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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:弔い2

 その場にいたユキは身震いをした。


 目の前に現れたソレは”死”そのもののように感じるほどの冷たく、おぞましく、恐怖そのものだ。

 暗い闇の中からズルリと現れた召喚獣、タナトスと呼ばれたソレはグレンの背後へと寄る。



『久しいな、若造。何用(なによう)だ?』

「弔いだ。この部屋にいる……いや、そこの男以外の者たちを冥府に送る。お前ならできるだろ」

『フフフ、そうだなぁ、可能だ。だが、久方(ひさかた)ぶり喚んでおいて、ただ送るだけ、と、言うことは無いだろ?』

「…………」



 グレンは不機嫌そうにタナトスを睨みつける。マリアの時と違い、(あるじ)に従うようなタイプのようには見えない。品定めをするように暗闇の向こうに見える、まるで狼の骸骨のような被り物の隙間から召喚主の彼と同じ黄金の瞳をギラつかせる。


 ため息を吐いて、グレンは腕を前に組む。



「いいから、お前ならコイツらを苦しめること無く、死なせられるだろ。特に魂も何も無い抜け殻だ。簡単な仕事に何か褒美をくれと、ガキのようにせがむな。鬱陶しい」

『なんだ、つれないな……。マリアの時は親しそうにしていたクセに。我に対しては冷たかろう』

「やかましい。さっさとしろ」



 態度を変えないグレンにタナトスは鼻で笑う。


 フワッと彼から離れると、タナトスは人の姿へと変わる。腰まで長い黒髪に黄金の瞳、立ち姿はまるでグレンにも似ている気がする。タナトスは両手を前に出して、ブツブツと何かを詠唱し始める。



『”我が言霊に応えよ。闇に満ちた冥府より、汝らの魂を、死者の魂を冥府へと導こう。安らかに眠るが良い――”』



 ジワジワと黒い霧のようなものが部屋を飲み込んで行く。それに当てられないように、グレンはユキを自分の傍へと寄せる。


 飲み込まれた被検体たちから白く、魂のようなものが抜き取られ、それらはタナトスの方へと集まり、まるで船のような形へと変わる。魂を抜き取られた肉体は灰のようにサラサラと消えていった。先程まで恐怖の対象にしか、死神にしか見えなかったタナトスが神のごとく、神々しく、死者を弔っていた。


 そして、タナトスの背後に扉のようなものが現れる。



『”安息の方舟(アーク・レクイエム)”』



 ギギギッと鈍い音を立てながら扉が開かれる。その扉の中へ、先程まで船の形作ったものがゆっくりと扉の奥の闇へと入っていく。

 完全に闇に溶け込まれた魂の船が見えなくなると、部屋の中を埋めつくしていた黒い霧を吸い込みながら、扉は閉まり、粒子となって消えていった。


 事が終わると、子どもの姿のタナトスはこちらを振り返る。



『終わったぞ』

「ご苦労。もう用はないから還れ」

「い、いいんですか? そんなに適当な感じにあしらって……」

「構わん」

『フフフ、若造が。利用するだけして、いいご身分だ』

「都合よく利用しろと言ったのは貴様の方だろ」

『それはそうだな。が、我も久々の現世よ。少しばかり遊んで還らせてもらう』

「……程々にしろよ。言っとくが、私の命令以外で貴様の魔法の使用は禁止だということを忘れるな」

『わかっておるよ、我が主(マイロード)



 そう言ってタナトスはその場から闇の中へと溶け込み、消える。


 あの召喚獣はなんだったんだろうか。マリアの時と違うような気もする。けど、見た目が似ているためか兄弟、のようにも見えてしまう。


 何処かへ消えていったタナトスにグレンはため息を吐く。



「はぁ、あまりアイツを喚ぶのは嫌なんだが、こういう場合はどうしても必要だからな」

「そ、そうなんですね。それにしてもあんな魔法見た事ないですよ。魂を綺麗に抜き取ってしまうなんて」

「タナトスは少し特殊な召喚獣だ。それにアイツの魔法はただの魔法とも違う。真似しようとしたが術式の理解が難しいくてな、根本的なものから違うのかも知れないが……、後はあの放浪癖が無ければ楽なんだがな」

「放浪癖?」

「元々、アイツは封印されていたらしい。それを今は私が宿しているという事もあって、喚び出す度に何処かへと出かける。通常の召喚術と違い、魔力の消費がないのはいいが、何かあった時に急な喚び戻しも出来ないし、必要な時に喚べない時もあるから極力喚ばないようにしている。必要な時に喚べないの面倒だからな」

「な、なるほどですね……」



 自由奔放、といえば聞こえはいいかもだが、自由過ぎるのも苦労するようだ。けど、困ったものだと言いつつ、放浪を良しとして見ている様子にも見える。口では言うが彼なりの優しさかもしれない。



「おかげで、スノーレインの時にアイツを呼べなくてあのザマだ。まぁ、召喚獣だろうが、誰かだろうが、他者を勘定に入れて考えるのはやめた方が身のためだがな」

「あ、そうなんですか? スノーレインということは助けていただいた時ですよね。いつ彼を召喚したのですか?」

「お前たちに会う前、戦ごとがあってな。その時にタナトスを喚んでいたんだ。程々に終わった後、いつもの通りにまたフラフラと何処か行って、しばらく戻っとこなかったんだ」



 禁忌の森で会う前に、タナトスを召喚していたが仕事が終わった途端、何処かへ行ってしまった。還ったらわかるからいいが、それまでは喚べないという面倒くささがあるのは本当に厄介だ。あの時はマリアも喚べる状態ではなかったし、そもそも自分の不注意でなっているから、この話はいましたところで不毛だ。



「そんなことより、さっさと出るぞ。ジャンヌたちも仕掛けを終えているはずだ」

「それもそうですね。ですが、外にはどうやって出るんですか? あんな強固な魔法で壁がガチガチなのに……」

「何って、普通に転移魔法で出るぞ。別に物理的に出れないだけで魔法妨害は等に使い物になってない。じゃなかったらアッシュたちを里に送れてないだろ」

「そ、それもそうでした……」



 この施設に足を踏み入れた際の一番最初の時、アッシュたちが壁を破壊出来なかったことで、出られないという固定概念から転移魔法の存在をうっかりと忘れていた。


 恥ずかしくなり、顔を手で隠しているユキにグレンはクスクスと笑いながら彼を連れてジャンヌたちの元へと向かう。


 上の方にジャンヌたちの気配があったため、そちらへと歩みを進める。


 辿り着いたのは最初のエントランス。だが、何故か早々に、設置終えていたから暇だったのだろうか……。その光景はなんとも言えないものだった。



「貴様ら!! 今回の事で、改めてたるんだ精神と力を時間が余す限り鍛え直しだ!!!!」

「 「 「 ハッッ!!!! 」 」 」


(何をやっているんだ、コイツらは……)



 呆れているグレンたちの視界に、ジークフリートを含む隊員全員で綺麗に整列し、腕立て伏せをしていた。その先頭にはジャンヌが立った状態で監視をするようにしていたが、少々異様な光景に少し引いた顔でグレンがジャンヌに声をかける。



「お前ら、暇か?」

「ん? あぁ、グレン殿、無事に戻ったか」

「何をしているんだ? お前ら」

「うむ、設置作業が終わったのでな。我々では出ることは叶わんので、ちょうどよく広いこの場所を借りて訓練をしていた」

「……そうか」



 キラキラとした目でこちらに振り向いたジャンヌに言い返すのが面倒になったのか、それとも反論しずらいのか、グレンは肯定してしまう。


 心無し、熱気でむさ苦しい気もしたが、気にせずグレンは魔法を展開しようとしたところ、何かの気配を感じたのか何処かを見上げるように向いた。彼はしばらく気配の方を見ていたが、首を傾げる。



「どうしました?」

「……。いや、ダーティネスの気配を感じたような気がしたんだが、あの程度ならもし居たとしてもどうにかなるとは思うからな。それより、施設の外に転移するが、お前たちはどうする? テントの方に送った方がいいか?」

「そうだな。私たちもテントに戻ろうと思ってはいるが、例の里の方に一度、私一人で向かうつもりだ。先に兵たちをテントに送りたいから、テントの方へ転移して貰えるならそうして欲しい」

「わかった」



 ジャンヌの言葉で転移先をマーダー帝国のテントの方へと座標を合わせる。


 パチンッと指を鳴らすと、目を瞬きをした瞬間、先程の施設から場所が代わり、テントのある場所へと移動した。


 相変わらずシトシトと降る雨が彼らを濡らしていく。



「着いたぞ」

「助かる」



 礼を言ったジャンヌは隊員たちの方を向き、大きな声で号令を伝える。



「皆の者!! テントにて待機だ!! 後ほどこの場を立つので出立の準備をしろ!! ジークフリートは他に居ない者がいないか確認をしろ、総員、わかれ!!!!」

「 「 「 御意ッッ!! 」 」 」



 ジャンヌの指令で隊員たちはそれぞれ行動を始める。


 彼女は改めてグレンの方を向くと、身体に装備していた鎧を外し、剣だけを持つ。



「私の準備はこれで終わりだ」

「……鎧は外していくのか?」

「あぁ、もし、私が武装していては、話し合いも出来んだろ。剣は、念の為だ。あのスライムの化け物が他にいるような言い草だったからな。護身用くらいなら大丈夫だろう」

「そうか」



 グレンはそう返事をすると、再びパチンッと指を鳴らす。施設があったであろう方面から爆発音と地響きが響き渡る。



(これで、私の仕事の方は終わりだな)


「グレン、僕は少し着替えてきます。この格好のままだと少々落ち着かなくて……」

「なら、お前が戻ったら里に向かうぞ」

「ありがとうございます」



 着替えのためにユキは近くのテントへと向かう。


 そういえばユキ(アイツ)のツノはどうするのだろうか。未だにそのままという事もあるし、マントをいつまでも貸しておく訳にもいかない。魔法か何かで見えなくする手もあるが、アイツがそれを扱えるだろうか。


 グレンは眉間を少し歪ませて考えていると、ジャンヌが声をかけてた。



「グレン殿」

「なんだ?」

「例の研究結果の件は後ほど聞かせていただきたい。内容によっては里では口外できないだろ」

「そうだな。資料自体はコピーした物でいいなら準備はしてある。渡すだけならすぐだが、口頭でもいるか?」

「さすがに資料だけでは専門的なものは私には理解し難い。噛み砕いて貰うようで悪いが教えて貰えると助かる。皇帝に伝えるまでが私の任務だからな」

「わかった。理解できる範囲で説明もしよう」

「感謝する」



 軽く頭を下げ、彼に礼を伝える。顔を上げると遠くの後ろの方に何かがチラッと視界に見えた。



(ん? あれは……)



 見覚えのある後ろ姿だったが、それはすぐに消えた。


 なんだったんだろうかとジャンヌは首を傾げたが、もしかすると()()()は別件であの場所にいるのだろうか?、と思っていると、マーダー帝国の鎧から普段の服装に着替え終えたユキがこちらへと戻ってきた



「お待たせしました。僕も準備は終わりです」

「あぁ、おかえり」

「いえ、それと、里に戻る前に、アッシュたちの所へ転移をお願いしてもいいでしょうか? 近くにアリスもいるようですし、ツノの方を、どうにかしたいので」

「あぁ、忘れていたのかと思ったが覚えてたんだな」

「さ、さすがにこのまま里には入れないですよ……。里から少し離れたところにどうやら居るようです。大体の場所を地図でお伝えしますので転移魔法は可能ですか?」

「ある程度場所がわかっているならな」

「はい、では、この辺なのですが――」



 地図を見せて場所を伝える。


 確認したグレンは頷き、指を再び、パチンッと鳴らして転移魔法を発動させ、アッシュの元へ向かった。

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