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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:元凶7

 こうなってしまったのは、ボクの判断ミスと弱さが原因だ。


 事が起こる一年前から異変があった。里の周辺で動物やよく見かける魔物も見当たらなくなってしまい、狩りに支障が出ていた。


 そんな中、半年前に起こった一番最初の被害者はボクが世話をしていた孤児の一人で行方不明になった時は里のみんなと捜していた。捜して二日経った時のことだ。


 行方不明者が出ることは珍しくはなかった。でも、どうしても見つけてあげたかったのと、不安と、焦りで一人で誰も連れず、夜遅くまで捜している深夜の時、ソレに遭った。



「君たちは里の者じゃないな、何者だ?!」



 下半身が蜘蛛の姿をした魔物と一緒にいた中途半端に人の原形を取ろうとする魔物たちが里の中を歩いていた。ドロドロとした姿は明らかに人ではない、冒涜的な存在のようにも思える。



「くっ、魔物め! ボクの里でこれ以上の狼藉は許さんぞ!」

「ハハッ 狼藉、ねぇ。ボクらの食事の邪魔をすると、お前もパクッと食べるよ、と言いたいところだけど、お前は見た目がいいなぁ。その姿、借りようか」

「何を……、ッ?!」



 へらへらと笑う一体のスライムがぐにゃぐにゃと変型していき、ボクの姿に変えて、目の前に立つ。



「ぼ、ボク……?」

「ほらほら、どう? これならボクも人に見えるよね? ご主人様もこれならボクらのところに戻ってくるかな?」

「知らねぇよ。つーかその姿になんのテメェだけかよ。俺はもうちったぁ力のあるヤツの形になりてぇんだけど」

「この里にはそれらしいのは無さそうだけど。それよりも、そこのエルフ、僕の里、という事はこの里で一番偉い人?」



 こんな流暢(りゅうちょう)に話す魔物、しかも知性があるなんて……。何故こんな魔物が里にいるんだ、と動揺してしまった。



「だ、だったらな――ッ!」



 ボクの姿をした魔物はニヤリと笑いながら何かを取り出した。それは、寝ているアヴェルスだった。



「あ、アヴェルス!」

「しー……、少年が起きてしまうだろ」

「……ッ 彼を、どうする気だ?」



 クスクスと笑い、彼の頭を撫でる。撫でていると、彼が目を覚ましたのかうっすらと目を開けてあくびをする。



「んあ……? ババァ……?」

「おや、起こしちゃったかな? いい子だからもう少しおやすみなさい」

「ん〜……」



 寝惚けたままのアヴェルスはむにゃむにゃとして、再び夢の中へと落ちた。偽物のボクは眠ったアヴェルスの頭を撫でるとこちらを見て、不敵に笑う。



「実はボクたちはさ、定期的に食事が出来るようにして欲しいんだ。一年くらい前かな? ボクら目が覚めたばかりだけど、お腹が空いて、空いて、たまらなくてね。兄弟で共食いもしたくないし、外の動物も魔物もだんだんと中々見つからなくて困っているんだ。毎日、てなるときっと困るだろうからさ、そうだなぁ、3日に1回、生贄として誰かを食べさせてよ。あ、もし魔力が多い餌とかだったらもっと嬉しいかな」

「ふ、ふざけるな! 誰がそんな事を!! 魔物どもの言うことなんか聞くものか!!」

「拒否権はない、と言いたいけど、まぁ、断ってもいいんだよ。でも、断るなら、どうなると思う?」



 優しく眠るアヴェルスの頭から、ゆっくりと手が首へと移動して、顔を近づけたかと思うと首元に牙を当てる。



「待て、やめろ!!」

「フフッ この里の人間を、生きたまま全員捕まえて、一生、ボクらの餌場にするのもいいかもね」

「ッ……」



 生きたまま一生……。それはアヴェルスも他のみんなも、という事なのだろうか。


 それは、嫌だ。


 アヴェルスや他の子どもたちまで犠牲にしたくない。あの子たちはようやく人らしい暮らしが出来るようになったというのに……。



「い、生贄になったものは、どうなる?」

「そりゃあボクらの胃袋の中。ドロッドロに溶かして美味しくいただく。それ以外にないよ」



 やはり必然的に喰われて、殺される。そんなの、誰一人として殺したくもないし、犠牲にする訳には……。


 迷っていると、偽物のボクは少し不機嫌な顔をする。



「あまり待たせないでくれよ。コイツ、食っちゃいそうなんだけど」

「ま、待て! わかった、わかったから……アヴェルスを殺すのはやめてくれ!」

「そう、なら交渉は成立ってことだね。あ、この事は誰にも言ったらダメだから。もし、口外したら、その時はこの里を滅ぼしてしまうから、ね」



 嬉しそうにする魔物の要求を呑んだ。


 本来なら断らなければならなかった。けど、もし、あの時に断ってしまったら、きっとアヴェルスは、食い殺されていたし、他の子どもたちも殺されてしまった可能性もあった。


 ……ただ、冷静な判断がかけていたと思う。けど、それよりも、彼らを失うほうが、何よりも怖かった。


 要求通り、ボクは大人の中から生贄として、選んだ人から連れ去られてしまった。


 それでもなるべくどうにか出来ないかと思考した。奴らから逃げられないか。でも、ここ以上にボクらのいられる居場所はない。何処かの国へ行こうにも、ボクらを受け入れてもらえるところなんて、ないと思ってしまっていたから。


 そんな時に、マーダー帝国の人間をたまたま見かけた。彼らは何かを探していたようだが、それでもボクの中での優先順位はどうにかしてでも里の人を一人でも多く助けたかった。だから、マーダー帝国の人間も生贄として、僕は奴らに提示した。


 そのおかげか、3日に一度の生贄は一週間に一度ほどになった。



 ◇ ◇ ◇



 レインは今までの経緯を淡々と話した。


 それをルーファスと、途中から戻ってきたアティたちも聞いていた。



「――こうなってしまったのは、ボクが原因だ。ボクが冷静さを無くして、生贄の提供を同意してしまった。この事がアヴェルスや他の里の人たちに知られるのも怖かったんだ。先生がここに来ることになったのも、アヴェルスが提案して来てくれることになった時は、もしかしたらと、期待してしまったんだ。ボクだけでは、もう、どうしようも出来なかったから……」

「そう、でしたか」



 この里に来たのもレイン君からかと思ったけど、アヴェルス君からの提案だったとは……。



「つーかよ、こんな事態になるまで里のやつ食わせてんのも大概だしいい迷惑だろ。それに、逃げるなり、どうにかすりゃあ良かったじゃねぇかよ」

「ちょっとノアさん!」



 寝起きのノアはあくびをしてそう言うと横からアティが突っつく。


 だが、不機嫌そうにノアは続ける。



「実際そうだろ。問題が起こったのに誰にも言わずにいて、自分以外にも被害が出てんのに黙ってたら、そりゃあ他からすりゃあいい迷惑だろ。俺がこの里の人間だったら嫌だね。なーんも知らねぇのに殺されんだろ? んで、事を大事(おおごと)にしちまった本人はどうしようもできないから他の奴ら巻き込んで、真相も言わねぇでどうにかしてくれるかと思ったぁ? ケッ、くだらねぇ、他力本願すぎんだろ」



 そういうノアはべぇーっと舌を出して呆れたように言い放った。


 ノアの言うことは一理ある。守護者としてもそうだが、レインの話の内容から、もしかしたらもっと被害が出てしまっていた可能性もあった。それを危惧しているからこそ出る言葉なのだろう。



「これでもし、俺らの主様(マスター)であるアリスや仲間になんかあったら、絶対(ぜってぇ)、俺は誰が何を言おうがテメェをブッ殺すからな」

「……すまない」



 睨みつけるように言い放った言葉にレインは目を伏せてしまう。そんなレインの態度にも気に食わないのか、舌打ちをする。



「謝る暇があんなら、さっさと心当たりとやら教えろ。これ以上、テメェに時間を使うのも勿体ねぇわ」

「…………」



 ついにはレインは言い返しすることも無くなってしまった。ノアは彼女から場所を聞くと、何も言わずに部屋を出ていってしまう。


 そんなノアに心配そうにアティは見ていると、ルーファスが少女の頭を優しく撫でる。



「大丈夫ですよ。ノア君は隠密に関してはピカイチですからね」

「……その部分は、正直心配はしておりません。でも、レインさんの事情は許される事は難しいかもですが、何故、あそこまで怒ってらっしゃるのかが私にはよく分からなくて……」

「そうですね、この辺りに関しては守護者だから、というのもあります。君のお父さんも含めて守護者は(あるじ)である神子を何よりも大切にし、誓約によって今の身体が朽ちた後、転生してまた帰ってくるんです。天寿を全うする者もいれば旅の途中で亡くなってしまう者もいて、生前の記憶が稀に引き継がれて転生してくることがあります。ノア君の場合はそれにあたっていて、後者に当たります」

「ノアさん、旅の途中で亡くなっちゃってたんですか?」

「そう、私は聞いております。どういう状態だったかは、おそらくアリス君とノア君にしか分からないです。彼女はハーフエルフなので寿命も長い、見送った時の話はよく聞きましたが、頑なに彼女もその事だけは話そうとはしませんでした。いくら戻ってくるからと言っても、目の前で親しい方が亡くなってしまう辛さは、君がよくわかってるかと思います」

「……うん」



 アリスさんは見た目はヒューマンに近いから言われないとハーフエルフだとは分からない。聞いた時は驚いたがアリスさんはアリスさんなので特には気にした事はなかったけど、目の前で大好きな人や大切な人が死ぬのは辛い。それを何度も見ているなんて、凄く辛いはず。


 なのに、そういう素振りはまだ見た事はない。



「まぁ、そんな感じで彼が酷く怒るのはそういう経緯もあるのでしょう。大目に見てください」

「いえ、教えて下さり、ありがとうございます」

「いえいえ。……では我々も動きましょう」

「はい。エドワードさんがご一緒とは限りません。私たちはエドワードさんを捜しましょう。あと、里の方々の避難も兼ねて」



 一番可能性がある場所へノアがアリスの救出。もしかしたら別のところに捉えられている可能性もあるのでエドワードを捜すのと同時に、魔物が攻めてくる可能性も考え、ルーファスの魔法で騎士団へ里の人たちの避難を開始する。

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