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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:恩返し1

 部屋に残っていたアッシュは懐中時計を片手に時間を確認しながらグレンの帰りを待つ。パタンッパタンッと懐中時計の蓋を開けたり閉めたりと忙しなくしていると、カチャリと扉が開いた。


 開いた扉にアッシュは視線を向ける。



「あ、お帰り。大丈夫だったの?」

「まぁな」



 部屋に入るなり、ソファーに腰をかけて座る。ふぅ、とため息を吐いている彼の隣へと少し離れたところでアッシュも座る。



「それで? まずはアッシュは街の方で獲た情報を教えてくれ」

「そうだね。僕の方は――」



 街であったことを話す。内容を聞きながらグレンはメモを取り、アイテムボックスから取り出した書類を確かめる。



「ふむ、なるほどな」

「ごめんね。あまり信憑性の高い内容じゃないし、子どもの言うことだからね」

「……いや、その子どもの方に心当たりがあるから、信憑性高いぞ」

「え、そうなの?」

「あぁ」



 アッシュが会ったという子ども、”ボクちゃん”、”やけに顔が整って綺麗な中性的な少女のような少年”。最近、話したし覚えしかない。



(どいつもこいつも、やたらと人が仕事中にちょっかいかけてきて……、暇か? 鬱陶しい……)



 嫌そうな顔を書類で隠すようにするグレンだが、一緒に聞いていたナギは驚いた顔をしていた。



「そん子はホンマに街の子なん? そげな話、出来んはずやけど」

「出来ないというのはどういうこと?」

「あ、い、いや、その……」



 しまったという顔をしてナギは顔を背ける。その様子にグレンはため息を吐いて、顔を隠していた書類をテーブルにバサッと投げ捨てる。



「ナギ」

「な、なんや?」

「何か、言えない事情があるのだろ? 例えば、その黒いチョーカーで言えなくされている、とか」

「ッ!」



 図星だったのか彼の言葉にビクッとして、彼からも視線を逸らす。



「……アッシュ、お前の話とこの書類からしてこの街に原因があると見ている」

「僕の話も?」

「あぁ。まず一つ、お前が言っていた子ども、私が知っているやつだったら話の信憑性は高い。二つ目、それに屋敷があるこの場所、面白いことに、あるものがあった」

「あるもの?」

「精霊の森に龍穴がある話をしただろ。その森まで続く龍脈、丁度通り道になっている。精霊の森と逆方向のマナは問題なく通っているのにも関わらず、この街を通った先はマナはほとんどなかった」



 アッシュたちと別れて、改めて精霊の森とこの街以外の街、周辺の確認をしていた。出口に繋がる龍穴から伸びた先を調べているうちにわかったことだ。



「そして、三つ。この屋敷近辺に入ってから魔力をジワジワと抜ける感覚がある。龍脈からマナを取っている要因と同じものだろう。ま、この点はお前たちは生身の身体だから関係は無いだろうがな。人から奪うほどでは無いが、魔力を使うものは基本的に大して使い物にならないと思った方がいいだろ。いつも通りやろうとしたら倍の魔力が必要と思った方がいい」

「……やっぱそうだよね。君に言われた通り暖炉に僕の炎を灯したら数分も経たずに消えたもん。というか、君自身は大丈夫なの?」

「……別に、問題ない」

「本当に? 騎士団で聞いた時やスノーレインの時に、魔力がないと死ぬ身体って言ってたけど、本当に君は影響はないの?」

「……まぁ、あまりいいという訳では無いな」

「え、それってまずいよね。先に騎士団の方に帰る?」

「いや、仕事を放棄する気は無い。それにもしものためにもう一本、マナの水が入った瓶を持っている。応急用だが。それに抜かれている魔力はガッツリと持っていかれているわけじゃない」

「ん〜、大丈夫ならいいけど。まずかったら魔力分けるよ」

「その時は頼むかもしれん」

「うん、いいよ。任せて」



 魔法そのものの魔力も吸っている事もわかっている。前みたいにあった”魔力喰い(マジックイーター)”の時のように魔力が奪われるような自体だとかなり心配だ。


 心配をするアッシュを他所に、グレンは話を続ける。



「それで、だ。とにかく屋敷を調べたい。パッと見は普通の屋敷だとは思うがこの建物が元凶とみて間違いは無いだろう」

「話の流れ的にそうだよね。どうする? 僕的には君の身の方も心配だもん。大元そうであるマーテルを締め上げてしまった方が早いと思うんだけど」

「その意見には私も賛成……と、いつもなら言いたいのだが……」



 話を始めてから萎縮しているナギを見る。彼女は相変わらずこちらを見ない。



「ナギ、お前はどうして欲しい?」

「え、お、オレに聞くん?」

「ここはお前の家だ。私やアッシュもそうだが依頼でここに来ている。普段の依頼だったら私は効率を重視するが、今回に至ってはお前の意見を尊重したい」

「お、オレは、その、どっちでも、えぇ、よ……」



 ナギは首に着いたチョーカーに触れながらそう呟く。だが、何か言いたげな様子ではあるが、言葉が詰まっているようにも見える。



(いや、ちゃうんよ、そうやない……、言いたいんや……。そのままやと二人を危ない目に合わしてまう。けど……)



 このチョーカーのせいで言いたいことは言えんようになっている。この屋敷の秘密も目的も。言いたいこととは別の言葉で遮られてまう。きっと無理矢理言えばいいんやろうけど、うちはどうなるんやろう。死ぬんやろうか……?


 怖い。怖くて、言えへん。


 初めは気にせんかったし、別にいいとも思っとった。

 けど、今はそうやない。グレンはんもアッシュはんもうちにとってはもう大事な人たちの一人になっとる。


 そんな人たちにこうやって嘘つくのもしんどい。せっかく、グレンはんが、うちの気持ちを汲み取ってくれとるんのに……。


 結局、うちは、自分の事だけしか考えられん、サイテーな奴なんや。



 俯くナギにグレンは何かを察したのか、ボソッとつぶやく。



「……そうか、わかった」



 チラッとアッシュの方へと視線を移す。



「アッシュ、部屋を出てくれ。扉の前でいい」

「部屋の外かい? 何で?」

「……ナギと二人で話がある。お前がいると、話しづらい内容だからだ」

「え、ちょ、待っ?! は、話しづらい内容をオレが聞くん?!」

「じゃなかったらアッシュを部屋から出ていけど言わんだろ」



 部屋を出ろと言われて、出ていくのはいいが部屋には防音魔法もかけられているため部屋から出てしまえば何も聞こえなくなる。けど、何故部屋を出ていけと言うんだろうか……。


 そう思っていると、グレンは首に巻いた紅いマフラーで口元を隠しながら視線を外す。少しマフラーで隠した隙間から見えた耳が赤くなっている気がした。


 その様子のアッシュは少しニヤニヤする。



「えー、気になるなぁ」

「…………お前に聞かれたら恥ずかしいからという意味だ。察しろ、バカ」

「へぇ、ますます気になるけど、今はそんな暇は無いもんねぇ。今度、聞かせてよ」

「絶対に言わん。さっさと部屋出ろ」

「はいはーい。終わったら教えてねぇ〜」



 軽く手を振ったアッシュは部屋を出ていき、扉を閉じる。


 出ていったことを確認したグレンはため息を吐いて腰深く椅子に腰掛け、足を組む。



「ナギ」

「な、なんや?」



 改めて声をかけられてビクッとしてしまうが、彼は落ち着いた口調だった。



「お前と腹割って話したことはなかったな。初めて会った時から、ずっと」

「ま、まぁ元々オレが無理矢理あんさんについて行っとったていうのもあるけんな」

「ハッ、それもそうだったな。お前と会ったのは竜の谷だったし、間抜けにも竜に追いかけられて死にかけていたのをよく覚えている」

「あ、あれは、うっかり竜の尻尾を踏んでもうただけや!」

「普通、踏まないだろ。だから間抜けだって言ってるんだ」

「いやいや、あん時は道も暗かったんやで!」



 確かに用心すれば踏むこともなかったし、そもそも人の手が全く入っていない洞窟で足元が見えなかったらしかないと、思いたい……。


 それ以上に言い返しが見当たらないナギは悔しそうに拳を作り震わせる。



「ついて行くと言われた時は、お前は余程の物好きで命知らずだなと思った。正直、信用する気もなかったし、早々に逃げ出すと思っていたんだが、ここまで持つとは思わなかったぞ」

「いや、逃げたい時もあったわ。あったけど……」



 逃げるのはいつでも簡単だった。けど、オレには……。



「最初からお前は私に接触して、何かと目的があって来ていたんだろ」

「……そうや、オレはあんさんに同行してたんは、目的があってやっとったんや。やから、あんさんの名前知って、ついて行かなあかんかったんよ」

「そうだろうな。じゃなかったら私について行く、なんて自殺行為にも等しいからな」



 アビスと関わるだけでも命に関わる可能性がかなりある。それなのに関わりがあると知った上で、ついてくるなんて余程な理由がないとありえない。



「ずっとお前を信用してなかったから、お前に経緯も特に聞くこともなかったし、気にしたこともなかった」

「…………」

「けど、それを今になって少し後悔している。多少なりにお前と話すればよかったと、今更ながらに思っているぞ」

「……別に、あんさんのそれの判断は間違っとらんよ。胡散臭い奴が無理矢理ついてってのや。むしろ、興味持ったりすることもないのも当たり前やん」



 恐らく自分も同じ立場ならそうする。初めて会って、ついて行くと言って、しつこくまとわりつく。なにか裏があってもおかしくない。



 知り合って、ここ数ヶ月の間の事やけど、間近で見て思ったことは結構あったとよ。



「オレは……いや、うちはあんさんがもっと嫌な奴やったら良かったと、思うとるよ。そうやなかったら、こげな悩む事も、迷う事もあらへんかったやろうな……」

「そうか。私は割といい性格してるとよく言われるぞ。お前にも言われた事あったがな」

「そういう意地悪なとこも、うちは逆に()いとるよ。なんやかんやで面倒見もえぇところも、気にかけとってくれとるのも、知っとる。知っとるから……」



 知ってるからこそ、辛いんよ。


 ここに来る事を、もっと止めるべきやったって。


 ここに来たらアカンって。


 ここに、グレンはん(あんさん)が来る事だけは、アカンってことを。



「うちは、わかってて……っ」



 ガリッと首のチョーカーの着いたところを掻き毟る。ガリガリと掻き毟るナギの腕に誰かが触れられ、ハッと顔を上げると、いつの間にかこちらに来ていたグレンの腕だった。


 首元に手を当てて、回復魔法をかけ、傷を癒してくれた。そして、スルッとチョーカーと首の間に指を入れて軽く彼は引っ張る。



「そのチョーカーの件だが、何故、私がお前の意見を尊重して聞いたか、わかるか?」

「え、あ、いや、わからへんよ。いつもグレンはんが決めとったんに、なんでうちに意見聞いてきたん?」

「……そうだな」



 目を細めてジッと見てくるグレンの背中を月が照らされる。逆光で姿が暗く影がかかるのに、その瞳は金色に輝いているようにも見えた。


 グレンは言葉を少し迷った様子だったが、パチンッと指を鳴らすと姿が変わる。


 それは黒髪の、知らない女性の姿だった。

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