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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:隠し事2

 コンコンッと軽く音が鳴る。


 扉が開かれると、疲れた様子のグレンが中に入ってきた。



「おい、マリア、アッシュの様子はどうだ?」

『ッ! グレン様、お帰りなさいませ。アッシュ様であれば目を覚まされております』

「覚ましたのか?」



 疲れた様子なのは変わらないが驚いたような声で顔を上げる。


 息を飲んだような顔をしていた。目を見開いてアッシュの姿を瞳に写す。彼はアッシュの元まで瞬きをする間に駆け寄る。本当に目を覚ましたのかと顔に触れて、グラグラと顔を右、左と確認する。



「グレン? 僕の顔に何かあるかな?」

「…………、身体に異常はないか?」

「お腹が少し痛くて、ちょっと身体が重いくらいかな。マリアがいるってことは、君が助けてくれたのかな、ありがとう」

「礼を言われる程の事じゃない。……それよりも、お前、ミゴに会っただろ」

「あはは、まぁ、そうだね」



 誤魔化したところで、ミゴの名前が出たということは大方(おおかた)予想が着いているのかもしれない。なら、普通に答えた方がいい。


 あっさりと認める彼に聞いておいてなんだけども、グレンはため息を吐く。



「はぁ、アティはお前と落ちたとしか言わないし、魔力の残滓は奴のものだった。何があったんだ?」

「んー、実はあまり覚えてないんだよね。アティを助けたまでは覚えてるんだけど、崖に落ちてからは全くってほど」

「…………そうか、すまないな」

「どうして君が謝るの?」

「いや、予測が出来ることだったはずだ。今回、私はミゴの依頼であの場所へ来ていた。アイツの性格を考えれば来ることを、私が……」

「いいんだよ、大丈夫」



 俯くグレンにヘラッと笑う。痛むであろう身体だが、上半身を起こして、彼の方を向く。



「君が気にすることはないよ、こうしてまた助けてもらっちゃったんだし、ありがとう。それよりも、アリスたちは? 僕、どれくらい気を失ってたかわかんないけど……」

「無事だ。一応、アイツらにはお前にルーファスたちの手伝いで来てもらっていることにしてる。大怪我してしまった、というのもお前が嫌がると思ってな」

「さすがは相棒、よくわかってるねぇ」

「るっさい、そこで褒められても嬉しいくはない。ちなみに寝ていたのは10日だ」

「うっわぁ、それは寝すぎだぁ」



 変わらずヘラヘラと笑うアッシュに後ろに控えていたマリアはなんとも言えないような顔をしている。暗い顔をしていたグレンにわざと話を逸らしている気がしていた。


 (あるじ)であるグレンにボソリと呟くように声をかける。



『グレン様、申し訳ございません。私はこれにて戻らせていただきます……』



 この場にいるのが、今はもう辛かった。レイチェル様の事やグレン様は大切な(あるじ)様。その(あるじ)様がたが大切に思っていらっしゃる方のことで嘘をつかなければならないということが、辛かった。



「……そうか。すまなかったな。10日も喚びっぱなしなってしまって。ゆっくり休め」

『いえ……、それでは……』



 頭を下げて姿が光の粒子状になって消えていく。


 還っていくマリアが落ち込んでいる様子に気づいたが、今はアッシュの状態が心配だった。後でどう思ったのか聞こう。


 消えたのを確認した後、改めて魔力循環でアッシュの体調を確認する。


 痛みはあると言っていたが最初の時よりも安定している。魔力も、安定している。減少している様子もない。


 魔力循環を使っている最中、クスクスとアッシュが笑う。何がおかしいのかと疑問な顔をして、彼の顔を見る。



「何だ?」

「うぅん、僕は本当に人に恵まれているなぁて、思ってさ」

「……だったらお前は他の人に心配をかけないようにしろ」

「うん」



 そう返事をするが、マリアの言葉が頭に過ぎる。


 ”守護者は、どんな怪我でも治ります。致命傷や死にかけてしまったとしても、傷は癒えて、治ります! ですが、それは、ご自身の寿命を削ってです!! あなた様は、あなた様は――!!”


 その言葉の後に続く自分の寿命、残された自分の命の時間。君に今、伝えた方がいいんだろうけど、伝えたら、きっと君は責任を感じてしまう。


 ただ、僕自身も、気にしてない訳じゃない。



(寿命、か……。旅が終わるまで持ったとして、アティのことが、正直、心配だな)


「ふむ、あとはお前の体力と……その痛みは多分毒の後遺症だな。ミゴの扱う毒、あれからいくつか作られているのは知っていたんだが、私には知らないものだったから完全に解毒はもう少し待ってくれ」

「知らないものをある程度解毒出来てるのは普通にすごいよ」

「……あえて、ミゴの奴に煽ってお前に使われた毒を受けに行くのもアリなんだがな」

「いや、やめてよ?!」



 彼なら本当にやりかねない。というか、やりそう。


 アッシュは苦笑いしていたが、グレンは割と本気で考えている顔にコレは絶対に止めないと、と内心思っていると、コンコンッとまたノック音が鳴る。


 返事を待たず、ゆっくりと扉をソッと開いてコチラの様子を伺うように覗き込む子ども、アティの姿があった。


 恐る恐る覗き込んでいたが、父であるアッシュが起きている姿を見て、暗かった顔がパァッと明るくなる。



「お父さん!」

「やぁ、おはよう、アティ――ッ?!」



 ニコッと笑いながら挨拶をしている最中に勢いよく、少女は飛びつく。思ったよりも強い衝撃に笑顔のままではあるが少し真っ青になってしまう。



(い、痛い……)


「あ、ご、ごめんね、お父さん」

「だ、大丈夫大丈夫。それよりも君は怪我はないようだね。良かった」

「……うぅん、私こそごめんなさい。お父さんって気づかなくて、その……」

「ほら、まぁ、今度は知らない人について行っちゃダメだよ? 知らない人なら、シバけそうならシバいて逃げれそうならそうしなよ」

「おい、父親、知らない人について行かないのはわかるがお前の姿だから仕方ないとして、シバくのは勧めるな、バカ」



 ケタケタと笑うアッシュに冗談混じりにそう言うと、グジグジと涙をアティは拭い、バッと顔を上げる。



「へへっ、じゃあもしお父さんでもシバいたらいいね?」

「僕、君にシバかれるの? それは勘弁だなぁ」

「冗談。……本当に良かったよ、グレンおじ様、ありがとうございます」

「私は治療しかしてない、お前の魔力の譲渡やルーファスたちのおかげだろ。その礼はルーファスに言ってやれ、きっと喜ぶぞ」

「あー……、確かに喜びそうだけどね」



 あの子ども好きの神様の事だ。子どもであるアティに言われたら確かに喜びそうではある。


 けどなんでだろうが、娘の身の危険性を何故か感じてしまうのは……。



「ま、まぁ、後でお礼を伝えよっか、グレンも本当にありがとう」

「気にするな。それとアティ」

「あ、はい!」

「聞きそびれていたんだが、でぃるっく、というのは誰のことだ?」

「え」



 グレンに聞かれたアティは一瞬固まってしまう。


 早く助けを呼ばないといけないと焦ってたとはいえ、ディルックからは自分のことを明かさないようにと言われていた。なのに、父の姿で話していたから二人……と言った方がいいのか、助けないといけないと必死すぎてその事が抜けてしまっていた。


 嘘を言うべきか誤魔化すか、内心汗が滲む気持ちに変わる。



「え、えーと、どの方の事ですかねぇ……?」

「ん? 違うのか? アッシュ(コイツ)ともう一人その名前を言っていた気がしたんだが……」


(おじ様、記憶力ぅぅッ!!)



 なんで覚えているのかとアティは顔を(すぼ)める。


 あんなバタバタになった中でも覚えているなんて、むしろすごいけど、覚えて欲しくなかったぁ……。いや、でも、勘違いと思ってくれそうな雰囲気な気がする!!



「おい、アティ? すごい顔してるが大丈夫か?」

「だ、大丈夫です!! えっと、あの時、焦っててあんまり覚えてなくて……!」

「ん、そうか……。まぁ、覚えてないならいい、すまんな」


(こ、これは誤魔化せたのかな?)



 そうホッとしていたが、グレンは口元に手を当てる。



(……どうも誤魔化されたな。まぁ、後々調べてみよう。ミゴに口止めされているか、何か別にあるだろうし、今は問い詰めはしない方がいいか)



 勘づかれている事には気付いてないようだからしばらくは誤魔化されたフリをしておこう。親に似て隠し事が多いようだが、今のところ危険はないとは思う。


 それよりも……。



「さて、アッシュ」

「ん?」



 娘の頭を撫でているアッシュの方を改めてグレンは向く。


 腕を前に組み、ニッコリと何故か微笑んだ。



「本当はお前が目覚めたらアリスたちの所へ戻すつもりだったんだが、あと三日はここにいろ」

「三日? なんでだい?」

「お前の魔力強化する」

「え」



 なんで魔力強化なんだろうと、驚いていると。ビシッと指をすぐ目の前に指される。



「今回、一番危うかったのは魔力不足による自己治癒。前にも言ったが守護者は怪我は治るが魔力と自身の生命力を消費して回復するが、魔力不足だと生命力の方に負荷がかかる。必然的に寿命を縮めることとなるだろ」

「ま、まぁ、そう、だね……」



 ニコニコ笑って話をしてくれているグレンの顔がだんだんと怖い顔に変わっていく。口元は笑っているが、目が笑ってない……。


 指を三本立てる。



「よって、この三日間でお前の今ある魔力を二倍まで引き上げる。病み上がりで悪いが、時間が無い。さっさとやるぞ」

「え、い、今から?!」

「今からだ。安心しろ、私がミッチリ三日間、付き添ってやる。ルーファスやユーリにも手伝ってもらうから、滞りなく出来れば2倍、上手く行けば3倍まで魔力量を増やせるだろ」

「…………あれ、結構苦手なんだよなぁ」



 ため息を吐いて、ベッドからゆっくりと出てくる。魔力強化に関しては覚醒していれば割と増やすのはキツイのはキツイが難しくは無い。やり方はシンプルに、他から過剰に魔力を受け取るだけ。ただ、このやり方は吐き気等の身体的に負担が大きいため、本当にコレはしんどいから好んではしない守護者が多い。



「あ、あの、私も魔力強化とか、できますか?」

「アティは時間をかけてする方法がある。レイチェルに似て元々の魔力量も多いからな」

「なるほど……。あ、それか神聖魔法を教えて頂けますか?」

「神聖魔法か? 構わないが、三日で取得は難しいとは思うが、いいのか?」

「はい」



 ディルックさんの話的に恐らく神聖魔法を覚えられるような言い方をしていた。片鱗だけでも分かれば、きっとお父さんたちの役に立てるはず。



「それじゃあ、まぁ、やろうか」

「ん。では、私はルーファスを連れてくる。ナギに連れてこさせるから少し待ってろ」



 そう言って手を耳に当てる。


「”通知(メッセージ)”。……おい、ナギ、ルーファスを連れてこい。……あぁ、あぁ、そうだ。……あ? アリスといるのか? …………、わかった、その後でいい」



 一人言のようにそう言ってピッと魔法を解除した。


 何の魔法だろうと驚いた顔をしていると、察したのか、”あぁ”と一言漏らす。



「コレは音を伝達する風魔法だ。離れたところでも話が出来る魔法が出来ないかと思って作ってみた。認識している人物なら話が出来る。ただ、ナギは覚えれてないから私しか今のところ使えてないがな」

「へぇ、ついでにそれ教えてよ」

「あぁ、いいぞ」



 目を覚まして早々、大変そうだけども、正直、魔力の方はどうにかしようとは思ってはいた。エドワードとかは魔力量はあるけど、彼以外はそこまで魔力がないし、覚醒出来てから一緒にやろうと思っていた。


 グレンから提案されたのは驚いたけど、自分の残りの時間を考えるとそうも言ってられない。


 お言葉に甘えて、魔力強化に力を入れよう。

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