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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:悪魔と呼ばれる者1

7/8はお休みです

 僕は、ノアと出会うまではとても酷く苦しく、寒い、スラムよりも酷い場所で僕は目を覚ました。そこで一番先に目に入ったのは、僕にのしかかり、見知らぬ男が腰を振り、欲望の捌け口にされていた最中でした。


 目を覚ました時には自分がそもそも誰で、なんだったのかも覚えておらず、僕は目の前にいた男は拾っただけとの事だった。

 訳の分からないまま、名前を与えられず、都合のいい道具として扱われ、殺しも盗みも色々やらされ、周りからは魔族という酷く醜い種族だと何年言われ続けて来たのかも、曖昧になるほど、言われて続けていました。


 自我がなんてものは不要で無駄だと要らない僕の自我を何度も無くさせるため、僕を買った男は”黒い雫(ブラックドロップ)”という黒い丸薬のようなものを無理矢理飲まされ、何度も、何度も、気狂いしそうなくらいの快楽や死ぬ思いも苦しい思いもしましたが、正直、特になんとも感じてもなく、憎いということも、恨みもなかった。それが当たり前だと思ってしまっていたので気にもしたことはなかったです。


 でも、時間は残酷なものです。


 何十年経った頃でしょうか、長いこと酷い目に遭っている間に、自分は何故こんな事を何時(いつ)までされ続けられないといけないのか。何故、僕は目を覚ましてしまったのか、疑問という名の気付きをしてしまったのかと酷く後悔と絶望の感情までも目覚めてからは地獄の日々に変わっていってしまったのです。


 そんな時にノアと会ったのは雪の降る日に、奇跡に近いと思うような出会いを致しました。


 あんな地獄から引っ張りあげてくれました。


 僕に、悪魔やソレとかアレとかではなく、”ユキ”という名前を与えてくれました。



「あ? んだよ、名前無いのかよ。んじゃあ、ユキってのはどうだ? こん前、俺の娘が産まれたからさ、男の子が産まれたらつけようと思ってた名前だけどよ、どうだ?」



 あの地獄から、魔族としてでも道具としてでもはなく、”ユキ”という人として引っ張りあげて連れ出してくれた。


 だからこそ、ノアの事はとても尊敬してますし、この世で一番尊く思っているのです。




 ◇ ◇ ◇




 ノアの姿へと変わったミラースライムはゲラゲラと笑いながら左腕はブクブクと肥大化させ、見た目とは不格好となった。それを振り回し、あたりの壁や扉を破壊する。


 急に見た目がノアの姿に変わった事にアッシュは驚く。



「ノア? なんだ君がノアの姿になってるんだい?」

「そりゃあテメェの血の中にある記憶から引っ張ってきた姿だ。どうもその黒髪のゴミ虫とやたらと親しいみたいだからなぁ!! お優しい俺が、テメェの大事なヤツの手で八つ裂きにして、絶望に震えてもらわにゃあ、俺の気がすまねぇんだよ!!!!」

「僕の血?」



 まさか血から記憶を読み取るとは思わなかった。


 だが、土足で人の記憶を踏まれた気がして、イラついた様子のアッシュが剣を抜いて首を跳ねてしまおうかとソレに向けて足を向けた時、自分以外の、それも鋭く氷のように身を裂くような冷たい殺気を感じた。


 あまりも強い殺気にグレンもそちらを見ると、殺気の正体はユキだった。



(ふぅん、コイツもこういう殺気を出すのか)



 ユキの殺気に、何故かグレンは面白いものが見れそうな予感がしたのだろう、楽しそうな顔をしていた。


 ゆっくりとユキはノアの姿へと変わったミラースライムへとピシピシと辺りを凍らせながら近寄る。彼の姿はまるで黒い(すす)にまみれて、姿が認識しずらいようにも見えた。



()()、何のつもりでその姿になりやがってるんですか?」

「あ”ぁ? さっきも言ったろ? テメェの絶望と恐怖を――」

「お前は僕の大切なノアの姿に変えて、穢らわしい口で言葉を発して、侮蔑(ぶべつ)し、貶しやがってるんです……」



 僕の命よりも大切で、尊い、命の恩人でもある彼の姿を偽物だとしても勝手に成り代わって、彼の姿で、彼の声で、彼の目で。


 ジクジクと胸の奥にドス黒いモヤモヤとしたものが滲み出て、喉の奥がキュウッ締まって苦しい感覚に襲われ、ソレは……。



(今まで持ったことの無い感情。これが、憎悪というものでしょうか)



 バキバキと指を鳴らして、顔を上げる。邪魔くさそうに前髪をどかし、足元には大きな魔法陣が現れる。



「万死に値する。楽に死ねると思わねぇことです」

「何を――っ?!」



 ミラースライムは黒い(すす)の奥に見えた彼の姿を目で認識してしまう。先程までなかった、赤黒色(せっこくしょく)の羊のようなツノ。それを持つ種族は、ひとつしか無かった。



「て、テメェ、悪魔か?! あ”ぁあ”!! ンでこんなところに悪魔なんざいるんだよぉおぉおおッ!!」

「やかましいですね」



 そう叫ぶミラースライムの背後からドスンッと氷の槍のようなものが現れ、貫かれる。



「ノアの姿でお前のヘドロ以下の汚い口から言葉を発さないでいただけます?」

「ぐぅうぅうううっ!!!! テ、テメ――ッ?!」



 今度は頭上から大きな氷塊が現れ、頭をグシャリと潰す。



「ノアの姿で、喋るなって言ってるんですよ。分からねぇんですか? 嗚呼、分からねぇですよね。そのちっぽけな液体のような脳には理解ができませんでしたか。それは、それは大変失礼しました。それでは――」



 ユキは左手を上にあげる。彼の背後には無数の氷の氷柱(つらら)が権限され、それらは全てミラースライムの方へと向けられていた。



「ご理解いただけないお前のために串刺しにして原型を元のスライムに戻してやりますよ」

「ッ! ま、待て! わ、わかった、わかったから待――」

「待ちません」



 真顔で上げた左手を前に降ろす。降ろされた手と連動するように氷柱は一気に容赦なくミラースライムの方へと飛んでいく。避ける間もなく一撃、また一撃とその身に受けた魔物は次第にノアの姿から元の液状のスライムへと戻るが、それでもお構い無しに連射は続く。


 ドドドッと地面を抉る程の威力だった。



「そういえば、前にアリスから聞いた面白い話があるんですよね。スライムってほぼ水ですし、氷菓子(フローズン)にして食べてみたいとも言ってたんですよ。スライムを絶妙に凍らせてシャーベット状なんて難しいですが……、お前で試してみるのもいいですよね? 構いませんよね? えぇ、いいと思います。嗚呼、もちろん安心してください。シャーベット状にしても決して食べたりしません。お前なんざ食べてしまうと、食えたものでもねぇですし、お腹を壊してしまいます」



 氷柱の魔法陣とは別に大きな魔法陣を描く。



「”氷魔法:凍てつく霧氷(フリージング・ライム)”」



 氷柱で串刺しにされたミラースライムが形を崩しながらその場から逃げようとしていると、ユキの魔法がそれを許さなかった。


 逃げ場を無くすように氷の霧はほぼ水分であるミラースライムの身体をいとも簡単に凍てつかせていく。凍っていく身体を再度変化させて人の形を取ろうとしても氷に変わってしまっては形を変えることが出来ないのか、無理に動かそうとすればするほど、身体が崩壊していった。



(クソ、クソクソクソクソがァァァァァァァァ!!!! なんなんだ、あの悪魔野郎!! 実力を隠していやがったのか?! まずい、まずいまずい!!!! 氷のせいで声も身体も動かねぇ……!!!!)



 動揺し、焦るミラースライムを魂でその様子を見る。


 恐怖、憤り、困惑、焦り。


 もう少しで、殺せる。ヤツの肉体一つ残らせる気は無い。塵であろうとも残させるものか。


 今まで展開した事の無いほど大きな魔法陣を描く。



「”氷魔法:氷の(コキュー)――”」

「ユキ」



 パリンッと展開した魔法陣を壊され、口を誰かに塞がれて、詠唱が止まる。


 いつの間にか元まで来たアッシュが後ろからユキに声をかけたが、声が届いてないのかこちらを見ない。その間にも彼の身体は段々と姿が変わり、人の姿と言うよりも、本当に悪魔のような姿にも思える。


 黒い煤で見えなくなっている彼の姿だが、迷うことなく、彼の前に行くと両肩に手を置いてもう一度名前を呼ぶ。



「ユキ」



 ようやくユキはピクッと反応してこちらを見た。目の合ったユキにアッシュはニッコリと笑う。



「もういいよ、ユキ。それ以上すると君の魔力切れで倒れちゃうよ?」

「……ですが、アレはノアやあなたの事を侮辱しやがったんです。この程度で、許せるわけがねぇじゃないですか」

「あははっ ノアの事だけじゃなくて僕の事でも怒ってくれたんだ。ありがと、その気持ちだけでも僕は嬉しいよ。でも、これ以上したら君が君で無くなるのは、僕はちょっとヤダなぁ。ノアもアリスたちもきっと悲しむ。そんな奴のために君は、君自身を捨てちゃうのかい?」



 そう言われてようやくハッとする。心配そうな顔をするアッシュは我が子を撫でるようにユキの頭に手を置いて優しく撫でる。撫でられる度に先程までのドス黒いジクジクとしたものが急に晴れ、気持ちも妙に落ち着きが戻ってきた気がする。



「どう? 落ち着いたかい?」

「あ、え、えっと……、す、すいません……」

「いいって、いいって。それよりも瞬殺だったねぇ。やっぱり君は僕よりも強いと思った通りだよ。まぁ、力の使い方としてはアレだけど、まだまだ余力もありそうな感じだし、ちょっとずつ力を使いこなしたら僕を越えちゃいそうだね」

「またまた、そんな適当な褒めはやめてくれませんか?」

「適当じゃないよ。本心」

「うぅ、ホント、勘弁してください」



 徐々に消えた黒い煤のようなものはすっかり見えなくなり、頭にある角以外はいつも通りのユキにどうやら戻ったようだ。困ったように両手を軽く上げて、まるで降参ですと言わんばかりの彼に、アッシュはニッコリと笑う。



「とあははっ 謙遜するのは君らしいよ。というか、その頭のツノ、どうするの?」

「え、ツノ?」



 アッシュに指摘され、自分の頭に手で触れると、頭に二本のツノが生えていた。確かめるようにペタペタと触れていると、段々とユキの顔が青ざめていく。



「つ、ツノぉ?! な、なんですかこれ?!?!」

「あれ、気付いてなかったのかい? 君、その角ツノとか生えて、姿とかちょっと変わりかけてたんだよ」

「き、気付きませんでした……」



 あわあわと震えているユキは生えているツノに触れるが、触られているような感覚があった。


 こ、この角は神経とか通っているのでしょうか……?!



「こ、これ、どうしたらいいんでしょうか……?」

「んー、僕的にはカッコイイからそのままでもいいんじゃないかな?」

「よ、良くないですよ! こ、これだと他の人から目を隠しても悪魔だって――ッ!」



 困惑しているユキにグレンは自身のマントを被せる。突然被せられて、さらに驚きながらもマントを受け取る。



マント(それ)、被っていろ。消し方は私も考えてやるがもぎ取るのだけはやめろ。魔族の中にはツノに魔力を溜め込む者もいる。変に折ると魔法が使えなくなるぞ」

「そ、それは困ります……」



 それを聞いて大人しくマントを受け取り、それを被る。


ブラックドロップの補足です。

以前、第五章の雪の国:スノーレインにてエドワードたちが飲まされた薬です。

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