表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

237/275

雨の里:独りに……3

 ジャンヌたちのテントを離れたアッシュは魔力探知でこの広い森の中を探っていた。もし、連れていたのがアティなら非常に危険な状態だ。一刻も早く見つけなければ行けない。


 木々を飛び越えながら視覚も使い、必死に捜す。



(彼らの話からそう遠くは行ってないはず。それに、地図で見た限り、この辺りは崖が多くてそこから先の地図もなかった。もしかしたらレインたちも把握してない森もあるはず。魔獣や魔物に襲われる危険性も捨てきれない……)



 それに、自分の姿をもし本当にしているならかなり引っかかる。自分の姿を模倣しているということは、心当たりがあるとしたらあの時のミラースライムだ。核がなかったにしろほぼ瀕死でトドメを刺したはず。もしかすると他にも死なない原因があるのかもしれない。

 その中で生き残っているというのも驚きだが、一番は心配なのはアティの精神的なところだ。


 あの子は一緒に旅をしてからしっかりしてはいる。けど、精神はそれでも子どもだ。アリスが以前、僕が一緒に旅を始めると決めた時に言っていたことがある。



 ◇ ◇ ◇



 それはエドワードたちと会う前の事だ。焼け落ちた屋敷に花を添えて、膝を着いて手を合わせて冥福を祈っていると、その隣で同じように手を合わせた後、顔を上げる。


 まだ祈っていたアッシュの肩にトンッと寄りかかる。



「ねぇ、アンタ、あまり今回のこと話さなくていいからね」

「今回のこと……?」

「そうよ。旅を始めるキッカケがもしかすると生きてるかしれない娘ちゃんを捜すことなんだけど、今のアンタは心を休めないとダメ。辛い過去やトラウマなんてすぐに克服はムリよ。それが二年、三年って経とうが話して楽になる、なんて言うのはそんな簡単に出来ることじゃないわ」

「えっ……、でも僕、君にも、その、君の仲間にも事情も話さず同行する訳には――」

「いいったらいいのよ。私はこの焼け落ちた屋敷しか見てないけど、どんだけ辛い思いをしたか、私はわかんない。私の想像を超えちゃうようなことがここであったのに蒸し返す必要は無いわ。話せるようになった時に話せばいいの」

「……本当に、いいの?」

「いいの。思い出すのも辛いでしょ?」

「…………うん、ちょっと……」

「ちょっとじゃないでしょうが、全くもう。それと、アンタもし娘ちゃん見つけてもソッとしなさいよ。現場にいなかったアンタでもあんなんだったのだから。子どもの方が記憶って怖くて辛い記憶の方が何十年経っても残るの」

「………それは、君もあったの?」

「さぁ? どうかしら」



 アッシュの言葉にアリスは軽く手を振りながら立ち上がる。


 彼女はそこから多くは話すことはなかったけど、恐らく彼女自身にも忘れられない恐ろしく酷いことがあった。だから僕にも言ってくれたのかもしれない。



 ◇ ◇ ◇



 あの時の、尊く大切な思い出の詰まったあの屋敷が、僕自身がトラウマになるほどの事だ。あの子は、きっとそれ以上の怖い思いも、辛い思いもしている。また怖い思いをさせたくない。大切な人に手が届かず、二度も失いたくない。絶対に、起こすわけにはいかない。



 ギリッと歯を軋ませて、魔力探知の範囲を大きく拡げる。魔力がギリギリな所まで拡げると、ようやくアティの魔力を探知した。


 急いでそちらの方へと向かう。



(頼むから、無事でいて……!)



 願うように察知した場所へと向かうと、木々と木々の間に、アティと、ペトスマスクをした何者かの姿が見えた。ソイツはアティの首をガッと掴む。


 その光景に全身の血の気が逆立つような感覚に襲われる。反射的に覚醒の姿へと変え、一目散にそこへと飛び、権限させた剣を振り下ろす。


 ペトスマスクのソイツは見えていたかのように、そこの場を軽く避け、避けられた攻撃はドォンッと大きな音を立てながら地面を抉る。



「チッ! 相変わらず妙な動きする、このマッドサイエンティスト!」

「お、お父さん!!」



 ミゴに首を掴まれているアティはアッシュに向けて手を伸ばすが、それをスラが邪魔をするように前に立つ。自分と同じ姿をしたスラを睨み殺しするかのような目つきでアッシュはその姿を見据える。



「君、もしかしてあの時のミラースライムかい?」

「クッハッハッハッハッ! ご明察通りだよ、クソ人間!!」

「……あの時、殺したつもりだったんだけどなぁ」

「核が無事なおかげでミゴ様のお力を借り、こうしてまた模倣するまで回復したんだよ。テメェをぶっ殺すためになぁ!!」

「……ふぅん、何? 僕に用があってアティを攫ったって言うのかい?」

「ゲッゲッゲッ お久しぶりですなぁ。あぁ、もちろん、あなた様にも用はありますよぉ。ただぁ残念なことに、欲しいのは守護者であるあなた様の遺体の方でのぉ。用が済めばぁ、あなた様のこの小さな子もぉ、ワタシのいい被検体にするつもりでのぉ。大事(だぁいじ)なぁ、だぁ〜〜〜いじなぁ、娘ぇ、なんでしょぉ?」



 ぐにゃりと笑っているようなミゴは首を絞めた少女の顔を空いている枝のような手で優しく撫で回す。息苦しさにアティは”うぅ……”、と声を漏らしながら逃げようとするも、強い力で首を押さえられて逃げられない。


 苦しそうにしているアティにアッシュは持っている剣からミシミシと音を立てるほど強く握る。



「は? 被検体……? 僕がそんなことさせると思う?」

「させるさせないじゃねぇよ。どっちにしろ、死ぬテメェには関係ねぇけどな!!」

「ユキにボロボロに負けたクセに、負け犬、いや負けスライムが吠えるなよ」



 剣を構えて、威嚇するように言い放つ。強い殺気にも関わらず、ミゴはどこが余裕そうな様子だった。



「困りましたなぁ、スラも、ワタシもさすがに覚醒しているあなた様には勝てませんからのぉ」



 もしミゴがアティを刺しても間に合うように、全神経を研ぎ澄ませる。コイツがどんな行動を起こしても腕がもげようがどうなろうが……。



(絶対に助ける。例え、命に変えても……)



 睨みつけるアッシュの気を逸らしたいのか、それとも挑発なのか、フラフラと不規則に動くミゴは自身の首をグギリと90度ほど曲げ、こちらを振り向く。



「ですのでぇ――」



 振り返ったミゴは崖の方へとアティをなんの躊躇いもなく投げる。



「え?」



 アティは一瞬の出来事に理解が出来なかった。首を掴まれていたのに、捕まっていたのに、気がつけば、崖の方へと投げられている。



「こうさせて頂こうと思っておるのぉ」

「アティ!!」

「さぁ、お選びくだされぇ、ご自身の命かぁ、娘の、命かぁ」



 そう言うミゴの言葉に、迷うことなく、投げられたアティを追うようにアッシュも後を追う。手を伸ばし、落下していく娘の腕を掴もうとしたが、ドスンッと鈍い痛みに襲われる。



「まぁ、甘いあなた様はぁ、そうすると思っておったよぉ」



 アティの視界には、先程のミゴと呼ばれた人の白衣の隙間からまるで蠍のような尻尾、それが助けようとする父の胸元を貫いていた。ゴポッとアッシュの口から血溜まりが溢れ、伸ばした手に力が無くなっていた。



「お父さん!!!!」

「ゲッゲッゲッ その怪我ぁ、そして、この下に落ちてなお、生きていたらぁ、死体としてではなくぅ、被検体としてたぁっぷりと、実験して差し上げよぉ」



 ズルリと貫いた尻尾を引っ込める。


 重力に従って、そのまま二人は崖へと落下していく。追撃をする訳でもなく、ミゴとスラはそれを崖の上から見守り、やがて二人の姿は霧の中へと消えていく。



「まぁ、壊れかけのあなた様がどれだけ持つかぁ、見物ではあるのぉ」



 ……


 …………



 落ちる最中、アッシュは気を失っていたが痛む腹で意識がどうにか意識が戻る。霞む視界の中、目の前で落ちていく娘が、アティが、この高さを落ちてしまえば確実に、死ぬ。


 アティの方を見ると、落下の影響か気を失っているようだった。



「こん、なッ こと、くらいでぇ!!」



 痛む身体を無視して、クルッと体勢を整える。


 落下しながら風魔法を使い、崖の壁に足をつけ、ダンッと強く地面を蹴ってさらに加速する。無理矢理動かした事で、腹部からブシュリッと血が吹き出し、痛みで顔を歪ませているが、それでも血反吐を吐きながら、力いっぱいアティへと手を伸ばす。



 速く、届け……。届け。届け!届け!!



 伸ばした手が娘の腕をようやく掴む。



 ……



 …………



 ……………………



「うぅ……ッ」



 目を覚ましたアティは全身の痛みで目を覚ます。仰向けのまま動く目を動かし、シトシトと降る雨とその雨の影響か霧が深く、木々が()い茂っているからか薄暗い。チリチリと痛みを我慢して、上半身を腕を踏ん張らせて起き上がる。あちこち擦り傷はあるが、どうにか動けそう。


 身体の痛みはあるが、辺りを見渡す。


 最後に見たのは貫かれた父の姿。ゾワッと嫌な想像で背筋が凍る。



(お父さん……、お父さん、何処だろ?)



 キョロキョロと周りを見渡すと見覚えのある父の姿が見えた。



「お父さん!」



 自分の身体の痛みを無視して急いで倒れたアッシュの元へと駆け寄る。うつ伏せに倒れており、その父から流れる血溜まりが雨水によって地面をより赤く染める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ