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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:人間の真似事2

 雨が降る外で、ミラースライムであるスイはボーッと森を眺めていた。



 ねぇ、ご主人様。何故あなたは、我々を置き去りにされたのか?

 ボクらはあなたに造られた。以前の記憶も、魔物だった時の記憶も、人だった時の記憶も、何もかもがなくっていて、ボクらには、あなたにしか居ないというのに……。



「ボクらが魔物の姿のままだからと思ったのに、なのに今度はボクらを忘れたのかな……」



 今、閉じ込めてあるご主人様はあの時のご主人様とは話し方も、お姿も違う。けど、よくご主人様は会いに来てくれていた時はよく姿がコロコロ変わっていたから気にはしてない。スラとアラネアは人間の見分け方を意識してないからわかってないみたいだけど、ボクは、わかる。



「……ご主人様は、てっきり魔物の姿のままだから、ボクらを捨てたと思ったんだけどなぁ……」



 それとも、もっと別の事で捨てたんだろうか。


 ”はぁ”、とため息を吐いていると、ドスンッと地響きを鳴らして、呼んだアラネアがこちらに来た。



「スイ」

「あら、早かったね。アラネア」



 スイに呼ばれたアラネアが近寄るとソッと顔に触れて撫でる。撫でられるのが気持ちが良いのか触れる手に向けてアラネアの方からも手に頬を埋める。



「スイ、ドウシタ?」

「それがさ、どうやらスラがやられちゃったみたいだ」

「エッ、ヤラレタ?」

「そう、狩られちゃったのかも。ボクとスラはひとつの個体だったからスラの事を何となく気配でわかるのに、それがパタリと消えた」



 地面が揺れるほどの衝撃の後からスラからの思念が途絶えた。元々二人でひとつだったからか、アイツが見ていたものや聞いたものが時々だがボクの中に届く。

 いつも届いていた思念が来なくなった、ということは……、そういう事だろう。



「スラ、イナイ、寂シイ」

「そうだね。ずっとボクらは一緒だったから」

「……誰ガ、スラ、酷イ目、アワセタ?」

「ボクも知らない奴だったよ。でも、酷い目に合わせた奴の事で、スラの思念から聞こえた単語、”アリス”、とかいう名前があった。それってご主人様が大事に(かか)えていたエサの名前と同じだ」



 偶然なのか、必然だったかは分からない。ご主人様には悪いけど……。



「家族を殺されたって時は敵討ち、っていうのを人間はするって聞いたことある、よね。アラネア」

「……ウン」

「なら、敵討ちとしてボクらが喰べちゃおう」



 そう言って、スイはペロッと舌なめずりをする。



「いいよね? ご主人様」



 ◇ ◇ ◇



 コンコンッと音がアリスの耳にも届いたのか、祈りを捧げ終えた後、エドワードの後ろに隠れて怯えた様子で音の鳴っている方をジッと見つめる。



「な、何? 何の音?」

「ノックの音のようなものだが……、自然になるような音じゃないのは確かだな」

「えっ、えっ?! ま、まままま、まさか、ゆ、幽霊とか?! ムリムリムリムリムリムリムリ!!!!」


(相変わらず、幽霊の類は嫌いなのか……)



 ため息を吐いて、エドワードは顕現したままの(三日月)に手を添える。ゆっくりと音の方へと近づくと、睨んでいた床下がギギギィ〜ッと音を立てて、開く。



「お、いたいた」

「の、ノア?!」

「おう」



 開いた床から身体を乗り出して、出てくるとアリスとエドワードの身が無事なことにノアはホッとする。



「二人とも無事で良かったぜ。怪我とかはねぇか?」

「あぁ、大丈夫だ」

「ノアぁ〜!」

「うおっ?!」



 ガバッとアリスはノアに抱きつくと頭をグリングリンと撫で回す。髪がボサボサになるほど頭を撫でられたノアはモゾモゾと抜け出す。



「つーか、お前らなにしてんだよ。んなところで遊んでよ」

「遊んでない、バカかお前」

「助けに来たのにバカってんだよ?! バカって!!」

「魔法が使えないし、出口も分からないから出る手立てがなかったんだ」

「まぁ、潜入した感じ、人じゃ届かねぇところに入口あるし、さすがに無理あんだろうな」

「チビのお前に言われるとなんか腹立つ」

「なんでだよ?!?!」

「アンタら仲良いわねぇ」



 アリスがケラケラと笑っていると、ズシンッと重い、気配の重圧を感じる。強い殺気にエドワードとノアは咄嗟にアリスを後ろへと隠して、周囲を警戒する。


 二人に後ろへと引っ張られて驚くアリスはズザザッと地面に膝をすさせながら転けた。



「うきゃっ?! な、何っ?!」

「おいおいおい、マジかよ。レインじゃねぇか」



 天井に近い位置にアラネアとレインがこちらを見下ろしていた。


 だが、アラネアの話によればアレは――。



「アレはレインじゃない、魔物だ」

「えらい詳しいじゃん」

「そこの蜘蛛の魔物、アラネアから聞いた」

「え、仲良くなったのかよ?」

「うるさい、情報収集してただけだ」



 とはいえ、私も、ノアもアリスを守れるほど強い訳ではない。特にこの魔法を封じる部屋。封じされた魔法陣さえ破壊出来ればある程度は乗り切れるかもしれない。せめて、覚醒しかけたリリィがいればどうにかなるだろうが……。


 警戒しながら視線で魔法陣がないか辺りを見るが見当たらない。


 その視線に気づいたのか、レインの姿をしたスイはニッコリと笑う。



「ご主人様、魔法陣を探しても無駄だ。ここには無いから。それよりも、ご主人様、その後ろに隠しているエサを、ボクらにくれないかな?」

「何だと?」



 アリスに向けて指を()すスイをエドワードは睨むが、ソレにも臆すこともなく笑顔のまま続ける。



「あ、でも、ご主人様はそれ大事って言ってたもんね。貰えないなら――」

「ッ?!」



 パチンッとスイが指を鳴らすと隣にいたアラネアは糸を吐いて、エドワードを絡め取り、引き寄せる。唐突のことに反応も出来ず、両手も塞がれてしまった。


 蜘蛛の糸をどうにか解こうとしても、もがけばもがくほどキツく締まっていく。



「くっ……ぅ……!!」

「ダメだよ、ご主人様、危ないから大人しくしてて。あのアリス(エサ)が貰えないなら、そこの(エサ)と一緒に殺して、晒して、敵討ちのために使わせてもらうから」

「なっ?! アリスたちに、手を出そうとするな!!」

「や〜だ」



 蜘蛛の糸で縛られているエドワードの頬を愛おしそう撫でているが、彼を心配している割にはかなりキツく縛られていて肺が圧迫されるほどにギリギリと絞まる。


 抵抗なんて一切許さないと言わんばかりだった。


 アラネアとスイの方へと連れていかれたしまった苦しそうにするエドワードにアリスがノアの背中から乗り上げるようにスイ立ちに向けて今度は彼女が指を()した。



「ちょっとアンタッ!!!!」

「ん?」

「うちのエドワードを返しなさい!!」

「は? お前の? いいや、違うね」



 不機嫌な顔をして、スイはエドワードに触れている手とは逆の手を前に出すと、ドロリと粘液状に変化させる。



「ボクらのご主人様だ。口を慎め、エサのくせに」



 粘液状に変化させた腕を振るうと、広範囲に蜘蛛の糸のよう広がる。



「危ねぇ!!」

「きゃっ?!」



 その糸に直感でノアが触れたらマズいと思い、アリスの腕を引っ張り、躱す。


 躱すと先程の粘液は壁や床に当たる。そしてそれらは、ドロリと溶けてしまう。溶けた床を見てアリスとノアはギョッとしている間にも追撃が飛んでくる。



「やべぇって、やべぇ!!!!」

「と、溶けるのは勘弁よ!!」



 ドタバタと走り逃げ回るが流石に狭い部屋の中。思うようにも動きずらい。今は上手く逃げられていても次第に逃げ場がなくなってしまい、殺される。



「お、おい! やめろ!!」

「やめないよ、ご主人様。……ねぇ、ご主人様、ボクの名前、わかる? もし分かったらやめてあげる。ご主人様はアラネアの名前は聞いたからわかったんだろうけど、ボクの名前、呼んでくれないし、それに、あのエサたちは仇だから。やめて欲しかったら、ボクの名前、呼んで。きっとボクらの名前もアラネアから聞いてるだろうけど、間違えたら、ご主人様のこの後の命令、ボクは耳を傾けて聞かない。アイツらは殺す」

「ッ!!」



 コイツの名前……?! 名前って言ったってアラネアからはスイとスラとまでは聞いている。だが、どっちなのかは聞いていないし、そもそも、その二択かどうかも分からない。間違えたら、アリスとノアが……ッ


 名前なんて、わかるわけが無い!!


 焦っているのエドワードを他所に、スイは攻撃を続ける。



「ほらほら、避けないと溶けちゃうぞ」

「だあぁああああ!! アリス! 結界魔法とか、張れねぇの?!」

「ここで魔法使えないのにそもそも出来ないわよ!」

「ちくしょう! せめてリリィを連れてくりゃあよかった!!」



 叫んでも後の末路だ。溶けていく床と壁、天井も溶けてきて、雨粒が部屋の中へと侵入してくる。溶けた床と雨でぬかるみ、アリスはばランズを崩す。



「ぷぎゃっ?!」



 顔から思いっきり転けてしまう。倒れたアリスをノアが急いで立たせようとするがもたつく。


 そして、スイが指を銃のように構える。



「ばん」



 一言そう呟くと、スイの指先から勢いよく水玉が発射され、躱すことが出来ないことを悟り、アリスは顔を逸らしてギュッと目を瞑る。



 バスンッ



 衝撃音と血飛沫が部屋を響かせた。


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