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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:元凶6

 泣いているルーファスの手を引いて、ようやくレインの部屋へと到着した。


 ここは確か、初めてレインさんたちに会った時の部屋だ。


 部屋へ到着すると、リリィは二人の方を振り返る。



「ルーファス、ご苦労。もうどっか行け、邪魔だ」

「扱いの酷さにそろそろ私も傷つきますよ……。それに、アティ君がせっかく私の手を握ってくれているんです。しばらく騎士団の子供たちにも会えてなくて癒しが足りず疲弊していた私のリラックスタイム中なのです。よって、今、かなりと言っていいほど絶対に手を放したくないです」



 そこまでして手を握りたいのか。


 そう思ったがリリィは少し考えて、ドアノブに手をかけながらボソリと呟く。



「……後でアッシュにルーファスが(アティ)に手を出したと言っておく」

「やめてくれません?!」



 吠えるルーファスをまた無視して扉を開けると、何かを探しているレインの姿があった。部屋を見てみると色んなものをひっくり返したと思えるほど引き出しや棚からと物が溢れ、床に散乱していた。


 扉を開けたのも気づいた様子がないので、ルーファスは開いた扉に向けてコンコンッと叩く。



「レイン君、お邪魔しますよ」

「ん? あぁ、先生に守護者の人……と、お嬢さんか。いらっしゃい」

「何か探し物でもあったのです?」

「あぁ、探し物していたんだが……、いや、後で探すからいい」

「え、大丈夫ですか? ここまで部屋をひっくり返して探しているんですから、大事なものだったのでは?」

「…………まぁ大したものじゃない。それより、君たちはなんの用でこちらに来たんだ?」

「えぇ、実は、アリス君の姿が見当たらなくてですね。何か存じないかと思って来た次第です」

「そうか。すまないが、ボクも見ていないんだ」

「そうですか……。困りましたね、アッシュ君が戻る前に見つけないと後々面倒なんですが……」



 困った顔をするルーファスにレインはこちらに視線を向けようとしなかった。


 その様子にアティは何だが気になってしまう。確証がないけど……。



「……あの、レインさん」

「何だい? お嬢さん」

「その、間違えだったら申し訳ないのですが……、どうして、見ていないと嘘をついていらっしゃるんですか?」

「え?」



 アティの問いに驚いた顔でレインはこちらを向く。


 図星なのか、目を泳がせて後ろを向いてしまう。どう見ても動揺していた。



「どう、してそう思ったんだ?」

「私、お父さんたちと旅をする前、色々あって……、人の感情や挙動に少々敏感なんです。それが分からないと死ぬような思いばかりだったですし、お使いの時も、嘘をつかれて騙されて、ご主人様に怒られたり、殴られたりとか……。あ、でも、全部が全部わかるわけじゃないんです! 先程もお伝えした通り、もし、間違っていたら、ごめんなさい……」



 アティは謝罪のため頭を深々と下げる。そんな少女にレインは申し訳なさそうな顔でこちらの方を振り向く。


 何か言いたそうにしたが、言葉が詰まっているのか、口をパクパクと動かすが声が出ていない。けど、決心したように、バッと顔を上げる。



「その、ぼ、ボクは……ッ」

「おい、レイン」



 自分の名前を呼ばれたレインはハッとして、声の方を振り向く。そこにはアヴェルスが立っていた。



「言ったものは、探せたのかよ?」

「おや、アヴェルス君、戻ってたのですか?」

「あ? あー、そうだ。連れが怪我しちまったからよ、薬をくれってレインに言ってたんだが、まだ見つかってねぇの?」

「あ、いや、その……」



 明らかに様子がおかしい。ルーファスはソッとアティを自分の後ろへ隠すように手を引くと、変わらない口調で彼は口を開く。



「薬、ですか。どの方が怪我をしたのですか? よろしければ私がその方に回復魔法を施す事は可能ですよ」

「いいって、いいって。大した怪我じゃねぇし、薬くれりゃあ治る。それよりか、早く探せよ」

「あ、あぁ、そうだな。……ルーファス先生、申し訳ないが、部屋を、出てくれないか? お力になれなくて、その、すまない」



 部屋を出て行かせるように、レインは三人の背中を押して扉の方へと押していく。その手は震えているが、力強く押してくるレインの顔をアティは顔を覗き込むようにして、服を掴む。



「レインさん」

「ッ!」

「助けて、ほしいんですよね?」

「……ッ ボク、は――」

「おい、レイン!!」



 後ろからレインをこちらから引き剥がそうとアヴェルスが手を伸ばしてくる。それをルーファスとリリィが盾になるように阻み、睨みつける。



「おやおや、アヴェルス君。どうしましたか? レイン君を引き止めるのに何か、不都合でも?」



 ルーファスの問いには答えず、舌打ちをする。


 その間に、アティはジッとレインの目を見ながらニッコリと笑う。



「大丈夫ですよ、私のお父さんも皆さんもとてもお強いんです。だから、安心して言ってください」



 真っ直ぐにそう言われてレインは瞳に涙を浮かべてアティの手を震えながら掴む。



「……ッ その……、その、アヴェルスは偽物だ!! お願いだ、助けてくれ!!」

「……はぁ、レイン、そうか。そうかい、それがお前の答えか」



 叫ぶレインに偽物と呼ばれたアヴェルスの腕が、みるみるのうちに肥大化し、脈打つ大きな肉塊のような見た目に変わる。すぐさまルーファスは結界魔法を張り、リリィは槍を顕現させ、身をかがめながら思いっきり横へ振るう。彼女の槍は偽物の腹部にミシィッと嫌な音を響かせる。


 振り下ろされた肉塊はルーファスの結界のおかげで直撃を免れ、リリィの一撃により、ドスンッと部屋の方へと吹っ飛んで行った。



「レイン君、詳しくは後で聞きますが、アレはなんです?」

「奴は、ミラースライムだ。他人の姿を模倣する魔物だ」

「ミラースライム? ……私が知っているミラースライムはあんなに悠長に話したりする事はなかったはずです。どう見てもあのスライムは知識を持ち合わせているような言動ですが」



 通常、魔物の中には人語を話す魔物は数多くいる。たが、あんなに知的に話すような魔物は少なく、ましてや知性を持ち合わせのないスライムがあんな風に喋るのは見たことが無かった。


 突然変異なのか、それともこちらの知らないだけでそういう個体もいるという事なのだろうか。


 警戒をしながらルーファスが思考していると、ガラガラッと瓦礫を退かして、アヴェルスの姿をしたミラースライムが起き上がる。ドロドロと形を変えて、今度はレインの姿へと変わった。



「レイン……、お前、例の件がどうなってもいい、ということだな?」

「ッ! もう、もういいだろ!! アヴェルスを返してくれ!! ボクたち里で散々喰らい尽くしただろ!! これ以上は、もう……!!」

「……ハッ まぁいいや。その、アヴェルス、だったかな? 昨日の夜に、もう食料庫に入れちゃったからもう死んでるんじゃないかな。お前の姿で襲ったからか簡単に捕まえられたよ。それに、ボクらも大切な者をようやく見つけられたから、こんな里はもういらない。綺麗にぜーんぶ、ボクらが喰らってあげる」

「そ、そんな……」



 ニンマリと歪んだ笑みを浮かべ、このまま何処かへと逃げていく気なのか、自分の真後ろの壁を肥大化した肉塊の腕で完全に破壊し、大きな穴が空いた。



「じゃあね、今までご飯を提供してくれてありがとう」



 そう言い残して、穴から外へと飛び出す。


 リリィが追いかけようとしたが、それをアティが止める。



「リリィさん! 待ってください!」

「おい、逃げられるぞ! アリスの居場所も知ってる可能性もあるのに!」

「大丈夫です。ちゃんと追いかけてくれてる子がいますから」

「追いかけてくれているだと?」

「はい!」



 笑顔で返事をするアティはまるで猫なような手をして言う。よく見れば先程まで一緒にいたクロがいない。猫に跡を追わせたのか。



「いいんですよ。それに、アティ君もよくやりました。さすがですね」

「えっへん! お役に立てて何よりです!」



 可愛らしくドヤ顔するアティにルーファスは悶えるように蹲ったが、それどころでは無いと深呼吸をして、冷静さを取り戻す。



「あ、アヴェルス……」

「……それで、レイン君、詳しく事情を話してくれますか?」

「あぁ、もう、隠し事は、しない……。だが、その前に神子殿の方を優先したい。もしかしたら怪我をされている可能性がある」

「え、怪我、ですか?」

「あの魔物がボクのところに来た時に、”ご主人様が大事そうにしているアリスとかいう餌の治療に必要だから怪我と毒に効く薬を寄越せ”、と言ってきた。ご主人とやらは誰かは分からないけど、神子殿が危険な状態だ」

「それはマズイですね……。急ぎ捜しましょう」

「ボクに心当たりのある場所がある。そこに案内する」



 レインの案内でルーファスたちが行こうとするところをアティが前に出て止める。



「待ってください」

「アティ君?」



 何故止めに入るかと疑問を持ちながら、ルーファスは首を傾げると、少女は小さく首を振る。



「もしこれが罠の場合、全員で行くと危ないです、私たちも、アリスさんたちも」



 レインさんがあの魔物さんたちを裏切ったとなると、場所を知ってる可能性のある彼女の行動等を含めて、きっとやり方や罠を仕掛けてくるはず。こちらを餌としか認識してない彼らならもしかすると、アリスさんたちを使った罠を仕掛ける可能性もあった。そうなれば、助けに行っても助けられない危険性がある。



「危険性を少しでも下げるため、ノアさんが行くほうが賢明です。ノアさんの力は認識阻害、こちらの行動を気取られずに済みますし、この場所を手薄にしてしまうと何かあった時に誰も対処出来ないことは避けた方がいいと思います」

「ノア君ですか……、起きますかね?」

「起きますよ。アリスさんがピンチの時に起きない事は無いと思いますよ」

「起きなかったら私が槍で串刺しにするから任せろ」

「いやいや、ダメですからね」



 スッと槍を取り出すリリィをアティは制止する。


 この方なら本気で刺しかねない気がする……。



「まぁ、本当は向かうのはお父さんがいいかも、なんですが、そもそもこの場に居ませんし、居てもきっと無理しそうですし、現状お父さんとの連絡手段がクロちゃんだけですから、最悪の事態だけは避けられるようにしたいです」

「おや、その歳でそこまで考えられるアティ君は私たち大人よりも冷静に物事をみて考えられるのは素晴らしいです」



 ルーファスが関心していると、アティは少し暗い顔をしたが、困ったような顔で笑う。



「……そんな事はないです。この考えはお父さんだったら、お母様だったらって考えての答えですし、もしかしたら間違ってるかも知れません。なので、間違っていたら指摘してください」

「なるほど。では、アティ君が思う最悪の事態とはなんでしょうか?」

「一番の最悪の事態は、私たちの誰かが死んでしまうことです。怪我はどうにでもできますが、死んでしまったらそれまでですし、それに……」

「それに?」



 ルーファスの問いにアティは目を伏せ、自分の服をギュッと握る。



「……もう、私は大切な人が死ぬのを見るのも失うのも嫌ですから」



 アティの言葉にルーファスはハッとする。


 そういえば、以前少しだけアリス君からアッシュ君の事を聞いていた。3年前にアッシュ君の留守中に奥様が殺害され、娘であるアティ君が拐われてしまっていたと。そして、おそらくアティ君は……。



「……失言でした。アティ君、申し訳ございません」

「いえ、大丈夫ですよ。それよりもノアさんを起こしに行ってきます。それまでにどうされるか決めていただきたいです。リリィさんは一緒に起こしに行きましょう」

「わかった。任せろ、一撃で起こしてやる」

「あの、リリィさん、それは一撃で死んじゃう気がしますからやめましょうね……」



 再び槍を持つリリィに苦笑いをする。


 ノアを起こしに行った二人を見た後、ルーファスはレインの方を見る。



「さて、起こしに行っている間にアリス君がいるかもしれないという場所と経緯の説明を聞かせていただけますか?」

「……わかった」

「えぇ、ではお願いします」

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