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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十三章 枯渇事件

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枯渇事件:魔力強化1

 数日、時を戻して、ファーゼスト・エンズ国。世界の最果て。国の最も大きな建物、城と呼ばれる建物の中にある研究所へとグレンは足を運んでいた。



(マリアにアッシュのことを任せているが、まだ予断は許さない状態だ。さっさと報告して戻るか)



 ノックをして扉を開ける。依頼主であるミゴはカチャカチャと器具の音を立てながら、何かを解剖している。露骨に嫌そうな顔をしてグレンは近寄り、手に入れた書類を血がついていなさそうなところにソレを置く。



「おぉ、遅かったでのぉ」

「……貴様からの頼まれたモノは持ってきた。施設も破壊済みだ」

「ほぉほぉ、お使いは無事に完了したのかぁ。……それでぇ?」

「なんだ?」

「とっても、()()()()()()が、なかったかのぉ?」



 ピクッとグレンの眉間が動く。


 ペトスマスクをしていてもわかるほど、卑しく下劣に嗤っていることがわかる。



(アッシュのことだな……)


「のぉのぉ〜? どうかのぉ?」

「……さぁ、知らんな」

「ゲッゲッゲッ まぁ、あなた様がそういうなら、よかろぉよかろぉ。……そうかぁ、知らぬかぁ、それはそれはぁ、残念だのぉ」



 ブツブツと呟きながら解剖を続ける。



「そうかぁ、そうかぁ、見とらんかぁ……。いやぁ、残念だのぉ。きっとあなた様にとはぁ、とってもぉ、とぉってもぉ、いいものぉ、だったがのぉ……ゲッゲッゲッ」



 薄気味悪い。だが、ここで、もしアイツのことで何か反応すれば、アビスの時と同様でコイツはろくな事がない。



 イラつきながらも、出口の方へと身体を向ける。



「用が済んだのなら私は出るぞ」

「ゲッゲッゲッ そうじゃのぉ。今はコレに忙しくてのぉ、また遊んでやるからのぉ」



 不気味に嗤うミゴに嫌悪感を抱きながら部屋を後にする。



 廊下に出て、ため息を吐いて痛む頭に手を当てる。



(……あぁ、しまった。知らないフリよりも、会った話をして毒のこと聞けばよかったか……? いや、リスクだな……。血は採っているし、時間があれば毒の解析もできるだろうし……)



 ブツブツと呟きながら、廊下を歩いているグレンの後ろから、タイミングを見計らったように、タタタッと誰かが走ってくる。その気配を感じ取り、サッと横に避けるが、避けられたその人は綺麗に着地をしたかと思うと、猫のように再びグレンの方へと飛びつく。



「グレンちゃーん!」

「鬱陶しい! 会う度に飛びつくな!!」



 飛びついてきたのは容姿は中性的な少年。彼はニヤニヤと笑うと、ヨジヨジと器用に彼の肩までよじ登ると、肩車のような状態になり、グレンの頭を撫でる。



「えぇ〜、いいじゃないかぁ。ボクちゃんのような美少年に抱きつかれたら昇天しちゃうって人多いのにぃ〜」

「やかましい。ニャルラトホテプ、さっさと離れろ」

「嫌だなぁ、ニャルって呼びたまえよぉ。ボクちゃんと君との仲じゃないかぁ」

「仲良くなった覚えもないんだが……」



 面倒くさそうにするが、この自称美少年のコイツは子どものような容姿をしたニャルラトホテプという。だが、実際はかなり歳が上で、エルフじゃないかと思っているが、見た目は完全にヒューマン。ただ、この国にいる中でまだマシなやつ、という認識程度だ。


 というのも、ここかなり居る私だがあまり会ったことがない。


 それなのにこの馴れ馴れしさはなんだろうか。



「まぁまぁいいではないかぁ。それよりも、グレンちゃん」

「その呼び方やめろ」

「辛辣だなぁ、で、だ、グレンちゃん」


(コイツ、修正する気ないな……)


「実は、アビス様が黎眠期(れいみんき)に入ったんだ。2、3ヶ月は暇になっちゃうんだよなぁ」

「ん? もうそんな時期か」



 黎眠期(れいみんき)はアビスが数年に一度、黒い瘴気を周りに撒き散らしながら眠りにつく。その間は、誰も近寄れない。不浄の者であるダーティネスと同じ魔力の瘴気をずっと放っているからだ。私でも近寄るとかなり危険だ。


 その間は、私の方も任務をミゴたちが持ってこない限り無くなる。……ただ、黎眠期(れいみんき)の後、私は呼び出されて、しばらく動けないから困る。



(とはいえ、非番になるのは今だったら都合がいいな。アッシュのことも気になっていたし……)


「ってことでぇ〜、ボクちゃんと遊ばない〜?」

「断る。先約があるからな」

「お、ナギちゃんとおデート?」

「違う」



 いつまでも肩に乗っているニャルの両脇を掴み、降ろす。つまらなそうな顔をして口を尖らせてニャルはブーブーと文句を言いたげな顔をする。



「ひっどいなぁ、ボクちゃんがせっかく教えてあげたのに」

「……はぁ、また今度な。悪いが、私も忙しいんだ」

「お、また今度なら遊んでくれるのかぁ?」

「あぁ」

「そうか! なら楽しみに待っているぞぉ」



 ルンルンとした様子で、手を振っているニャルは転移魔法でグレンの姿が見えなくなるまで手を振っていた。


 姿が見えなくなると、クスクスとまた笑い、クルッと身体を返す。



「約束だよ。アビスちゃんが寝ているうちに、君ともアッシュちゃんとも、い〜っぱい、遊びたいことあるんだからねぇ」



 嬉しそうに笑う少年はそのまま闇に溶け込むように消えていく。



 ◇ ◇ ◇



 ところ戻って現在、アッシュは魔力強化のため、目覚めて早々に魔力強化をすることになった。とはいっても受け取るだけのことだから吐き気以外は特に苦という訳では無い。


 苦じゃないが……。



(思ったよりも前よりキッツぅ……)



 ルーファスが戻る前にユーリとアティから魔力譲渡をしてもらった。ただ、二人も、魔力量がえげつない。二人の量を自分に換算すると本来の自分が持てる総量の5倍違う。そのくらい取り込んでも自身の魔力限界値が越えられるのは200から300程しか増えない。


 例えるなら新品の風船に空気を限界まで入れる時は最初キツイだろうけど、二回目からはスムーズに入れられる。魔力回路は膨張すると、先程の例えた風船と同じで容量が増えて新品のものになるから、とにかく入れるのが重要だ。


 が、風船と違って無限に膨らむわけじゃない魔力回路は過剰というなの、魔力酔いを引き起こす。


 この魔力酔いは本当に耐え難い。



「お父さん、大丈夫?」

「あはは、大丈夫大丈夫……」



 顔を真っ青にしながら書き物をしているアッシュの身を案じてくれる。笑顔を貼り付けたまま、真っ青な顔のままだから心配してしまっているのだろう。


 ちなみに書いているものは守護者についてのことでもある。アリスたちには守護者のことで手伝いをしていると言っているらしいので、もし、追求されてもいいように、自分がわかる範囲のことを記してはいる。

 本来は、エドワードと同じようにその家系のところに遺すのが普通なのだが、アウロラフラム家はほぼないと言ってもいいほど。遺す場所も記せる場所もない。


 ということで騎士団にかなり厳重な管理の元、遺しておくようにとグレンからも言われてしまった。



(僕もそうだけど、自分は遺さないのかな……。というか、どこまで書いていいのやら……)



 ため息を吐きたい気分だが、息以外にも出てきそうなので堪える。胃の中を全て出してしまいそうだ。


 ……とりあえずアリスたちにも共有しているところまで一旦、書こうと筆を進めていると、少し前のグレンのように疲れ果てた顔をしたルーファスが書斎へと戻ってきた。



「おかえり、ルーファス」

「えぇ、ただいま……。無事に目が覚めたとナギ君に聞きましたが、お身体は大丈夫ですか?」

「うん、みんなのおかげでね。心配かけてごめんよ」

「構いませんよ。それに、あなたには借りもありましたから」

「借り? 僕、君にそんな借りなんて作ったかな?」

「おや、覚えておりませんか? 初めてこちらを訪れた時に子どもたちや私を助けて頂いたではありませんか」

「…………あ〜、あの時か。あれはアリスに頼まれたからしただけだよ」

「ふふ、それでもですよ」



 クスクスと笑うルーファスにアッシュはなんとも言えないような顔をして視線を逸らす。実際、アリスたちに言われなければ助けに行く気もなかった。だからお礼を言われる筋合いも資格もない。


 顔を逸らした父とお構い無しに笑顔で好意を伝えるルーファス、二人の顔をチラチラと視線で交互に見た後、アティは椅子から降りて、ルーファスに頭を下げる。



「ルーファスさん、お父さんを助けてくださってありがとうございます!」

「いえいえ、あなたのお父上からは命を助けられてますから、これくらいは当然です。ね? ユーリ」

「帰ってきてんならさっさと書類仕事やれよ!!」



 バンッとペンを握る手ごとユーリは机を叩く。覚えている範囲とはいえ遺す内容も多かった。アッシュの書いてくれている守護者の事、そして神子の事。膨大な量に一人では処理しきれないため、それの処理に魔力の譲渡後にユーリは付き合わされていた。



「たださえ、魔力渡して頭痛ぇのに……!!」



 ユーリが痛む頭を抑えて嘆いているのは魔力不足の症状のことだ。ただ、この症状は人によって違う。気だるさだったり、頭痛だったり、異常な眠気だったりと様々だ。


 彼の場合は頭痛。アティも魔力不足になっているが、眠気くらいでそんなには辛くないそうだ。



「あはは、なんだかんだで手伝ってくれてありがとうね」

「お前の頼みじゃなかったらやんねぇよ。前に借り返すっつってるし、こんくらいじゃあ返しきれねぇけどな」

「へぇ、てことはまだ頼んでいいのかい?」

「いいけど、なんだよその顔! 俺が返し切れる範囲にしろよ!」

「もちろん、君が死なない程度の内容にもちろんするさ」

「死なない程度にやべぇ頼みされるの? さっきの借りの件なしにすんぞ!!」



 頭痛い割には言い返せているし、元気なんだなぁと思う。


 二人のやり取りの区切りを見計らいながらルーファスはクスクスと笑いながらアッシュに声をかける。



「いつの間に私の知らないところで仲良くなってますね」

「そうでしょ〜」

「これの何処が仲がいいっつーんだよ」

「ふふふ、そんな仲のいいお二人の間に入って悪いですが、グレン君から聞きました。魔力強化しないといけないんですよね?」

「そうだね。魔力上限あげるってだけだけど、ルーファスは大丈夫かい?」

「えぇ、お力になれるのであれば。それに少しお話したいこともありますから、ユーリ、少しこの場を任せますよ」

「ちょっ?! この量一人でんすのかよ?! 職務もあんだけど!」

「わ、私もお手伝いしますよ! ユーリさん!」



 アティの言葉に文句を言いたげな顔をしたが、乱暴に椅子に座り直して、再び書類を睨み、ブツブツと文句を言いながらも作業を続ける。やる時はやる男なので振られた仕事はやり遂げてくれる。それを知っているルーファスは軽く”すいませんね”と言い、アッシュを連れ出した。

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