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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:捜索開始2

 少年は夢を視る。


 それは暗く、冷たく、棘のような波がずっと肌を突き刺さっている感覚。力が、入らない。ドクドクと血が抜けるように身体から大切な何かを奪われている事が、分かる。



 苦しい……、苦しい、よ……。


 どうして、こんなことになったんだろ? オレは、オレはただ――


 ただ、ソラと、幸せに暮らしたかっただけ、なのに……。



 後悔と寂しさの渦の中、少年は藻掻くのを諦めそうになった時、天から光が差し込む。



「……温かい……」



 優しく、温かいその光に縋るように手を伸ばす。



 ◇



「うぅ……」



 少年は目を覚ます。黒曜石色の瞳がゆっくりと開く。


 先程までの息苦しさも痛みも無い。



(知らない、天井だ。ここは、何処なんだろう?)



 自分の周りを見るために首を動かすと、白くとても綺麗な女性が立っていた。祈るように手を合わせているその人は、まるで聖女様のようだった。



「め、女神、様?」

『ッ! 目を覚まされましたか?』

「あ、えっと、は、はい……」

『良かったです。私はマリアと言います。ご自身のお名前は、分かりますか?』

「わかり、ます。オレは、リク、と言います……」

『リクさん、ですね。……あっ、少々お待ちください』

「えっ……?」



 訳の分からないまま少年はマリアを視界に追いながら起き上がる。その人はソファに座っている紫色の髪の、女性……? 男性に話しかける。



『グレン様、先程のボーイ、リクさんが目を覚まされました』

「そうか、わかった」



 作業をしていたグレンと呼ばれたその人は手元にあった何かを置いて、立ち上がるとこちらの方まで歩いてくる。



(だ、誰なんだ……?)


「目を覚まして早々で悪いんだが、お前、名前以外に覚えていることはないか?」

「な、名前、以外? え、えっと……その……、あ、アンタは誰、なんですか?」

「私はグレンだ」

「あ、ソワレで名乗るのやめたの? グレン」

「もう今更だろ。コイツがどうあれ、めんどそうなら、記憶を弄ればいいからな」

「あはは、それもそうだねぇ」


(サラッと恐ろしいことを言った気がする……)



 ヒンヤリと冷や汗をかく少年は震えながらかけられていた布団を持って顔を少し隠そうとする。


 ニコニコと笑うアッシュは置かれたチョーカーを手に取って魔法で何やら確認している。それを見てグレンは小さくため息を吐く。



「それとお前、時間が無いの忘れてないか?」

「そうだねぇ、森に残ってる時間制限のことだよね。でも彼がもし分からないならどうするのかい?」

「その時は、その時だろう。書庫もあるようだし、屋敷の構造の設計図くらいあるだろ。それがあれば地下の入口もわかるからな」

「ん〜、じゃあ僕が書庫見てこようか? 君、これの解析もあるでしょ」

「やめろ、一人で行って迷子になられても困る。それに解析も既に終わっている」

「アティじゃないんだからやめてよ」

「はぁ、子は親に似るって言うだろ」

「僕そんなに方向音痴じゃないからね?!」

「どうだか」



 鼻で笑うグレンは再度ボーイの方へと目を向ける。



「リク、だったか? その隣にいるマリアにもう少し治癒魔法をかけてもらっておけ。記憶の混濁の可能性もあるからな」

「え、えっと……だ、大丈夫、です。その、ここって、まだあの屋敷、なんだよな?」

「お前の認識しているのがマーテルの屋敷、ということならそうだな」

「……そう、なんだ……」



 暗い顔をして視線が下へと落ちる。


 リクの様子にマリアはそっと肩へ手を置き、治癒魔法を唱える。そのおかげなのか暗い顔は少し良くなったのか、再度顔を上げる。



「あ、ありがとう」

『いえ、元々催眠魔法をかけられてしまっていたのです。解除された時はかけられていた間の記憶は曖昧になってしまいますし、不安になられてしまうのも無理もありません』

「……すいません」

「それで、屋敷の事で何かあるのか?」

「その、屋敷の事ならある程度は覚える、ます!」

「敬語は不要だ。あまり慣れてないんだろ」

「す、すいません」

「別にいい。屋敷の事、覚えてるなら地下施設があるらしいんだが、そこの入り口もわかるか?」

「地下施設……? あ、なら、アレかも。オレも何度か行ったことある」

「それは好都合だな。ならその場所に案内して欲しい」

「……えっと、その、何でかの理由を聞いても?」

「クロノス騎士団の依頼でここに来ている。マナの枯渇で森が死にかけているんだ。その原因と原因の根本的な解決をするつもりだ」

「…………あの女の味方とかじゃ、ないんだ」

「マーテルは仲間じゃない。コイツの母親だがな」



 ナギの方を指さすとリクはビクッと怯えた表情に変わり、マリアの腕を掴む。相当怖い目にもあっているのだろう。


 カタカタと震えている。


 そんな彼にナギは手を軽く前で振るう。



「あー、大丈夫や。うち、今回はグレンはんたちの味方やもん。ママンの味方ちゃうから」

「ほ、本当に?」

「マジやマジ。信用ならんくてもえぇけど」

「あ、いや、その……」



 怯えた様子のままでは話にならない。


 グレンはナギの服を掴み、自分の後ろに下げる。ナギも察してアッシュの方へと行き、姿を見えないように隠れる。



「……それで、お前、道案内は出来るか?」

「オレが覚えている範囲なら……。そ、それと、道案内する代わりに頼みがあるんだ」

「頼み? 私が出来る範囲でいいなら構わんぞ」

「お、オレの、妹が、ソラが、ここにいるはずなんだ。妹の捜索もお願い、出来ないか?」

「ふむ。妹か」

「え、妹はん、大丈夫なんやろうか?」

「どういうことだ?」



 リクが怖がらないようにアッシュの後ろに隠れたまま、少々言いにくそうにしながらも口を開く。



「なんと言うか、その、うちのママン、女の人がかなり嫌いなんや……。無事やとえぇけど……」

「……リク、お前、ここに来たのはいつか覚えてるか?」

「こ、ここには、3、4日前くらい、だと思う」

「なるほど。……間に合うかどうかはわからんが、捜してみる価値はあるだろ。おい、アッシュ」

「ん? 何?」



 グレンは部屋を出る支度をしながら、アッシュへと声をかける。



「私はコイツを連れて地下へ行く。お前はナギとここで待ってろ。二時間ほど経っても戻らなかったら先に騎士団へ帰れ。ナギの持っている転移石でクロノスに帰れるだろ」

「え、一人で大丈夫なの?」

「別に問題ない。時間もあまりないし、早めに終わらせないといけないだろ。というか、お前は怪我をされては困る」

「いやいや、そんな子ども扱いしないでよ」

「そういうつもりはない。それに、人数が多いと邪魔だ」

「そんなこと言っても君だって、ここだとずっと魔力取られちゃってるんでしょ。たださえ魔力がないとダメなのに、あまり無理してしまうとまずいんじゃないのかい?」

「早々に終わらせればいいだけだ。それに規模もわからんのに連れていく訳にはいかんだろ。マリア、そこの二人を守れ」

『え、えぇええっ?! わ、私がですか?! わ、私、そもそもそんなに、戦え――』

「アッシュ、どちらにしろ判断はお前に後は任せる。リク、来い」

「え、あ、待っ?! うわっ?!」

『グレン様?!』



 急ぎ早足にベッドに座っていたリクを肩に担ぎ上げ、部屋を出て行ってしまった。


 こちらの返事を言う前に出ていっちゃうし……。



「……大丈夫なんやろうか、グレンはん」

「んー……」



 かなり急いでいるのは森のこともあるし、魔力も取られっぱなしだから動けなくなる前に解決したいのかもしれない。


 それに最後の言葉……。



「多分、だけどさ」

「おん?」

「後の判断は任せるって最後に言ってたってことは、帰ってもいいし、来てもいいってことさ」

「え、マジ? ホンマか?」

「なんとなくだけどね。一時間経っても戻らなかったら行こうか。普段のグレンなら、それくらいで終わるだろうけど現状が現状だからさ」

「二時間後って言われたんに……、ホンマえぇのかね……。怒られてもうちは知らんよ」

「あはは、大丈夫さ。そんなことでは怒んないよ、グレンは」

「むぅ〜……」



 何や、やっぱ相棒やった年月の差っちゅー感じやな……。ちと、ムスッとなってまうわ。



『……アッシュ様』

「ん?」

『伺うのは構いませんが、無茶だけはしないでくださいね。前にもお伝えしてますけども、これ以上は――』

「大丈夫大丈夫。君も心配性だなぁ」

『わ、私は、(あるじ)様であるグレン様やレイチェル様の事も考えてお伝えしているのですよ?! 御身は一人ということでは無いのですから……』

「はいはい、君が心配してるのは、(あるじ)様たちの心労が来るからでしょ。心配しなくても、僕も気をつけるつもり――」

『つもりだけでは困ります。私は還った後、考えた結果、あなた様に無理をさせない事に決めました』

「全く、君もグレンも過保護だなぁ……」



 呆れた顔でアッシュはため息を吐く。



 全く、彼女もグレンもまるで僕を子ども、というか割れ物を扱うみたいにされても困るよ……。



「というか、グレンはんは地下に行ったはえぇけど、入り口わかったとはいえ、どーするんやろ?」

「それはねぇ、コレを辿って元凶のところまで行くんじゃないかな」

「コレェ?」



 アッシュがナギに見せたのは、あの黒いチョーカーだ。ポイッとそれをナギに向けて投げる。



「おっとと?! このチョーカーから何処に向かっとんの?」

「地下の元凶、マナを吸い取っている原因まで向かっているんじゃないかな。逆探知してね」

「逆探知して行けるもんなん?」

「そうだよ。君とリクに着いていた呪詛魔法の一つ、魔力を強制的に遮断して吸収する(のろ)いに関してだけど、遮断して吸収された後、これはどこに行ったんだろうって事で思ったんだけど、どうやらソレは地下に持ってているみたいなんだよね」

「てことで、グレンはん、行ってしまった感じなん?」

「それもあるんじゃないかな。まぁ、とりあえず、一時間、待とうか」



 パチンッと懐中時計を取り出して、時間を確認する。今は22時過ぎ……。23時になったら行こうかな。


 ストンッと椅子に座ったアッシュは肘置きに頬杖を着き、ボソッと呟く。



「……ま、それよりも前に何かあれば行くけどね」

『? 何か言われましたか?』

「なーんも。じゃ、僕らは待っとこうかね」

『……大人しく本当にされるか不安ですね』

「大人しくするする〜」

『…………』



 ジーッと疑うような目をされているような気がする。そんな目も気にしないで、アッシュは目を閉じ、精神を集中させ、トンッと指で逆側の肘置きを叩く。叩いた時に魔力を屋敷全体へと巡らせる。



(魔力量が広がったおかげで魔力循環の範囲も広がった。それならグレンの魔力を見逃さず、追えるはず)



 見逃さないように集中しておかないと……。ここは唯さえ魔力を吸収するような場所だ。気が緩むと痕跡が消えてしまう。


 目を閉じたようにしか見えないマリアとナギは互いの顔をチラッと見る。



「マリアはん、うちらはどないする?」

『待つ、と仰ってますので、何か飲まれます?』

「おっ! 酒?」

『嬉しそうなお顔をされますが、この後出られないと行けないならお酒はダメですよ』

「え〜……」

『その代わり、ノンアルコールで飲まれる気分にはなれるかもです!』

「おぉっ! それやったら飲む飲む!」



 キャッキャと騒ぐ二人にアッシュはチラッと片目を開いてその様子を見る。


 ”賑やかだねぇ……”、とクスクスと笑いながら思い、再び、目を閉じた。


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