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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:独りに……1

 里へとアッシュたちが戻っている道中のこと、フワッと風が吹く。覚えのある魔力を感じて振り返るとグレンたちがいた。


 アリスたちの前に現れたグレンに対してアリスは笑顔で手を振る。



「あ、グレンにユキじゃーん」

「元気そうだな、アリス」

「もちろんよ〜、アッシュも来てくれたし、万事解決しちゃってるわぁ〜、っておりょ?」



 ニヤニヤと笑うアリスはピースをしていると、彼の隣にいるジャンヌに目が入る。興味津々に彼女に近寄っていく。



「え、誰誰(だれだれ)?」

「彼女はマーダー帝国二番隊隊長のジャンヌ・マーヴェリックです」

「あら、どうも。私はアリスよ! よろしくね!」

「あ、あぁ、よろしく」



 アリスがあまりにも普通に、元気に返事をして挨拶をするものだからジャンヌは動揺する。


 ユキとこうして話しているというのと、髪の色からして神子で、彼らの仲間。兄が失礼なことをしてしまったことは明白なのに、彼女は普通に話してくれるのだと驚いてしまった。



「……神子殿は――」

「アリスでいいわよ」

「えっと、アリス殿は、私に対してはどうも思わないのか?」

「何がよ?」

「その、私はマーダー帝国の人間だ。それに、私の兄が貴殿らに対して酷いことをしたと聞いているものだから……」

「あら、そう? 私は別に気にしないわ。だってアンタが私たちに何かしたわけでもないし、ユキやグレンも特に警戒している様子もないもん。ねぇー! エドー!」

「そうだな、私もそう思う」



 そう頷くエドワードにアリスはニヒヒッと笑顔を見せる。

 笑う彼女につられてジャンヌも()みを零していると、彼女たちの後ろから歩いてくるアッシュにアリスも笑顔で振り返る。



「アッシュもそう思うわよねー?」

「ん? あはは、そうだね。ジャンヌには僕も会ってるけど、アレックスほどタガが外れたタイプじゃないし、大丈夫と思うよ」

「と、言うわけだから、アンタもそんなに気にしなくていいわよ」

「……そうか、ありがとう、アリス殿」

「ふっふっふ〜! もっと褒めてくれてもいいんだからね!」



 ドヤッと笑うアリスにグレンは半分呆れたような顔をして鼻で笑う。



「ハッ その余計な一言がなければ一番良かったがな」

「うるっさいわねぇ、いいじゃないのよ」

「すまんすまん。それよりユキの件でこちらに来たんだが、少しいいか?」

「え、私に?」

「そう、お前に」



 ユキの腕を掴み、アリスと話を始めるグレンたちを横目にジャンヌはボソッと呟く。



「何とも心の広い方だな、アリス殿は」

「まぁ、アリスは基本拒んだり突き放しはしないよ。僕もあぁは君には言ったけど、アリスたちがいいなら僕ももう気にしないからさ」

「貴様の場合は一言がかなり多かったからな」

「あははっ 褒めてくれてありがとう」

「褒めてないが」



 一切悪気もないと思って笑いながらアッシュの返事。


 この男は本当に一言多い。


 イラッとするジャンヌは思わずため息を吐く。



「まぁいい。それにしても貴様も転移魔法使えるんだな」

「あ、僕は使えるけど苦手なんだよね。座標を上手く捉えられなくてよく変なところに転移しちゃうからあんま使わないよ。変に使ったら時間無駄になるし」

「そうなのか? だったらさっき私たちがこちらに来る時に一緒に来ればよかったな」

「……? どういうことだい?」

「どういうのも何も、アリス殿の後から来たのは転移魔法で離れてしまったから遅れてきたのだろ? 貴様、私たちのテントの近くにいただろ」

「テント……?」



 ジャンヌの言葉にアッシュは首を傾げる。


 そもそもグレンに送って貰ったのはあの地下の時。それ以降は彼女たちがいたテントにも向かう余裕も暇もなかったのに。

 僕が居たってどういう事だろうか。頭を過ぎったのはスイたちのことだ。スイともう一体のスライムはミラースライムで、人の姿を模倣する。もしかしたら他にもいるのかもしれない。



「君らのテントの近くにいたのは僕で間違いなかった?」

「あぁ、貴様だったぞ」

「…………、ねぇ、グレン、ちょっといいかい? そっちの話終わってからでもいいんだけど」



 考えた後、ユキとアリスが話している間に手が空いていそうなグレンに呼びかけると、二人を置いてこちらに来る。



「どうした?」

「ジャンヌから彼女たちがいたテントの近くにいたと言われたんだけど、僕が居たの気付いた?」

「テントの近く? いや、お前の気配はなかったぞ。そもそもお前にかけた魔法から辿って転移したんだからな」

「アレだよね、前に僕につけた追跡魔法だよね?」

「あぁ、外すの面倒だからそのままにしてる」

「面倒でそのままなのは複雑なんだけど……。いや、それよりスイたちのこともあるからちょっと気になってさ……。 杞憂だったらそれはそれでいいけど、まだミラースライムが残ってるかもしれない。念の為、近くに僕を転移させてくれないかな?」

「別に構わんが、一人で大丈夫か?」

「大丈夫だよ、確認だけだからさ。終わったらすぐ戻るよ。アリスやエドワードたちをお願いね」

「わかった、なら飛ばすぞ」



 パチンッと指を鳴らしてアッシュを転移させる。


 アッシュ(アイツ)なら特に大丈夫だろうと思うが、妙な胸騒ぎがする気がした。何か、こう、引っかかるような……。


 だが、それを吹っ飛ばすようにアリスとユキが後ろで喧しく騒ぎ始めた。


 何を騒がしくしているのかと視線を移すと、アリスに頼んだユキのツノのことのようだ。何やら身振り手振りでやっているみたいだが……。



「こう! 引っ込めるイメージよ!」

「ひ、引っ込める?! ど、どういうふうに……?!」

「んッこう!! グッとよ!!」


(わ、分かりずらい……)



 どうしたらいいのかと困っていると、その一部始終を見ているエドワードと肩にスライムの姿をしたスイが困っているユキに助け舟を出す。



「お前、ソレを引っ込めることも出来ないの?」

「出来ないから困ってるんですよ。このまま街に行く訳にも行きませんし、というか、あなた、ミラースライムじゃないですか。どうしたんです? そのスライム」

「あぁ、私と従魔契約することになった。アリスからも了承を貰っている」

「あ、そうなんです? ……んー、僕と戦ったあのスライムよりは大人しそうではありますが……、本当に大丈夫なんですか?」

「危害を加えないと約束もしてるし、恐らく大丈夫だ」

「そうだぞ! ちゃんとボクとアラネアはご主人様との約束があるからしないんだぞ! ご主人様は絶対なんだ。その辺勘違いするな、下手っぴ!」



 スライムの姿だから表情は分からないが、悪意のある弄りを受けているのはよくわかる。引き笑いをしているユキにエドワードは慌ててスイを叱るがツーンッとしてしまう。


 そっぽを向いたが、スイはエドワードの肩から降りて、人の形へと変わる。



「ま、でも、ご主人様も困ってる事だし、特別にボクが教えてあげてもいいぞ」

「…………エド、従魔契約したら躾はちゃんとしてくださいね」

「す、すまんな……」



 非常に不服だが、今はそんな嫌だとワガママを言っている場合では無い。ここは我慢して教えてもらおう。



「では、聞かせてもらっても?」

「仕方ないなぁ〜、感謝してよ、下手っぴ君」


(絶対今度叩いてしまいましょう……)



 ユキはピキピキと怒ってるようだが、笑顔を貼り付けたままスイに教えて貰っていると、隣から先程まで教えていたアリスが口を尖らせて、”せっかく私が分かりやすく教えてんのにぃ〜”と呟く。それに対してグレンが困ったように笑いながら、”お前は感覚肌でやるタイプだったんだから仕方ないだろ”とフォローするとそれでも納得しないのか頬を膨らせ、グレンの背中に飛び乗る。


 しばらく好きにさせて飽きたら降りるだろうと思いそのまま放置した。


 ……


 …………


 ………………



 5分程だろうか、スイは教え方が上手かったのか、ユキはどうにかツノを引っ込める事が出来たようだ。無事にいつも通りの姿になったユキは渋々ながらスイに礼を伝え、貸していたフードをグレンに返す。



「ありがとうございます。無事に直せました……」

「そうか。まぁ、見た目だけでもどうにかなって良かったな」

「不服ながらこういうのをあのスライムに教わるとは思いませんでしたよ」

「面白い体験、ということでいいじゃないか」

「普通しませんし、今後はご遠慮したいです……」



 ユキは肩をガクッと落としてため息を吐くが問題も解決したことで、まだ首にぶら下がったままのアリスの腕を叩く。



「アリス、お前たちを里まで送る。ジャンヌはマーダー帝国の人間だが、まぁ、話は出来るし、敵意はないだろうから後は大丈夫だろ」

「えっ! 送ってくれるの?!」

「雨も降ったままだからな。風邪をひかれても困る」

「やったぁ! なら、送って送ってー! 一旦向こうに着いたらお風呂よ! グレンも一緒にどう?」

「結構だ。ナギが近くにいるはずだからアイツを誘え」

「えー、一緒に入りたいのに〜」

「私は仕事で忙しいんだ」

「……ハッ! たまーに街で噂に聞く風呂キャン……?」

「いや、さすがに忙しいとはいえ、シャワーくらいは浴びるぞ」

「えへへー、冗談冗談。グレンはいい匂いするもんねぇ〜」



 失礼過ぎるアリスはグレンの背中に顔を埋める。スゥーッと匂いを嗅ぐ彼女に相手するのも面倒になっているのか、”はいはい”、と軽い返事をして、転移魔法を発動させるため、指を鳴らそうとしたところでエドワードが何か気付いたような顔をして、彼の手を掴む。



「待て、アッシュは? さっきまで一緒だったのにいないんだが……」

「アイツは少し確認することがあると言ってた。しばらくしたら戻るだろ」

「アッシュも一言言ってくれればいいのにねぇ」



 ボヤくアリスにエドワードも頷く。


 アリスたちに声をかけなかったのは自分と同じ姿した奴がいたかも知れないという心配をかけたくないというのもあるだろう。


 心配する気持ちは、分からなくもないが。



「とにかく、里まで転移するぞ」

「はーい」



 アリスの返事で、パチンッとグレンは指を鳴らす。



 ……


 …………



 正直、嫌な予感がしたこの時に、私も一緒に行けばよかったと、今も、とても後悔している。

 そうしたら、結末はもう少し違っていたかもしれない。いや、それよりも、もっと、もっと前に気づくべきだった。


 その後悔は、今、悔いたところでもう遅かった。

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