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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:魔力強化3

 中庭につくと、あたりに子どもたちが走り回っていた。その邪魔にならない程度の場所に行くと、ユエはニッコリと笑いながら、アティの方を見る。



「では、まずは簡単な神聖魔法からやりましょう」

「は、はい!」

「神聖魔法自体がくっそ難しいのに、簡単もクソもねぇだろ」

「大丈夫ですよ。私たち神子は神託により、普段ある魔法と同じように行使することが出来ますから。それに、この方法は姉さん直伝です」

「神子は、だろうがよ。アティは神子じゃねぇだろ」

「ふふふ、それはどうでしょう」



 意味ありげに嬉しそうに笑うが、あまりピンッときてないアティは首を傾げる。



「さて、では、よく見ててください」



 そう言って、ユエはポォッと指先から淡い光の玉のようなものを顕現させる。温かく、柔らかな光は触れると疲れが取れるような感じがして気持ちがいい。



「これはケアルと同じ、”癒しの光(ヒールライト)”です。回復魔法の神聖魔法バージョン、と言った所でしょうか。普通の回復魔法とは違って回復力も格段に上がりますし、光が届くのであれば周りの傷も癒し、浄化ができます。これをまずはやってみましょう」

「かしこまりました!」


(コイツ、サラッと無詠唱で神聖魔法使いやがった……)



 キラキラとした目で返事をしたアティは見よう見真似で魔力を込める。

 ただ、見よう見真似ではただの光魔法になってしまう。ムムムッと眉間に皺を寄せて、難しい顔をする少女にユエが手を添える。



「最初は私がサポートを致しましょう。同じように魔力を込めて見てください」

「はい!」



 魔法をサポートするとはいえ、神聖魔法は普通の魔法と違い、魔力の流れも構築の仕方も違う。それこそ神子でなければ不可能に近い。



(何考えてやってんだか……)


「おい、ユーリ」

「どわあっっ?!?!」



 急に声をかけられ、挙句、肩に手を置かれて思わず、叫ぶ。ドッドッドッと心臓がうるさいくらい鳴っている。声の主の方を見ると、グレンが立っていた。


 いつもコイツは気配も無く立って声をかけてくるから本当に腹が立つ。



「おま……気配を消して声かけんなよ」

「む、別に脅かすつもりでやった訳じゃないんだがな。それより、アティとユエは何をしている?」

「神聖魔法の練習」

「ん? アティはもう神聖文字を理解したのか?」

「いいや、してない。けど、試しにやろうって話をしてたんだよ。んで、サポートありで今、神聖魔法を行使しようとしてるところだ」

「……神聖文字を覚えてないのに出来るものなのか? 私も一度、マリアに試しにやってもらったことがあるが、出来なかったが」

「それが普通なんだよ」



 呆れたようにユーリはドサッとその場の草が茂ったところに腰をかける。立ったまま二人の様子をユーリと共にグレンは見守っていると、ユエはこちらに気付いたのか笑顔をこちらに向ける。



 ……さすがは姉弟ということもあって、主様(マスター)の面影がある。



 思わず、フードを被って視線を逸らそうとしていると――



 カッッッッ!!!!



 大きな光が瞬く。

 強烈な強い光に一瞬目の前が真っ白になった。驚いているのはユーリやグレンだけでは無い。光を放った本人であるアティも目をチカチカさせて、驚いていた。


 光はユエがアティの手ごと包み、光を抑えていく。すると、徐々に収まり、明るい光の玉程度まで小さくなっていった。



「あわわ……?!」

「ふふふ、かなり素質が良いのですね。あのレベルの大きな光は早々出るものではありません」

「こ、これ、だ、大丈夫なのですかね?」

「心配はいりません。この光は先程も言った通り、癒しの光です。眩しかったとはいえ、目には支障もありませんし、むしろあれだけの光があればこの騎士団全体に浄化が行き渡ったのではないでしょうか」

「は、はえぇ……」



 スポッと光を手の中に収めると、魔法は解除された。



「どうです? 初めての神聖魔法は?」

「…………」

「アティさん?」

「……です……」

「?」



 ユエはボソッと呟いた彼女に耳を傾ける。すると、勢いよくユエの方を振り返ると、キラキラとさせたオッドアイを彼に向けると嬉しそうに手を握る。



「すっごいです!! なんでしょうか、あれ! こう、なんて言ったらいいでしょうか?! 先程の神聖魔法を使ってからすごいポカポカする感じがします!! 同じ魔法使いたいなぁと思ったら自然と神聖文字が浮かび上がってきて、さっきまで読めなかった文字だったのに、理解できちゃってます!!」

「ふふふ、そうでしょう、そうでしょう」

「興味深いな。私にも聞かせてくれないか?」

「あっ! おじ様!」



 こちらに気づいたアティが駆け寄る。さっきの光は驚いたが、怪我や浄化を促す”癒しの光(ヒールライト)”だ。だが、私は詠唱と術式がなければ無詠唱では発動はできない。それなのに、サポートがあるとはいえ、まさか無詠唱で行使するとは思わなかった。



「それで? さっきのはユエがやったのか?」

「いいえ、私ではありません。アティさんが行使したものです。私はあくまでもサポートでしました。けど、次からはあの魔法は私の補助がなくても使えるはずです」

「え、本当ですか?」

「えぇ、できますよ。やってみてください」



 そう言われてアティは手のひらを前に出してムムムッと顔をさせる。ポンッという音を立てて、手のひらに乗るくらいの光の玉が現れた。


 それは先程とは威力は違うが、間違いなく、”癒しの光(ヒールライト)”だ。


 無詠唱で出来た神聖魔法にアティはパァッと明るくなり、グレンに自慢するように見せる。



「おじ様! 出来ました!」

「……あぁ、本当だな。驚いた」

「えへへ〜!」



 頭を撫でられるアティは照れくさそうにしながらも、再度ユエの方を向いて、頭を下げる。



「教えて下さり、ありがとうございます!」

「いえいえ、素質があったのですから」

「……つーかよ、お前、知ってて教えたような感じだったろ。なんかあんの?」

「ん〜、そうですねぇ」



 ユエはアティの頭に手を置く。なんだろうかと思っていると、彼はグレンとユーリの方を見る。



「この子、神子の資格があります」

「「えっ」」



 二人が唖然とした顔をしていると、ポォッとユエの手が光る。すると、アティの背中にバサッと、見た事のある翼が、現れた。



「え、え……? えぇっ?!」



 翼が現れたアティも驚く。


 背中の翼に触れると感触がある。バサバサと動く翼にアティは戸惑っていたがユエは続ける。



「今じゃ珍しいタイプの子です。神子として記憶を継承している子じゃない女神様に選ばれた子ですね」

「選ばれたって……、アティがか?」

「えぇ、そうですよ、グレンさん。アティさんは女神様に、神様に選ばれた子です。ただ、まだ覚醒される前ですのでこうして神聖魔法が扱いが上手な子、という程度です。いわゆる神子の卵、という方が分かりやすいですね」

「……ユエ」

「あ、はい?」

「それ、アッシュには、黙っていてくれるか?」

「……もちろんです。それに、アティさんはまだ()()()ではありませんから」



 目を瞑って笑顔のまま、アティから手を放すと翼も消える。消えたことで本当に無くなっているのか確認するように背中を確認するが全くない。


 何だったのだろうとユエの方を見たが、グレンの方が何か参っているような顔になっていた。



「神子って、アレですよね? アリスさんと同じですか?」

「えぇ、アリスさんと同じですよ」

「じゃあ! じゃあ! いつかお父さんのお役に立てますか?!」

「ふふふ、そうですねぇ。あなた次第ですよ」



 えへへ、と笑うアティは今度はグレンに向けて笑顔を向ける。



「おじ様! 神聖魔法、ユエさんに教わってもいいですか?」

「え、あ、あぁ、ユエが構わないなら」

「私はいいですよ」

「やったあぁぁぁぁっ!!」



 ぴょんぴょんとジャンプして喜ぶアティはハッとしてグレンの方を向くと、振り向いたアティは走ってグレンに抱きつく。

 抱き締めた後、少女はしゃがんでほしそうに、グレンの赤いマフラーを引っ張る。



「お父さんには、内緒、なんですよね? 私もまだお父さんたちと旅をしたいので、神子になる気はまだないです。もし、必要になるなら、私も頑張りますから。そんな悲しそうな顔しなくていいんですよ」

「……お前は子どものくせに変に気を使わなくていいんだぞ」

「うぅん、気なんか使ってないですよ。むしろ! お父さんに神聖魔法使えることで驚かせれますからね!」

「……ははは、お前は前向きだな」

「お母様譲りなもので!」



 笑顔を向ける少女の頭を撫でる。



 あぁ、きっと、私が気にするだけ、無駄なのかもしれない。前にもあったが、私がこういうことするのは、どうなんだろうか。私は、主様(マスター)がいなかったら、アッシュとも繋がりなんてものは……。



 三人のやり取りをユーリは頭をかいてため息を吐く。



「……はぁ、じゃあ、アティの件は秘密ってことでいいのか?」

「…………アティの判断に任せる」

「いいのかよ、保護者」

「私は、保護者じゃない」

「アイツらの保護者みてぇなもんだろーよ」

「……アティ、ユエに神聖魔法習ってこい。三日間しかないから、お前が満足いくまで習うといい」

「はい!」



 バタバタと走ってユエの方へと走って聞きに行く。二人は傍から見ると本当に今日から先生と生徒のようには思えないほど輝いていて、仲良く見える。


 神聖魔法の扱いに慣れている神子に任せるのが一番いい。私よりもいいだろう。



「おや、今度はユーリと仲良くなってらっしゃるんですか?」

「あぁっ?! ルーファス! やっと帰ってきたのかよ!!」

「魔力譲渡が終わったので顔出しに来たんですよ」

「あぁ、終わったのか。すまんな、ルーファス」

「いえ。あっ、そうだ、アッシュ君は今、私の部屋で寝てもらってます」

「おいおいおい、書類どーすんだよ。放置か?」

「何言ってるんですか。ユーリのことですからもう終わったでしょ?」

「いや、終わってるけどよ」



 あの量を終わったのかとグレンは思ったが、まぁいいかという表情をしていると、ルーファスはニッコリと笑う。



「後でアッシュ君のお迎え、お願いしますね。グレン君」

「一時間か二時間したら迎えに行く」

「そうしてあげてください」

「んじゃあその間に俺らの方の仕事しよーぜ。アイツ寝てんなら俺も渡すのもできねぇだろ」

「それもそうですね。迎えに行く際は呼びますのでグレン君もそれまではゆっくりしててくださいね」

「……あぁ、そうする」

「つーか、お前は国に帰らねぇの? あのイカレアビスに呼ばれたりしねぇの?」

「しばらくは暇になる。帰らなくても支障はない」

「ふーん」



 何かを探りを入れようとしているようだが、確信に触れようとしない程度の探り。聞いてきたら答えようと思ったが、その辺はユーリの悪い癖だ。


 ため息を吐いて、アッシュを起こしに行くまで時間を潰すことにした。

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