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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:ナギの家2

 少し時を戻して、アッシュが街の方で聞き込みをしていた時だった。ナギと一緒にいたからか洗脳魔法を使わなくてもコチラに警戒もせず話しかけてくれる。それに嘘をついている様子もなく、これといった情報は皆無に等しかった。



(情報が本当に無さすぎる……。それに誰に聞いても街の外、森のことに関しては領主様しか知らない、か。無関心にも程があるけど、不思議な事に精霊の森を土産にするような土産物もかは割とある。この精霊の森饅頭とか……関心ない割にはそういうの作る人、よくいるよねぇ)



 街を回れば回るほど、ため息しか出ない。地元の名産のようにあるあの精霊の森に関して知らないってことはないは違和感だと思う。特に、子供とかも面白半分で近づく可能性があるから関心がなくても行かないようにする噂話とかでもあるとは思うのに、そういったものも見受けられない。


 先程も子どもたちからも話を聞いても森に関してはあるのは知っている程度でほとんど知らなそうだった。街での決まり事なのかなんなのか、そもそも12歳になるまでは街の外に出ては行けない、という変な決まり事くらいか。



「はぁ、任せられた手前、どーしよっかなぁ……」

「そこの、騎士団のおにーさん!」

「ん?」



 悩んでいると不意に子どもが話しかけてきた。振り返ると、やけに顔が整って綺麗な中性的な少年……いや、少女? さっき聞いていた子どもたちの中にはいなかった子だな。



「なにか難しい顔をしているねぇ! お困り事かな?」

「あはは、いやいや、ちょっと精霊の森のことで調べているんだよ」

「へぇ、あの森のこと」

「うん。大人の人たちにも話を聞いているんだけどさ、君は何か知らないかい?」

「えへへ、知らなぁい!」

「そうだよねぇ……」



 元気よく答えるこの子に失礼かもだけどため息が漏れてしまう。そんな彼に子どもはニッカリと笑い、下からアッシュの顔を覗き込むように見上げる。



「ねぇねぇ、お兄さん、森のことは知らないけど、面白い話があるよ!」

「面白い話?」

「そう! ボクちゃんのね、とぉ〜っておきのお話! お兄さんはこの街の子どもは12歳まで出られないのは知っている?」

「うん、他の子からも聞いてるよ」

「わぁ! お兄さんも聞いたんだ!」

「確か、12歳までは子ども、半人前にもなってないから出られないって、ゆってたね」

「そうなんだよぉ! ひっどいよねぇ! それともうひとつ、大人と13歳になった半人前の人たちにはあるものを渡されるがあるのだよ!」

「渡されるもの?」



 話に食いついて来たのが嬉しいのか、その子は見せびらかすように首元の黒いチョーカーに指をさす。



「この黒いチョーカーを身につけなければならない。外すことも許されてないんだぁ。まぁ、外れないけど」

「……へぇ、何かあるのかい?」

「さぁ? 領主様から必ずって言われてるほどだからね。いつも渡しに来るのはお付の執事さん。13歳を迎えた子どもたちにプレゼントをしてくれるんだよ」

「なるほどね……」



 チョーカーを渡されて、しかも外すことを許されないというのはどういうことだろうか?



「ねぇ、そのチョーカー、着けたままでいいから少し見ていいかい?」

「ダメでーすぅ」

「えー、見るくらいいいじゃないか」

「大人の人たちにボクちゃんが怒られちゃうもん〜」



 クルクルと回っている子どもはイタズラっ子のようにピョンピョンッと飛びながらアッシュと距離を取る。普通なら遠慮なく魔法か何かで捕まえたいところだけど……。こんな街のど真ん中、しかもルーファスの騎士団の印である制服も着たまま。


 無理にやって彼らの評判を落とす訳にもいかない。


 ここは一旦諦めよう。



「そうかい、それは悪いことをしたね。無理には見ようとは思わないからさ」

「おぉ〜、お兄さんいい人だねぇ」

「こう見えて騎士団の人だからね。無理強いはしないよ」

「騎士団の鑑ですなぁ! そんなお兄さんに大サービス!」



 嬉しそうに今度はコチラに近寄って、まるで猿のようにアッシュの背中から肩までよじ登る。登ってくるとは思わなかったアッシュも驚いた顔をしていると、子どもは耳打ちをするように顔を近づける。



「ここの街、よく旅人が行方不明になったり、街の住人になったりしてるんだよ。不思議だよねぇ」

「……それは街がいい街だったから、じゃなくて?」

「さぁ? おじいちゃんたちが言ってたくらいだし、ボクちゃんは知らないもーん」



 クスクスと笑い、子どもは肩から飛び降りる。


 旅人が行方不明になるなんて、街の人たちは特にはゆっていなかった。子どもの話だから半信半疑ではあるけど、情報として持ってた方がいい。



「教えてくれてありがとうね。君、名前は?」

「え〜、こういうのって先に名乗るのが礼儀だって聞いたぞ〜」

「ッ! あははっ! そうだね、子どもだからって失礼だったね。僕はアッシュだよ」



 そう名乗ると、子どもは名前を聞いて満足したのか、トトトッと離れるように走った後、こちらをにっこりと笑いながら振り返る。



「お兄さんにまた会えたら名乗ってあげる! 知らない人に名乗るほど、悪い子じゃないも〜ん!」

「知らない人って言う割には色々話してくれたのにねぇ。まぁいいや、また会えたらその時は教えてよ」

「ふふふ〜、いいよぉ。じゃあお兄さんお仕事、頑張って〜、ばいばーい!」

「うん、ありがとう」



 走り去る子どもに軽く手を振って見送りながらアッシュはポケットから懐中時計を取り出す。


 もう少ししたら夕方だ。少し早いけど、あの子から聞けただけ収穫にはなるかもしれない。


 屋敷の方へと歩みを進める。


 彼が背中を向けた時、走っていた子どもが振り返り、首に付いていたチョーカーをプチッと外す。



「ふふふ、アッシュちゃんもグレンちゃんと同じで子どもに弱いなぁ〜。そこがいいんだけどぉ〜」



 クスクスと笑い、手元にあるチョーカーを口元へと運び(かじ)る。



「あれだけヒントがあれば、グレンちゃんやアッシュちゃんには簡単になっちゃうかもだけど、あの女が何を企んでいるかボクちゃんの知ったことじゃあないし、早く遊びたいボクちゃんからしたら鬱陶しいんだよねぇ。あ〜ぁ、あの子たちと早く遊びたいなぁ〜」



 ルンルンとスキップをしながらニャルラトホテプはちぎったチョーカーを捨てて、その場から消えていった。



 ◇



 時を戻して、ナギの屋敷。


 グレンはマーテルに夜、話がしたいと言われたが、時間があるため時間は少し早いが直接向かうことにした。近くにいる使用人を捕まえ、何処にいるか聞き出し、彼女の部屋へと向かう。


 扉の前まで来ると、軽くノックをする。


 ……が、返事がない。



(……? 使用人はこの部屋にいると言っていたが、いないのか?)



 返事もないのに開ける訳にも行かず、再度使用人を捕まえて他に心当たりがないか聞こうと、扉から数歩離れたところで――


 バンッ!!


 勢いよく扉が開く。飛び出すように出てきたのはナギだった。



「う、うちはもうこげなことに関わりとうない!! いい加減、堪忍してくれや!!」



 そう言い残してナギはグレンにも気付かず、そのまま逆方向へと走っていく。


 何がなんだと思っていると、今度はマーテルが部屋から歩いて出てくる。



「あら、ソワレはん、いらっしゃい。すまへんなぁ、うちの子がやかましゅうてなぁ」

「……いや、別に」

「うちの子、反抗期かなんかは知らへんけど、最近あぁなんよ。何だかんだ、やらなあかん事はしとるからあんまり()わへんけどな。あ、それよりも話しに来てくれはったんやろ? 中に入って聞かせてやぁ」



 そう言うと、マーテルは部屋の中に入るように促す。言われた通り中に入ると、資料が綺麗に整頓されたものが置かれていた。



「そこ座ってや。お茶も出すさかい」



 部屋の中央にあるテーブルを挟むように置かれた椅子の左側に向かい座る。


 彼が座ると、ニコニコと笑うマーテルは手を軽く叩くと、15か16歳ほどだろうか。ボーイがティーセット一式を持って入ってくる。ポコポコとボーイが茶の準備をしている間に、対面に座る。



「さて、ソワレはん、お昼頃も()うてた話の件なんやけんども、改めてお名前聞かせてもろうてもえぇ?」

「ソワレだ」

「ちゃうちゃう、それは騎士団での表向きの名前やろ? ちゃんとあんさんの本来の名前の方や」

「なんの話しだ?」



 コトンッとボーイが置く、ティーカップに手を伸ばして紅茶を飲む。答えないでいると、マーテルはニッコリと笑顔を向ける。



「あら、うちの口から聞きたいん? ファーゼスト・エンズ国、深淵の神子・アビスの直属配下のグレン・ヴェスぺディウスはん」

「…………」

「あぁ、別にあんさんの正体知っているからって脅したいとちゃうんよ。あのわがまま息子のナギを拾うてくれてお礼が言いたかっただけなんよ。話を聞かせて欲しい()うたんは半分は口実や。一緒におった騎士団の人があんさんのことグレンはんと知らんやったらアカンと思うたけんよ」

「それはそれは、ご親切にどうも。それで? 知ってて私と話をしたかったのか?」

「ふふふ、そうやねぇ。せっかく御足労いただいとるんや、ちゃんとお仕事のためには協力は惜しまへんよ。そのためにこうして書類も準備しとるんよ」



 目の前に綺麗に置かれた書類に手を置くと、それを押してグレンの前に差し出す。



「うちも困っとんのよ、この街の名物でもある精霊の森が枯れてまうのは。是非とも解決してくだはる?」

「……そもそも今回はそれが仕事だ。言われるまでもない」

「ふふふ、楽しみにしとるわ。あ、紅茶にミルクや砂糖は入れるん? 準備させたろうか?」

「出してもらっておいて悪いが紅茶は飲まん。書類だけいただく」



 受け取った書類をペラペラと捲り流し読みをしていると隣にマーテルが座ってきたので視線だけチラッと向けていると、腕に触れてくる。


 何がしたいのか、どうでもいいと思いが触らないで欲しい。

 鬱陶しく思いつつも無視しし続けていると、ベタベタとまだ触れようとしてくるので腕を上げて、引か剥がす。



「親しくもないのにベタベタと触るな。あと、話はこれで終わりなら私は戻るぞ」

「あらら、そらはすまへんなぁ。やっぱえぇなぁと思うてなぁ」



 席から立ち上がり、受け取った書類をアイテムボックスへとしまう。



「あと、屋敷を見て回ろうと思っている。構わないな?」

「えぇよ、えぇよ。書庫もあるさかい、自由に見たってぇな。それと食事は――」

「不要だ。外で調べ物ついでに既に食べてきている」

「そうやったんかぁ。街の方が美味しいものたくさんあるけんなぁ」



 まぁ、実際は食べていないが、ここで食う気にもなれない。アッシュやナギには悪いが断るし、必要であればコチラで準備するなりすればいい。


 ため息を吐いていると、扉の向こうでまたバタバタと音が聞こえる。勢いよく開くと、ナギだった。



「おった!!」

「うるさいぞ、ナギ」

「ママンとの話は終わったん?!」

「大した話はしてない。もう戻るつも――」

「終わったんやったら部屋戻るで!!」

「あ、おい」



 マーテルとグレンの間に入り、彼の腕を掴む。そして、そのまま引っ張って部屋から出ようとする。



「なんや、ナギ。そなバタバタとしたらあかんよ」



 母親に声をかけられてナギはビクッとする。ゆっくりと振り返り、眉間に皺を寄せる。



「ママン、悪いけどうちらは仕事があんよ。邪魔せんとってや」

「ナギ」



 ビリッと空気が張り詰める感覚が部屋に充満する。変わらずニコニコと笑顔を浮かべ、ナギの方まで歩くと、両手で頬に触れて顔を上げさせる。



「うち、だなんて、まるで女ん子みたいな言い方したらアカンって、()うたやろ?」

「ッ! ち、ちゃうよ。い、言い間違え――」

「ナギ」

「痛っ!!」



 ナギの頬に爪を立てて、力を入れる。痛いと言うの娘にお構い無しに力を入れて頬に傷を入れていこうとする。



「おい」



 グイッとマーテルの手を掴み、ナギから引き離す。そのままナギを自分の方へと引き寄せて前に出る。



「親子喧嘩するなら後にしてくれ。仕事がまだ終わってないんだぞ」

「……ふふふ、それはそうやなぁ、すまへんなぁ、グレンはん」



 相変わらずヘラヘラと笑うマーテルだが、目が笑ってない。引き離されたナギに視線を移す。



「まぁえぇわ。せやせや、遠いところからグレンはんたちは来てくれはったやろ。せっかくや、来とった人も一緒に風呂にでも浸かってゆっくりしたらえぇよ」

「ふ、風呂っ?!」

(なん)驚いとるとよ、ナギ。三人とも()()()なんやけん、一緒に入ってきぃや。かなり大きなお風呂やから10人でもようさん入れるけん、温泉気分で疲れを癒してぇや。あとでセバスに着替えとか持たせるけんな。三人が入ったら片付けるよう伝えるさかい」

「ちょ、まっ、待ってや! ママン!」



 ナギの呼び止めに無視してマーテルは部屋を出ていってしまった。プルプルと顔を真っ赤にしてナギはグレンの方を見る。



「……なんだ?」

「ふ、風呂、どないする……?」

「いや、普通にお前一人で入れ。私やアッシュと一緒に入る必要はないだろ」

「そ、そうよな……」



 ホッとした様子を浮かべて胸を撫で下ろす。


 ため息を吐いてグレン自身もナギを置いて先に部屋の扉へと向かう。置いていかれそうになったナギは慌てて彼の後ろを追いかけて部屋を出ていった。


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