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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:捜索開始1

 取り押さえたボーイの口元が動いている。魔法か何かを発動しようとしているかと思ったが、そうでは無いみたいだ。


 耳を傾けるために顔を近づける。



「……ろ、して……、よ……」

「ん? もう少しはっきり言ってよ。聞こえないってば」

「こ、ろ……して、……!」

「え、何? 殺して欲しいの?」



 殺して欲しい? 何言っているんだか……。



 呆れたようにため息を吐いて、ボーイの身体に座る。逃げられないように抑えたまま、頭を軽く叩く。



「全く、君には悪いけど、僕は人を殺せないんだよね。ほら、何のつもりで君は僕を刺そうとしてきたの? 答えなよ」

「ころ、し……」

「あ〜、それしか言わないつもりかい?」

「ころして、ころ、し……」


(ダメだ。まるで壊れた人形みたいに同じことしか言わなそう……)



 返事を諦めて、黒いチョーカーに触れる。それに触れると妙な感覚を感じた。魔力を奪われるような感覚だった。



(そういえば、グレンはここに立ち入ってからは魔力を奪われているって言っていた。それがコレと同じ作用しているなら、何か手がかりになりそうだね)



 カチッとチョーカーの留め具を外す。付いていた留め具には魔法がかけられていたが、問題なく外せる。それを手に取り観察をすると金具のある位置、それの裏側に針のようなものもある。その針にも魔法がかかっていた。



「何これ? 呪詛魔法?」



 何のための呪詛なのかと思っていると、下からピキピキとヒビの入る音が聞こえた。何かと視線を下ろすと、どうやらボーイからだった。肌は枯れ木のように変色し、肌には亀裂が走っていた。これって……。



「魔力の枯渇の症状? どういうこと?」



 いやいや待って待って、魔力を別に奪った訳じゃないのにこんな症状が出るなんて、どういうことだろうか。いや、それよりもこのままだとこのボーイは死ぬ。原因はすぐは分からないが、急いで診ないとまずそうだ。


 ここまで枯渇していると例え今、魔力を僕が分けても危うい。マリアの手を借りた方が良さそう。



(グレンには、ちょっと悪いけど……)



 アッシュはボーイを掴みあげて、扉を勢いよく開ける。



「グレン!」



 中で話していたグレンとナギの視線がこちらへと向けられた。構わず、部屋に入ってきた彼にグレンは軽く首を傾げる。



「どうした?」

「グレン、話の最中にごめんよ。ちょっと、手を貸して」

「手を貸す?」



 ぐったりとしているボーイを見せると彼は察してくれたのかハッとする。



「……ふむ。ナギ、話は後だ。”来い、マリア”」



 パチンッと指を鳴らしてマリアを召喚する。



「マリア、アッシュが担いでいるボーイに治癒魔法を。アッシュ、そのボーイに魔力を渡せるか?」

『かしこまりました』

「うん、大丈夫」

『アッシュ様、神聖魔法の回復を致します。それに合わせて魔力をお渡し下さい』



 マリアの指示に頷く。


 神聖魔法の光がボーイを包むのと同時に魔力を流す。少し回復したかと思ったがすぐにまた同じような症状が出たので回復をさせつつ、解呪をかける。それが効いたのか、しばらく流していると徐々に肌の色が戻り、顔色も良くなっていった。



『……これで、大丈夫ですね。アッシュ様、ありがとうございます』

「こちらこそありがとう、マリア。さすが慣れてるね」

『そんなことはございません。さすがの私もここまで枯渇された方は初めてですよ……』



 安堵のため息を吐くマリアをよそに、グレンは魔力循環をして状態確認をする。確かに魔力も落ち着いたし、先程よりもちゃんと魔力を感じられる。



「……で、お前、このボーイに何をしたんだ?」

「え、何で僕がやっちゃった前提なの?」

「何かしたからこうなっているんだろ」

「いや、まぁ、やりはしたんだけど……」

「やっぱりやっているんじゃないか」



 アハハァと笑いながらアッシュは先程のボーイがつけていたチョーカーを取り出す。



「コレ取ったらこうなった」

「そりゃあ取ったらなるわ。なんやっとんよ」

「あ、やっぱりこれが原因なんだ」

「貸せ」

「あ、うん」



 取り出したチョーカーをグレンに渡して鑑定魔法をかける。アッシュが見た時と同様で呪詛魔法がかけられており、妙な仕掛けもかかっている。



「……ふむ、やはりコレが原因のようだな。大凡(およそ)の検討はついていたが、実物を見て確信した」

「ソレの呪詛は何か分かったりする?」

「ある程度のものならな。コレにかけられているのは精神を乗っ取る(のろ)い、監視の(のろ)い、それと外したら魔力を強制的に遮断して吸収する(のろ)いだな。まぁなんとも、陰湿というか、性悪というか」

「てことは外したからこうなっちゃったか。いやぁ、申し訳ないことをしちゃったよ」

「全然思ってないだろ、お前」

「アハハ、さぁ?」


(根本的にグレンはんと同じで仲間以外どうでもえぇタイプやもんなぁ、アッシュはん)



 まぁこの二人がそうなのは今更だ。というか、外したらこうなるって……。予想は着いていたけど、コレは……。



「よし、ナギ」

「おん?」

「お前のソレも外しておくぞ」

「え、大丈夫なの?」

「仕掛けはわかったから問題ない」



 いやいや、問題ないって言うか、それ外そうとしてこのボーイみたくなったらどうするんだとアッシュが思っていたが、グレンはナギに来いと言わんばかりの仕草をする。



「それに監視の(のろ)いがあるならさっさと外してしまった方がいい。監視されるのは好かん」

「いや、まぁそれはわかるけど、ナギはいいのかい?」

「……へぇへぇ、別に良かやし、お任せするわ。元々お願いしたかったけんな」



 グレンと話そうと思った内容を伝えてる時にされるのも、今外してもらうのも変わりない。外して問題なければそれでもいいし、何かあれば……。


 チラッとナギはグレンを見る。



「信用しとるもん」

「なら、さっさと首を出せ」

「……いや、信用しとるけど、首狩りするみたいな言い方せんでよ。怖いわ」

「いいから、そっち向け」

「へーい」



 ナギは後ろを向く。後ろを向いたナギの首元にグレンは手をかける。



「マリア、サポート」

『かしこまりました』



 マリアの神聖魔法に被せて、解呪の魔法と同時に付いているチョーカーの金具を外す。外したチョーカーを首からソッと退かすがナギには異常は無く、スルリと外れた。



「取れたぞ」

「おぉ、ホンマや! 絶対に二度と取れんと思っとったのにな」

「それは良かったな。さて、コレの件に戻すか」

「おいこのドライモンスター、さっきまで相棒どうの話してたんに興味無くすなや」

「え、相棒?」



 ナギの言葉にアッシュはグレンを見る。


 視線を向けられたグレンは無視をしている。ニヤニヤと笑い、ツンツンとアッシュは突っつく。邪魔くさそうに手を退かすが、それでも彼は変わらず突く。



「鬱陶しい!」

「え〜、何なに? 僕が聞いていない間に仲良くなってるの?」

「……ナギ、次、余計なこと言ったら記憶操作で飛ばすぞ」

「嫌や!! 絶対に嫌やけんな!!」



 ケタケタと笑うアッシュだが、あまりこれ以上弄ると怒られそうなのでやめた。



(にしても、僕以外で相棒って、なかなか面白いけど、ちょっとやきもち妬きそう)


「それで、ナギ」

「お?」

「コイツが入る前に言おとした事、話せるか? アッシュを退かした方がいいなら窓から捨てるが」

「え、ちょっと、僕の扱い酷くない?」

「お前がそのオモチャを見つけたと言わんばかりの目をしなければな」

「いやいや、してないしてない」



 笑いながら否定するアッシュの頭を軽く小突く。



「ホンマ、仲良いわな」

「うるさい。解析している間にさっさと話せ」

「おー、怖い怖いわ」



 からかわれているグレンが面白いのかナギまでもニヤニヤして笑う。倒れているボーイを抱えてベッドに寝かせる。


 その間にグレンはソファに腰をかけて、ナギとボーイから取ったらチョーカーの解析を進める。アッシュはその隣にあった椅子を持って近くに置き、座ると背もたれに腕を置く。



「それ、僕も聞いて大丈夫なのかい?」

「別によかよ。ただの身内話なだけや。それに、もう話してもママンにはうちをどうこうできる状態やない」

「やっぱりチョーカーに何か仕掛けがあったの?」

「まぁ、そうやな。話せんごとされとったし、例え話せとったり、執筆とかでも魔力持ってかれて殺される可能性あったんよ」

「……お前、それでそのまま話そうとしてたのか。意外と根性あるんだな」

「意外ととはなんや! 意外とは! ……うちが話そうと思ったんは、前からやけど、覚悟出来たんはグレンはんと話してからや」

「……本当に、何話したの?」

「うるさい、その件で話しかけるな。ナギも余計なこと言わずにさっさと話せ」

「はいはい、わーったよ」



 これ以上は本気で怒られそうや。それにしても、どの辺から話したらえぇやろ。



 うーん、と悩むナギはしばらく考えてから、”よし!”と言って話を始める。



「元々うちがグレンはんに同行許可してもらったんは、グレンはんをここに連れてくるためやったんよ」

「グレンを?」



 アッシュがグレンに向けて指をさす。指されたグレンはこちらを見ずに作業を進めている。ナギは小さく頷くと続ける。



「その、まぁ、うちも話半分でしか聞いとらんかったけど、グレンはんは特殊な身体やって事でそれに目を付けたママンの指示で接触したんよ。実際、人間離れしとるし、何よりも特殊な身体というか、グレンはんは守護者やからって思っとったけど、そうやなさそうな気もしとる」

「ま、そうだろうな」

「……前に言ってたマナが無いとダメって言うやつ?」

「それしかないだろ。二人で会った時もやたらと人の身体に触れてきていたしな」

「んー、でも君の身体と言ってもなぁ……」

「どうせ、アビスとミゴたちの技術、マナで人体を構築するものだろ」

「グレンはん、それアッシュはんに()うてえぇの?」

「別に、ここまで情報が揃うと何となくでコイツも察しがつくだろ」

「……まぁ、僕も少しの間、あの施設いたし、話の流れで、何となく。面と言われるとちょっと、ね」



 スノーレインの時や侍の国の一見でも何となく察していた。一番の決めては、魔力譲渡の時だ。けど、そうじゃないかもって思いたかったし、そう思いたかったかもしれない。


 ……そっか、まぁ、そうだよね。



「だからと言って、君に対して嫌な気持ちなんて無いならさ、安心してよ」

「その点に関してはお前なら問題ないと思っていたから心配もしていないぞ」

「アハハ、それはありがとう」



 ……グレンの身体の事は主様(マスター)は知っていたのかな。知らなかったのは、僕だけだったのかな。


 それはそれで、ちょっと言って欲しかった、とは思わなくもない。



「話、続けてえぇの?」

「うん、いいよ。大丈夫。話止めてごめんね」

「よかよか。それとつけられとったチョーカーはうちの居場所とうちが話した内容をママンに知らせるものや。うちが聞いた内容までは聞こえんらしいけん、定期的に連絡取って報告しとったけどな」

「ふぅん、じゃあ元々は裏切る予定だった、って感じなんだ」

「せやなぁ。うちはいつもそうやったんよ。ママンが欲しい者、連れてこい()われとった人に信用してもらった後、ママンに引き渡して……後は、そこにおるボーイと同じようになっとる奴も居るし、もしくは(なん)かの実験材料にされとったのも知っとる。知っとって、やっとった」

「実験材料?」

「実験の詳細まではうちは知らんけどな。なんやエグい実験、なのは確かや」

「人体実験する段階でろくな実験じゃないだろう。それに、私を連れてくるようにって話はそっちの方だろうな」

「どっちもあると思うで。ボーイの子みたいに綺麗な男の子、ママンが一番好きなタイプやもん。グレンはんのことは実験も含めて囲いたいやないかな」



 それはそれで勘弁して欲しい。それならまだ実験材料の方がマシだ。というか、本当にろくな研究者の知り合いがいないものだ。


 露骨に凄く嫌な顔をするグレンに対して気の毒そうにアッシュは苦笑いをする。



「とりあえず、マーテルの目的はわかったとして、マナの枯渇の原因についてお前は知っているのか?」

「恐らく地下施設やな。膨大なエネルギーでどうとかぁ〜……って言うてた気がするんよね。ただ、場所まではうちも知らんのよ」

「地下施設か」



 それなら何処かに入口があるはず。それこそ手分けして探した方がいいが、変に探ると悟られそうだ。



「せめて、そこまで道案内できる奴がいればいいんだがな……」

「屋敷の人もチョーカーで話せんようになっとるし、変に外す人増やしても気付かれそうやもんなぁ」

「あっ」



 アッシュが何かを思いついたように手を叩く。



「居るじゃん、知ってそうな人」

「誰がだ?」

「そこで寝てるボーイ。チョーカーも外してるし、話聞けるなら案内人にもなるんじゃないかな?」

「ソイツが知っていればな。マリア、意識を取り戻させることは出来るか?」

『えぇ、ちゃんと治療してますので恐らく大丈夫です。ただ、目を覚ますまでもう少しお待ちください』

「あぁ、任せる」



 ”分かればいいがな”、とボソッとグレンは呟き、マリアの治癒を待つこととなった。

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