとしている人がいるなら、急いでこの場を離れないともっと危ない。


 怯えるソラの手を掴む。



「だ、大丈夫! それに、ここにいた方が危ないよ。急いで逃げよう!」



 そう言うリクの手も震えている。自分も怖い癖に、お兄ちゃんだからと、無理して強がろうとしていた。


 実際に、本当に怖い。


 グレンたちの邪魔にならないようにというのは嘘じゃないけども、会ったばかりだが強いから守ってもらえるという甘えは無理だ。


 それに、やれるだけやると決めたんだ。覚悟を、決めないと、怖いからってここにいてもソラがまた怖い目に遭うほうがもっと怖い。


 涙を堪えて、再度ソラの手を引く。



「大丈夫! 今度は、オレが、今度こそ守るから、行こう!」

「お兄ちゃん……。なんだか、変わったね」

「え?」

「怖がりで、弱虫だったのに……」

「お、オレも男だもん!」

「……えへへ、そうだね。お兄ちゃんも、一応男だもんね」



 笑うソラは握ってくれているリクの手を握り返す。まだ怖いだろうけど、大丈夫だという兄の言葉に励まされたのか、涙を流しながらも頷く。



「わ、わかったよ。一緒に――」

「何処に行こうとしてんだ? モルモットちゃん」

「 「 ッ?! 」 」



 頭上から声が響く。二人は上を見上げると二人の男が天井パイプを掴んでこちらを見下ろしていた。

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