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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:恩返し2

 私は、親というものを知らない。


 私は、アッシュやナギたちのいう家族というものを理解できない。


 今世であっても、前世であっても。


 私は親というものを何一つ知らない。理解出来ないものだ。



「あぁ、忌み子の化け物め、さっさと死ねばいいのに」



 それが、前世で主様(マスター)に会う前、よく大人たちに言われていた言葉だった。



 ◇ ◇ ◇



 月明かりに照らされる目の前の黒髪の女性。髪型は、今までのグレンよりも少し長いくらいだろうか。彼の後ろに見える夜空と同じような、少し赤みのかかった黒髪の間から金色の瞳がこちらを覗き込む。



「これは、私の生前の姿だ」

「せ、生前の姿て、マジなん?!」

「そうだぞ。まぁ、今はどっちでもないから動きやすい姿で過ごしているがな」

「ど、どっちでもない……?」



 人じゃないことは知っとったし、なんならアリスはんたちも男か女かどうかで気になっとったけど……。


 驚きを隠せないナギにグレンは少し目を細める。



「…………それと私は、お前やアッシュたちのように親というものを知らん」

「え、親の顔を知らんってことなん?」

「守護者の一部では、記憶を引き継いで前世の記憶を持ったまま、生まれ変わることがあるらしい。まぁ、私の場合は、生まれ変わる前に、この身体に魂を縛られているから前世での記憶も全部持っている」



 そうでも無くても元々記憶力が良かったんだろうが、死んだ時の瞬間も、主様(マスター)のことも、物心ついた時から死ぬまでの全部記憶としては持っている。


 持っているが……。



「今世では造られて、前世では、私は親の顔を知らない。物覚えがついた頃から暗い牢屋に私は入れられていたからな」

「物心ついた時って子どもの時? そん時のグレンはんの親は?」

「さぁな。死んでいたのか、それとも親としても名乗りたくなかったのかもしれんな」



 前世でいたあの集落では黒髪と金色の瞳の子は凶兆の証、不吉の象徴とされていたらしく、外に出ることも口を開くことも、何一つ許されなかった。


 最後は、生け贄として神へと捧げるため、生かされていたが、その前に主様(シエル)に助けてもらえたから生け贄にされることは無かったのは不幸中の幸いと言えるだろう。



「だから、お前たちがいう親子だったり血縁なんてものがどれだけ大切なのかは今世でアッシュたちを見ていて少しだけ学んだくらいだ。……まぁ、今思えばアイツとレイチェル、アティを見ていて私自身がこうして過剰に守ろうとしたのも、気にかけていたのも、相棒だからと別に、羨ましかった、かも知れないな」



 親というものを知らない、家族なんてものも知らない。


 そんな私から見たらあの時のアッシュたちは、酷く眩しかった。親の温かみなんてものも、繋がりも、私には何一つ持ったことは無い。



「だが、アイツはアイツで親の事で後悔させてしまったことがあった」



 そう言ってパチンッと指を鳴らして、元の姿へと戻る。



「後悔ってなんや?」

「……一度、アビスの元から逃げる際にアイツは自身の両親を殺している。私はその時に立ち会っていたんだが、何故、親が死んだところで悲しむか理解出来なかったし、考慮したこともなかったから、心無いことを言ってしまい、アッシュを傷つけてしまった。……だから、お前には後悔をして欲しくないから、聞いているというのもある」



 ここで元凶であるマーテルを殺すのは容易い。けど、アッシュの時のように後悔して欲しくない。どうでもいい奴ならそこまで気にはしないが……。



「まぁ、これは私のエゴだ。……さて、私の話は以上だ。あと決めるのはお前だ。元凶は止めるのは変わらんが、お前自身は母親をどうしたい?」

「うちは……その……」



 ナギは少し黙る。その間、グレンも黙ったままナギの答えを待つ。


 目の前に立つ彼へとナギは足元から徐々に上へと顔の方へと視線を移す。整った顔立ち、窓から漏れる風に煽られて揺れる紫色の髪、黄金の、煌びやかな宝石のように輝いた瞳。この人の顔をちゃんと見るのは、これが初めてじゃない。



(……相変わらず、ホンマに綺麗な顔しとんなぁ……)



 こんなべっびんさんのくせして、()う事や、やる事がたまに残酷なところが多い。嫌いな奴には嫌いとか言うし、興味のない人にはとことん興味もない。

 そんな人が腹を割って話そうとしてくれとんのは、きっと自分の事を評価してくれとるから。だから話してくれたんやと思う。


 グレンはんに初めて会った時は興味のない人間には、全く興味を持たない冷たい人間やと思っとった。やから、都合よく、程よく、気に入られる程度の仲間として一緒におればえぇ。


 最後は――


 いつも通り、()()()()()()って、思っとった。


 けど、そうやなかった。


 どんな人よりも自分を犠牲にしてまで尽くそうとする。痛くても、苦しくても、辛くても、怖くても、大切な人のためなら、その人たちが幸せになるなら、その先が地獄でも、こん人は突き進むんやろうな……。


 嫌なもんから逃げて、自分だけ助かればえぇと思っとった自分とは大違いやなぁ……。


 ホンマ、グレンはんがもっと嫌な奴やったら、良かったんにと思うわ。



「なぁ、グレンはん、最後に、一つ聞きたいんよ」

「なんだ?」

「グレンはん、なんでうちにその話をしてくれたん?」

「お前は私を、何度か助けてくれただろ」

「そうやったけ?」

「あぁ、アビスの時も、ミゴの時も、お前は私を守ってくれた」



 アビスの時に記憶を消された時もあのマッドサイエンティストの時もコイツは私を守ろうとしてくれていた。


 ただの人間なのに。


 神子の加護も、守護者でもないのに。


 会って間もない、他人だったのに。



「理由はそれだけだ。だから、私が今回お前を尊重して、もし、助けて欲しいと思うなら、絶対に助けてやる」

「へぇ、助けてくれ()うたら、ガチで助けてくれるん?」

「当たり前だ」

「なんやそれ、ホンマ、自信満々に()うてくれるやん」

「今更だろ。それにさっきも言った通り、腹を割って話すのに今、お前に隠し事をするつもりは無い。信用してるからだぞ、相棒」

「ハハッ うちに、相棒とか、いっちゃん最初の時とか嫌がっとったんに、グレンはんから()うてくれんのや」

「嫌か?」

「んな事なかぁよ、その言葉だけでも十分や」



 そう、十分や。

 ここまで信用してくれとるのに、もう迷う必要はないやろ。



(こん人が、絶対助けてくれる()うてくれたんてことは、()()の仕組みかカラクリに気づいてくれたんやろうな)



 ナギは首にある黒のチョーカーに触れ、覚悟を決めた目でナギはグレンの目を見つめる。



「……グレンはん、実は――」

「グレン!!」



 口を開こうとしたナギの言葉を遮るように扉が開かれる。勢いよく開けられた扉をこじ開けたのはアッシュだった。


 開けるなと言っていたのに入ってきたのは何かあったのだろうか。



「どうした?」

「グレン、話の最中にごめんよ。ちょっと、手を貸して」

「手を貸す?」



 その疑問に答えるように、部屋へと入ると肩に誰かを担いでいた。それは、マーテルの部屋にいたボーイ。が、何やら様子がおかしい。


 担がれているボーイは意識がなく、ピキピキと顔にヒビのような亀裂がはいっていた。



 ◇



 少しだけ時を戻して、部屋から出るように言われたアッシュは少々暇そうに夜空を見上げていた。



(あ〜ぁ、聞きたかったなぁ。グレンが僕がいたら話せない内容、めっちゃ気になる……)



 とはいえ、ダメと言われてるのに盗み聞きするのもなぁ。ぶっちゃけ、聞こうと思えば聞けるけど、バレた時が、まぁまぁ怖い。


 昔、主様(マスター)が居た時に、主様(マスター)とグレンで秘密の内緒話をすると言われた時に、どうしても仲間外れも嫌だし、気になったので盗み聞きしようとして怒られたことあったなぁ。


 いや、ホント、怖かった……。



 その時の鬼の形相になったグレンを思い出してプルプルと身震いをしていると、コツッコツッと足音が聞こえてきた。


 そちらの方へと目を向けると、15歳くらいのボーイだ。



(……こんな時間にボーイが何してるんだろ?)



 時間は既に21時を越えている。まぁもしかしたらまだ仕事が残っているからと歩いている可能性もあるけど……。


 それに、違和感がある。


 なんだろ、人なのに、人らしい気配じゃない。魔力が感じないし、隠密?

 いや、それはこの屋敷の人物たちがそうだ。入ってきた時に見た執事以外は人としての生気や魔力を感じない。ボーッとしたような表情で意識があるようにも見えない。



「ねぇ、君」

「…………」



 返事は無し。それでもゆっくりと、こちらへと歩いてくる。


 ジッと姿を見ていると、左手に短剣を顕現し、数歩ほど歩くと構える。殺気のない気配のまま、ダンッと地面を蹴り、こちらへと攻撃を仕掛けてきた。


 動きは、速い。が、アッシュが見切れないような速さではない。剣が届くよりも先に軽く躱すと短剣を握っている手首を掴み、そのまま床へと投げ捨てる。



「急に攻撃なんて、失礼じゃないかい?」



 掴んだ手首を捻り、武器を奪う。それを首へと当てるがそれでも変わらず意識が無い、という方が近いだろうか。反応が無い。


 少し力を入れても痛むような様子もなかった。



「ねぇ、君、意識はあるのかい?」

「…………」

「………………、んー、どうするかなぁ」



 いや、本当にどうしよう、剣を向けてきたと言うことは敵対意思があるんだとは思うけど、それでもここまで反応がないのは困った事だ。


 悩んでいると、彼の首にある黒いチョーカーに目が行く。



(そういえばこのチョーカー、まだどんなものか結局話出来てないなぁ。何か分かれば、多少は仕事が捗るかな)



 そう思い、首にあるチョーカーに手を伸ばすと、ボーイの口元が動いた。

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