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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:独りに……2

 グレンの転移魔法でジャンヌたちが滞在していたテントの近くに降り立つ。

 キョロキョロと辺りを見渡し、自分の姿をしているかもしれないものを探すが、時間が経ったということもあり、見当たらない。軽く魔力探知を使うも、近くには、居なさそうだ。



(さすがに見当たらないか……。でも、この辺りで見かけたならマーダー兵(彼ら)に聞いて見たらいいかもしれない。ジャンヌが目撃してるなら、見てる可能性はあるし)



 そう思い、一番近くでテントを畳んでいて、鎧を脱いだ身体の大きい兵士に話しかける。



「ねぇ、君」

「ん? おぉ、アッシュ殿!」



 図体がデカイ誰かだとは思ったけど、確かジークフリートと呼ばれていた副隊長だ。助けた時は全裸でいたけど、今はちゃんと鎧も着ているようだ。……当たり前だけど。



「片付け中にごめんよ、ちょっと聞きたいことがあってさ」

「ほぉ! 聞きたいことか! 俺がわかる事ならなんでも聞いてくだせぇ!!」

「んー、元気だねぇ、君ぃ」



 直前まで消化されかけた人とは思えない程の元気の良さ。こう見ると本人とあの時の偽物スライムと違いはわかりやすい。


 まぁ、それはそうとして、聞きたいことをさっさと聞こう。



「聞きたいことっていうのは、僕と同じ金髪の髪の人を見かけなかったかなぁて思ってさ。ジャンヌから僕に似た人がいたって聞いたからちょっと気になってね」

「アッシュ殿と同じ金髪? そうですなぁ……、ちょっと待ってくだせぇ」



 アッシュを置いて、ジークフリートは片付け中の他の隊員に声掛けし、確認する。数人ほど話しかけた後、彼はこちらを向いて、手招きをする仕草をしてきた。


 そちらの方へ行くと、若めの、新兵のような二人組だ。



「アッシュ殿ぉー!! それらしき人を見かけたという者が居ましたぞぉ!!」

「そんなに遠くにいないから叫ばなくても聞こえるよ。それで、詳しく聞いてもいいかい?」

「うむ、では、話すが良い!」

「ハッ!!」



 ジークフリートに言われ、兵士は背筋を伸ばし敬礼をしながら返事をする。”休め!”という号令を聞き、手を後ろにまわし、肩幅程足を開く。



「自分が見ましたのは、つい先ほど前であります。あちらの(ほう)に森には似つかわないような、えっと、副隊長が呼ばれたそちらの(かた)のように長い後ろ髪でありました。自分は後ろ姿しか見えてないので、顔は分かりかねますが……」

「自分も同様に見ております」



 二人の兵士はどうも嘘をついているようには見えない。とはいえ、自分と同じ髪色の人なんてよくいるものだ。正面が見えてないからそれかどうかも不明だけど、不安要素は省いておきたい。



「あ、それと、一緒に子どもがいました」

「子ども?」

「はい。自分が確認した者と一緒に似たような金髪……でありましょうか、霧がかかっていたからハッキリとは言えないでありますが、子どもを一人連れていました」

「それは、連れていかれているようか感じだったかい?」

「……さすがにそこまでは……、申し訳ないっす」

「いや、いいよ。ありがとう」



 子どもを連れている? 一度、里に戻った方が良かったかも知れない。アティの安否を確認してから再び来る? いや、もしそれで本当に居ない場合は……。


 アッシュの嫌な予感に反応するように雨に濡れた水滴以外に、自分から冷や汗に近いものが溢れている気がしてしまう。

 険しい表情になったアッシュにジークフリートは心配そうに彼の顔色を伺う。



「アッシュ殿、大丈夫でありますか? もし、その者たちを捜さねばならないとのことであれば、我々も手を貸しましょうぞ。貴殿は我々の命の恩人でもありますからな」

「……ありがとう、ジークフリート。でも、大丈夫だよ。気のせいだったら君たちに申し訳ないし、方向さえ分かれば後は魔法で調べるよ」

「そうでありますか……。では、協力が必要な場合は何時(いつ)でも言ってくだされ!! 先程も言った通り、恩人への協力は惜しまないですからな!!」



 力こぶを見せてニカッと彼は笑う。


 何とも頼もしい人だろうと思ってしまう。でも、余計な人が増えると捜すのに支障が出かねない。魔力探知に埋まってしまう可能性もある。微弱な魔力を逃さないようにしたい。


 ジークフリートたちに礼を伝えて、兵士が見たという方向へと走っていく。



 ◇ ◇ ◇



 ガサガサと草木をかき分ける音がする。


 目の前を歩く、父の背中を追うように歩いていたが、どこまで行くんだろうかと不安に思いながらもついて行っていた。



(里に帰ってきたと思ったら、私に用があるって言うからついてきちゃったけど、本当に何だろ?)



 そう、父であるアッシュが里に戻ってきた。アリスさんたちのことを伝えた後、そっちに向かったはずの父はしばらくしてからアリスさんたちも連れずに戻ってきたと思っていると、私の力が必要だと行ってこうして森に入っていった。


 かなりの距離を歩いているし、急ぎなら抱えて走るのにそれもせず、歩いている。途中、兵士たちがいる前を通った時も、何かを確認したように見たと思ったらまた歩き出した。


 それに、森に入ってからは一言も喋らない。声をかけても無視される。



 ……もしかして、知らずのうちに何かお父さんを怒らせるような事をしてしまったのかな。



 もしそうなら父親に捨てられるんじゃないかと不安が過ぎってしまった。そんなことは無いということはわかってても、昔、主人に仕えていた奴隷の時、散々見ていた。自分と変わらないくらい、もしくは少し上の年の子どもたちが使えないと言われ、森に捨てられたり、魔物の餌にされてしまっていたことを。


 お父さんが、そんなことをするはずがない、絶対無い。それはわかってても幼いアティは大人の恐ろしいところを見てしまっているため、嫌な想像ばかりしてしまう。植え付けられた恐怖にブワッと嫌な汗が溢れ出す。


 不安そうな顔をして、前を歩く父の元まで小走りをして追いつき、服を掴む。



「お、お父さん! ど、どうして無視するの? なんで森に入ってから一言も喋ってくれないの? わ、私、力を貸してって言われたけど、何をしたら――」

「あ”ぁ”?」

「ッ!!」



 声をかけた父親が低い声で睨みつけるように振り返る。今までされたことの無い表情と声に思わずビクッとしてしまう。



「うるっせぇなぁ……。黙ってついて来れねぇのかよ、クソガキが」

「お、おと、さん……?」



 掴んでいた父の服をゆっくりと放して、後ずさりをする。


 この人、お父さんじゃない。お父さんはそんな言い方、しない。この人は一体、誰なんだろうか?


 嫌な気配が目の前の、父の姿をしている男から放たれ、全身で逃げろと警告がうるさく響く。バッ振り返って逃げようとしが――



「逃げんな!!」

「きゃあッ!!」



 髪を掴まれ、引き戻される。ブチブチと髪が切れる音と引っ張られる痛みで涙が溢れてしまう。

 露骨に不機嫌な顔をしている父の顔をした男は、グイッと顔を自分へと無理矢理向けさせられる。



「テメェはあのお方の大事な被検体なんだよ。本当はこの手でグッチャグチャにして殺して、あのクソ野郎の前に見せしめてやろうと思ったけど……、連れて来いって言われたから仕方なく生かしてんだ。下手に暴れたり逃げてみろ。足の骨へし折るぞ」

「うぅ……、や、やだ……ッ お、おと、お父さん……ッ おとぉさぁん……ッ」



 怖い、怖い怖い怖いッ


 そんな事、父は絶対に言わない。けど、姿が父親そっくりだったからか、少女の心を深く抉り、恐怖が増幅する。嗚咽混じりにアティが泣く姿が面白いのか、不機嫌そうな顔をしていた男はニヤリと笑う。



「安心しろよ、クソガキ。もう少ししたら、テメェの父親にもすぐ会えるからよ。せいぜい、泣き喚いておけ。そうしたらあの野郎もすぐこっちに気づいて来るかも知んねぇからよぉ!! クッハッハッハッハッ!!」



 ゲラゲラと笑う男は、アティの髪を掴んだまま引き摺る。ぬかるんだ地面ではいくら抵抗しようともがいても、滑って上手く力が入らない。


 それより、さっきのこの人の言っていることはどういうことなのだろうか。すぐ会える……?


 混乱しているアティだが、しばらく引き摺られていると、ブワッと強い風が吹く。何処まで連れてこられたのかと思っていると、グイッと引っ張られ、そのまま、崖の外に宙ずりにされる。



「ひゃあっ?!」

「暴れんなよぉ。暴れたりしたら、髪がちぎれて下に落っこちまうぜ」

「あっ……あぁ……ッ」



 あまりの高さにガタガタと震える。視線を下に降ろせば、霧がかかっているから余計に高さの底が知れない。こんなところから落ちてしまえば……きっと死んでしまう。


 落ちてしまわないように、髪を掴んでいる手に必死に掴む。



「クッハッハッハッハッ! 必死だなぁ、おい。まぁ、落ちる前にあの方が来ればぁ、落ちなくて済むかもなぁ」



 そう言いながら男はアティを持っている腕を横にブンブンと振るう。振るわれる度に髪のちぎれる音と、落ちてしまわないように必死に掴んでいるが、雨のせいで上手くちゃんと掴みない。


 落ちそうになる恐怖で震えていると、誰かまた違う気配を感じる。



「ゲッゲッゲッ スラよぉ、無事に連れてこれたようだのぉ」

「ッ! ミゴ様!」



 ミゴと呼ばれたその人が来ると、スラと呼ばれた男は掴んでいた腕をブンッと振るい、崖とは逆方向への地面に投げつけ、少女はズザッと地面に転がってしまう。

 転がったアティは痛む頭を押さえて顔を上げると、ペトスマスクをした人と顔が合う。思わずアティは小さな悲鳴をあげて後ろへと尻もちをつく。


 その隣までスラは寄ると、片膝を曲げて、まるで褒めてほしそうな顔をしてミゴへ報告を始める。



「この顔で迎えに行ったらホイホイとついて来てくれました」

「ほぉほぉ、これがぁ、アレの娘ですかぁ。いやはやぁ、確かに面影があるのぉ。よくやったぁ、スラ」

「はい!」



 嬉しそうに返事をしたスラの頭を撫でる。


 話に夢中になっている間にアティは逃げようとすると、グイッと後ろへと引っ張られる。掴まれた腕には白衣の隙間から伸びる枝のような手。その腕からはそんな力が出るのかと思うような腕力で掴まれ、ミシミシと骨が軋む。



「い、痛い……ッ!」

「まぁまぁまぁ、待て待て待てぇ、お嬢ちゃん。そんなに怖がらなくてもよいよいぃ〜。困ったワタシの手助けをぉ、お嬢ちゃんにして欲しいんじゃよぉ」

「い、いや……ッ は、放してください!」

「困ったお嬢ちゃんじゃのぉ〜、あまり騒ぐとぉ、足を一本、抉らないといけなくなってしまうじゃろぉ?」

「……ッ」

「ゲッゲッゲッ そうそうぅ、いい子じゃあ、いい子じゃあ。大人しくしておればぁ、アレが来るまでは、悪いようにはせんよぉ」



 痛いのは、いや。怖いのも、いやだ。でも、どうしよう、どうしようどうしよう! きっとこの人たちが言う”アレ”ってきっとお父さんのことだと思う。来て欲しいのに、今、きっと来てしまったら、この人たちはお父さんに酷いことをするつもりだ。


 どうにか今の状況を打破出来ないか思考するが、答えが出ない。怯える少女腕を引き、自分の元へと寄せると、今度はその子の頭をミゴは手で頭を撫でる。その手に触れられるのは嫌で嫌で仕方ないが、恐怖でされるがままになってしまう。



「それはそうとぉ、スラよぉ。アラネアとスイはぁ、どうしたぁ?」

「アイツらは知らねぇですよ。スイの視覚を見たところ、どうもエサどもと仲良くしてるようで、同じ個体なのに、アイツは裏切ったんです」

「ゲッゲッゲッ そうかぁ、そうかぁ。それはぁ、良くないのぉ。出来の悪い妹を持つというのはぁ、魔物も人間も変わらず苦労するものよぉ。そうは思わんかねぇ? お嬢ちゃん」

「……ッ……ぁ……ッ!」



 恐怖のあまりで上手く声が出ない。ガタガタと震えるアティを優しく撫でるが、その仕草すら命を削られているような嫌な感覚に襲われる。


 涙を流して震える少女を覗き込むように見て、ミゴはまた嗤う。



「ゲッゲッゲッ だがぁ、まぁ、その意見を聞く前にぃ、お目当てがぁ、よぉ〜やく来たようじゃのぉ」

「えっ……?」



 そう呟いたミゴはアティの首を掴む。息が出来なくなる感覚と同時に、ミゴはその場から躱すように避けると、先程までいた場所にドォンッと強い衝撃音が鳴る。そちらの方に視線を向けると――



「チッ! 相変わらず妙な動きする、このマッドサイエンティスト!」



 憎悪のこもった強く睨みつける父の姿がそこにあった。



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