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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:元凶5

 アッシュが炎で魔物を殲滅してくれている間に、ユキたちは地上を目指して走っていた。


 後ろで走っているアヴェルスは先頭を走っていたユキに大声で叫ぶ。



「おい! 道はわかんのかよ?!」

「ある程度は分かります。が、地上の出入口だったところは壁で塞がれています。アッシュでも壊せなかったのでアレだけどうにかしないといけませんね」

「はぁ?! 出れねぇのに向かってんの?!」

「チワワ君は本当にうるさいですね。それに、今は喋っている暇はありませんよ」



 おそらく、この先にはジークフリートがいるはず。あの様子だとこちらを捕らえて来るはず。



「ユキ、グレン殿たちは大丈夫なのか?」

「えぇ、あの二人なら大丈夫です。なんならもう終えてこちらに来てる可能性もありますよ。ジャンヌ隊長が心配されるほどヤワではないです」

「まぁ、そうだな」

「はい、それと、チワワ君」

「あぁん?! っうお?!」



 気配を察知して、隣にいたアヴェルスの腕を掴み、何かから避ける。引っ張られた彼は怒った様子で文句を言おうとしたが、ガギンッと鈍い金属音が鳴り響く。



「おやおや、副隊長、手厚い歓迎ですね」

「テメェら……!! 餌場から出るんじゃねぇよ!!!!」

「お生憎、餌になる事はありませんでしたよ。僕の仲間は、とーってもお強いので」

「あ”ぁあ”っ?!」



 叩きつけるようにさらに大剣を振り下ろす。それをユキは軽く避け、アヴェルスをジャンヌたちの方まで投げる。



「ここから先、1匹も逃がさねぇ!」

「それはそれは困りましたね。僕らも逃げるように言われてますし、さっさと帰りたい気分なんです。なので、あなたのお相手をする暇はないんですけどね」

「なんなら、テメェを先にミンチにして食ってやるよ……! メインディッシュはあの金髪。アイツの血は美味かったんだ! さぞかし、肉も美味いんだろうからな!!」

「アッシュを食べる?」

「あぁ、そうだ!!」

「ハハッ それは絶対に無理かと思いますよ。なんせ、彼はとってもお強いんです。それに――」

「ッ!」



 ゲラゲラと笑うジークフリートに向けてババンッと銃を撃つ。それを間一髪で躱し、後ろへと飛んで逃げる。


 銃から出てくる煙を”ふぅ”と息を吹いて飛ばす。



「仲間である彼が来る前に僕の手で叩きのめして差し上げます」

「はぁあああっ?! テメェが?! 俺を?! 力負けしやがったテメェが勝てる見込みなんて、微塵もねぇだろうが!!!!」



 ガァンッと地面が抉れるほど、ユキに向けて強い力で振り下ろす。軽くそれを避けて、さらにユキは撃つ。ジークフリートは被弾しないように剣で防ぐ。



「所詮は人間!! 我らの家畜!! お前があの程度の力なのだ。さぞ、テメェのお仲間とやらも、所詮は()()()程度だろう!!」



 ジークフリートの言葉に、ピクッとユキが反応する。


 ゴミ虫……? 今、僕の仲間に対して、ゴミ虫……?


 チリッと空気が冷たくなる。鋭い殺気にジャンヌとアヴェルスはその気配の先、ユキの方を見るとピシピシッと氷が彼の足元を凍らせていた。


 叫ぶジークフリートにユキは氷よりも冷ややかな目をしていた。本来であればアッシュたちを待って、彼女たちの安全も考えれば足止めしないといけないのだろう。


 けど、だけどだ。



「お、おい、ユキ……?」

「…………長く、生きていた僕なんですが――」



 ゆっくりと立ち上がり、一歩踏み出す度に足跡を作るように氷の跡が残る。



「これほど、憤りを感じたのは初めてかも知れませんね……」

「あ”ぁあ?! んだとぉ? 聞こえ――」

「そうそう、僕、こう見えてちゃんと視ればその人の魂の姿を視ることができるんですよ」



 グイッとユキは前髪をかき上げる。眉間に皺を寄せ、深紅の瞳がギラギラと輝いているようにも見えた。


 コイツの(なかみ)なんて、毛程(けほど)興味は無いけども、仲間を馬鹿にするなら、さぞかしご立派な魂なのだろうと見てみるが、どうも見た目と違い、ドロドロとした姿。


 ……嗚呼、なるほど。ちゃんと視れば確かに、簡単な正体ですね。



「ドロドロとしたそのお姿、あなたはスライムですか? いえ、スライムに失礼ですか。吐瀉物(としゃぶつ)、の方が大変お似合いですよ」

「ンだと? 何を訳の分からねぇ事を――」



 バァンッ


 銃声が響く。

 響いたと同時に、目の前にいたジークフリートの身体の半分が消し飛んだ。



「あぎゃああああああああああッ?!」



 裂け目からブシュッブシュッと液体が吹き出す。たが、その血は赤い血ではなく、地面に落ちた液体はドロドロとした、禍々しい紫色の液体だった。


 発砲したユキは銃の弾が空になったのかカチリ、カチリと弾を詰め込みながら喋り出す。



「ハッ どうも魂と見た目が違うと思いましたら、あなた、人の姿を真似るミラースライムですね」

「ふぐぅうううっ……!!」



 姿形を真似るミラースライム。真似た相手の力を模写して周りを騙し、捕食する。卑劣で意地汚い魔物だ。


 そもそもスライムに知能があるなんて初めて知りましたが、今はそんな事はどうでもいい。コイツをどう始末してやろうか。


 ジークフリート、いや、ミラースライムはグチャグチャと音を立てながら再び人の姿へと戻ろうとする。それを邪魔するようにさらにユキは発砲し、被弾したところが凍っていく。


 思うように戻れないミラースライムはこちらに向けて歪な拳を振り上げる。



「こンの、クソがああああああああぁぁぁッ!!!!」



 大きく振り上げた拳に、魔力を強く込めた銃を放とうとすると、ユキの前にドスンッと大きな何かが降りてきた。


 上半身は筋骨隆々でドワーフのように短い足、だが、体長は2、3メートルの高さを超える、この特徴を持つ種族は巨人族だ。



「これ以上、我が隊を傷つけさせん!!」



 ミラースライムの腕を掴み、攻撃を防ぎ、投げ飛ばす。


 攻撃を防いでくれたのはありがたい。が、全裸だ。


 後ろ姿だからいいですが、何故この方は全裸なのでしょうか……。



「ジークフリート!!」

「え、ジークフリート?」



 ジークフリートと呼ばれた全裸男の方の魂を見ると確かに姿も(なかみ)も同じ。本物のようだ。後ろから来たということは、もしかしてアッシュたちが助けた人なのだろう。


 驚いていると、後ろからアッシュとグレンも駆けつけてくれた。



「ユキ! そっちに変態が行ってないかい?」

「えぇ、いますよ。目の前に」

「傷を治した途端に走っていっちゃうんだもん、その人。ビックリしたよ」



 やはりそれで合っていたようだ。


 ジャンヌも驚きを隠せずにいると、ブスブスッと妙な音を立てて、ミラースライムが溶け掛けの顔をこちらに向けて吠えてくる。



「死に損ないの分際で、餌場から次々と……ッ!! 下の兄弟たちは何をやって――」

「残念だが、コイツが炎で一掃済みだ。汚いあの階層を綺麗に熱消毒しておいてくれたんだ、感謝しろ」

「〜〜ッ?!?!  100を超える魔物の数だぞ?! それをあの短期間で、あの一瞬でだと?!」



 ワナワナと震えるミラースライムはユキの方を睨む。

 グチャグチャと形を変え――



「テメェだけは相打ちでもなんでもぶっ殺してやる!!!! 殺せと嘆くほどの絶望を味あわせて、テメェの大事なヤツの(つら)でなぶり殺しにしてやるよ!!!!」



 そう叫ぶヤツの姿は、ノアの姿へと変わった。



 ◇ ◇ ◇



 その頃、アティは朝から父の姿も見ておらず、誰もいないため少し不安になりながらもクロを抱えて廊下を歩いていた。



「お父さんもアリスさんも見当たりません……。ノアさんからはアリスさんは大広間の方でエドワードさんといたと言ってましたが、全然見当たらないです。ねぇ、クロちゃん」

「にゃあぉん」



 お父さんの事だから居ないだろうとは思ってはいた。だって失踪事件なんて危ない事、アリスさんたちがいるのにまったりとしているわけが無いとは思ってはいたの。


 思ってたけど、誰もいないのは正直寂しい。


 しょんぼりとしたまま、歩いていると、前から慌てた様子で歩いているリリィの姿があった。



「あっ! おーい! リリィさぁーん!」

「ッ! アティ!」



 リリィさんはあまり話した事が無い。と言うか、アリスさんといる時も特別何か喋ったり喋りかけたりする事が無いという方が正しいかも。


 彼女はアティを見つけると、スタスタスタッとすぐ目の前まで距離を詰め、手をガシッと掴む。



「アティ、アリスを見てないか? 朝から居ない。下から今の場所まで全ての部屋を見ていたのにいない。朝からきっと何も食べていないアリスはお腹を空かせてしまっているはずだし、たださえ危ない場所なのに姿も何もかもが見当たらなくて心配で心配でたまらないのだ」

「え、えーと……」



 本心からかなり心配している事がすごく伝わる。普段喋らない彼女が早口で問いてくるもん。相当心配なのかもしれない。


 戸惑いながらも、アティはリリィの手を握り返す。



「実は私もアリスさんやお父さんたちを捜してまして。リリィさんはノアさん以外は見てないですか?」

「アリス、以外……?」



 何を聞いてきてるんだと言われているような顔をされた。


 あ、コレはアリスさん以外はどうでもよかったから気にも留めていなかったという感じだ。お父さんも言ってたなぁ、リリィさんはアリス第一。二番目もアリスさんで三番目もアリスさん優先するような子だよ、と。でも少しは心配してあげて欲しいかな……。



「野郎どもは、二の次。アイツらならどうにかなる。存外、しぶとい連中だからな」

「あ、あはは……、まぁ特にお父さんはそうですね……」

「それで、アリスは見てないんだな?」

「はい、ノアさん以外は見つけられてないです。どうしましょう、ルーファスさんとかにお声かけして聞いてみますか?」

「…………そうだな。私じゃ、アリスが何処にいるか分からない。そうと決まれば行くぞ」

「あ、は、はい!」



 返事を聞く前にリリィは先にルーファスのいる部屋の方へと向かう。ズカズカと歩いていると、丁度いいタイミングで彼の部屋の扉が開いた。



(確か、ルーファスさんはすごい良い先生ってアリスさんから聞いてたなぁ。会った時から妙に落ち着く感じがして、安心感があるからちょっと好き)


「ん? おや、珍しい組み合わせですね。リリィ君、アティ君」

「おい、ルーファス、アリスを見てないか?」

「アリス君ですか? いえ、昨日の夜お話した後はお会いしてないです」

「チッ 使えない神め」

「ちょ、あの、早朝からそんなドストレートに暴言やめていただけますか?」

「事実だろ」

「知らないと言うだけなんですけど……。部屋に居ないんですか? 彼女なら台所の所でご飯を求めて行かれる気もしますけど」

「もう行った」

「行ったんですね」



 苦笑いするルーファスだが、手に小さな魔法陣を展開して少しジッと見つめる。見つめた後、再びリリィの方を見る。



「一応、結界から出た様子は無いみたいです。探知魔法の範囲的にもまだ建物の中にはいるのは間違いないようですから」

「だが、一通り見て行ったぞ」

「それでもいなかったんですか?」

「いないから捜している」

「まぁ、それはごもっともですが……。でも、変ですね。彼女は自由奔放ですが、勝手にはいなくなるとは思えませんし……。レインにも聞いてみましょうか」

「部屋分からない」

「私が存じてます。確か向こうの一番奥の部屋ですから、一緒に行きましょう。アティ君も行きますか?」

「はい! アリスさんとちょっとお話もしたかったので!」

「おや、そうですか。でしたら、ご一緒にアティ君も行きましょうかね」



 元気よく返事をしたアティにルーファスは幸せそうな顔をして彼女の頭を撫でる。


 それを見て、リリィは”うわっ”と引いているような顔をしていた。



「え、なんです?」

「どんな幼女相手でもそういう顔するのキモイ」

「え、えっ?! キモイというのはどういう事ですか?! 普通に、必然的に、尊くて可愛らしいので思わず撫でてしまっただけじゃないですか!!」

「……そういう所がキモイ」

「何処がです?!?!」

「ほら、アティ、私たちは先に行こう。ソイツと二人っきりになったら永遠とセクハラ――いや、撫で回されるぞ」

「え、あ、は、はい!」



 言葉を変えてもほとんど言っているリリィの言葉に訳が分からないとオドオドとしているルーファスを置いて、さっさとリリィはレインの部屋があると示された方へと向かう。


 泣きそうな顔をしてルーファスはアティの方を向いてきたので、ニコッと笑いながら、手を差し出す。



「大丈夫です。ルーファスさんが優しいお方だとアリスさんからも聞いてます。……お父さんがいなくて不安なので手を繋いで頂けますか?」

「〜〜ッ! もちろんですよ!」



 彼女から差し出された手をギュッと握る。



(あぁぁ……、なんてこの子はいい子なのでしょうかぁ……ッ)



 涙腺が崩壊しているのではないかと思うほどの涙を流して、震えてしまう。そんな彼を心配そうにアティも困った顔をしてはいたが、ルーファスは涙を拭いながら、アティの手を引き、リリィに続いてレインの部屋へと向かった。

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