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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:魔力強化2

 

 廊下に出て、ルーファスの部屋へと向かう。空いている部屋でも良かったが、内容が内容だからと、防音魔法のある彼の部屋へと向かう。


 その道中、後ろを歩くアッシュの方を彼はチラッと視線を向ける。



「そうそう、グレン君からあなたを怪我の治療のため騎士団で預かることになってる件、アリス君に今日はかなり詰められましたよ」

「アリスに?」

「えぇ。何せ、手伝うと言っただけですし、ほぼ黙って連れて行っているようなものですから。……アリス君たちには今回のことお話はされるのですか?」

「うぅん、話さない。アティにも言ったんだけど、今回のことはここだけの秘密にして欲しいかな。怪我して眠ってたなんて、きっとアリスたちは心配しちゃうからさ」

「…………知らぬが仏、ともいいますが、言わぬ事は聞こえぬという言葉もあります。黙って口を閉ざしていると、悪意があると誤解される事もありますよ」

「僕がそれで悪者になるだけならいいんだよ」

「はぁ、あなたは本当に困った子ですね。それではシエル君も浮かばれないのではないですか?」

「っ!」



 ”シエル”という名前にピクッとアッシュは反応し、立ち止まる。


 彼に最初に会った時にそんな話をする素振りもなかったから、口に出された名前に驚愕する。



「なんで、君が主様(マスター)のことを?」

「シエル君には何度か会ったことがあります。こう見えて私は神さまですからね。それに、あなたにも実はお会いしたことがありましたが、どうやら覚えてなかったようなので敢えて初対面のフリをしておりました」

「……まぁ、僕は前世の事、覚えてなかったけど、君と会ったことあったんだ。ごめんね、覚えてなくて」

「いいんですよ。……ただ、グレン君は予想外でしたけどね。前世と姿がまるで違いましたからグレン君のことに関しては、実はシエル君の弟君であるユエ君もここに来てからわかったんですけどね」

「ユエ?」

「おや、ユエ君と接点はありませんでしたか? ヴィンセント君も言ってましたが、グレン君もあなたも、ユエ君に会ったことなかったんですね」

「……そうだね、弟がいることは聞いてたけど、会ったことはなかったかな」



 昔、弟かいることは聞いたことがあった。けど、どんな人だったか聞けてない。主様(マスター)であるシエルはあまり自分のことを話すような人ではなかったから。だから、名前を聞いても、あまりピンッと来なかった。



「まだ三日もありますし、滞在してますので、お時間ある時にお会いしてあげてください。きっと喜びますよ。姉弟揃って神子の旅をしてる人ですから、先輩としてアドバイスしてあげてください」

「……僕なんかより、グレンの方が余程(よほど)いい先輩だと思うけどね」

「ふふふ、私からしたらお二人ともどっこいどっこいなので、大丈夫ですよ。良くも悪くもあなたとグレン君は似てます。……それに――」



 前を歩いていたルーファスは足を止める。振り返った顔は、まるで親が子に向けるような表情だった。



「今のアッシュ君とアティ君の良い道標を示してくれますよ」

「んー、まぁ、暇があったらね」

「えぇ、三日もあるんですし、お会いできます」



 そう言ってルーファスは自室の扉を開ける。


 中に入ると以前、立ち入った時と同じ……、いや前よりも書類等が散乱していた。



「散らかってますが、ベッドの方へ腰掛けてください。私は椅子を持ってきますので」

「はーい」



 唯一片付いているベッドにボスンッと腰をかける。柔らかい布団の肌触りを確かめるように手を滑らせていると、アッシュの前に椅子を持ってきたルーファスはそれに腰をかける。



「では、魔力の譲渡を致しますので、リラックスして手を出してください」

「ん、よろしくお願いするよ」



 ニッコリと笑いながらアッシュは左手を軽く前に出し、出された手をルーファスは両手で優しく触れる。


 だが、いつまで経っても魔力が渡されなくて、首を傾げる。



「ルーファス?」

「魔力譲渡なのですが、少しコツがあるんですよ。渡す方も受け取る方もですけどね」

「え、そうなのかい?」

「えぇ、魔力譲渡は自分の手から魔力回路へと受け渡す。その際にどうしても受け取り側は違う魔力を自分の許容範囲以上を受け取るので魔力酔いを起こしてしまいます。ですが……」



 トンッと押され、ベッドに横になってしまう。不思議と抵抗感もなく倒れたが、別に怖さも何も無い。



「アッシュ君、魔力を受け取る時に合わせて深呼吸してみてください。きっとユーリやアティ君から受け取る時よりも受け取りやすいですよ」

「呼吸……」

「目を瞑って、ゆっくり、と……」



 言われた通り目を瞑り、呼吸に集中する。


 すると、深呼吸に合わせてくれているのかゆっくりと魔力の水に浸かるような感覚が身体に浸透していく。



(あったかい……)


「どうです? 吐き気とか、来ないでしょう?」

「うん、全然来ない。……こういうの知ってたの?」



 そう聞かれたルーファスの魔力が止まる。


 少し黙っている彼の方へチラッと視線を移すと、優しそうな笑みを浮かべている。笑みを浮かべていたが、何処か悲しそうな表情をしている様子だった。



「まぁ、こう見えて昔からいる、半端者の神様、ですからね。こうして、神子たちのサポートに何百年、何千年も徹していましたから」

「そんだけずーっとやってるなら知ってて納得。てか、もっと早めに聞きたかったよ」

「……そう、ですね。すいません、忘れてました」



 トントンッと子どもを寝かしつけるように胸元を叩く。


 なんだろうか、ルーファスの表情なんてあまりよく見た事ないけど、他の人で見た事のある表情。あれは、なんだっけ……? 何処かで、見た覚えが……。


 あぁ、ダメだ。眠たい……。



「さて、アッシュ君」

「……ん?」

「魔力譲渡の方は終わりましが、あなたは少しゆっくりお休み下さいな」

「え、でも、ユーリたちが、代わりに書いてくれてるやつは……?」

「ハハッ いいんですよ。ユーリはいつも頑張ってくれてますし、今回も頑張ってくれます。それに私の方で書類を書き終えるまでの間だけです。病み上がりですから、身体の負担はまだありますでしょう」

「……じゃあ、ちょっとだけ」



 もう一度、目を瞑って眠る。


 その時に眠りの魔法をかけてくれているのだろうか。抵抗もなく、意識が、沈む。



「……あなたもですよ、ディルック君。あなたの、目的があるんですから」


(ディルック……? あれ、なんか、最近、聞いた……よう、な……)



 微かに残った意識の中、呟きが聞こえた気がした。



 ◇



 お父さんがルーファスさんに連れていかれてしまい、ユーリさんが書いてる内容を少し横目に見てもいまいちよく分からない。専門用語とか色々あるのかな?


 ただ、それよりも私は私のやることをしなくては。


 おじ様から貸してもらった神聖文字の書物。これを読み取らないといけない。



(たまにおじ様が書いてる神聖魔法を行使されてる時に、術式書いてたのはこれだったんですね……)


「おい、アティ」

「あ、はい、なんでしょうか? ユーリさん」

「ソレ、わかんの?」



 神聖文字の書いた書物を指をさす。



「まだ全然です。読めないところもありますし……。ユーリさんは読めるんですか?」

「俺は簡単なものしか読めねぇよ。つーか、グレンも今いねぇし、ルーファスはアッシュ連れて行っちまったし、勉強しずれぇだろ」

「あ〜……、まぁ、そうですねぇ……」



 ユーリさんの言う通り、分からないところを聞けないから正直、勉強はしずらい。すぐ戻るとはおじ様は言ってたけど……、どうしよう。



 悩んでいると、ユーリは周りをキョロキョロと見渡す。そして、誰かを見つけたのか、手を振りながら声をかける。



「おーい、ユエー! ちょっと来いよぉー!」

「ユエ、さん?」



 彼の視線の先を見ると、白い髪に毛先が灰色っぽい髪の男性……かな? 綺麗な人が笑顔でこちらに駆け寄ってくる。



「ユーリさん、どうされましたか?」



 曹灰長石(そうかしちょうせき)色の瞳がまるでキラキラとした朝明けのように光っているように見えた。


 優しく微笑むユエに思わず、思ったことが零れる。



「わぁ……綺麗ですね……」

「おや、ありがとうございます。可愛らしいお嬢さん」



 視線がアティの方を向くとドキッした少女は慌てて本の影に隠れるように顔を隠す。その仕草が可愛らしいのか、ユエはクスクスと笑う。


 笑う彼にユーリはアティが持つ別の神聖文字の書いた本を手に取り、ソレを彼に手渡す。



「なぁ、ユエ、お前、神聖文字読めんだろ?」

「えぇ、読めますよ」

「んじゃあ、コイツに教えてくんね? 俺じゃあわかんねぇし、後ちょっとでコレ終わるし、仕事の方の書類に手ェつけてぇんだわ。ルーファス(アイツ)が居ない間溜まってたやつ、まとめて確認してもらうためにまとめなきゃいけねぇんだわ」


(あれ、終わらないって言ってた気がするんですが……、もう終わったんですか?)


「構いませんよ。……えーと、お名前を聞かせて貰っても?」

「ふぇっ?! は、はい! アティ・アウロラフラムと言います!」

「アティさん、ですね、元気があって――、おや?」



 本で顔隠していたがチラッと目元だけを見えるようにこちらを見上げる少女の”色”が見える。



「……アティさん、もしよろしければ術式からしてみませんか?」

「えっ?!」

「おいおいおいおい、神聖文字を理解してねぇのに術式は厳しくねぇか?」

「そ、そうですよ! わ、私、まだコレ読み始めたばかりで全然文字読めないですし……!」



 まず読み書きが出来るようにともおじ様から言われていた。理解してないと術式は発動すら出来ないのに、いきなり術式からなんて……。


 アティは戸惑っているが、それでもユエは微笑みながらポンポンと少女の頭を撫でる。



「問題はございません。あなたには、資格がありますから」

「しか、く……?」



 資格がある。


 この言葉は確か、ディルックさんも言っていた。何の資格なのだろうかと思ったけど、ここでもそれが出てくるのはどういう事なのだろうか。



「えっと、その、何の資格、ですかね?」

「そうですねぇ、まぁ実際にやった方が分かりやすいです。それに資格がなければ、その地道に神聖文字を覚える方法でしか術式は使えません。ですが、資格があるのであれば、一度殻を破ってしまえば、術式から応えてくれます。ものは試しにやってみませんか?」

「は、はい!」

「では、中庭へ向かいましょう。そこなら魔力の暴発があっても大丈夫でしょうから」

「っておいおいおい、暴発前提かよ?! って……もう行っちまってるし……」



 驚く彼に気づいてないのか、アティはユエの後ろについて行く。それを後ろからみていたユーリも気になったのか、いくつか書類を持って二人の後について行き、中庭へと向かった。

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