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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:葬送の炎1

 リクを置いて先に進む。グレンの腕を引いたままナギは先へと進む階段を降りていた。降りながらもグレンは怒った様子で声をかける。



「おいナギ! リクを一人で放置するのは危険だろうが!」

「えぇの、えぇの。うちの勘やけど、きっと大丈夫や。それに――」



 先を走るナギはグレンの方を首だけ向ける。


 たださえ彼の顔色は、元々青白いがそれよりも白く、何より……、掴んでいる腕が半透明になっている。触れる感覚はあるが、これ以上力を入れてしまえば割れてしまいそうな感触。



「グレンはん、うちの手を振り払えん程、弱っとるやろ」



 それだけ魔力がないという事は目に見えている。


 というか、自分でも調べとったから、知っとる。それを元々彼が目的で、どんな人でどんな身体なのか、それを調べて母親に報告することが、本来の目的だった。


 彼の出生は、いくら調べても分からへんかったが彼の身体がマナで作られているまでは母親から聞いて知っとったからそれに関する資料を探して研究所から見つけたもん。

 彼自身の事は聞かされてから知れたが、今、思えば出生が分からへんのに身体の構造のことを書いたもんを見つけたんは、あのミゴがわざと置いているもんだと。


 それは、弱点を相手に知らせてどうなるか、奴なりの実験なのかもしれん。



「そげな状態で、こっから先、どないするつもりなん? 取られたもんってのも、マナポーションのことやろ」

「…………」



 返事が無くなったグレンは不機嫌そうな顔をするが否定もしない。そんな彼にナギは小さくため息を吐く。



「あんさん、ユキはんにも前に()うとるやろ。”自己犠牲はやめておけ”って。それ、今回あんさんがしそうになっとるんよ。いくら仕事とはいえ、死んだらアカンやろ」

「別に、私は魔力があれば死ぬことは――」

「その、今まさにその魔力が無くなってきとるんや。死ぬ可能性がある状態で、うちはあんさんを一人にしたない。それに、アッシュはんにも頼まれたんよ」

「何をだ?」

「あんさんを頼むってな。せやから、うちはあんさんと下に向かう。それに、あんさんが困っとる時くらい、頼ってや」



 きっと、この先、自分自身でも目を背けたくなることが起こるかもしれん。けど、それでも、うちはグレンはんを選ぶ。ちゃんとママンと話して、こげなことをやめさせて、昔の優しいママンに戻ってくれたら、昔のように、一緒に飯を食うたり、笑えるはずや。



「……お前も、大概、物好きだな」

「ふっふーん! なんてたって、グレンはんの相棒やからな!」

「お前と同類みたいな言い方に聞こえるからなんか嫌だ」

「あぁん?!?!」



 ガルルッと唸るナギだが、コイツは妙なところで勘が鋭い。



(頼れ、か……。以前、誰かに言われた気がする……)



 ジィッと前を走るナギを見た後、ナギの腕を掴みなおし、後ろへ引く。



「どわっ?!」



 そのままナギの先へと進む。



「なら、お前の勘を信じて先に向かうぞ」

「おうよ!」



 リクの事は気掛かりだが、それでも先へと進む。



 ◇ ◇ ◇



 少し時を戻してアッシュとマリア。


 目の前の怪物にアッシュは剣を顕現してニコニコと立っていた。笑っている彼が気に食わないのだろう、怪物の上に乗っている男はギリッと歯ぎしりをしながら睨みつける。



「ちくしょう……! ちょこまかと逃げやがってこんの野郎がッ!!」

「いやいやぁ、だって当たったら痛いもんねぇ。流石に避けるよ」

「あぁん?!?! お前らのようなゴミクズと違って、俺の貴重な時間を()いてやってんだぞ!! あまつさえ、俺の顔に傷をつけてきやがって……!!」

「大した顔じゃないじゃん。それに、君の事も僕は知らないから貴重な時間と言われてもねぇ。むしろ、僕らの時間を奪ってる迷惑な人、って感じだけど」

「言わせておけば……!! おい、化け物!! さっさと殺せ!!」

「Auu……!! GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

「おっとと」



 男の声に答えるように触手が勢いよくアッシュの方へと飛んでくる。それを軽々と躱して彼は一つ上の階にあるの手すりに降り立つ。二階層分の広さがある空間。肥大化し化け物にされた女性がいてもまだ余裕のある広さ。


 この広さだと躱すのも暴れるのも十分だ。


 どう仕留めようかと考えているアッシュだったが、一緒にいるマリアは涙を浮かべながら叫ぶ。



『――ッ! あなた様は心が痛まないのですか?!』

「あん? 何がだよ?」

『こんな姿にされてしまっているんですよ?! 無理矢理身体を改造されて、弄ばれ、こんな姿になってしまっているというのに……!』



 マリアは変異してしまった怪物を見る。


 悲痛な、苦しいと嘆く悲しい声が聞こえる。それは聞いているこちらまで悲しくなるような声だ。何も、悪いことをしていないのに、望まない姿へと変えられてしまった彼女の声……。



『あなた様には、彼女を(いつく)しむ心はないのですか?!』

(いつく)しむ……?」



 マリアの言葉に男は、歪んだ笑みを浮かべ、怪物の頭を叩く。



「バッカじゃねぇの?! モルモットごときに、(いつく)しむ奴が何処にいんだよ、バァアアア〜カァッ!!」

『ッ?!』

「ここはいいぜぇ? マーテル様に従えば、色んな女を抱ける。どうせ、モルモットになったらぶっ壊される運命の女どもだ。どんなに乱暴しても、どんなにぶち犯しても、なぁ〜んも、咎められねぇんだぜぇ?! イイ声で泣く女を特に虐めて苛めてイジメぬくとよ、いい感じな締まって最高なんだぜ!!」

『そ、そんな……?! 彼女たちは苦しんでるんですよ?! 追い打ちをかけるような真似をして、それでも人ですか?!』

「っるせぇなぁ。召喚獣ごときが人間様に指図してんじゃねぇよ!! まぁ、お前は召喚獣の割には、良い体つきをしたメスのようだけどなぁ……」



 ジュルルと舌なめずりをして、厭らしくマリアを品定めするように見る。

 嫌悪感を抱くマリアはビクッとして、アッシュの後ろへと逃げる。その様子が酷く嬉しいのか、ゲラゲラと笑う男は気分が高揚し、天狗になっているのか更に続ける。



「なぁ、そこの金髪! お前もどうだぁ?! イカれた女に従うだけで金だろうが女だろうが自由に出来る!! こんな好条件貰えるんだぜぇ? 元々お前は生きて捕らえろってことは、お前もあのイカレ女に気に入られたんだろよぉ! どうだぁ?! 好きにヤレんだぜ?!」

「…………」



 男の言葉にアッシュはため息を吐きながら左手で顔を覆う。俯いて、黙ったまま何も言わない。



「ま、それをする前にお前は土下座して謝って貰うけどなぁ!! この化け物にぶっ殺されるか、それとも土下座して謝って、あの女の元で好きに遊んで暮らすか、どっちだぁ?!」

「……まぁ、そうだねぇ……」

『あ、アッシュ様……?』



 ふぅ、と息を吐いて、マリアを置いて手すりからトンッと降りると剣をポイッと投げて丸腰のまま、ゆっくりと男と怪物へと近寄る。


 そんな無防備な彼にマリアが駆け寄ろうとしたところで、アッシュはようやく顔を上げる。次第にアッシュの黄金色の髪の一部は白く染る。

 ソッと、シャボン玉に触れるように優しく怪物に触れて優しく微笑む。



「ねぇ、君は解放されたいかい?」

「Guu……ッ」



 意識がまだあるのか、怪物の動きが止まる。怪物の無数の目はアッシュの方を凝視していた。彼の姿を見ている怪物は小さな沈黙の後、ポタポタと涙のようなものが溢れ落ちる。声は、人のものとは思えない声。聞き取りは出来ない。


 それでも伝わったのか、アッシュはクスリと笑う。



「そうだよね。楽になりたいよね……」

「おい、おいおいおいおいおい?! 何やってんだよお前? この怪物に安易に近寄りやがって、潰されてぇのかよ!!」

「大丈夫、一瞬で終わらせてあげるからさ」

「……無視してんじゃねぇよ……ッ この俺が優し――」

「安心して眠りなよ」

「――ッ!!!! 怪物、この野郎をぶっ潰ぜぇぇぇぇぇ!!!!」



 激昂した男は怪物に指示を出す。静かに泣いていた怪物だったが、潰せと言われ、肥大化した大きな拳を振り下ろす。


 ドスンッ!! と地面が揺れる。


 砂埃を上げ、強い衝撃があたりを大きく広がる。その衝撃は上にいたはずのマリアも風で飛ばされるほど。辛うじて飛ばされないように手すりを掴む。彼女は小さな悲鳴を上げるがそれよりもアッシュの身を案じて、身を乗り出す。



『あ、アッシュ様!!』

「ギャハハハハハハッ!! ざまぁみろよ!! 俺を無視して調子に乗った結果だ!! さっさと土下座して謝れば助か――プギャアッ?!」



 ゴスッと鈍い音が響く。怪物の上にいた男は何かにぶつかったのか、勢いよく飛ばされる。男がいた場所にストンッと降り立つ。


 黄金の長い髪がユラユラと揺らしているアッシュの姿がそこにある。彼の姿にマリアはホッと安堵する。



『アッシュ様……』

「全く、耳障りな笑いをしないでよ」



 殴り飛ばした男には既に興味が無いのか、怪物の頭にまるで優しく撫でるかのように手を置く。ニッコリとアリスたちにいつも向けている優しい笑みを浮かべ、子どもを寝かしつけるように言う。



「もういいんだよ。よく頑張ったね、ゆっくりとおやすみ」



 アッシュの手から蒼い炎が溢れ、怪物を……いや、彼女を包み込む。


 炎による痛みがないのだろう。断末魔はなく、温かいのだろうか、大人しく燃やされている。怪物は末端から灰へと変わる。


 ボロボロと崩れる怪物に男は焦ったような顔する。



「は、はぁあああ?!?! このクソ化け物がぁ!! さっさと殺せぇ!!!!!」



 怪物は反応しない。


 炎の燃える音で聞こえないのか、無視しているかは不明だが、全身は灰色の砂のようにサラサラと消えていく。


 燃え崩れていく彼女の頭からアッシュは降りると、彼女に向けていた優しい顔ではなく、軽蔑に近い視線を向ける。



「使えねぇ……使えねぇ、使えねぇ使えねぇ使えねぇ!! はぁ?! マンティコアやトロルやら魔物を混ぜたバケモンだぞ?!?! 何燃えてんだよ!! 何消滅しちゃってんだよ、クソがああああああああぁぁぁ!!!!」

「あははっ なんだ、随分と、イイ声で吠えるじゃないか」

「…………ッ!! クソ野郎が……! あの女だけだと思ってんじゃねぇぞ!!」



 男は懐からスイッチのようなものを取り出す。


 取り出されたスイッチを力強く押すと、足元からカプセルのようなものが現れたかと思うと中から体の一部分が魔物のような姿になった者、全身が変異している者、獣や虫が混ざったような姿をした者と数十人の姿が出てくる。それのどの者も虚ろだ。



「てめぇら、コイツを殺せぇぇぇぇ!!!!」



 その叫び声と共に一斉に襲いかかろうとする。

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