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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:危機2

 落下してきたリクはアッシュがクッションになったおかげで怪我は無いようだが、真っ白なんじゃないかと思うほど顔面蒼白になっていた。


 膝の上にいたまま放心状態の彼に、アッシュは痛む腹を撫でながらため息を吐く。



「ちょっと、リク、退()いてくれないかい?」

「ご、ごめん、なさい……」



 ガッツリまだ治りかけの傷口に落ちてこられたのは驚いたけど、そもそも何故、彼が落ちてきた……いや、転移してきたのだろうか。


 少し不機嫌そうな顔でアッシュは続ける。



「君、なんでここにいるんだい? グレンは?」

「そ、それ、それが、その……」

「何や? ハッキリと言いや」



 ナギに詰められるとマーテルと重なっているのかビクッとして萎縮してしまう。


 そんなリクにマリアが落ち着かせようと近寄ろうとした瞬間、ガクッと彼女は膝から崩れ落ちる。



『くぅ……?!』

「ま、マリアはん?!」

退()いて」



 崩れ落ちたマリアにアッシュはすぐ反応してリクを退かし、駆け寄る。マリアの状態は覚えがある。



「マリア、手を貸して」

『は、はい……』



 マリアの手に触れてアッシュは呪文を唱える。唱えると小さな魔法陣がマリアの手の甲に光を放ちながら現れ、詠唱が終わると、マリアの辛そうな様子は治まり、深く深呼吸をして息を吐く。



『た、助かりました……』

「いいよ。それよりも……」



 アッシュは視線をリクへと移す。



「……リク、質問の言い方を変えるよ。君、何かグレンから聞いて飛ばされたんじゃないの? 状況は後で聞くからそこを先に教えて」

「ッ!」



 殺気のあるアッシュの気配に全身でビクッとする。怯えているのが目に見えてわかるリクだが、涙を浮かべながらも声を震わせてどうにか言葉を吐き出す。



「グ、グレン、から、”捕まるから帰れ”って、あ、あと、”魔力は、使い物にならない”って……」

「捕まる? 魔力は使いもんにならん? どゆことなん? というか、アッシュはんはマリアはんに何したん? 色々と起こりすぎてわからんて」

「ん〜、そうだねぇ」



 彼はニコニコと笑顔で人差し指を下へ、床へと向ける。



「まず、グレンを迎えに行こうか。恐らく、マリアの今の様子は召喚主が気を失ったり死んだ時に魔力の供給が無くなって、此処に留まるには自身の魔力を消費しないといけない状況になっている。ということは、グレンは……まぁ、殺されることは彼からしてないと思うけど、気を失うほど、何かあったってことじゃないかな」



 アッシュはチラッとリクの方を向くと彼は無言で首を縦に振るう。



「うえっ?! ま、マジでぇ?!」

『はい、本当です。突然、グレン様からの魔力の供給が途絶えてしまいまして……。あ、でもアッシュ様が仰る通り殺されてはいらっしゃらないかと。供給は途絶えてますが、繋がりは絶たれておりません』

「えっと……、魔力の供給が無くなったけど、さっき、えーと……アッシュ、さん? が、何か代わりに供給出来るようにしてあげたってことで、いいの?」

「そうだね。まぁ魔力供給だけの仮契約みたいな感じかな」

『アッシュ様、さらっと仰ってますが、普通は魔力の供給の肩代わりのような事は出来ませんからね。何処でそういうの覚えられたんですか?』

「あはは、前にグレンからジェイドと契約する時に少しだけ教えて貰ってたの覚えてただけ」

『……あまりツッコミは致しませんが、今回はソレのおかげで助かりましたので良しとします』

「何でそんな不服そうなのさ……。僕はグレンと違って魔力無くても問題ないんだからいいじゃ――」

『その安易なお考えでご自身を軽んじるからよくお怪我や危機に陥ることを肝に銘じてください。それこそアッシュ様の大切な人やお仲間にご迷惑がかかるかもしれないということをわかってますか?』

「……はい、気をつけます」



 マリアに怒られてしまった。

 言い方といい、思考が本当にマリアはレイチェルによく似ていて何とも言い返しに口が閉じてしまう。そして、なんともまぁ過保護というかなんというか……。

 と言っても、今はそんな事を話している場合では無い。先程自分で言っていた通り、グレンの魔力の供給が無くなったということは彼の身に何か起きたことは明白だ。

 それにしても”捕まるから帰れ”、って……。素直に助けに来い、って言ってくれればいいのに。



「てか、”魔力は使い物にならない”、というのはどういうことなんやろ。ここにおる時に魔法が長く持たへんのもグレンはんもアッシュはんもよーく知っているし、わざわざなんで()うんやろうか?」

「それは向かいながら説明してあげるよ。何となく、そうじゃないかなって検討はついてる」

「嘘やろ。あんな抽象的というか端的な内容で?」

「それだけ時間がなかったって事じゃないかな。ねぇ、リク」

「う、うん……」

「よし、じゃあみんなで迎えに行こう。ナギの力も必要だと思うし、仮契約とはいえマリアは僕から離れないでね。それに、魔力消費を抑えないといけないのにマリアを召喚したままってことは君の力もきっと必要になるからね」

『もちろんです。でも、無理はなさらないでください。最悪自分の魔力で現世(ここ)に留まれるように致します』

「そ、なら頑張ってね」



 アッシュは部屋の扉を開き、廊下を覗き込む。魔力探知をするが、人がいる気配は感じないし視覚でも見当たらない。



(ま、見た目では、わかんないだろうから……)



 覗き込んだままトントンッと足で床を軽く叩く。音の反響、そして、魔力を魔力の対象以外、建物の輪郭を捉える方に集中を変える。範囲は狭くなるが、これなら魔力だけではなく、何処に何があってどういうものがあるかんかる。そして、魔力を流していると建物や家具以外の()()()()。人の形をしているみたいだが、まるで人形のように魔力を感じることがない。それでも生体はあるようではあった。


 グレンの注意通りといえばそうだろう。


 魔力は使い物にならない、というのは恐らく魔力探知では分からないことがあると言う意味だろう。今、思えばリクの時も足音がなければ気づかなかったし、魔力も感じなかった。だからあの伝言なのだろう。


 向こうはこちらに気付いていないのか、それとも様子見をしているのか、動く様子がない。


 動かないなら、好都合だ。


 ソレの方に向けて、指を銃のような形に握ると、ピュンッと風を切る音と共に、ドサッと倒れる音が聞こえた。



「誰かおったん?」

「いたよ、もう気を失ってるとは思うけど。さて、リク、地下への入口まで案内頼めるかい?」

「わ、わかった。でも、グレンの場所、わかるの?」

「ある程度だったらどの辺にいたまではわかるよ。でも、さっきのマリアのこともあって、そこからは魔力の気配が途絶えちゃってるから、一旦は最後気配があった所まで行こうかなって思ってるよ」

「なんや、場所が分からんなっとると?」

「捕まった時に魔力を遮られたんだじゃないかな。広範囲に魔力探知を展開したけど、反応がないからね」

『ご無事だといいのですが……』



 マリアの心配は何となくわかる。たださえ魔力を取られ続けていることが一番気がかりなのだろう。彼は魔力がなければ死んでしまうから。僕らでいえば毒の沼へ浸かったままいるようなものだろう。


 それでも、無理してまでやろうとするのは、もちろん仕事を引き受けているというのもあるが、守護者として、神子を守るためでもあるからだ。


 なら、僕もやらない訳には行かない。



 アッシュを先頭に周囲を警戒しながら、地下への入口のある書庫へと向かう。その間、ソワソワとしているリクにナギが気がつく。



「どないしたん?」

「あ、え、えっと、その、みなさんは、帰れって言われてたのに、迷わず迎えに行くって言ってたから、その……」



 モゴモゴと言いにくそうにしているリクにナギは鼻でため息をつく。



「あんさんはグレンはんをわかっとらんなぁ。まぁ今日知りおうたばかりやけん、しゃあないやろうけど、素直やないんよ。グレンはんは」

「そうなの……?」

「どうせ、自分が捕まるのは明白やったんやろうし、その場での最善の方法はあんさんを逃がして自分の状況を伝えるんが早いんよ。内容は、まぁ端的すぎてうちもあんまわからんけど、アッシュはんはそれだけ十分わかっとるみたいやし、来るな()うてもうちらが来るのはわかっとったとは思うで」

「……あ…」



 思い出したようにリクは小さく声を出す。


 そういえば、二人で地下へ潜入した時も言っていた。帰れと言われてもこの人たちは帰らないって……。



「それだけ信用、してるってことかな」

「それもあると思うで」

「二人とも」



 話をしている二人にアッシュが声をかける。



「話してないでついておいで。それに中は暗いけど灯りがつくみたいだから注意して進むよ。リク、君が先導してくれないと道も分からないからね」

「あ、えっと、オレ、地下は中が暗かったからこっから先分からないんだけど、大丈夫?」

「何処を通ったかも?」

「う、うん。地下の中をパイプを伝って走っていってたから……」

「パイプ?」



 かなり下まで降りていく地下通路。その先にパイプがあるのはいいけど、この人数だし、流石に三人を抱えてグレンと同じ道を通れば重みで崩れる可能性がある。



「……仕方ない、グレンが通った道とは別に目的地まで目指すよ」

『よ、良かったです。パイプの上を通るなんて言われたらどうしようかと……』

「崩れるし、君たちがいるのに危ない真似はしないよ」

「……絶妙に説得力ない気もするわ」

「そりゃあ悪かったね」



 苦笑いしながらアッシュは進む。


 先へと躊躇なく進む三人にリクは少し俯く。



(……やっぱり彼らはすごい。どうしてここまでやるんだろ。オレは、妹が囚われているのわかってるのに、なんも出来なかった、のに……)



 そう考えるだけで、リクはギュウッと胸の奥が締め付けられたように苦しくなった。

一章から登場人物のまとめを書き始めてます。気が向いたらでいいのでそちらも見てください。

それぞれの章ごとに登場した人やアッシュたちの一言も載せるようにしてるので、ぜひお楽しみいただければと思います。

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