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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:ボクとご主人様3

 ◇ ◇ ◇



 ボクは、名前を与えられてから一度も名前で呼ばれたことは無かった。


 ボクは暗い筒状のガラスケースに入れられていたところから目を覚ました。その時の記憶は曖昧で意識も朧気、多分、人、だったと思う。


 目を覚ましたボクは何故、こんな所で目を覚ましたかなんて思い出すことはもう出来ない。目の前にいる黒い髪に黒い、深淵よりも深い暗く黒い瞳を持つ、後にボクらがご主人様と呼ぶその方が目の前にいた。他に誰かいた気がしたけど、一言、二言喋ると、ゆっくりと意識はまた沈んで行った。


 次に意識が戻ると、スライムの姿に変わっていた。


 自分の姿に疑問も違和感も何も無かったけど、姿が変わったんだなぁと、楽観的に思っていた。それでも目を覚ますと最初にいたご主人様がそこに立っていた。



『「ふむ、魔物と人の融合がようやくできたみたいだが……、コレではそこら辺の魔物と変わらんではないか」』

「ゲッゲッゲッ、そうですなぁ。あなた様のご提案、死んだぁ守護者の身体と魔物の融合はぁ、どぉうも上手く結びつかなくてですなぁ。できたのもこの数のみぃ、でございますぅ」

『「全く、素材を無駄にしおって。こんな出来損ないでは使い物にならん。一応、形になったのはこの1匹は中途半端な蜘蛛、もう1匹はスライムとは、魔物の姿しかなれんのなら実用性にはむかんな」』

「ですがぁ、ひとつぅ、面白いものはございますよぉ。こちらのスライム、元はひとつでしたがぁ、このように二つに分離しておりますぅ。それぞれぇ、個体としてはぁ、意思も違うようでねぇ」

『「……ほぉ、なら、それをまた別の研究に使え。ゴミから出た副産物でも、ひとつがふたつに増えたのも何かに役立つだろ」』

「ははっ そのようにぃ……」



 白い服を来た妙なマスクのやつは頭を下げる。黒い瞳のご主人様はこちら見るなり、ガラスケースに触れる。



「……試しにぃ、コレらに名前をつけてみてはぁ? 魔物はぁ、名前を与えるとぉ、その者に従順になるとぉ、お聞きしておりますゆえ」

『「ほぉ、そうか。なら、試しに与えてみよう」』



 ご主人様は少し考えて”ふむ”、と言うと隣にいた白衣の人に伝える。



『「では、この被検体M-404はアラネア、M-405はスラ、M-406はスイだ。それでよかろう」』

「ゲッゲッゲッ、ではぁ、そう名付けましょうぞぉ」

『「あとは、任せるぞ。我は腹が減った。たまにはアレ以外の肉も喰いたいのだが、あるか?」』



 ご主人様が指を()したのは黒いフードの被った子どものような見た目の人間だった。その子どもの頭を腕を掴んだかと思うと、ブチィッと音を響かせ、その子どもの腕を引きちぎっては、そのままかぶりつく。


 腕をちぎられた子どもは悲鳴も上げなかったが、蹲ってしまう。が、少ししたら新しい腕が生え、フラフラとしながらも立ち上がる。



「えぇ、もちろんございますぅ。ささ、こちらへぇ」

『「ふん」』



 ご主人様は二人を連れて出ていき、その日以降、ご主人様がボクらの前に現れることはなかった。


 あの子どものように人の姿だったらボクも連れて行ってくれたのだろうか。


 色んな実験を経て、ボクとスイは人の姿を模倣する事が出来るようになり、ミラースライムへと変化したが、それでもご主人様は来てくれなかった。


 だから、ご主人様の隣で話していた、白衣の人にボクは、思わず聞いてみた。



「ねぇ、はかせ」

「んん〜? どうした? M-406」

「あの、ボクらになまえ、つけてくれたヒトは、きて、くれないの?」

「ッ! おぉ、名付けられた日をぉ、覚えておるのかぁ?」

「うん」

「あの方は、お前たちのご主人様ぁ、ここに来られないのはぁ……」



 マスクの奥でジィッとこちらを見ている気がする。プルルンとスイは何とも言えない怖さと緊張で震えると、”ゲッゲッゲッ”、と笑いながら答えを口にする。



「それはのぉ、お前たちが不完全だからよぉ。人としても魔物としてもの」

「ふかん、ぜん?」

「いわゆる、出来損ない、と、言うものよぉ」



 でき、そこない……? あぁ、そういえば、あの時、初めて会った時、言われた。ボクらを見て、”出来損ない”、と。



「……ど、どうしたら、できそこない、じゃ、なくなるの?」

「さぁ、どうかのぉ。出来損ないにはぁ、理解出来ん事も、あるよのぉ」

「ぼ、ボク、おやくにたてる、ように、がんばる、がんばるから……!」

「頑張る、ねぇ……。まぁ面白い反応のようじゃが、もう遅いものよのぉ。他に面白い実験を見つけたぁ。お前たちは、凍結破棄の予定よぉ」

「は、はき……? はきって、なに?」

「ゲッゲッゲッ、さぁ、何かのぉ〜、ゲッゲッゲッ」

「ま、まって!」



 そう叫んでも白衣の人は不気味に笑いながら、部屋を出ていってしまった。そして、誰も来なくなった。誰一人として、会うこともなくなった。


 なんで、来てくれないの?


 なんで、見てくれないの?


 なんで、ボクを、造ったの?


 なんで、ボクは、出来損ないだったんだろ……。



 ◇ ◇ ◇



 あぁ、愛しいご主人様。


 怖いくせに、怯えていたくせに、そんなボクへ必死に叫んで頼み込んでくるご主人様。


 昔と違う姿のご主人様。


 その人が、ようやくボクの名前を呼んでくれた。例え――。



 例え、この方が、本物のご主人様じゃないとしても。



 いや、ずっと分かっていた。この人は恐らくボクらの知っているあの方ではない。きっと魔力が似ているだけの違う人間。

 それでも、ボクは生きた意味と理由が欲しかった。どんな形でもいい。どんな人でもいい。あの方じゃないとしても……。人間だった時も、魔物としての記憶も朧気なボクには、どうしても理由が欲しかったんだ。

 捨てられてたとしても、求めずにはいられなかった。


 生きて、また自分のご主人様に会いたい。


 生きて、ボクをどうして造ったのか。


 生きて、いてもいいよって、存在してもいいと言われたかった。


 そんなワガママを理由に、ボクは、アラネアやスラを駆り立てた。エサが必要だったのは、もちろんだったけど里を襲えば騒ぎになる。騒ぎになれば、きっと、人に知れて、忘れられたボクらを思い出して来るかもしれないと、期待していたというのもあった。


 けど、あの方は、来てくれなかった……。


 目の前の、か弱く、ご主人様は強くボクの手を握る。その手がとても暖かくて、心地よい。ずっとこのままでいて欲しいけど、今は、ボクのワガママは言えない。



「……ねぇ、ご主人様、ボクも虫が良すぎるかもしれないんだけど、お願い聞いて欲しいんだ。それを聞いてくれるなら、あの化け物を、いや、ご主人様の仲間を助けるから」

「あぁ、聞く。なんだ?」


(迷いも無く、即答。そう真っ直ぐに聞いてくるんだね、ご主人様……)



 禍々しいあの方に混じって、芯があるこの方にボクは、名前を呼ばれるだけでも気持ちがいいんだ。



「正式にボクのご主人様になって欲しい。もちろん、エサ……じゃなくて、人間にしたことは謝る。許してもらえるかは、わからないけど、ボクには、ご主人様が必要なんだ」

「あぁ、わかった。スイ、お前の主になってやる」

「……へへ、迷ってくれてもいいのにね。でも後先を考えないってところも大好き。じゃあ、行ってくる」



 プルンッとスライムの姿へと形を変える。エドワードの手からすり抜けて、怪物と交戦しているアッシュの方へとポヨンッポヨンッと飛んで彼の元へと向かった。


 先の殲滅魔法でも完全に崩れない怪物に攻撃を躱しながら、アッシュはギリッと睨む。



(毒のせいか、魔法が上手く発動しない。殲滅魔法の威力が弱いし、おまけに意識が集中出来ないから覚醒状態にもなれないし、解毒だけでも優先した方が良かったかな……)


「おい、化け物」

「ッ!」



 スルリとアッシュの首元にスライムの姿のスイが滑り込む。


 首に巻き付かれるまでコイツが来たことにも気付かないなんて、集中力が無さすぎる。


 舌打ちをしてスイを睨みながら張り付いているスイを剥がそうとするが、力が上手く入らないため、中々剥がれない。



「ちょっと、何しに来たんだい? と、いうか離れて。邪魔」

「うっさいな。黙ってて」

「何を――()ぁッ?!」



 ガブリとスイはアッシュのうなじに噛み付いた。血が滲み、そこから何かが流し込まれる感覚に思わずアッシュはスイを鷲掴み、引き剥がそうとしたが、流し込まれたソレの効果がすぐに出てきたため、手を離す。


 先程までの息苦しさも、痺れも引いていく。痺れていた手を見て、グーパーしていると段々と感覚が戻っていった。



「え、解毒……?」

「感謝しろよ。ご主人様から頼まれてやってやったんだから」

「ご主人様って、エドワード?」

「そぉーだよ、他に誰がいるんだよ」

「……そっか。なら、ありがとう、スライム」



 そう言って肩に乗ったスライムをポンポンと撫でる。


 まさか撫でられるとは思わなかったスイは一瞬固まって、プルプルと身体を震わせる。



「ッ! は、はぁ?! なんでボクにお礼を言うんだよ? そもそもその毒はボクがお前に撃ち込んだやつなんだぞ!! 感謝される筋合いは無いだろ!!」

「あはは、まぁ、そうだけどね。エドワードに頼まれたとはいえ、仇の僕をわざわざ解毒してくれたのは君だ。だから、感謝してるんだよ。それに、エドワードを助けてくれたしね」

「…………変なの。人間ってお前みたいにアホばっかなの?」

「うーん、地面に叩きつけるよ、バカスライム」

「解毒してやったのにバカとはなんだ! バカとは!! ボクにはスイっていう名前があるんだぞ!! この化け物!!」

「だったら僕にはアッシュって名前があるんだから君も名前で呼んでよね」



 へらっと笑うアッシュはスラをツンツンと突きながら言うと、プルプルと震わせ、スイはペシペシと彼の後頭部を叩く。



「い、いいから、アレ、どうにかしろよ!! ご主人様の好意で毒を消してやったんだから、さっさと終わらせろ!! おま……、アッシュの本気ってもん見せてみろ!!」



 ペシペシと叩きながら言うスイにアッシュは”はははっ”と笑う。そして、剣を二本顕現すると、それに蒼い炎を纏わせ、髪の色が白く変わり、覚醒状態へと変わった。



「んじゃまぁ、スイの希望に答えて……、ちょっと本気で倒しちゃおうか」

「へぇへぇ、それはお手並み拝見(はいけ)――うわっ?!」



 肩にスイを乗せたまま、ダンッとアッシュは地面を抉れる程の勢いで蹴り、怪物へと突っ込んでいく。グチョグチョと形を変える巨体の怪物の手を切り落とすとそこからボォッと蒼い炎が吹き出し、再生をさせず、ボロボロと崩れていった。


 一撃、また一撃と目にも止まらない速さで切り刻んでいく。


 形を保てなくなってきた怪物は、ブシュッと音を立てて、赤黒い液体を撒き散らす。戦いの勘からもう少しで倒せるとアッシュが確信した。


 怪物の中心に剣を突き刺した、その時――。



「………イタ、イ……、イタイ……!」

「ッ!」



 悲痛な声が怪物の中から声が聞こえた。


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