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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第三章 魔封じの森
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灯り2

 一夜を明かして翌朝。

 エドワードが先に目を覚まし、普段隣で寝てるアッシュの様子を見る。顔色はかなり良くなっていた。


 顔にかかる髪を退けると、アッシュがゆっくりと目を覚ます。



「んん……。あ、おはよ……。うぅ〜!! 体だいぶ楽なったァ……」



 起き上がり、背伸びをしながらあくびをしている姿を見るにかなり体調的に良くなったのだろう。


 自分自身も布団から出る。



「昨日預かった炎は私とノアとユキで消えないようにしたがあれでいいのか?」

「うん。ありがと」



 受け取ったアッシュは自身の魔力を注ぐ。紫の炎からまた蒼い炎へと変わっていく。


 だが昨日のように疲れた顔はしてない。



「それ、使い続けるのはキツくないか?」

「ん?あぁ、もう大丈夫だよ。これは独立型の炎にしてみたから消えない限りは継続して使えるようにしてみたんだ」

「え、昨日のあの短時間で?」

「うん、昨日いつも通り使っていたら死ぬほど体調崩しちゃったから、さすがにねぇ」

「やっぱり大丈夫じゃなかったんだな」



 アッシュの頬をつねる。

 こいつはなんで言わないのか……。腹立つ。



「痛たたぁ、ごめんって」

「……で、それなら本当に体調は大丈夫なんだな?」

「うん。これならずっと発動してる訳じゃないからね。ただ思った通りに動かせないからなぁ……。戦闘には使えないかも」

「料理には使ったぞ」

「これで料理したの?」

「あぁ、便利だった」

「ま、まぁ役に立ったならいいよ」



 苦笑しながらテントを出て、アッシュはアリスの様子を見に行く。あまり開け過ぎると怒られるのでちょっと中が見えるくらいの隙間。


 中ではアリスとリリィが寝ていた。リリィはくるまって寝ているが、アリスは大口開けて寝てるし、苦しそうな様子は無い。どうやら心を読むための能力の効果は切れてるようだ。



「……よかった」



 ホッとした。効果は切れたら大丈夫だろうけど、ここの森のせいで僕もアリスもえらい目にあってしまってる。

 それがある程度楽になるならよしとしよう。


 少し時間が経って、アリスとリリィたちも目を覚ます。



「アリスちゃん!ふっかぁーーーつ!!」

「アリスー、元気になったなら顔洗っといでー」

「あら、あんたも元気になってるわね」

「まぁね、ほら、今日はサンドイッチだからすぐ出来るよ」

「はぁい」



 元気なアリスを見てみんなもいつも通りの朝食を食べていく。


 炎の件はみんなに共有して、みんなで順番で灯しながら行くことにした。それなら魔力に偏りなく、全員ですることで疲れを分散出来る。

 アリスの心を読む能力に関しては今回は禁止。本人も動けなくなるのは懲り懲り(こりごり)とのこと。


 朝食後、土魔法で作った壁の前に一同いた。



「これまた土魔法で壊すんですか?」

「うぅん、それをするとまた体調崩しちゃうだろうからね。こうするよ」

「え、殴んの?結構分厚そうにしてなかった?」

「これくらいなら大丈夫。カモフラージュ用だから思ったより脆いよ」



 アッシュは拳を作る。ノアとユキも壁に触れていたからわかるがそこそこ硬かった。特に身体強化の魔法も使えない状態では普通殴ってもこちら側が痛い思いをするだけ。


 それでも殴って壊すつもりのようで、”危ないから下がって”とアッシュに言われ全員、数歩下がる。確認できてからアッシュは拳に力を入れて殴ると、いとも簡単に壁は貫通し、砕ける。



「よし、開いたよ」

「お前、その威力で兄様殴ってたのか?」

「いやいや、これはまだ壁が脆いだけだから、そうであっても常時身体強化されてる人ならこれくらいは痛いくらいだからね」

「…………」



 少々疑いの目をされた気がする。


 洞窟をあとにし、林道に戻る。昨日と変わらず薄暗い。来た方向と進む道を間違えないように念のため、ノアに確認してもらうと、ノアの表情が少しこわばった。



「……アリス、ここ、俺ら以外で誰か通ってる」

「マーダー帝国の?」

「さすがにわかんねぇ。ただ複数いる。警戒しながら進んだ方がいいかもな」



 その人たちが友好的ならいいが、こんな森に()()んで来る者はいない。余程の急用かもしくは、後ろ暗いものがある人だ。

 アッシュは少し考えて、アイテムボックスから黒のパーカーを取り出してそれをアリスに渡す。



「とにかく、周囲は警戒が必要だね。アリス、君の髪色は目立つからこれでフードをかぶっておいて。そのままだと神子だから襲ってくれと言ってるものだからね」

「わかったわ」



 サイズが大きくアリスにとってはぶかぶかなのか、手も出てこない。その代わり髪に至ってはきれいに隠れてる。腰よりも長い髪は少し毛先が見える程度だ。これなら遠くからみても神子だってわからないはず。


 周囲を警戒しながらさらに進む。

 相も変わらず変わらない風景。飽き性のアリスは退屈そうにリリィの後ろ髪を三つ編みしたり、エドワードの髪も同じように三つ編みして遊んでいた。



「昨日は昨日でしんどかったけど、この風景もなーんも変わんない真っ暗なのも飽きて来たわ……」

「だからって私の髪で遊ぶな」

「え~、だって、暇なんだもん~」



 エドワードの髪をまだいじりながらアリスはムスーッとした顔をする。

 その様子にアッシュが隣までよると、持っていた炎をアリスの前に出すと、炎の形が変わり、鳥のような姿になる。その鳥はパタパタとアリスの方まで飛び、頭の上に乗るとそのまま座った。



「わあ!なにそれ!可愛い!」



 どうやら興味を示してくれたようだ。

 頭の上にいる炎の鳥を手に取って、アリスはキラキラした目で手のひらに乗る鳥をなでる。



「ねぇねぇこれどうやったの?」

「微量の魔力を注ぎながらなってほしい形のイメージをするだけだよ。やってみるかい?」

「やりたい!」

「じゃあちょっとだけ魔力を注いでみて。入れすぎたら体調崩しちゃうからね」

「わかったわ!」



 手元の炎にアリスが魔力を込める。蒼い炎は白く綺麗な色に変わり、形は猫の姿へと変わった。

 できたことにさらに感動して、すごい嬉しそうな顔になる。いろいろな形に変えていき、楽しそうにする。



「すまん、助かった」

「いいよ。アリスも楽しそうだし、いいんじゃないかな」

「そうか」



 あとは遊びに夢中になって魔力を使い過ぎなければいいけど。

 アリスの方から正面の方に目を向けようとすると、今度はノアがこちらに少し焦った表情で走ってくる。



「ノア、どうしたの?」

「右側の草むら、誰かいる」

「誰か?魔物とかじゃなく?」

「足音的には魔物のもんじゃねぇな。しかも、複数だ」

「さっきの足跡の人たちかな」

「わかんねぇ。一定の距離で来てるんだよな」

「わかった、気を付けるよ。ありがと」



 ノアは頷いて再度ユキのところまで戻る。

 となりにいたエドワードに目をやり、先程のノアの話をつたえると、険しい顔に変わる。さすがに一定の距離ならこちらを狙ってる可能性は高い。



「……一旦走って振り切ってみる?」

「身体強化の魔法があるならまだしも、さすがに走り切れる気がしないが……」

「それか、僕がエドワード担いで、ユキはノアを、リリィにアリスをおぶってもらって走るとかは?」

「……お前たちの負担が大きい気はするが、今はそれしか方法がないだろ」



 アッシュも頷いてそれぞれにどれくらいの時間走れるか確認しながら伝えていく。


 背負った状態で、ユキは大体2.3時間は走れる。リリィも大体同じくらいとのことだ。さすがは魔族と獣人。根本的に体力は規格外みたいだ。



「よし、ならちょっときつくなるだろうけど、2時間ほど走るよ。余裕があるならもう一時間行くと思うよ。先頭は僕、次にリリィ、最後にユキでいいかい?」

「えぇ、大丈夫です」

「始めからかなり全力で走るよ。ノアは走りながらでも聞ける?」

「もちろん。俺自身が走るわけじゃねぇしな。ユキ、頼むぜ」

「はい、任せてください」

「じゃあ、いくよ」



 全員で頷き、アッシュがタイミングを見計らう。あまり怪しまれないようにしながら、配置につく。


 3……、2……、1……。



「走って!!」



 アッシュが叫ぶと同時に持っていた炎で閃光玉のように生み出す。かなり強い光と爆音。

 エドワードを背負い、アッシュも走る。先に走ったユキとリリィを追い抜いて、当初の目的の順番に並ぶ。

 先頭は空気抵抗を受けやすい。体力をかなり持っていかれる。けど、今は言ってられないかもしれないため、ぼそりと風魔法で二人の空気抵抗の軽減をする。ズキリと痛む頭に一瞬アッシュは顔をしかめるが、気にせず発動したまま走っていく。


 全力疾走で二時間の間ちょいちょいエドワードに後ろの二人の様子を見てもらう。二人もよくペースを落とさずに走っていたが、背負って走るのは思いのほか体力が奪われたのだろう。さすがにきつそうだ。

 もう少し走っておきたいがそれで二人が倒れると元の子もない。



「二人とも!! 止まるよ!!」



 大きな声でそう叫ぶと二人とも減速しながら止まる。ぜぇーぜぇーと肩で息をし、呼吸を整えるが、座る体力すらないのかユキは地面に寝転がるような感じになっていた。



「二人とも大丈夫かい?」

「は、はい……っ だい、じょうぶで、……」

「…………」



 どうにか返事をするユキと黙ったまま呼吸を落ち着かせているリリィ。やはり二人ともギリギリだったようだ。

 二人の安否確認ができたので、アッシュはそのままノアに追手がまだいるか確認する。今のところは来ている様子ないようで、安心する。



「アッシュは大丈夫か?」

「大丈夫だよ。まだまだ走れるくらいさ」

「あんた体力どうなってんのよ」

「ぼ、ぼくはあしもガクガクで、もうはしれない、です……」

「それが普通だと思うぞ、ユキ」



 寝そべったままのユキの頭をノアは撫でる。


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