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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第三章 魔封じの森

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マーダー帝国1

 正体不明の追跡者を巻いてから約3日。

 何か起こることもなく、少しずつ森も明るくなり、木々の隙間からは雪に覆われた山が見えてきた。

 雪山が近いせいか段々と寒さも増す。ハーッと息を吐くと息が白くなる。

 それぞれ寒さに耐えれるよう、マフラーや厚めの上着を取り出して着込む。



「うぅ~、さっむ」

「そうだね。だんだん寒くなってきたね。マフラー使うかい?」

「いや、俺もマフラーあるし、まだ大丈夫」

「そう?寒かったらちゃんと着なよ、ノア」

「ん、あんがと」



 手袋をつけたノアはそれでもちょっと寒そうに見える。みんな先程まで来ていた服に少し着込む程度。山が近くなるにつれ、きっともっと寒くなるだろう。

 それにまだ魔法を酷使しようとすると反動が酷い。ただ魔法を使わなくても、わりとどうにかなっている。昨日の晩もシーサーペントという蛇の魔獣をしとめ、カラッと揚げて食べれるくらいには。


 美味しかったなぁー、唐揚げ。


 なんて考えてると隣からエドワードが話かけてきた。



「なに間抜けた面してるんだ?」

「昨日食べた蛇のから揚げ思い出してたんだよぉ」

「あー……、あれか……」



 エドワードはちょっと嫌そうな顔をする。


 そういえばエドワードは蛇が苦手らしい。昨日獲ったシーサーペントを見て絶対にそれに近寄ろうともしかなかったからな……。唐揚げは渋々食べてたけどあまり箸は進んでいなかった。

 元々旅をしてる最中にこういう魔獣を狩って食べるのも僕が入ってからだから慣れてないのもあると思う。



「それで、どうしたんだい?」

「あぁ、実はアリスと先程、話していたのだが山の麓に小さな村があるらしい。そこで一度休憩しようと話をしていてな。山に入る前に必要なものもそろえておきたい」

「そうだね。そうしようか。僕も少し休みたいからさ」



 魔法が使えない分、神経をとがらせている状態は思ったよりも疲れた。森を出れば大丈夫らしいからそれまでの辛抱だ。



「このペースなら明日の昼には到着できると思うぞ」

「うん、おっけ。わかーーっ! エド!下がって!!」

「っ⁈」



 殺気を感じる。咄嗟にエドワードの腕を引く。パパァンッと銃声が鳴り響く。銃弾は、エドワードの盾に庇ったアッシュの腹部に命中していた。"うぐっ!"と呻き声が漏れる。



「アッシュ!大丈夫か⁈」

「だ、大丈夫。これくらいなら……? …………あれ、なんで……?」



 血が腹部からとめどなく溢れる。おかしい。騎士団で滞在していた時は少し待てばふさがっていたのに……。いや、恐らくこの森の影響だ。一旦傷のことは無視だ。

 銃声は二発。一発は僕だっただがもう一発は……?

 周囲を見渡す。誰にも当たっていなければいいと思っていたが、リリィが倒れている。その隣にいたアリスが泣きながらリリィの傷を押さえていた。



「リリィ!ちょっと大丈夫⁈」

「だ、大丈夫、足に、当たっただけ……」



 そう言いながらどうにか立ち上がろうとするが、痛みで起き上がれないのか苦痛に顔を歪める。


 アッシュは痛む腹部を押さながら、銃声のあった方を睨む。そこから数十人の兵士の服装をした人たちが現れる。その中の一人の魔導士らしき人物は杖を取り出す



「”闇の拘束(ダークバインド)”」



 アッシュたちの周囲に魔法陣が展開され、真っ黒なひも状のものが巻き付かれる。アッシュは咄嗟にエドワードを抱えながら、あらかじめ生成してアイテムボックスに入れていた剣を出して刻む。

 アッシュとエドワードは拘束されなかったがユキたちは捕まり、アリスとリリィは兵士によって押さえられる。



「いや!放して!!」

「アリス!」

「おっとー待てよ、そこの金髪。動くんじゃない。動いたらお仲間が痛い目に合うぞ?」



 先程の魔導士が前に出てニヤリと笑う。アリスとリリィの首には剣が突き付けられていた。

 睨みつけながら、アッシュは動きを止める。


 動きが止まったアッシュを見て、ニヤついたまま魔導士は持っていた杖を前に出すと銃に変わる。あの発砲はこいつか?



「にしてもあんたその怪我でよく動き回れるな。大体のやつは痛みで動けないんだぜ?」

「……君に褒められてもなんも嬉しくないね。だいたい君たちはなんだい?僕たちはただの旅人でこんなことされる筋合いはないよ」

「関係ねぇよ。ここを通った段階で俺たちのテリトリーの範囲内。何されても文句の言えねぇ……。いわゆる、狩場だ」

「狩場、ね。数で押し切ろうとする、弱い狼の群れの間違いじゃないの?」

「っ! おーおーおー!いいねぇ、威勢がいいのは俺は好きだぜ?いいだろうお前、名前は?」

「…………」

「言わねぇならいいんぜ?」



 男は銃口をユキに向ける。そして躊躇なくパンッ!と発砲した。



「ああああああああっ⁈」



 発砲した銃弾はユキの肩に当たる。相当の痛みなのだろう、叫んだあと呻き声をあげて身をよじる。

 そして標準を今度はノアに向ける。



「もう一回聞くぜ?名前は?」

「ーーっ! あ、アッシュ、アッシュ・アウロラフラム……」

「アッシュ、アッシュねー。いいぜ、覚えておこう」



 悦に浸るようにアッシュの名前を復唱する。だが何よりアッシュは自分の名前を聞くために発砲したことに許せなかった。



「…………これ以上……」

「おん?」



 アッシュが持つ剣がミシリと音を立てる。ギリッと睨みつけながら今でも切りかかろうとする勢いの目をしていた。



「これ以上、僕の仲間に傷をつけてみろ。絶対に殺してやる……!!」

「ぶっ……!アーッハッハッ!! お前本当に威勢がいいなぁ。普通のやつらだったら今度は自分かもしれないって怯えんのに、殺すって……!! いいぜぇ!!お前、いいな!!」



 男は楽しそうに笑いながら手を叩く。


 その間アッシュの横にいたエドワードは彼の足元を見ると血がまだ止まっていない。ぽたぽたと血が垂れている。



「あ、アッシュ……」

「……大丈夫、エドは後ろにいて」

「そ、そうじゃない、血が……」

「大丈夫」



 ダメだ、聞いていない。ユキが撃たれたこととアリスたちも人質になってる段階でアッシュは相当怒っている可能性が高い。しかも向こうは人数が圧倒的に多い。いつもなら問題はないだろう。それは私やアリスたちが危険が及ばない所にいるからだ。

 そうでなければ……、この人数はアッシュの敵のうちに入らなかっただろう。


 そして男はひたすら笑った後、再度アッシュに話しかける。



「あ~そうだ。お前のその威勢の良さに俺も気分がいい。特別に名乗ってやるよ。俺はマーダー帝国、第一番魔導部隊アレックス・マーヴェリックだ。これでも元帥をしてる。なぁ、お前、こいつらと旅をしないで俺の部隊に入れよ。歓迎するぜ」

「誰が仲間を傷つけられて、はい入ります、なんて言うと思ったの?」

「ハッハッハッー!そうだよなぁ、そうそう。そりゃあそうだ。だからよ……」



 アレックスと名乗った魔道士はフードを外す。紅い髪に黒い瞳。男は持っていた銃を複数顕現する。



「お荷物がいなくなりゃあ、話は別だろ?」



 そう言って、ノアとユキに銃口が一斉に向く。


 発砲音が鳴り響く、続けて鳴り響く発砲音。砂埃を巻き上げる。鳴り終え、視界が晴れていく。



「ヒューッ お前そこまですんの?かっけぇなぁ、おい」



 アレックスは口笛を吹いて手を叩く。


 ノアとユキの前にアッシュが魔法で防いでいた。防ぎきらなかったものは剣で弾いていたようだが、数発はアッシュ自身に被弾し、腕や肩、足から血が滴る。


 ゼェーッゼェーッと肩で息をし、その場から動けないのか防御の構えたまま、動かない。



「アッシュ!!おい!大丈夫かよ?!」



 ノアの呼び声に答えない。

 少しずつ防御していた腕を下ろし、アッシュはアレックスを睨む。



「いいねぇ、マジでいいぜ!!お前がなお一層欲しくなった!!」

「……っ がはっ!!」



 アッシュが咳き込みながら血を吐く。倒れないように剣を杖にしながらも膝をついてしまい、それでも咳き込みは止まらない。



「そりゃあそうだろうな。俺の弾防ぐには生半可な防御魔法は意味がねぇ。本気の魔法でやらねぇとな。ここじゃそれは相当負担だ。すげぇもんだわ」

「うっ……ぐ……っ」

「ここの森の特殊な磁場は魔力回路、いわゆる魔導師にとっての血液に対して異常な攻撃性を持ってる。魔法の発動に反応して術者に対して色々な副作用が発生する。まぁ俺らはそれを無効化してるからこうして魔法を行使できるだけどな」

「……はっ……ていねいな、解説、どうも……」



 耳鳴り、激痛、目眩が酷い……。けど、ここで倒れる訳には……っ


 大きく深呼吸をして、再度、剣を構える。



「本当にお前はいい……!期待通りだ。……でもわかんねぇな。お前が守るそいつらになんの価値があるんだ?弱い仲間なんざどう考えても足でまといだろうよ」

「君が、なんと言おうと彼女たちは僕の大事な仲間だ」

「ふーん。まぁいい。じゃあもう少し俺と遊んでくれよ。俺に勝ったら手は出さないでやる。ただし負けたら、お前は俺の部下、そしてこいつらは、まぁ知らねぇな」

「っ!」



 アレックスは持っていた銃を今度は杖に変える。そして――



「”操り人形(マリオネット)”」

「ッ?!」



 エドワードに向けて魔法を放つ。

 ピシリと音と共にエドワードの身体が強ばり、体が軋む音がした。

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