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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:独りに……4

 蒼い炎の槍はドドドッと魔獣を全て焼き尽くす。どういうことだろかと驚いていると、声が響く。



『ちょっと、放しなよ』

「えっ?」



 声の方を向くと、気を失っていたはずのアッシュが目を覚ましていた。けど、いつもの透き通った瑠璃色の瞳じゃない。色濃く、まるで深海のように深い蒼い瞳。髪の毛が根元から白く染まるが、毛先は金色のままだった。


 驚いていると、目を覚ましていたアッシュはため息を吐く。



『聞こえなかったのかい? 放せ』

「えっ! あ、あ、ご、ごめん、なさい……」



 思わず手を離すと父の姿のその人はゆっくりと起き上がる。


 肩を叩くと、自分の貫かれた腹の方と頭を手で触れる。痛いのか顔を歪ませ、舌打ちをする。



『……全く、僕の呪い以外で死なれると困るんだけど』



 そう呟き、回復魔法を使おうとしたが発動しない。



『……はぁ? 回復魔法すら使えないほど消耗してるの? 嗚呼、自己回復の方に持ってかれてる……? にしても、面倒臭いな……』



 ブツブツ独り言のように言う彼は、お父さんだけど、お父さんじゃない。さっきまでは間違いなくお父さんだった。なのに、今はそうじゃないのは、何となく分かる。



「あ、あの……」

『ん? 嗚呼、まだ居たの?』

「……ッ」



 睨むようにコチラを見てくるその人の目に思わずビクッとしてしまう。だけど、その人は興味がなさそうに視線を逸らして、数歩下がると上を見上げる。



『……ふむ、アイツの記憶じゃあ、あそこから落ちたか。それに――』



 見上げているその人は目を細めている視線の先をアティも見上げていると誰かが降りてくる。それは、先程の白衣のミゴと呼ばれた人と、お父さんの姿をしたスラと呼ばれていた人だった。


 慌ててアッシュの元へとアティが走ってしがみつく。が、しがみついた後に思ったけど、この人に突き放されないかと恐る恐る顔を上げるが、コチラに少し視線を向けた後、再び二人の方を睨みつける。



「おやぁ? おやおやおやおやぁ〜、生きていたとわぁ、驚きでのぉ」

『…………』



 ミゴは楽しげに言いながら地面に降り立つ。その後ろにいたスラは不機嫌そうに、数歩コチラの方へと近寄ろうとしてきた。



「んだよ、無様な死体になっているかと思いきや、平然と――」

『喚くな、魔物風情が。僕の姿で下劣な口を開くんじゃないよ』

「あ”ぁ”――ッ?!」



 バスンッと蒼い炎の槍がスラの頭を貫く。貫かれた頭と上半身は消し飛ぶが、ブヨブヨと再生しようとするが、さらに槍が二本目、三本目と貫かれる。



「うぐぅッ……?!」

「ほぉほぉ……これはこれはぁ……」

『あいにく、君たちと遊ぶほど暇じゃないんだ。用がないならさっさと消えてくれない?』

「……そうですなぁ、アッシュではなくぅ、あなた様がその状態で顕現されるとは思わなんだぁ」

『それで?』

「ゲッゲッゲッ もしぃ、よろしければぁ、あなた様もこちら側へとつかれませぬかぁ? その身体もそう長くは持たなかろうてぇ。お望みとあらばぁ、その小娘と引き換えにぃ、不死に近い肉体をご提供いたしましょうぞぉ」

『……ふぅん、なるほど。それはそれは面白い提案だね』



 彼はニッコリと笑う姿はアッシュだが、何処か底知れない何かを見透かそうとしているような気がする。


 アティを指差すミゴの要求を飲んでしまうのかと不安な表情を浮かべていたが、ソッと頭を撫でられる。顔を上げるとコチラを見てはいながったが、少女に対して敵意を向ける様子は全くなかった。



『まぁ、それはそうと、アビスは今まだこの世にいるのかい?』

「えぇ、もちろんですとも。深淵の神子様、アビス様はご健在ですよぉ」

『……へぇ、アイツ、まだ未練タラタラに生きてるんだ。意地汚いねぇ』



 そう言うと、アッシュの背後に幾つもの蒼い炎が顕現される。それらは全てミゴと再生しかけているスラへと向けられていた。



「おっとぉ……、それはぁ、どういった了見ですかなぁ?」

『ペテン師め、不死というエサに僕が喰らいつくと思ったなんて、浅はかだよねぇ。僕が知らないとでも思った? 彼女があぁなってるのって、君らの仕業だろ? それも、禁忌魔法の魂の束縛。あの器に捉えておいて、何させてるかは知らないけど、アビス(アイツ)の元で傀儡として縛られるなんてゴメンだね。不死の話が出た段階で察しが着いたけど、相変わらず、あの方に執着しているんじゃないか』

「……ゲッゲッゲッ 不死の身体さえあればアビス様の元で是非ともぉ、あなた様のお力を友好的にお使いさせて頂きたいのですがのぉ」

『友好的? ハッ、有効的、の間違いじゃないかい』

「お人が悪いのぉ」

『で? 交渉なんてものはもう決裂したけど、どうする? そろそろ飽きてきたんだけど、殺されたくなかったらさっさと消えろよ』



 パチンッと指を鳴らすと一気に蒼い炎はミゴたちへと飛んでいく。舌打ちのようなものが聞こえたと思うと当たる直前に姿が消える。


 炎がおさまると、上空から声が聞こえてきた。見上げると何も無いところに浮遊しており、頭には緑色のスライムが乗っていた。



「ゲッゲッゲ、そうですかぁ、そうですかぁ。それはそれは残念でございますなぁ。あなた様のそのお身体はボロボロなのにぃ、せっかくの不死のお身体に乗り換えられるというのにぃ、残念ですなぁ。きっといい実験体として遊べたのにぃ、実にぃ、残念ですなぁ」



 そう言い残して飛散するように姿を消していった。


 相変わらず不気味な話し方と気配を撒き散らす奴だと呆れる。二人の姿が消えるとアッシュはため息を吐いて、しがみついたままのアティへ視線を落とす。



『……いつまでくっついているんだい? そろそろ鬱陶しいんだけど』

「ご、ごめんなさい……」



 謝るが服を掴む手は放すことが出来ずにいた。


 この人は、お父さんの身体だけど、お父さんじゃない。でも、悪い人なのか、正直分からない。



『……はぁ、まぁ、いいや』

「…………その、あなたはお父さん、じゃないんですよね……?」

『そうだよ。僕は●●●●●』

「?」



 聞き取れない、というか知らない言語で名乗られている。

 名前が分からないことを察してくれたのか、”まぁいいや”、と言ってその場から去ろうとしたので掴む手に力を入れて引き止める。



『何?』

「…………その、先程は、助けていただきまして、ありがとう、ございます……」

『助けた? 嗚呼、たまたま追い返した相手が僕が嫌いな奴らだったってだけだよ。君のために動いたわけでも、ましてや助けようと思ったわけじゃないんだ。勘違いしないで』

「……ごめんなさい……」



 下を向いたままの少女に彼は少し困った顔をして自分の頬をかく。少し考えたあと、服を掴む少女の手を掴み、同じ視線になるようにしゃがむ。



『別に怒ってる訳じゃないし、勘違いしないで欲しいって意味で言ったんだよ。それと、僕の名前は君たちの言葉で言うと、”ディルクルム”……、黎明って意味になるんだ。長いからディルックって呼んでもいいよ』

「ディルック、さん……?」

『そう。で、君の名前は?』

「わ、私は、アティ……、アティ・アウロラフラム、といいます」

『”アティ”、ねぇ。ふーん、確か太陽って意味だったかな? それはコイツにつけてもらったの?』



 ディルックは自分自身を指を差す。恐らく肉体の持ち主の父親のことを言っているのだろう。



「お父さん、と、お母様が考えてくれたんです。お二人のお話では、太陽が凄く、凄く綺麗な日に私が産まれたそうなんです」

『お母様? …………嗚呼、あの子かぁ、懐かしいなぁ、一度、僕と話したことがあったね。何時(いつ)だったかな……』

「ディルックさん、お母様とも話したことがあるのですか?」

『あるよ。アッシュ(コイツ)は知らないだろうけどね。じゃなかったらマリアが僕対策で浄化魔法と神聖魔法をかけあわして使うなんてしないだろ』



 ディルックは少しめんどそうな顔をして、ツーンとする。


 ”僕対策”、ということは、やっぱり思った通り、この人は……。


 少し俯いたアティは、ディルックから手を放して数歩下がる。しゃがんだまま彼は何だろうかと見ていると、少女はその場に座り、頭を下げる。



「お願い、します。お父さんを、あなたの呪いから解放してくれませんか?」

『……どうしてそう思うんだい?』

「あなたは目を覚ました最初の時に、”僕の呪い以外で死なれたら困る”……そう言いました。その発言と今のお母様と話をしたという時、”僕対策”……、それはその呪いのことですよね?」

『ふぅん、君は歳の割には話をよく覚えてるね。怖かった割には』

「今まで生きていた時に、そうしないと生きていかなかったからです」



 どんなに怖くても話を聞いていないと生き残るための情報が手に入らない。それがあるのと無いのとでは、生存率が違うから。


 でも、今は、私が生きるためじゃない。



「もし、あなたが身体が必要として欲しいなら私の身体をお渡しします。だから、お父さんを解放して欲しいんです。私が、私がいなければ、お父さんもお母様もみんな、みんな……、生きていたんです。幸せだったんです……」

『………』



 私が居なくなればいいって今も思っている。助けてもらったことは本当に、本当に嬉しかった。けど、これ以上、迷惑をかけたくない。居なくなるなら、少しでもお父さんの役に立ちたいし、恩に報いたいの。



「私は、どうなってもいいので」

『……はぁ』



 アティの言葉にディルックはため息を吐く。ゆっくりと立ち上がると、先程まではまだ優しい声で話してくれていた。けど、次の言葉は酷く冷たかった。



『何それ、君、虫唾が走る』

「えっ?」



 思わず顔を上げたアティの目に映ったのは、冷酷な目をしたディルックの姿だった。

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