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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:隠し事1

 表向きでは、ルーファスの後片付けの手伝いを頼んでいる、ということにしている。


 きっと、アッシュの事だ。この重傷になったことは知られたくないと判断したからだ。


 だが、グレンたちの治療で容体が安定したアッシュを騎士団で預かって10日目のこと。さすがにいつまでも帰ってこない彼についてアリスからルーファスは呼び出されてしまった。



「ねぇ、アッシュ、まだ帰ってこないの?」

「えぇ、すいません……。もう少しお借りさせて頂きたくて……」



 神子(アリス君)に嘘をつくのは申し訳ない。けど、グレン君からは頼むと言われるし、どうしよう……。


 そう困った様子でいると、アリスは少しムスッとした顔をして、ルーファスに顔を近づけて行く。女性に触れられない彼は後退りをしながら避けようとしたが、後ろには壁があり、逃げられないよう、両腕で壁に手を当てる。



「いきなりアッシュを借りたいってなんも言わずに連れていくのはやめてよ。それにアティちゃんもいないみたいだし、何のために二人をそっちに連れていったのよ?」

「え、えっと……あの、アッシュ君は守護者関連の事でお願いしないといけないことがあったのです……。それに、アティ君はあくまでもアッシュ君のご令嬢です。保護者から離すのは可哀想、ですから……」

「ふぅん……」



 それでも疑うような目をしてアリスはルーファスの顔を睨む。睨まれた彼はタジタジになりながら視線を逸らす。


 離れて欲しいというのと、怖い気持ち、戸惑いが見え隠れしているが、喋る様子がない。



(絶対に別の理由がありそうなのに……。神子の心を詠む力は神様には通じない。腹立たしいわね)


「そ、それよりも、レイン君とジャンヌ君の方は、大丈夫でしたか?」



 アリスの尋問に耐えきれなくなってきたルーファスは彼女の後ろにいるエドワードに声をかける。


 無事にスラとアラネアとも従魔契約も済んだとも聞いてはいた。



「あぁ、二人の件はどうにか終わっている。ジャンヌが率いていた部隊も撤退してくれてはいる。ただ、今回の件でレインとアヴェルスの方がちょっと厄介にはなってしまっていてな。いくら子どもたちを助けるとはいえ、ずっと里の人間を生贄に出すようなマネをしてしまっていたからな」

「そうですよね……」

「表向きではレインがそれをしたという事は里の人たちには今のところ伝えてはいない。知っているのはこの里でアヴェルスだけだ。レイン曰く、里長の権限も立場もアイツに譲るつもりというのと、出て行けと言われたら出ていく、と言っていたな。その辺は今はジャンヌが話をユキも間に入ってしてくれている」



 部隊は撤退させたようだが、後処理のいざこざを見て見ぬふりができないとジャンヌはまだこの里に残っている。それにどうも彼女はユキを気に入っているのかやたらと連れ回されているようで、アリスからは名目ではお目付け役、ということで一緒にいるようにしてるらしい。



「ま、私たちには後は関係ないわ。依頼も済んだことだし後はアンタと例の件、話して将軍のところ、また戻るつもりだったのに……。アッシュ、いつ帰るか、本当にまだわかんないの?」

「ちょ、ちょっと、み、未定、でして……。と、というか、そろそろ離れてくれませんか?!」

「話したら離れるわよ」

「話してますってば!!」



 半泣き状態のルーファスにそろそろ気の毒に思ったエドワードがアリスを後ろから服を掴み、後ろに下がらせる。



「あまり、ルーファスを困らせるな。まだ帰ってこないなら、先にお前の用事を終わらせといたらいいだろ。それに、頼み事の件はグレンも一緒に行っているらしいから危険なことはないんじゃないか?」

「それって、私が意図的に危ない目に合わせる可能性があると言っているようなものなんですが……」

「しない、とは思っているが、グレンはアッシュやアティを極力危険な所には連れていかないからな」


(遠巻きにのグレン君よりは信用ないと言われている気分ですね……。まぁ、実際、神子や子どもたち以外そこまで気にした事がないといえば嘘では無いですが……)



 内心泣きそうなルーファスだが、否定もできないため黙ってしまった。


 彼の様子でこれ以上は聞けないのだろうとアリスも諦めたのか、大きくため息した後、改めてルーファスの方を見る。



「まぁ、いいわ。神子の話はしたいんだけど、正直、アッシュやアティちゃんのこと気になるから、二人の件が終わったら連絡ちょうだい。……それと、グレンはそっちにいるの?」

「……えぇ、居ますよ」



 容体は安定はしているが目を覚まさない。魔力不足が原因なのか、そうじゃないのか調べるため、まだグレン君も騎士団にいる。一番気が気じゃないのは恐らく彼だろう。



 グレンがいることがわかったアリスは他にも言いたげな顔をしたが、”もういい”、と言い残してその場を後にする。


 残ったエドワードとルーファスは互いに顔をチラッと見る。



「……ルーファス、アッシュに伝言をしてくれないか?」

「伝言、ですか?」

「”好き勝手するのはいいが、行き先も言わず行くのはやめろ。いくらお前だとしても心配はする”、ってな。実際、一人で無茶することが多いから、私たちも心配にはなる」

「……そう、ですね。お伝えしておきます」



 彼の返事を聞いて、エドワードもその場を後にする。首元からニュルリとスライム姿のスイが出てきて、何か話しをしている。


 その声は聞こえなかったが、二人に嘘をついてしまったことに目を伏せる。



(本当のことをお伝え出来ない私を、許してください。心配されているからこそ、あんな姿になっている彼の姿をお見せできないのです)



 ◇ ◇ ◇



 アッシュは、目は目を覚ます。目の前にあったのは、知らない天井。重く、痛みのある身体で、上手く起き上がれない。視線だけで見える範囲を見渡していると、ズキリッとお腹に痛みが走る。



「痛……ッ」

『ッ! アッシュ様! おはようございます!』

「? え、マリア……?」



 何故、彼女がここに居るのだろうかと疑問に思いながら身体を起こそうとするアッシュの肩に手を置き、起き上がらせるのを止める。



『あ、無理に起きないでください! 解呪が出来たとはいえ、身体には相当なダメージを負ってしまって、体力を失ってます。無理に起きますと、お身体に触ります』

「……そう、ごめんね。ありがとう」

『いえ……』

「それは、そうと、ここは何処だい?」

『ここはルーファス様のクロノス騎士団の医務室になります』

「クロノス……? えっ、クロノス?!」



 心底驚いた様子のアッシュにマリアは小さく頷く。


 雨の里からクロノスまでは相当な距離がある。気がついたらここに居たなんて、どういう事なのかと驚きながらも、最後の覚えている記憶を一つ一つと思い返す。



「……ッ!! ま、マリア! アティは?!」

『お嬢様ならご安心ください。無事でいらっしゃいます』

「そう……、良かった……」



 本当に良かった。アティを助けようとした所までは記憶に残っている。崖に落とされそうになってたから手を伸ばして、そして……あのマッドサイエンティストに腹を貫かれたんだ。


 そこから先は、全く覚えてない。


 ズキズキとまだ痛みのある腹部に触れる。血は、止まっているみたいだ。痛みはまだあれど、動けない程でも無さそうだ。


 アティの無事に安堵する彼だが、マリアは自身の服をギュッと握りしめ、ポツポツと言葉を吐き出す。



『お嬢様の事も、ご心配でしょうが、アッシュ様の方がかなり危うかったんですよ!!』

「……あはは、まぁ僕の怪我くらいどってこと――」

『大丈夫ではありませんでした!!』



 マリアは思わず大きな声で言葉を遮ってしまった。彼女はグレンの代わりに神聖魔法と回復魔法の為に喚ばれた。その時のアッシュの状態も知っており、回復中も一刻の猶予も許されなかった。


 それほどの重傷だったと、マリアは涙をこらえて説明をしてくれた。アティが助けを呼んでくれた事も、グレンが助けてくれた事も、ルーファスやユーリたちも手を尽くしてくれた事も。



『今回、お嬢様がグレン様に助けを求めたからまだ命が繋がったようなものです。少しでも遅ければ、あなた様は……ッ』

「……そっか、そうだった」



 マリアが言いたいことはわかっていた。



「君、確かレイチェルに召喚獣として仕える前は、守護者とか神子とかに仕えてたことあるんだっけ?」

『えぇ、ございます。だから、だから私は怒っているんです!!』



 生命を司る召喚獣。彼女だからこそ、わかっていることがある。



『これ以上、大怪我や命に関わる程の重傷にならないでください! ご存知ですよね?! 守護者は、どんな怪我でも治ります。致命傷や死にかけてしまったとしても、傷は癒えて、治ります! ですが、それは、ご自身の寿命を削ってです!! あなた様は、あなた様は!! このまま、こんな無茶ばっかりしていては――!!』



 マリアの言葉に、否定は出来なかった。綴られる自分の残りの寿命、自分の状態。泣きながらそう言ってくれるのは、僕のためだと言うことが、痛いほどわかるから。


 だから、僕はこれしか言えない。



「ごめんね、マリア。でも僕は、後悔は、してないよ。多分、また同じ状況でも、何度でも同じ選択を僕はする」

『……ッ』



 そう言われたら彼女が何も言えないというのもわかって言っている。


 わかっていて、僕は彼女の気持ちを蔑ろにしてしまっているというのも理解していた。



「……君に酷な事を言ってしまった手前、言いにくいんだけど、この話はグレンには秘密にしてもらえるかな?」

『……、私は、アッシュ様と契約しているわけでは、ございません。なので、もし、聞かれた場合、私は契約に基づいて、話さなければいけない可能性もあります』

「いいよ、わかってる。聞かれるまで、でいいよ」

『かしこまりました……』



 頷いてくれたマリアにニッコリと微笑む。


 話を終わった頃、コンコンッとノック音が部屋の中に響く。

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