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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:依頼2

 そして、現地に着いてからは早かった。



「あんさんら、ホンマ、こういう時は子どもっぽいわなぁ」

「何がだ?」

「いや、普通、この手の依頼ってほぼパーティ組んでやるもんやろ。ソロで討伐とかどんだけや」



 苦笑いしているナギは完了済みの依頼書を手に持っていた。これらは全部、この二人が完了させたものだ。


 アッシュとグレンはそれぞれ半分ずつ依頼書を手に取り、どちらが先に依頼を終えるか勝負することになった。一緒にやるよりも別々で動いてやる方が早いだろう、ということもあったからだ。


 それに魔力強化したおかげか、身体の重みがなく、動きやすい。



「魔力強化しておいて良かったよ。いつもより身体が動くや」

「お前、一般のやつよりも魔力量は多いが、守護者としては少ない方だからな。無意識に身体強化されるから魔力量が変わるだけでもだいぶ変わるからな」

「魔力強化かぁ、エドワードたちにもした方がいいかな?」

「覚醒した後にしてやれ。やるならリリィくらいだろ。覚醒する前にしても意味が無いからな」

「そうだね」



 アッシュは自分の手を見て、グッと力をいれて拳を作る。


 あとは極力怪我をしないようにすれば一旦はいいだろう。アレの件はすぐ……という訳では無い。それに、彼女たちの旅が終わった後、また考えればいいし、旅の途中でそうなるなら……。それはそれで仕方ないと割り切るしかない。



「にしても、えーと、26件の討伐はこれで終わりやとして、次は本題の調査のヤツと――」

「周辺の貴重薬草の採取と行方不明者の捜索だな。この書かれている薬草自体はわかりやすい場所に生えていることが多い。私もよく見かけるからな」

「見かけるって……何処で?」

「マナ溜りがある場所だ。この薬草はマナが多ければ多いほど多く生えている。ただ、マナ自体は過剰が多すぎると人体に悪影響を及ぼすから取りに行ける人は少ないんだろうな」

「あー、前にスノーレインのあった感じのところか」



 以前スノーレインに行った時にあった魔力の溜まり場、生命の源と言えるマナが多く発生するところ。マナは魔力よりも濃密なもののため、人体に悪影響を与えてしまうということもあり、人は近寄れない。まぁ、他にも原因はあるが、人の手が加わらず、貴重な薬草だったり、たまに生物……精霊の森と呼ばれる通り、精霊と呼ばれるものもそこに集まる。


 たまに奴隷を使って精霊やその貴重な薬草等を採取しようとする輩もいるらしいが、精霊が原因で基本的には簡単には出来ない。



「とはいえ、この辺りでマナ溜りがあるとは聞いていない。が、こういう依頼があるということはあるんだろうな」

「んー、ナギはそういう所あるって聞いたことないのかい?」

「オレはあんま興味はなかったけんど、精霊の森って言われてるほどやからあるんやないかな」

「私もこちらに来ることがないからな……。ただ、龍脈があるのは間違いないな」



 ソッと地面に触れるようにグレンは屈む。

 魔力を通してそれがあることは確認できてはいるが、龍脈が近くにあるにもかかわらず、マナ濃度が薄いのは気がかりだ。


 まぁ、これを調べるのが今回の本題でもある。



「さて、無駄話はこれくらいでいいだろ。討伐の方はあらかた終わっている。一度、森の方へ行くぞ。流れ的には龍穴がある場所が恐らくその森の中心部だろ」

「リュウケツ?」

「龍脈の終着点、マナが溢れている場所だ。マナ溜りもそこにあるはずだ。薬草もそこで見つけられるだろ」



 グレンを先頭に森へと進む。地図を見て、方向を見失わないよう目印になるようなものを確認していき、深部へと向かう。


 マナが濃ゆい場所になる時は、念の為、一旦、アッシュとナギには待っておくように伝えてはいる。


 森を歩いている間、隣を歩くナギにトントンッとアッシュは肩を軽く叩く。



「なんや?」

「ねぇ、君の故郷はさ、森の近くなんだっけ?」

「そうやなぁ、森の近くにある小さな街や」

「その街で君は育ったんだ」

「せやなぁ、街の人はえぇ人やし、オレの親は領主やからなぁ。クークラの王様にもろうた領でずーっとオレらの親が頑張っとったみたいやからな」

「え、ナギって領主の子だったんだ。ちょっと意外」

「意外ってなんや。まぁ、領主って言ってもさっきもゆーた通り小さな街や。ほぼ街の人らも親戚みたいなもんな感じの街やで。なんの名産もない。あってもだーれも立ち入れん精霊の森が近くにあるだけや」

「ふぅん。それなら帰れないのっていうのは生活が嫌になった……とか?」

「……そういうわけやない。街の人らはえぇ人らや」

「じゃあ家の問題?」

「別にえぇやん。家出や家出。そないムズい話やないし、オレ個人の問題や」



 だとしても家が嫌だからってグレンについて行こうと思ったのはなかなかないとは思う。元々ナギは家に帰れないからグレンについて行くことになった、とはアリスたちから聞いてはいる。


 それに、彼は悪い意味で有名だ。グレンの名前を聞いてわざわざついてくのも今考えると余程の物好きな気もする。



「個人の問題でグレンについて行こうと思ったのもだいぶぶっ飛んでるね、君」

「帰れんのにブラブラとするわけにゃあ行かんやろ。働き口も欲しかったんよ」

「だったら冒険者でもいいと思うけど」

「ようゆうやん、後ろ盾あるとえぇこともあるんやで。グレンはん、おっそろしい程に怖い話はぎょうさんあるやん。アビスはんもそうやけど」



 と言う割にはグレンを理由に何かしらやってる素振りもないんだよなぁ。


 後ろでそう話していると、グレンが気になったのかコチラをチラッと向く。何かと思ったらハッと鼻で笑うような顔をしてきた。



「傍から見れば金魚のフン程度だろ、お前」

「はぁ〜んっ?! なんやとぉー! オレもそこそこ役に立っとるやろうが!!」

「囮にも使えんだろ」

「射撃は一流やぞ!」

「一流どころか二流止まりだろうが」

「むっかぁ〜!! グレンはん!! ハルの時のうちの射撃能力見とらんの?! 7kmの射撃を!!!!」

「さぁ、見てないな」

「うがあああああっ!!!! いンまに見とれや!! うちの射撃でいつかあんさんをギャフンと言わしたるからなぁ!!」

「ぎゃふん。ほら、お望み通り言ってやったぞ」

「そうやないわ!!!!」


(なんだかんだで仲良いなぁ、二人とも)



 巻舌でギャーギャー言うナギはいつものように騒ぐ。からかっているグレンもクスクスと笑い、馬鹿にしているようではあるが、ちゃんと見てくれているからこそ、まだ一緒に行動してくれている。一時期はグレンに血が上って目の前から消えろ、と言われたらしいけど、今は大丈夫そうだ。


 仲良くしてる二人にちょっとやきもちをやいてしまいしそう。


 賑やかなまま、三人は森を進む。

 そこから10分ほど歩いた頃くらいだろうか。森の様子が急に変わる。


 木は枯れ果てており、地面に生える草すらも茶色く、枯れていた。川が流れていたであろう川沿いだったところも水がほとんど流れていなかった。


 見たことの無い森の様子にアッシュはポツリと言葉を落とす。



「まるで、森が死んでいるみたいだね」

「……そうだな。ナギ、この辺りは昔からそうなのか?」



 元々地元民のナギにそう言うと、頷く。



「せやな。だいぶ昔からや」

「ふむ、そうか……」



 木に手を当てて、マナを探るが龍脈の近くだと言うのにかろうじてしか感じ取れない。……この様子だと、龍穴もマナがない状態の可能性が高い。



「とにかく、龍穴の方まで進んでみるぞ。あと、お前の居たという街にも足を運ぶぞ」

「うげぇ……、寄るん?」

「当たり前だ。領主がいるならここの状態も知っているはずだ。いつ、どのタイミングからこういう現象が起こったか知る必要がある。そうじゃないと解決にもならんからな」

「じゃあもっと奥へ行こうか。マナがないなら僕らも先にそのまま進んでも問題ないよね?」

「そうだな。害が出るほどマナがある訳じゃない。が、先頭は念の為私が進む。止まれと言ったらちゃんと待つんだぞ」

「わかってるわかってる」



 そんな子どもに念押するような言い方をしなくても、と思ったが口に出さなかった。


 さらに奥へと進む。進む。進んだ。


 そして、大きな巨木のある広い空間へと出てきた。



「ここが龍穴のあるはずの場所だな」

「……なんというか、ここもこの木以外何も無いね」



 花も緑も何も無い。灰色で塗り潰されたように広がる光景だった。唯一空を見上げれば蒼があるくらいだろう。


 アッシュが辺りをキョロキョロと見渡している間に、グレンは巨木の前まで歩むと、その木に手を当て、スススッと根元まで手を滑らせる。何かを探しているようだが、すぐ動きは止まる。



「……これだな」

「何が?」

「本来、ここにマナが溜まっていた場所だ」



 ガサガサと灰色になった落ち葉を退かすと、根元には窪みのようなものがあった。



「前にお前も見たことがあっただろ」

「……あぁ、あれか」



 前にスノーレインで見た時に、グレンが木の根元で見つけた、夜空を刳り貫いたように淡く輝いた水溜まりがあったのを思い出す。かなり綺麗だったが、今あるその根元は何も無い。空っぽだ。



「これを見る限り、全くと言うほど、この地にはマナが枯渇している。森を枯らすほどのことは余程のことがなければこうはならない。しかも龍穴のマナはかなりの量のマナがあってもおかしくは無いはずだ」

「無い方がおかしいってことかぁ」

「そういうことだ」



 ゴソゴソとグレンはアイテムボックスから何か小瓶のようなものを二つ取り出す。それをコポコポと中身を根元の窪みに注ぐ。注がれた窪みは小瓶の中に入っていたマナの水が吸い込まれるように吸収されていく。


 吸収されたマナによってなのか、少しばかりの緑が戻ってきた。



「一旦はこれで森が完全に死ぬことは無いだろう。気休め程度だが、それまでに解決すれば問題ない」

「森、死んじゃうとまずいの?」

「森と言うよりも、龍穴が完全に枯渇する方がまずいな。他のマナ溜りにも影響が出るはもちろんなのだが、一番影響が出るのは世界樹の方だ」

「え、世界樹の方なの?」

「そうだ。そもそも龍脈はマナの道。それ(すなわ)ち、世界樹の根っこのようなものだ。根っこが腐ると木はどうなる?」

「まぁ、木にも影響が出るよね」

「世界樹に影響が出るということは、女神にも何かと起こる可能性がある。女神に何かあれば、アリスたち神子にも影響が出る可能性があるからな」

「結構やばいね」

「やばい以前の問題だ」



 ため息を吐いてその場から立ち上がる。


 それに、マナ溜りが無くなると私自身も少し困る。魔力が補給出来なくなるし、それこそ死活問題になりうる。



「はぁ、こういう問題になるのに、放置していると聞いて驚いたが、引き受けて良かったと思っている」

「放置したらやばいってのが露見すると余計にねぇ」

「あぁ。一先ず、コイツのいた街に向かうぞ。情報が足りなさすぎる。ここまで悪化しているなら様子見という悠長なことは言ってられんからな」

「おっけー、じゃあすぐ向か――」



 すぐ向かおう、そう言って動き出そうとした瞬間のことだった。



『…………けて……』



 か細く、誰かの声が聞こえた。

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