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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:らしくない

 ディルックは辺りを確認した後、背後にあった崖に向かうと一人二人程入れるくらいの穴を空ける。適当な岩の瓦礫に腰をかけて、明るくするために炎を灯す。

 そして、来いと言わんばかりにアティに向けて手をチョイチョイと振る。



『いつまでそこに突っ立ってんの。早く入りなよ』

「は、はい!」



 呼ばれたアティは慌てて雨避けになっている穴の中へとはいる。すると、少女の額に向けてビシッとデコピンをした。



「あいたっ?!」



 痛そうにするアティを無視して、彼は足を組み、瓦礫に肘をついて”ふぅ”と息を吐く。


 アティはため息を吐いたディルックの顔を見ていると、先程の雨の中で少し薄暗いということもあったからあまり気付かなかったが炎で照らされると……。



(……? なんだか、顔色が悪い気がする)


『気がするんじゃなくて、悪いんだよ』

「ッ! さ、さっきもそうでしたが、心の中を読めるんですか?」

『読めないよ。顔に出てわかりやすいんだよ、君は』

「むむ〜……」

『それよりも、だ』



 ディルックは外を見る。


 止む気配のない雨と自分の身体に空いた傷に触れる。多少、穴は塞がっているが完治しているわけでもない。こんな傷は本来ならばそんなに気にする事はないけど……、今はそうじゃないようだ。



『君、使える魔法はなんだい?』

「えっ? 魔法ですか?」

『そう』

「え、えーと、簡単な基礎の魔法や補助魔法、回復魔法くらいです」

『……? 君、神聖魔法使えないのかい?』

「は、はい。私は使えないです」

『……ふぅん、そう。君、()()はあるようなんだけどなぁ……』

「しかく……?」



しかく……? しかくってなんだろうか。なんの事なんだろ??


首を傾げているアティに至極説明がめんどくさいと言わんばかりの顔して、”いや、分からないならいいよ”とそっぽを向く。


すんごく気になる……。



『神聖魔法が使えないか……。さて、どうしようかな……』

「えっと、何かありますか?」

『まぁ、ちょっとね』



 ディルックはお腹の傷を見せるように服を捲る。アティの回復魔法で傷の穴は塞がっているようにも見えるが、出血は止まっていない。



『僕がさっきどうしようもできないって言ったのは傷のせいで魔力を持ってかれているってのもある。このままだと僕が手を出さなくても、この身体は死ぬからね』

「えぇえっ?!」



 驚いたアティが慌てて回復魔法を使おうとしたが、それを止めるように手を掴む。



『ストップ。君の回復魔法程度じゃこの傷は治らない。無駄に魔力の消費は今はしないで』

「で、でも、回復魔法(ケアル)なら消費は少ないですし、多少であればですけど、回復の見込みは――」

『ここまで重傷だと”再生(リジェネレイト)”や神聖魔法の回復じゃないと治らない。焼け石に水程度もならないよ。目を覚ます前に君が何度もしていたようだけど、あれじゃあ魔力の無駄だ』

「そ、そんな……」



 止められたアティは暗い顔をして肩を落とす。



(せっかく二人ともあの高さから落ちたにも関わらず生きているのに、このままだと死ぬって……)


『僕も痛覚はどうにか遮断しているけど、出血はどうもね。僕自身も回復魔法は今、魔力不足で使えないし、雨のおかげで魔獣は来ないからいいが、遅かれ早かれ先に失血死は免れないだろう』

「ど、どうしたらいいですか?! た、助けを呼びに私が里まで走ります!」

アッシュ(アイツ)の記憶によれば、君、方向音痴でしょ。案内があるならまだしも、そのまま行けば二次災害で迷子になるからやめなよ。今度は魔獣のエサになるのがオチだよ』

「うぐぅ〜……」



 否定できないアティが苦虫を噛み潰したような顔をしていると、何かを思いついた顔をした。



「案内なら、呼べるかも知れません!」

『呼べる?』



 穴の入口のところまで歩くと、アティは大きく息を吸って、ピィーッと口笛を高らかに鳴らす。口笛に魔力を乗せているからか、雨の音が強いのに音は鮮明に聴こえる。


 そうして何度か吹き、少しほど待つとチリンッと鈴の音が聞こえた。


 聞き覚えのある鈴の音の方を見るとクロがそこにいた。



「クロちゃん!」

「にゃあ〜」



 穴に入るとブルブルと身体を震わせて水気を払う。駆け寄ってきたアティの肩にピョンッと飛び乗ると、ゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄ってくる。



『君の猫かい?』

「お父さんの黒猫ちゃんです! レインさんモドキの人のところに行ってもらってたんですが……、クロちゃん、近くにいてくれて良かったです!」

「にゃうにゃあ〜」



 猫の言葉は分からないけど、クロちゃんに会えて良かった。頭を撫でていると、ディルックはなにか思いついた顔をした。



『その猫、こっちに連れてきて』

「あ、はい、分かりました」



 クロを差し出すと、クロは嫌がる様子もなく大人しくディルックの足の上に座る。アティと同じようにゴロゴロと喉を鳴らし、頭を撫でてくれるディルックの手に向けて擦り寄る。



『この子に目印を届けてもらおうか』

「目印、ですか?」

『そう。目印』



 クロの首についている首輪に炎をポォッと宿す。


 何をするのかまじまじと見ていたアティの方を見た後、ディルックは再び猫の頭を撫でる。



『いいかい、クロ。アティを連れて里まで戻るんだ。里には”彼女”がいる。きっと君のその首輪に宿った炎を辿ってここへ来てくれるはずさ。それまではアティを危険から遠ざけて戻るんだよ、いいね?』

「にゃあん」

『よし、いい子だ』

「さ、里までクロちゃんと私が二人でですか?」

『そうだよ』



 唖然としているアティにクロを返すように渡す。



『その子に”彼女”がいる所まで迎えるようにした。本当は一緒に行った方がいいんだろうけど、僕は正直、歩く体力なんてものは全くない。悪いけど君とその子と一緒に里へ向かうんだ。あ、一応、ディルック()のことは内緒にしてよ。後々めんどくさいし、説明も鬱陶しいからね』

「で、でも、それだと、お父さんが……ディルックさんは、どうするんです?」

『ここで待つよ。さっきも言った通り僕は動けない。身体がもう重く感じるほどだ。歩くのは無理だと分かるし、君が担ぐのも無理な話だろ。なら、里までクロと一緒に向かって助けを呼んできてくれたらいい』

「か、担ぎます!!」

『いいから無理なものは――』

「いえ、担ぎます!!」



 食い気味にそう言って、アティはディルックの腕を掴み、引っ張ろうとする。

 驚いた顔をする彼にアティは背中に背負うように自分の方に掴んだ腕を引っ掛けるようにして、震えた声で続ける。



「置いていって、死なれたら、私は嫌です……! 少しずつでもいい、背負って崖を登らないといけないなら一緒な登ります! 一緒に、帰りましょう!! ワガママになれって言ったの、ディルックさんなんですからね!!」

『……くははっ なんだいそれは』

「笑い事じゃありません!!」



 怒りながら言う少女にディルックはケラケラと笑う。


 まぁ、確かにワガママになれと言ったのは僕だ。それを早々に使われるとは思わなかったけど。



『でもね、本当に申し訳ないけど、君が合わせて動いてくれるよりも少しでも早く里に戻って助けを呼んでくれた方が、正直、早いんだ』

「で、でも……!」

『頼むよ、アティ』



 掴まれた腕を振り払い、背中を押す。



()()を助けてくれないかい?』



 ヘラッと笑う顔が父と同じ笑顔だった。


 そんな顔をして言われたら、これ以上、何も言えない。迷っていると、アティの手からスルリとクロが降りていくと、穴の出口までトトトッと走っていく。



「にゃあおん」



 クロも早く行こうと言っているような気がした。


 座って笑っているディルックの方をもう一度見て、もし少しでも遅くなれば、死んでしまうかもしれないという不安に涙がまた溢れてしまう。



「わ、私が……」



 グスンッと鼻を啜り、涙を拭いながら彼の目をまっすぐ見つめる。



「私が、戻るまで、絶対、絶対に、死なないでください!!」

『うん、そのつもり。待ってる』



 ニコニコと笑って手を振る。


 涙がまた溢れそうになるのをグッと堪えて、クロの跡を追うように走っていく。


 バシャバシャと水飛沫を上げて走り去っていくアティとクロを見つめて、見えなくなった後、ディルックは壁に寄りかかる。



(……らしくない事をして疲れた。アッシュ(アイツ)の子どもなんて、無視すれば、いくらでも僕自身助かる方法はあったのにね)



 そもそも、この身体は炎を行使する程の魔力は残っていなかった。


 あの死にたがりの子どもを()()の為に炎を使って脅してやることも、狼の魔獣やミゴを追い払ったりするために、わざわざ僕自身の力を変換させ、炎を行使しなければ、召喚術くらい、使えたかもしれない。



『……まぁ、あの方は、子どもが好きだったから、そうしたってだけ、かも……』



 生前、あの方が子どもの為にと、色々していたのが、移っちゃったのかな。それとも、僕は、アッシュ(アイツ)レイチェル(あの女)に感化された……?


 ……ハッ それこそ無いな。


 考えていると、だんだんと眠くなってきてしまった。


 身体の芯から冷たくなる感覚。生前、味わった事のある、この感覚は……。嗚呼、これは、本格的にまずい。今、眠ると魔獣が来た時に、どうしようも無いし、眠ってしまえば、アッシュ(アイツ)も僕も、死ぬな。



『……ハハッ アティ(あの子)に、諭しておいて、何、やってんだか……』



 瞼が重くなる。目を、開けていられない。


 もし、この身体が死んだら、また僕は、次の転生された時、こうして出てこれるだろうか。あの方や”彼女”の元へ、還れるだろうか。


 迎えに行くのが、きっとまた、もっと先になっちゃうなぁ……。


 ゆっくりと目が閉じていく彼の髪は元の金色へと戻っていく。



(……あとは、お前()の運次第だ。……またね、アティ)



 浅い呼吸のまま、ディルックは目を閉じる。

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