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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:独りに……3

 倒れた父の姿が、あの時の事をフラッシュバックさせる。


 知らない人たちが、屋敷に来た。


 始めに殺されたのはいつも屋敷を掃除してくれた優しいメイドさん。朝起ききれない時も、優しく起こしてくれてた執事さん。私も近くで見ていたから、よく覚えている。鮮血と鉄の匂いが屋敷に拡がった。


 突然、来た彼らは私たちの屋敷に押し入るよに入って、すぐ、紙のようなものを私たちに見せて叫んだ。



「読み上げる!! アッシュ・アウロラフラム侯爵家及びその関係者に告ぐ!! 侯爵家の身でありながら、国家反逆罪を企てたと密告により、その身柄とアウロラフラム家の全ての権限を剥奪せる!! 皇帝陛下の(めい)により、この場にいる者、女子ども問わず死刑とする!!」

「お、お待ちください!!」



 中央階段から降りてきたお母様は私の元へと来ると、庇うように後ろへと隠し、訴える。



「夫が、アッシュが国家反逆罪だなんてそんなことはございません!! つい先日も、皇帝陛下の元へ伺うために、出られてます!! きっと何かの間違いです!!」

「残念ながらアウロラフラム夫人、残念ながら事実であり、あなたがたは、見捨てられたんですよ」

「見捨て、られた?」

「えぇ、皇帝陛下の元への招集なんて我らは聞いておりません。と、言うことは、あなたがたはあの男に見捨てられた、という事ですよ」



 不敵に笑う男はクスクスと引き連れた男たちもこちらを嘲笑うかのように言い放つ。

 私を抱き締めてくれていたお母様は一瞬驚いた顔をしたが、ギリッと目の前の彼らを睨む。



「いいえ、あの人は、アッシュはそんな人ではありません!!」

「現実を見れないとは、なんと哀れなでしょうかね。衛兵! あのご婦人は私の前に連れてきなさい。直々に可愛がって殺して差し上げます!」



 ……そこから先は、あまり覚えてない。


 お母様や叔母様たちが私を助けようとしてくれた。”あなただけでも逃げて”、と。”死なないから大丈夫だ”、って言ってたのに。


 みんな、みんな、私の目の前で死んじゃった。


 可愛がってくれたジジ様。

 剣術を教えてくれていて、剣聖と呼ばれた方だった。でも、その剣に串刺しにされて、死んじゃった。


 厳しくも礼儀を教えてくれていたババ様。

 素敵なレディーになれるようにと色々な作法やマナーを教えてくれた方だった。

 でも、私を庇って銃で撃たれて、死んじゃった。


 いつも優しくしてくれていたお母様。

 お父さんと一緒に私を愛おしいと頭を撫でてくれて、どんな人にも優しくあるようにと、守るための魔法のことを教えてくれていた方だった。

 でも、その魔法で痛めつけられ、辱めを受け、剣で、お腹を裂かれて、死んじゃった。



 どうして、みんな殺されなきゃいけなかったの?


 どうして、私は生き残ってしまったの?


 どうして、私はあの時にみんなと一緒に死ねなかったの?



「それは、貴様が汚れきった穢れた存在だからだ。お前のそばにいた人たちは気の毒なものだ。貴様のような疫病神なガキのせいで死んだ奴らが哀れなもんだ」



 トラッシュ(ご主人様)に言われた言葉が、深く刺さる。


 あぁ、そうだ。私のせいだ。

 私のせいでジジ様が死んでしまった。

 私のせいでババ様が死んでしまった。

 私のせいでお母様が死んでしまった。


 そして、私のせいで、お父さんも、私の目の前で――。



 ◇ ◇ ◇



 幼い少女の号哭が森の中に響く。



「ああぁあぁあッ! いやぁああああああああああぁぁぁ!!!! おと、お父さんッ!! お父さんッッ!!」



 お父さんじゃないって、気付けば良かった。


 だって、今、考えたらおかしいもん。アリスさんを助けに行ったのに一人で戻るわけない。

 なのに、私にお願いがあるって、頼られたんだって思って気づけなかった。気が付くチャンスは、違和感はいっぱいあったのに、もっといっぱいあった。お父さんは私を危ないところに行かせないようにって、里に置いてたのに、なのに、なのに……!!



 縋り付くように冷たい父の身体にしがみついて、揺さぶる。それでも、目を覚まさない。鼓動は、鼓動はまだ聞こえる。まだ、生きているのに……。



 必死に回復魔法を使うけど、かすり傷を治す程度の魔法しか使えない。こんなに、こんなに血が流れているに、治せない。魔法が効いてるのかも分からない。


 このままだと、死んでしまう。あの時の、お母様たちのように、私の、目の前で。


 私が知っている魔法じゃどうしようも出来ない。おじ様やお母様が使っていた全回復出来る魔法、教わっておけばよかった。それでも回復魔法を連続で使えば、きっと助けが来るまでは、命を繋げられるかもしれない。


 助けが……ッ



「”癒しを(ケアル)”! ”癒しを(ケアル)”! ”癒しを(ケアル)”!」



 必死に回復魔法を唱える。


 唱え続ける。


 雨と怪我の影響か、通常よりも魔法を唱え続けるのことが酷く身体が重く感じてしまう。それでも、少しでも、少しでも回復が出来るのならと、魔法を唱え続ける。



「”癒しを(ケアル)”! ”癒しを(ケアル)”! ”癒し(ケア)”……ッ」

「ゲホッ! ……はぁ……ッ」



 喉に詰まった血を吐き出したのか、咳き込む声が聞こえた。ハッとして父の顔を覗き込むと、まだ息は浅いけども、ヒューヒューと呼吸音が聞こえる。



「お父さん? ねぇ、聞こえる? ねぇ、お父さん!!」



 ()たく()えきった父親の顔に触れる。薄らと目が開いたような気がして、声をかけるが、反応が帰ってこない。意識があるのかすら微妙だけど、呼吸が戻ったのなら回復魔法がちょっとでも聞いているはず。


 再び、回復魔法をかけるために呪文を詠唱しようとした時――



「Gurrrr……」

「ッ?!」



 唸り声が聞こえた。

 嫌な予感を感じながら振り返るとそこには狼の、魔獣が何匹もいる。


 血の、臭いで? いや、この雨だから、私が叫んじゃったからだ。


 魔獣は臭いを嗅ぎながら、ジワジワと近寄る。ギラリと鋭く恐ろしい牙が見える。


 小さな悲鳴を上げながら、倒れたままのアッシュの身体を引き摺るが、トンッと背中にぶつかる。振り向くと崖の壁。際まで追い詰められていた。これ以上はもう下がることが出来ない。



「いや、いや……!! 来ないで、来ないでよ……!!」

「Gurrrr……、Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaッッ!!」



 来ないでと懇願するように叫ぶ少女とは逆に、魔獣はヨダレを垂らし、バッと襲いかかる。



(あ……、これ、死んだ、かも……)



 ……どうしよう、死を直感してしまった。


 だからだろうか、襲ってくる魔獣の姿がゆっくりと飛んでくるように見えた。


 奴隷だった時、何度も感じたことがあるから、嫌ほど、この直感は当たるし、今までそれのお陰で急所や致命傷は避けれていた。だからこそ、今は……無理だ。例え私一人で逃げられるとしても、お父さんは、置いていけない。


 意識のない父の頭を自分の胸に押し込めるように腕で抱きしめると小さな呼吸が聞こえる。



「……最後に、お父さんと会えてよかった」



 お父さんたちのところに生まれてよかった。


 でも、私、疫病神だったから、お父さんたちのところに生まれてきちゃいけない子だった。私じゃなければ、きっとお父さんたちはもっと幸福で、もっと平穏で、もっと、もっともっと……、生きていられたかもしれないのに。


 私じゃなければ、お父さんたちは……。



「ごめん、なさい……ッ」



 ボロボロと大粒の涙を零す。


 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……ッ


 私が、私がいなければ――



「私なんかが、生まれてきて、ごめんなさい……ッ」



 父を強く強く抱きしめ、目を閉じる。


 魔獣の牙が二人に喰らいつこうとした時――



「Gyaiッ?!」



 悲鳴のようなものが聞こえる。


 身体に新しい痛みが来る訳でもなかった。視線をあげれば、魔獣は蒼い炎で出来た槍のようなものに貫かれていた。


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