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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:人間の真似事1

 転移魔法で里の入口へと辿り着いたアッシュとアヴェルスは、何やら騒がしくしている里の様子に驚く。



「……なんだいこれは?」

「お、俺も知らねぇよ。ちょっくら里のやつ1人とっ捕まえて聞いてくっから、そこで待ってろよ」



 そう言ってアヴェルスはアッシュから離れて急ぎ足で何処かへと避難している様子の里の人へと声を掛けに行く。


 アヴェルスが聞いている間、待ってはいたが少し考えた後、アッシュは彼を放置してアティたちがいる屋敷へと向かう。


 屋敷へと到着すると、アティがちょうど屋敷から出てくるところで、戻ってきたアッシュの姿を見てハッとし、扉の向こうにいるであろう誰かに向けて振り返る。



「お父さん、帰ってきました!!」

「えっ!」



 この驚いた声的にルーファスだ。帰ってきたことを伝えると、アティはアッシュに向けて走り出し、そのまま飛びつく。



「おかえり! お父さん!」

「ただいま、アティ。ねぇ、今どういう状態なのか教えてくれるかい?」

「そ、その、実は――」



 ◇ ◇ ◇



 同時刻、エドワードは埃の舞う部屋で床に向けて両拳をダァンッと叩きつけて嘆いていた。



「絶対に無理だ!!」

「大丈夫、大丈夫! ()()は行けるわよ!!」

「何処を、どう判断して、いけるかと思ったかわからん!!」



 ギャーギャーと騒いでいるエドワードと何やら楽しそうに言うアリスはここを脱出するため、作戦会議をしていた。


 が、何故かエドワードはかなり嫌がっている様子だった。



「だいたい、お前のアイツらが言うご主人様とやらのイメージはどうなってるんだ?」

「問題ないわよ! だってアンタの普段の態度でもそんなに違和感なく話してきてたんでしょ? 若干近いならあとはちょっとしたわがまま? 傲慢さとか、強気な姿勢が大事よ! きっと!! 多分!!」

「その、無駄に出てくるお前の自信は何だ……? 勘弁して欲しいんだが……」



 そう、アリス(こいつ)が言いたいのは、傲慢な態度で相手に主導権を握られないようにして強気に出て、脱出を図ろうというものだ。


 それが出来て、問題ないならいいが、このやり取りは実は3回目だ。あの蜘蛛の魔物が来る間に何度か作戦を練りつつ、脱出を試みている次第だ。


 初めは怖がったフリをして、ご主人様とやらに思えない態度を取って脱出をするというところだが、それも効かない。次はフレンドリーに行こうと言う話になり、それを試すが、逆に懐かれて意味がなかった。


 なんならこの状況をコイツは楽しんでいるんじゃないかと思い始めている。絶対に本来の目的をコイツは忘れてるだろ……。



「私がやるからって、お前、遊んでないだろうな?」

「え、え〜? そ、そんなことないわよぉ〜……」



 目を泳がせて、視線を逸らす。



(あ、コイツは遊んでいるな)



 痛む頭に手を当てて、深いため息を吐く。

 とはいえ、このまま出られないのも本当に困る。アリスだけでも外に出せれば一番いいんだが……。



「……ねぇ、またアンタ、私だけ外に出せればいいとか思ってるでしょ?」

「当たり前だろ」

「私だけじゃダメよ。アンタも一緒に出るの!」

「……とはいえな、アリス、お前は神子だ。お前の身が一番の最優先だ。私は、まぁ、アッシュが戻ってくるまで無事でいればいいと思っている。今のところ、アイツらの目的は私だ。変に暴れなければ悪いようにはされんだろ」

「それでも何かあったら嫌よ。私が後悔するの」

「お前な……」



 コイツは改めて神子の自覚はあるんだろうか……。


 呆れているとアリスは両手をパンッと叩く。



「さて、とにかく、傲慢な感じで! まずはエドワードが思う強気な人は誰?」

「え? つ、強気な奴? 強気、強気……、強気といえばグレンか?」

「それはあるわね。あと、傲慢な人! 身勝手で自己中とか!」

「アリスの事か」

「私の時に即答すんな、叩くわよ」



 ハリセンのようなものを取り出したきたがそれをサッと避ける。


 かなり的を得ている気がするんだがな。



「……はぁ、まぁいいわ。それをこう、ハイブリッドするのよ!」

「は、ハイブリッド?!」

「そう! 掛け合わせよ、掛け合わせ!」

「お、おぉ……」



 なんだか無理難題をまた言われている気がする。今のところ此処に来て、脱出のための作戦のやり取りをしているのがレインじゃなくて、蜘蛛の魔物の方でずっとやっているからいいが、そろそろ怪しまれそうだ。


 ため息を吐いていると、再び蜘蛛の魔物がミシ、ミシ、と音を立てながら現れた。



「ゴ主人様、エサ、デキタ、持ッテキタ」

「えっ! ご飯?!」

「おい、アリス……」



 蜘蛛の魔物がご飯と言うとアリスが目を輝かせていた。朝から何も食べておらず、かなりお腹を空かせていたからご飯と聞いてさらにお腹がグゥ〜ッと鳴る。



「オ前ノ違ウ、ゴ主人サマノ」

「え〜、いいじゃない! 私もお腹空いたのよ!」

「……ゴ主人様用ナノニ……」



 アリスの圧に負けてか、ブツブツと文句を言いながら、ドチャッと目の前に何かが置かれる。置かれたそれは二つ。


 一つは、ウサギだ。死んだウサギ。赤い目をしたウサギと、もう一つは、首の無い人間の子どもの死体だった。


 その死体を見てアリスはビクッとすると、視線を逸らすようにエドワードの後ろへと逃げる。



「ナンダ、喰ベナイノ? 喰ベタイ、イッテタノニ」

「う、ウサギは、まぁ、旅でたまに捕まえたりはしてたわ。で、でも、その子……、あの里の人たちの誰かの子でしょ?」

「エサ、出処、気ニナル?」

「き、気になるんじゃなくて、私たちは人を食べたりしないわ。それに、そういうの、正直やめて欲しいというか……」

「エサノ言ウコト、聞カナイ。ソレニ、ゴ主人様ハ喰ベテタ」

「「 え”っ?! 」」



 エドワードとアリスは声を揃えて上げる。


 まさか、その”ご主人様”とやらも人喰いするなら、同じ魔物なのか?

 そんな奴と私が似ているなんて、正直、嫌だ。



「わ、悪いが、私も人は食べん。というか、お前たちは里の人間や外からきた兵士を食べているんだろうが、私たちは人を食べない」

「? コレハ外ノ人間、ジャナイ。外ノハ、ソンナニオイシクナイ。コレ、家ニ保管サレテイル、ゴ主人様用」

「外の人間じゃない? 家? お前たちは食べるものがいないから人里まで来て食べてたんじゃないか?」

「違ウ。家ニアルモノ、全部、ゴ主人様ノ、ダカラ食ベレルモノ、ナイ。ダカラ兄弟、スイ、スラ、ト、里デ、狩リシテル」

「スイとスラ?」



 エドワードが再度、聞くと小さく頷く。


 おそらくは他の仲間の名前、とは思うが、コイツのような魔物が他にもいるのか。コイツが兄弟と呼ぶなら同じ蜘蛛の魔物か。それともまた別の魔物か。情報がもう少し欲しいが、どうしよう……。あまり聞きすぎても危うい。が、話が今のところ話が通じないわけじゃないから聞けるだけ聞いてしまおうか。


 というか、もうそろそろ、そのご主人様とやらの真似をするのも限界な気がする。人を喰うあたりでもう真似できる気がしない。アリスから傲慢な真似をしろと言われたが、ここまで話せばその必要もないだろう。



「……あ、そうだ。お前には名前は無いのか?」

「兄弟カラ、アラネア、呼バレタ、レテル」

「そう、か。ならアラネア、もう少し話をしないか?」

「ッ! 話、シタイ! ゴ主人サマ、オ話!」



 蜘蛛の魔物のはずだが、うっすらと犬のシッポのようなものが見える気がした。それに、引き出せる情報があるならなるべく引き出して、後の突破口になればいい。



「……まず、何故、私をご主人様と呼ぶ? お前たちが私をご主人様と呼ぶのには、どうも気になってな」

「ゴ主人様ハ、ゴ主人様」

「いや、それは分かった。そうじゃなく、私をご主人と呼ぶにあたる根拠が分からない」

「コン、キョ……?」



 アラネアは首を傾げながら、先程の首の無い子どもの死体の腕を引きちぎり、皿に盛り付けていく。盛り付け死体の乗った皿を再度、エドワードに差し出したが手を前に出して首を横に振う。



「そうだ、根拠だ。私はお前たちが言うご主人様ではない。他人だ。それなのにお前たちはずっと私をご主人様、ご主人様と呼んでくる。なら私をそう呼ぶ判断したものがあるはずだろ」

「……判断、ナラ、アル。自分タチ、人間ノ姿、見分ケラ、デキナイ」

「顔も声も違うのにか?」

「ミンナ、同ジ、エサ、シカ見エナイ」

「えー、私とエドワードも見た目こんなに違うのよ?」

「……? ? 姿ハ、同ジ、シカ、見エナイ」

「うっそーん」



 流石に女と男じゃ違うし髪の色も違うのにと思ったが、ある意味では、魔物たち種族や種類がわかっても同じ見た目のものだと見分けなんてつかない。家畜や動物で例えれば性別なんてものも人目では分からない。


 コイツらからすれば人間はエサと呼んでいるから食べ物にしか見えない。見た目で判断が出来ないのかもしれない。


 なら、尚更、何故ご主人様と呼ぶのか。



「なら、私の見分けなんかつかないだろ?」

「ケド、ゴ主人様、ハ、見タ目ジャナイ、モット、別、トテモ分カリヤスイ」

「わかりやすい?」

「魔力、デ、ワカル」

「魔力?」

「ウン、ゴ主人サマの魔力、ハ――」



 アラネアは言葉の途中で止まり、どこか違う方を向く。


 何かあるのかと同じ方を向くが、ただの壁しかない。



「アラネア?」

「ゴ主人様、待ッテテ、スイ、ニ、呼バレタカラ」

「あ、おい!」



 こちらの制止を無視して、アラネアは壁から天井へとよじ登り、姿が無くなる。残った二人は互いに顔を見たあと、目の前にある首なし死体だったものの前にアリスは近寄り、手を合わせる。



「……ごめんなさい、今の私じゃあ、祈ってあげることしか出来ないの。女神の御心へ還れますように……」



 直接的な原因ではないとは思うが人の命が、ましてや子どもの命が亡くなったのは痛ましい。


 痛ましいはずなのに……。



(……何故だろうか、アリスがこの知らない子どものために哀悼の祈りを捧げているのに、何とも思わない。前は同じように祈ってあげていた、はずなんだがな……)



 知らない人のためにする必要があるのかと最低な考えを持ってしまっていることに内心、戸惑っていると、後ろの床からコンコンッと音が耳に入ってきた。

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