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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:人間の真似事4

 アッシュから息を止めるように言われ、服の袖を口に当てて息を止めていたけど……。



(も、もう、息持たないかも……ッ 元々そんなに長く息止めてられなんない……)



 でも、目の前の奴の言っていることが本当なら呼吸のため、息してしまえばこの霧を吸い込んでしまい、死んじゃう。いや、息止めたままの方でも死ぬ!!


 思わず、アッシュの服を掴み引っ張る。



「大丈夫かい? もう息持たない?」

「……ッ」



 アッシュの質問に、どうにか首を振って苦しいことを伝える。ノアと何か伝えているようだけどそれも気にする余裕が全くない。また抱えられて、攻撃を避けているようだけど、肺の空気が、持たない。


 それでも必死に耐えていると、肩に誰かの手が触れる。



「アリス、こっち向いて」



 アッシュの声にアリスは顔を上げる。


 口元を抑えている手に触れられると、その手を退かし、頬を優しく触れられた。”息が苦しくてそれどころじゃないと”、言おうとしたがそれよりも先にアッシュが口を開く。



「口を開けて」

「ふぇ……?」



 口を開けて? どういう事だろうかと顔を上げると、彼の顔が眼前まであった。



(え、顔近……)



 驚いていると、アッシュは軽く口を開けて唇に重ねる。思考が追いつく前に、閉じてた口の中へ舌を滑り込んできた。



(〜〜ッ?!?!?!?!?!?!?!?! え、は、んんんんんっ?!?!?!)



 いったい、どういう状態なのだろうかと思考が駆け巡る。口に柔らかいものが当たっている。それも舌が……?!


 動揺するアリスを他所にアッシュは何事もない顔でもう一度、彼女の口を手で押え、立ち上がる。



「これで息は持つでしょ。…………? アリス?」



 アリスが顔を真っ赤にして固まってしまっている。

 もしかして息を吹き込んでいる時に毒まで口移しで送ってしまったのだろうか?


 心配そうにしていると、隣にいたノアがアッシュの服を掴んで叫ぶ。



「ちょいッ おまぁああああああッ?!?!」

「何さ、ノア?」

「な、ななな、何ってコッチのセリ――もがっ?!」

「ノア、叫ぶと空気が無駄になる。もう少しだけ息を止めてて。辺りの空気ごと毒を燃やすから」



 ノアの口を塞いだ後、ゆっくりと手を離して、手に蒼い炎を纏う。

 空気ごと燃やすため、アリスたちに出来るだけ熱さや炎が移らないように調整をし――、ゴォオオッと音と共に空気を喰らい尽くしていく。


 炎が建物も含めて呑み込まれていき、スイは壁を壊し、外へと出る。


 部屋中が炎に包まれている間に、アッシュはアリスをノアの方へと託す。



「ノア、あのスライムがこちらを見失っている間に里まで逃げて」

「お前はどうどうすんだよ?」

「あのスライムを片付けるよ。そんなに強くないけど、君たちを庇いながらだとちょっと動きにくくてさ。終わったら帰ってくるからアリスをお願いね」

「い、いいけどよ……」



 ノアがアリスの方に視線をやると、まだ顔が真っ赤になっていた。いや、正確に言えば、耳が真っ赤で顔は手で覆っているため見えないが手で隠しきれていない隙間から真っ赤だとわかる程だ。


 そんな彼女にアッシュは頭を撫でる。



「大丈夫? 息がしんどそうだったから空気を分けたけど、もしかして毒まで吸い込んじゃった? 身体、大丈夫?」

「…………ッ …………めて、だった、の……」

「ん?」



 か細くて聞き取れない。顔を近付けて耳を傾けると、ソッと顔から手を外して顔がようやく見えた。


 が、その表情にアッシュは驚く。


 顔が真っ赤なのはわかっていたが、少し涙が瞳に溢れていたからだ。


 もしかして、毒の影響で? いや、それとも、自分の炎の調整をミスってしまい、彼女を火傷させてしまったのかもしれない。



「あ、アリス? ご、ごめん! 何処か悪いのかい? それとも、炎で火傷しちゃった?」

「ち、違……ッ ちが、うの……ッ」

「?」



 首を傾げていると、アリスは目を逸らして震える口で呟く。



「わ、私、その、……き、キス、その、は、は、初めて、で……。ファースト、キス、だったのよ……!!」

「……えっ」



 きす? キス……? なんの事だろうとアッシュは思考をフル回転させるが、キスしたというのは、どういう事なのだろうか。


 理解が追いつかないでいると、アリスはそんな彼にまだ顔を真っ赤にして両頬を摘む。



「私のファーストキス! し、しかも、舌入れるってどういう事よぉ!! 心の準備も何もなしでしないでぇー!!!!」

「し、舌……? ……あっ!!」



 キスというのは先程の口移しでの空気を渡した時の事か!


 ようやく理解したアッシュまで顔を真っ赤にして首を横に振る。



「ち、違う違う! さっきも言ったけど、君が苦しそうだから空気を渡しただけだよ! ほ、ほら、よく、じ、人命救助の時に人工呼吸とかするでしょ?! き、キスとか、そういうつもりでした訳じゃないから!!」

「人工呼吸ですら私はした事ないわよ!!!! というか、そんなに否定されると、傷つく!! 私とキスするのは、人命救助以外ですんの嫌なの?!」

「そ、そういう訳じゃ……!! ぼ、僕は自分が嫌いな人にはそういうのしないよ!! じ、人命救助の時は、ひ、人にはよるかもだけど……」

「人によるって……、じゃあ、何よ!! 人のファーストキス奪っておいて、どうでもいいの?! 私の事、好きなの?! 嫌いなの?!」

「いや、好きだよ!」

「ふぇっ?!」



 言い訳、いや、これは言い訳なのだろうか。とんでもない事を口走った気が……。


 アッシュも耳まで真っ赤になりながら、それどころでは無いと自分に言い聞かせ、首を振って冷静を取り戻そうとする。



「と、とにかく! あ、危ないからノアと里に戻ってて! は、話は後で!!」


(俺は何を見せられてんだろうか……)



 主であるアリスとアッシュの混乱状態をどう見ればいいんだろうかとため息を吐きながらも、現在進行形で危ないのは変わらない。まだ顔が茹でダコのようになっているアリスの服を引っ張る。



「んじゃあ、俺らは里に行くけど、後でエドワードに怒られてこいよ」

「うぅ……っ ほ、本当に、邪な気持ちとか無しで、最善を選択したつもりなのに……」



 グッと親指を立ててノアは呆れながらも笑う。アリスの手を引きながら、後ろをもう一度見ると、やってしまったと言わんばかりに顔を手で隠しながらため息を吐いているアッシュの姿が見えた。


 まぁ、コイツの珍しい動揺した顔を見れたことだから後でからかって遊んでやろう。


 そう思うノアに連れていかれるアリスはまだ顔が赤いがハッとして、走り去る前に振り返る。



「あ、あと、アッシュ!! 出来れば――」

「わかってるよ! いいから、早く行きなよ!」

「わかってるなら、よし!」



 アリスは親指を立てて、ノアと一緒にその場を後にした。


 彼女たちが立ち去った後、ため息をしながら、赤くなった顔を冷ますため手をパタパタとし、炎の向こうにいるであろうスイの方をむく。


 彼女の事だから話をしたあの魔物たちは対話ができる、だから殺さずにいて欲しいと言うのはわかっていた。特に、あのスライムはレインの姿をしているとはいえ、人のようにしか見えない。



「はぁ、魔物なんだから倒した方が早いんだけどな……」

「あれ、お前だけ?」



 天井と壁が無くなった小屋だった場所にスイは降り立つ。



「まぁいいや。お前殺してさっさとご主人様の元に帰りたいんだよ」

「出来るならいいねぇ、雑魚モンスター」

「ハッ 絶対に潰す」



 ピキッとイラついた顔をしたスイは指を銃の形に変える。


 余裕そうに笑うアッシュは口元を袖で抑えていとゴホッと咳き込む。口元を抑えていた袖を見ると、血が滲んでいた。



(さっさと終わらせないと面倒だな……)



 血を拭い、アッシュは剣を顕現させ、スイに切りかかる。



 ◇ ◇ ◇



 その頃、アラネアに連れ去られていったエドワードは糸で縛られたままのエドワードはどうにか糸を解こうと藻掻(もが)くがキツく絞まるだけ。


 抜け出せない……!


 苦悶な表情を浮かべ、移動するアラネアに向けてエドワードは叫ぶ。



「うぐ……ッ! あ、アラネア!! アラネア、頼む!! 引き返してくれ!!」

「?」

「アイツらは私の大切な仲間だ!! お前の仲間、あのスライムを止めてくれ!! 頼む!!」

「……? ゴ主人様、ノ、大切ナ、仲間?」

「あぁ、そうだ! だから、アイツを止めてくれ!」



 ジタバタをしながらそう叫ぶエドワードに、アラネアは動きを止め、首を傾げる。



「大切ッテ、何?」

「えっ? あー、なんと言うか、その……」



 この魔物に”大切”って言葉は伝わるのか?


 どう伝えるか頭を悩ませて、ハッとする。



「お前は一緒にいたスライム、アレはお前にとっては大切じゃないのか?」

「……スイ、ト、スラ、ハ、ズット一緒ニ居タ」

「そのスイとスラが傷ついたり居なくなったら、もう会えなくなると、どう思う?」

「嫌ダ! 居ナクナル、ノ、嫌……」

「それが大切っていうことだ。お前がその二人が大切と思うのと同じくらい、私もアイツらが大切なんだ」

「……デモ、スラ、死ンダ。ダカラ、スイ、ハ、仇討チスルッテ……」

「……死んだのは、スラの(ほう)なのか?」

「ウン……」



 ションボリとするアラネアは、ゆっくりと地面にエドワードを降ろす。



「それは、その、すまないことをしたとは、思う。魔物と人では殺したり殺されるものではある、というのは言い訳かもしれない。私のワガママで、本当にすまないと思うが、それでも、力を貸してくれないか?」



 コイツからすればアッシュは仇というのも否定はしきれない。だが、理解出来てないところもあるが、それでも、守護者として、アリスを助けたいというのが優先になる。本当に一方的でこちらのワガママになるのは申し訳ないが……。


 エドワードが少し俯いていると、アラネアは戸惑いながらも、彼に巻き付いている糸を解く。ようやく身体が自由に動かせるようになったエドワードはすぐには逃げず、アラネアの頭を撫でる。


 撫でる頭が心地よいのかゆっくりとその場に座るように手が無理なく届く体勢にしゃがむ。



「…………ジブン、ドウシタラ、イイカ、ワカラナイ。ゴ主人様、ノ、オ願イ、モ、聞キタイ、ケド……」

「えっと、そうだよな。アイツの、お前の大切なやつからも任されてるからな。けど、その、お前は悪い魔物……? には、私も思えない。お前たちが人を食べないと約束をしてくれるなら、私もアリスたちにお願いしてなるべくお前たちが寂しくないようにするし、助けになりたい。これならどうだ?」



 アラネアたちが、私を狙うのもご主人様とやらが捨てたのが原因でもある。

 人喰い魔物であっても、約束が出来ればもしかすれば……。こう考えるのも、アリスの影響なのかもしれないな。魔物は殺すものって、ずっと思っていたのに、まさかコイツらが喋るからって、同情する事になるとは。


 ルーファスたちにもどう説明するべきか……。


 ため息を吐いていると、アラネアは目を輝かせながらコチラを覗き込む。



「ゴ主人様、一緒、ニ、居テ、クレル?」

「……あぁ、約束する。だから、止めるのを手伝ってくれるか?」

「……ウン!」



 嬉しそうな様子のアラネアにエドワードはにっこりと笑う。



(それに、アラネアの話で、あのスライムの名前もわかった。スイ、か。名前を呼べば止まると言ってくれていたし、これで――)



 これで止められる。


 そう思った矢先、グラリと意識が、視界が、大きく黒い手で遮られ、頭に声が響く。



『「なんだ、まだあったとはな」』



 その言葉が、何故か自分から聞こえた気がした。


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