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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:依頼3

 か細く誰かの声が聞こえた。

 街へと向かおうとしたアッシュの足が止まる。



「……ねぇ、今、誰かの声、聞こえなかった?」

「ん? そうか? オレは聞こえんやったけどな」

「いや、確かに聞こえた。私たちの者じゃない声だったな」

「え、な、なんやなんや? オバケでもいるんゆーことか?」

「……アッシュ、ナギ、少し離れていろ」

「えっ? なんで?」

「魔力を放出するからだ。危険だから離れろ」



 言われた通り、アッシュとナギはその場から少し離れる。一定の距離になったのを確認し、パチンッと指を鳴らす。グレンが持つ魔力が放出され、辺りに広がった。


 波紋のように広がった魔力に反応するように、魔力に触れたソレはグレンの目の前に姿を現した。


 手のひらに乗るくらいの小さな精霊。その精霊と目が合うと、視線があったことに驚いたのかビクッとする。



「今の声、お前か?」

『え? み、みえる……?』

「見えてる。見えるように魔力を出したからな」

『……いや、普通、見えるように、ならないからね……』

「それで、何の用だ? 精霊が人前に自体、今は危険が伴うんじゃないか? 特に、こうもマナが少ないところでは姿を保つこともできてなかっただろ」



 精霊はマナ、もしくは魔力がないと生けていけない。ここまで森が死にかけてしまえば精霊はその前にこの場を離れる。なのに、この精霊は何故、こんな所にいるのだろうか。


 さっさと逃げればいいのにと思っていると、目の前の精霊は大粒の涙を流し、木に縋る。



『この木はわたしたちの母であり、故郷。そう簡単に、捨てられないの……。わたしたちは、返して欲しい、返して欲しいだけ……!』

「返す?」



 返す、というのはどういうことだろうか。……いや、こういう状況だ。恐らく、マナのことだろうとは思う。



『人間たちは、いつもそう……! わたしたちの居場所を奪うの……!!』

「……精霊も大概やらかすことが多いから私からするとどっちもどっちだがな」

『ふぇっ?! そ、そんなことないよ……!』



 実際、マナの多いところで人が体調崩す場合、精霊がイタズラをしている時の方が被害が大きい。自衛のためなのか、それとも単にからかってるのか、正直、そのイタズラもマナを使ってのイタズラだから私には効かないし無関係だ。



「……ま、ここのマナを返してもらう、というのは賛成する。取り返したらここに持ってきてやるから今は小瓶一つ程度しか持ち合わせてないが、それでもう少し我慢してくれ」

『とりかえして、くれるの?』

「元々そのつもりでの仕事だからな。ネコババする気もないし、ちゃんと返してやるから、安心しろ」

『……ッ!』



 グレンの言葉に精霊は目を輝かせる。すると、木の上まで飛んで行ったかと思えば、何かを持ってコチラにと再び戻ってくる。

 重そうに抱えているのは透明なガラスの玉のようなもの。それをパタパタと小さな翼を羽ばたかせながら降りてくるが、なんだか落としそうな雰囲気だ。


 自分と同じくらいの目線まで降りてきたので、手を出すとその上にポテッと着地する。



『ふぇ〜……、重かったぁ……』

「何を持ってきたんだ?」

『マナを入れるためのほうぎょく』

「宝玉?」

『このりゅうけつのマナは本当はものすんっごくいっぱいなの……。もし見つけて、持ってきてくれるなら、これに入れてほしいの……』

「ふぅん」



 受け取ったガラス玉……もとい、宝玉を見ると、カラカラと音が鳴る。子どものおもちゃのような感じがするが、妙な魔力も感じる。特殊な玉、と言うのは間違いなさそうだ。



「なら、これにいれて持って帰ってこよう。それまでは、大人しくしていろ」

『うん……!』



 頷く精霊は姿が粒子に変わり消える。やはり数分の顕現も難しかったのかもしれない。

 受け取った宝玉をアイテムボックスへしまい、離れていたアッシュたちと合流する。



「終わったぞ」

「どうだった?」

「やはり精霊だった。マナが薄くなっているのにも関わらず、どうもここにを気に入って居座っているようだ」

「……へぇ、珍しいね。精霊ってこういう状態になった森とか離れてくのに」

「まぁ、単に住処がこの近くに無い可能性もある。だが、早めに返してやらないと精霊ごと森も死ぬ。森がまだ生きてたのは精霊が居たから、というのもあるからな」

「そっか。猶予はどのくらい?」

「持って2日だろ。私が持ってる小瓶もあと一つしか残ってない。これ以上の延命は難しい」



 もっと早めに来れば他にも対処の仕様があったがかなり深刻な状態だ。


 グレンとアッシュは街に向かいながらどうするかと話をしていると後ろを歩いているナギは俯いている。



「……な、なぁ、お二人とも」

「なんだ?」

「今回は調査だけやろ? 深刻さもわかっただけでも十分やん。街には行かへんで、ルーファスはんに報告したらそれでえぇと思わんか? 元々騎士団の依頼なんやけん」

「……お前の言うことには一理ある。だが、さっきも言った通り、龍穴がまだかろうじて生きているうちに解決しなければいけない。神子の命にも関わる」

「そ、そうかもやけど……」

「乗り気じゃないならお前は帰っていいんだぞ。それに、返して欲しいって事はまだ龍穴にあったマナはあるはずだ。流れを止められているのか、それとも龍脈の何処かで奪われている可能性が高いからな。原因を潰してしまえば、他にも対処のしようがあるはずだ」



 とにかく情報が欲しい。その原因を突き止めるにも、今は情報が少なすぎる。街に行けば何かと情報が落ちている可能性も無くはない。



「……すまへん……。けど、あまり街にはおらん方がえぇと思うけん、さ」

「そんなに変な街なのか?」

「そ、そういうわけやないけど、その、なんというか、こう、気難しい街やから……」

「え、君、さっき街の人はいい人たちって言ってなかった?」

「うぐ……っ」



 苦虫を噛み潰したような顔をするナギに首を傾げる。


 何をどうして街に行きたくないなら、騎士団で留守番しておけばいいのに……、と思うが、それでもついてくるようだ。



 ◇



 精霊の森を出た後、そこから一番近い街へと向かった。


 街に到着すると、何の変哲もなく他の街と変わりない様子だった。森の方とは違い、噴水や街路樹も枯れてない。


 街に入る前にまるで身を隠すように、布で頭を隠している何処からどう見ても怪しさが満点なナギがそこにいた。



「おい、ナギ」

「しーっ!! オレの名前出さんといてや!」

「名前出さなくても、どう見ても怪しいよ、君」

「おっ! ナギ坊ちゃん! お戻りになられたんですな!」

「ナギ坊ちゃん?」



 近くにいた街の人がナギに気がついた。嬉しそうに近づく中年くらいの男性は前まで来ると、頭を軽く下げて持っていた野菜を手渡す。



「いやはや、本当にお戻りになられて良かった! 領主様……ナギ坊ちゃんの母上が心配されていましたよ」

「あ、あぁ〜……、そ、そうやなぁ、あんがとうなぁ」

「おーい! ナギ坊ちゃんがお戻りになられたぞぉー!」

「だああああ! よ、呼ばんでえぇよ! 恥ずいけん!!」



 慌てるナギとは裏腹に街の人たちがナギを囲い、かなり歓迎されている様子だ。少し離れたところでグレンとアッシュは遠目でその様子を見ていた。



「アイツ、人気だな」

「あはは、親が領主って言ってたもんねぇ」

「そうだな。……お前から見て街の方はどう思う?」

「普通の街。精霊の森の様子とは真逆な印象かな。平和そのものって感じ」

「私も同じ感想だ。だから、違和感がある」



 近くの森があんな状態なのに全くここは影響がないなんておかしい。何かと影響が出ていてもおかしくないのに、この問題もない平和なことが違和感だ。



「……アッシュ、街の情報収集を後で任せていいか」

「いいよ。そういうのは得意だから」

「手荒な真似だけはするなよ」

「しないしない。僕をなんだと思うのさ」

「お前なら洗脳魔法を使いかねないだろ」

「あはは、時と場合による」

「時と場合によってはやはり使うんだな」

「え、君もするでしょ」

「……否定はしない」



 彼の答えにアッシュはクスクスと笑う。”そうだよねぇ”、と言うと彼は人に囲まれたナギの方へとツカツカと歩き、襟首を掴む。



「おい、いつまでも遊んでないで行くぞ」

「遊んどらんわ!」



 叫ぶナギは囲われていた街の人に軽く断りを入れてようやく二人でこちらへと戻ってくる。

 人混みに疲れたのか、ふぅとため息を吐くナギは連れ出してくれたグレンへと視線を向ける。



「あんがとぉな、グレ……じゃなかった、ソワレはん」



 この街に入る前に彼の名前を呼ばないようにと念押をしている。服装は騎士団のソレだが名前でバレるのも避けたい。呼ぶ際はルーファスに伝えた偽名で呼べとのことだ。


 言い直してはいるが他に周りが聞いてないかアッシュは視線で確認するが、誰も聞いていなさそうだ。



「気をつけろよ。何処で誰が聞いているかわかったものじゃないからな」

「き、気ぃつけるわ……、すまへん……」

「それにしても、街の人に人気者だったね」

「んまぁ、外に出らん親に代わってオレはよく街の方おっとったからな。オレがいない間は……、まぁアイツらが色々とやっとってくれとるとは思うけんど……。あ、いや、やらんなぁ……」



 途中からブツブツと独り言のように言う彼女だが、首を軽く振って”いや、なんも無いわ”、と話をやめる。



「んで、ソワレはん、この後どうすんのや?」

「街に来たからには、領主に会うべきだろう。ルーファスが連絡をとってくれているそうだからな」

「やっぱ、ママンに会うんかぁ……、めっちゃ嫌やわ……」

「あれ、君は君のお母さんが嫌いなの?」

「嫌い、というか、なんというか……、まぁ、会ったら何となくわかるで」



 ゲンナリとした顔をしたナギはトボトボと足を進める。足取りは重そうだが、チラッとこちらを振り返る。



「なぁ、グレンはん」

「その名前で今呼ぶな。で、なんだ?」

「…………いや、やっぱえぇわ……、すまへん。あ、そうや、領主の屋敷の場所はオレが知っとるし、案内したるけん、ついてきぃや」

「ん、任せる」

「へーい、こっちやで」



 軽く手を振って、彼女は歩き出す。その後ろをアッシュとグレンはついて行く。

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