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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第三章 魔封じの森
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マーダー帝国3

 ここで聞きたくない声がした。


 やはり戻ってきた。アレックス……っ



「へぇ、あの後からここまでやったんかぁ。いやぁすげぇ!マジですげぇよ!!」



 ズカズカと蹲ったままのアッシュに近づいて行く。それをアリスがアッシュの頭の上を覆い被さるようにする。



「あ?女。邪魔だ。お前には興味がねぇ。どけ」

「いやよ」

「これ以上は、やらせません!」



 横からユキが拳をアレックスに向けるが、アレックスは避けもしないで、振りかざすユキの腕を掴み――


 ゴギュリッ


 骨を折った。



「あぐっ!!」

「てめぇにも興味ねぇわ。そこを――っ!」



 ハッとしたアレックスはその場から避けるように後ろに飛ぶ。その瞬間、どこからか大剣が飛んでくる。

 飛んできた方向が分かっているのかアレックスはそちらを向くと笑顔になる。



「お!おぉ!我が友よ!!久々だなぁ!!」



 アレックスは嬉しそうに両手を上げ、歓迎するような素振りをする。

 何事かと、アレックスが向く方を見ると、エドワードを肩に担ぐグレンの姿があった。


 グレンは喜んでいるアレックスとは逆に、何やら少し怒っている様子でアレックスを睨む。



「アレックス。私はお前と友になった覚えは無いがな」

「水臭いこと言うなよ〜。あ、そうだ、そこの女の下にいるやつ、面白いからさ!お前にも見せてやるよ!」



 そう言いながらアリスに手を伸ばそうとするアレックスにもうひとつ剣をグレンは飛ばす。咄嗟に手を引っこめて、なんで?と言わんばかりの疑問そうな顔をアレックスはしていた。



「そいつらは私の知り合いだ。勝手に手を出すな」

「え、お前の?」

「それにもし、これ以上手を出すなら正直お前を殺そうか悩んでいる」

「……ここでお前と本気で殺り合うのもいいなぁ……」

「そうか」



 そう言ってグレンは無数の魔方陣を背後に展開していく。さすがの数に、”おいおい、待て待てよ”と男は困ったように両手を横に振る。



「殺りたいのは山々なんだけどよ、ほら、お互い今ん所大事な仕事中の身だ。また今度にしよう」

「…………」

「んじゃまたな!!グレン、アッシュ!!」



 そう言っててまた転送して消えていった。


 騒がしいやつが消えたことを確認してから、グレンは1度その場にエドワードを降ろし、そばで倒れたままのリリィに手を伸ばす。伸ばした腕を、拒むように、震える手でアッシュが掴む。


 アッシュの呼吸はヒューッヒューッとさせながらも、瑠璃色の瞳で睨みつけている。髪は既にいつもの金色に戻りかけてはいたが、どう見ても動ける状態でもないのにも関わらず守るために必死の目をしていた。



「……なんだ。私がこいつを傷付けると思っているのか?」

「……っ……さ、……わる……な……っ」



 辛うじて声を絞り出すようにするが、そんな彼に対してグレンはため息をつく。掴まれた手に、グレンは空いている方の手で触れる。



「文句なら後で聞こう。それに今この場で魔法が使えるのは私だけだ。今のお前に何が出来る?魔力回路はズタボロ、魔法ももはや今は出すことも出来んだろ」

「ず、ズタボロって……魔法使えなくなっちゃうの?」

「……普通の人ならな。こいつがここの森を出ればあとはどうにか治るだろ」



 不安そうにしてるアリスだったが、グレンの答えにホッとする。それでもアッシュはまだグレンから腕を放さない。



「それとも、お前の意地でこいつらを死なせていいのか?」



 その問いに対してビクッとする。少し間があくと、ズルズルと掴んでいた腕を放した。



「ん、素直でよろしい」



 放れたことを確認し、リリィの肩に手を置く。



「”再生(リジェネレイト)”」



 そう唱えると光の粒子がリリィを包みはじける。光がおさまるとガバッとリリィは起き上がった。

 一瞬、グレンをジーッと見たあとアリスの方を向いてギューッと抱きしめる。



「ごめんなさい……。守護者なのに、アリスの役にたてなかった……」

「うぅん、いいの。無事であるなら本当に……」



 グレンはその後、ノアとユキにも回復魔法を施し最後にアッシュの方に行く。手を置いて回復魔法を施す。

 傷は無くなったが、少し目が虚ろでぐったりしたままだがジッとグレンを見る。まだ呼吸に関してはヒューッヒューッとなっているし顔色も悪い。

 血で汚れている顔をグレンは袖で拭くが、目から出ている血は止まらない。



「……やはり魔力回路と副作用に関しては治らんな。暫くは治まらないだろうが我慢しろ」

「あ、あの、エドワードは……?」

「ん?あぁ既に回復魔法はしてある。精神的な不安定なところもあったから精神魔法も施しているから、こいつの場合は少ししたら動く」

「そう……。ありがとう」



 アリスは俯いたままアッシュの髪に触れて撫でる。


 これからどうしよう。グレンのおかげで脅威は多分さったと思う。けどみんな満身創痍で動けるかどうかも分からないし、アッシュもこの森を出てからでないとどうしようも出来ない。


 アリスが悩んでいることを察してくれたのか、ため息をつきながらグレンはアリスに提案する。



「不安なら、アッシュが動けるようになるまででいいなら少しの間、同行してやる」

「え、いいの?……あ。」



 アリスがバッとグレンを見る。彼の姿をよく見るとところどころ服がボロボロで傷がある。前回あった時はこんなにボロボロではなかったと思うけど……。


 そんな疑問を無視して、グレンは倒れたまま動けないアッシュを肩にエドワードを腰に再度担ぐ。



「ある程度こちらの仕事もひと段落した後だからな。少しの間だけなら問題ない」



 呆気に取られたままのアリスをよそに、先へ少し歩く。



(それに、どうせあとはこいつらの監視もしろと言われてる。あとは接触するなとも言われてないから別にいいだろう)



 そうグレンは思いながら、1度立ち止まって振り向く。



「どうした、行かないのか?」

「ま、待って!行くわよ!リリィ、ノア、ユキは動ける?」



 3人の方を見ると頷き、少し離れた位置でグレンの後ろを歩く。


 担がれた二人を軽々と持ったままグレンは無言で歩いているが、本当にこの人は味方なのだろうか。アッシュの知り合いにしては先程アッシュに睨まれていたし……。


 疑問に思いつつも進んでいくが夕暮れ時になってしまったため、野営をすることに。

 雨も降り始めてきたということもあり、簡易的な洞窟をグレンが魔法で生成してくれる。程よい広さがあるのでそこで一夜を過ごすことにした。


 グレンはこちらに近寄るわけでもなく、入口すぐのところで座って仮眠をしてるのか目をつぶって座っていた。目を覚ましていたエドワードはある程度状況を聞いて把握はできている。準備をユキたちに任せグレンに近寄る。



「グレン、起きているか?」



 声をかけるとゆっくりと目を開けてエドワードに視線だけ送り、また目を閉じる。



「なんだ?」

「助けてもらったと聞いてな。ありがとう。助かった」



 軽く頭を下げるとグレンはあまり興味がなさそうな様子で、再度エドワードに視線を向ける。



「たまたま戻る最中だったからついでに手を貸しただけだ。礼を言われることではーー」

「それでも、アリスやアッシュを助けてくれたことや今こうして同行してくれてるのは感謝している。……私は(あるじ)は違えど同じ守護者として全く役にはたたなかったからな」



 俯いた顔で自分の不甲斐なさや弱さに対して心底嫌になる。同じような守護者なのにこうも力の差があること、そして何より足手纏いになったことが非常に腹立たしい。


 悔しそうにするエドワードにグレンは目を少し細め、首を傾げる。



「……私が守護者という話はお前にしていたか?」

「アッシュの同僚と言っていたからな」

「そういえばそう言ったな」

「……どうしたらお前やアッシュのように強くなれる?」

「ふむ、そうだな……」



 今日の話を聞く限り、アッシュもグレンも相当規格外な強さだ。アレックスもかなり規格外だったし、同じ人の身でこれだけの差を見せつけられると、今のままではいけない気がした。

 だからこそ、少しでも何かあるなら強くなれるきっかけが見つかれば、役に立たないで逆に足を引っ張るということはもうなくしたい。


 真剣な目にグレンはまた少し考え、視線しか向けていなかったが身体ごとこちらに向け、正面から向き合う。ちゃんと向き合って話してもらえるとは思わなかったのかエドワードは少し驚く。


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