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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:悪魔と呼ばれる者2

7/12は投稿お休みです

 グレンから借りたフードを被っていると、横からジャンヌが顔を出してくる。ツノの事もあるのが、先程の事もあり、借りたフードを深く被る。



(今更ながら、彼女たちがいるのを忘れてました……。絶対にツノも眼も見られています……、よね……)



 先程の威勢は何処に行ったのかと思うほど急にシュンッとするユキはアッシュの後ろへと隠れていく。その様子にジャンヌは目をパチパチとさせて、ニヤリと笑う。



「何だ? 先程までの容赦の無さそうな堂々とした姿が無くなったじゃないか」

「え、え〜と……その……」



 言い訳もどうも思いつかない。アッシュとグレンのみならそんなに気にはしないけども、先程知り合ったばかりとは言え、何を言われるか分からない。


 これ以上は聞きたくないのがわかったのか、アッシュはソッと彼のフードに手を入れてユキの耳を塞ぎながら遮音結界を張る。手で塞いでいても聞こえる可能性もあるからだ。


 結界を貼った後、アッシュはジャンヌの方へ顔を向ける。



「ねぇ、ジャンヌ。ユキの事をどう思うんだい?」

「どう?」

「さっきの見てたんでしょ? ツノも」

「……あぁ、そういう意味か。悪魔の事なら私たちは追求はせんぞ。よく魔族の事をどうこういう輩もいるが、それと一緒にされては困る」

「そ、ならいいや」



 その答えを聞いてアッシュはユキの耳から手と結界を解除し、フードを軽く(めく)る。



「大丈夫だよ、ユキ。ジャンヌたちは君を傷つけないって」

「あ、え、えっと、その、すいません……」



 それでも顔を見せないユキにジャンヌは大きなため息を吐いて、ズカズカとユキに近寄って、肩に手をガッと力強く置く。



「ユキ」

「は、はい?! な、なんでしょうか?」

「貴様、正式に私の隊に入らないか?」

「…………は、はい?」

「貴様の先程の力は素晴らしい! 圧倒的な氷魔法! 容赦ない追撃! それだけの力を野放しにするなど勿体ないからな!!」

「い、いや、入りませんからね?! ぼ、僕は悪魔ですよ?!」

「それがなんだ? 種族なんぞで優秀な者を淘汰(とうた)するのはソイツの(ひが)みと嫉妬だ。それによく魔族が魔物だとかどうとか()かすバカが居るのは知っている。さっきも言ったが、種族がどうこうよりも貴様の力に私は気に入ったのだ」



 キラキラとした眼でそういうジャンヌは嘘をついていない。魂を視れば嘘をつく人は小さく揺らめく。けど、この人は本心でそう言っているのがよくわかる。


 わかるからこそ、逆に戸惑ってしまう。今までの人間、アヴェルスで例えると一番早いが、悪魔と知れば騒いだり、否定的な人たちが多かった。なのに、この人はそうでは無い。


 どうしたらいいか分からず、チラッとアッシュに助けを求めようとしたが、何処かへと歩いていってしまっていた。


 突然、どこかへ行くものだからユキも今度はグレンの方を見るがクスクスと笑っていて助ける気は毛頭ないようだ。



「どうだ?」

「ど、どうだと言われましても……、僕は、その、大切な仲間が居ますので、ご遠慮させていただきます……」

「む、そうか……。なら、仕方ない。何時(いつ)でも私たちは歓迎するぞ」

「それは、恐れ入ります……」



 真っ直ぐすぎて彼女の顔を直視出来ない。とはいえ、例え彼女について行くとしてもマーダー帝国に入るのは正直、嫌だ。


 ユキはフードを再び深く被っていると、視界の端で腰に布切れを巻いたジークフリートがジャンヌの元へと来ると、跪く。それに気付いたジャンヌもジークフリートの方を見る。



(そう言えば、バタバタして後回しにしてしまいましたが、彼は何故ここに? 全裸で現れたのは心底驚きましたが、目の前で現れた時にジークフリートと呼ばれていましたので彼がおそらく本物の副隊長なのかと思いますが……)



 フードの隙間からチラッと見ていると、グレンが腕を前に組みながらジッとジークフリートを睨むような視線を向ける。



「それで、ジャンヌ、ソレは本物のジークフリートか?」

「一応、確認済みだ。どうやら三日ほど前に連れ去られたらしい。油断していたとはいえ、情けない」

「副隊長が?」

「あぁ、副隊長あろう者がこの(てい)たらくでは話にならん。帰ったら鍛え直しだ。私も含めな」

「……ちなみに、どういう状況で連れて行かれたんだって?」

「…………………………、夜間の手洗い中だそうだ」



 心底、嫌そうな顔をして告げるジャンヌの内容に、思わずグレンもため息を吐いた。


 跪いているジークフリートもなんとも申し訳なさそうにしている所を見れば一応、本物なのはよくわかった。


 その間にアッシュはキョロキョロと何かを探す。



(確か、最後に見えたのはこの辺りだったはず……)



 僅かに感じる魔力を辿ると――



「あ、いたいた」



 それは小さなうねうねとしたモノ。ミラースライムの残骸と呼んでもいいほど、かろうじてまだ生きているんだろうと思うような塊だった。



「やぁ、ミラースライム」



 声をかけるとその小さなスライムの塊はビクッと跳ね、その塊を摘むように拾い上げる。



「かろうじて生きているって感じかな? アレで生きてるってのもすごいけど」



 このスライムは本来あるはずのコアが見当たらない。



「まぁ、君にとっては今回は相手が悪かった、という感じかな。じゃあね」



 声すら発することの無いミラースライムを蒼い炎で燃やす。燃やし終えるとまだ向こうでユキが狼狽えているが、今のところ大丈夫だろう。グレンもいるし、こっちの心配は無くなったが今はアリスたちがかなり心配だ。


 悩んでいると、逃げるようにこちらへと走ってきた。



「アッシュ!」

「ん? あれ、ユキ、もういいのかい?」

「いいも何もありません……、ミラースライムは?」

「燃やした」

「あ、トドメさしたんですね」

「まぁね。それに君は体調はどう? 結構膨大な魔力を消費してたけど。君の魔力量はそんなに多くないでしょ?」

「少し身体に倦怠感はありますが、大丈夫です。それより、下の魔物はもう大丈夫なんですよね?」

「うん。卵も含めて全部燃やしたよ」

「でしたら、僕は大丈夫なので、ノアやアリスたちの所へ急いで戻った方がいいかと思います。ジャンヌはマーダー帝国の人ではありますが、グレンと一緒なら多分危害は加えられないと思いますし、悪い方、ではないかと」

「……へぇ、それは彼女の魂を視てそう思ったのかい?」

「はい」

「そっか。まぁ、そうじゃないと君が僕に彼女たちの手助けをしてあげて欲しい、なんて言わないか」



 この施設に入ってすぐ、ユキからお願いされたのは彼女たちが困ったら手を貸して欲しいと頼まれていた。聞いた時は少し驚いたが、アリスたち以外でそう思うのも珍しい。余程、彼女の魂が気に入ったのか、それともグレンの知り合いだから一応なのかは、知らないけど。



「彼女たちは悪魔と知ってもそう怯えられたり貶されたりもしてません。それに少し気になることもあるので此処に残ります。終わったらすぐ戻りますし、僕の方は大丈夫ですから、急ぎ、アリスたちの元に向かってください」

「……ありがと。そうだね、大丈夫なら僕は向かうよ」

「えぇ」



 ニッコリと笑うユキの頭をまた撫でる。撫でなれてないのもあるけども恥ずかしいのか、”撫でないでください!”、と顔を真っ赤にして頭を振って手を振り落とす。


 アティが旅に参加してからは頭を無意識に撫でてしまうのは、悪い癖になってしまってるなぁ。気をつけよう。


 ジャンヌと話しているグレンの元へと向かい、彼の肩を軽く叩く。



「ねぇ、グレン」

「何だ?」

「君たちはこの後どうするんだい? 僕は里に戻ろうと思うんだけど」

「私たちは元々この施設で用事がある。終わったら解散する予定だ」

「なるほどね。じゃあそれまではユキのこと、任せていいかな? 地下の魔物も一掃したし、あとは里にいるであろうあの蜘蛛の魔物くらいじゃないかな? レインの件も少し気になるけど」

「それもそうだな。なら、転移魔法で送ろう。幸いこの階は妨害魔法がかかってないからな。里の入り口でいいならそこに飛ばせる」

「お願いするよ」



 そうお願いすると、パチンッと指を鳴らそうとすると、横からアヴェルスがアッシュの腕を掴む。



「おい!」

「ん? 何だい? チワワ君。あ、間違えた。露出狂がいい?」

「どっちも嫌だわ!! ……って、そうじゃねぇよ。里に戻るんだろ? 俺も送れ」

「なんで貴様も送らないと行けないんだ? 魔力の無駄だ」



 ズバッと断るグレンにアヴェルスは、うぐぅと一瞬(ひる)むが、アッシュの腕を離さない。



「そ、それはそうかもしれねぇ。でも、頼む!! そいつが行くついでなんだろ?! ババァの真意も知りてぇし……」

「だったら自分の足で外に出ろ。私が貴様に魔力を使ってまでするメリットは何だ? 初対面で全裸で出会(でぬわ)した相手に魔力を使って親切にする気は無いぞ」

「そ、う、だけど、よ……」



 言い返しが出来ないのか、アヴェルスは段々と声が小さくなっていく。



「俺は、ババァと長く一緒にいんのに、訳わかんなくなっちまったんだよ。それに、ミラースライム? だっけか? もしババァに化けてしてんなら、俺もどうにか倒す手助け、いや、ケジメつけてやるから……、だ、だから……ッ」

「さっきも言ったが、それは貴様の都合だろ。メリットがないと言っている」

「…………ッ」



 メリット? こいつにメリットがねぇと助けてくれねぇのかよ。送るだけならいいじゃねぇか……!! 早く里に帰って、ガキたちも心配だし、ババァも、もしかしたら……。


 下唇をガリッと噛むアヴェルスに、アッシュはため息を吐く。



「はぁ、君、交渉下手くそ過ぎじゃないかな」

「う、うるせぇよ……」

「……まぁ、いいけど。ねぇ、グレン、彼も一緒に送ってくれないかな? ここで駄々こねられて時間かけられるのも嫌だし。その代わり、ここが片付いたら里に来てよ。美味しいパンケーキ、ご馳走するからさ」



 パンケーキと言われて、ピクッとグレンが反応した。


 彼は以前作ってからパンケーキがすごく気に入ってくれている。アリスも食べたがったりするから、一緒に行動している間、なるべく一緒に作ってあげている。

 一度だけアリスとアティの分だけ作って、グレンの分がない時があったんだけど、その時、表情はいつもと変わらなかったけど、凄く落ち込んでいる、いや拗ねてしまってた事があったから面白かったなぁ。


 チラッとこちらを見て、少し考えた後、口を開いた。



「……わかった。今回はお前に免じて一緒に送ってやる」

「あははっ ありがとう」


(コイツ、怖ぇ見た目に反して甘いもの好きかよ……。交渉以前にわかるかっての!)



 アヴェルスはそう言いたい気持ちを抑えてしかめっ面をしたが、彼は無視して魔法陣を展開させる。



「よし、なら送るぞ」

「うん、よろしく」



 パチンッと指を鳴らして二人を転送させた。


 魔法で転移させた後、グレンはユキの方へ視線を向ける。



「お前は残ってて良かったのか?」

「えぇ、僕は少し気になることがあったので。もう少しだけご一緒させて下さい」

「そうか。なら、私たちは私たちで仕事をする。ジャンヌ、そこの全裸の男の服をどうにかしてから研究所の探索をしつつ、爆発の魔法陣の設置をしてくれ。私はまだ見れる研究資料を探しながら魔法陣を設置する。研究資料の共有は終わった後だ」

「わかった」

「ん。おい、ユキ、お前は私と来い」

「かしこまりました」



 小さく頭を下げ、ジャンヌたちと分かれ、グレンとユキは研究所の探索を開始する。

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