エフェメラル兄弟3
その日の夜の事。
明日には騎士団を出て出発することになった。
ヴィンセントもアリスを連れて帰るということは諦めたそうだ。一応見送りという形らしい。
そんなヴィンセントは中庭にあるベンチで寛いでいた。
「……なんだ咎人。私になにかようか?」
「いい加減その呼び方やめてくれないかな……」
イラッとした様子でアッシュはヴィンセントの座るベンチのもうひとつあるベンチに座った。
「……それで、なんだ?用もなく来たわけじゃないだろ?」
「まぁ、そうだね。嫌ってる君ならお願いして問題ないと思ってきたんだよ」
「ほぉ、なんだ。殺せという内容なら喜んで引き受けてやる」
そう言いながらアッシュの方を見ると笑ったままヴィンセントを見る。
「まさにその内容だよ。君、今日言ったよね。もしアリス達に害を成すなら殺すって言ってたでしょ?」
「あぁ、言ったな」
「だから、僕がもしアリス達に危害があったと君が判断した時は僕を殺して欲しい」
「……どういうことだ?」
「そのままの意味だよ」
私はこいつが嫌いだ。だが、普通こういうことを頼むのはありえないだろ。
少し考えながら、剣を取り出す。
「今じゃダメか」
「今はやめて」
剣をスッと取りだしたヴィンセントに対して、手で制止する。絶対、彼は許可すると本当にこの場で切り捨てられそう……。
「まぁ、だから君も注意して欲しいんだけど。アリスとエドワード達を傷付けたら逆に君を僕はほんとうに殺しに行くからね」
「……ほぉ、なるほど」
ヴィンセントは足を組みながら笑う。
そういうアッシュの顔は笑っているようで笑ってない。
なるほど、こいつ自分の命より、本当にアリス達を優先しているようだ。
「お前、本当にアリス達以外はどうでもいいんだな」
「まぁね」
「……別に構わんがな。あいつらを守るというならそれでもいい」
「あははっ ありがと」
そう言ってアッシュは立ち上がる。
最初アリスから聞いた時は是が非でもこいつから連れて帰らないと行けないと思ったが、どうも私の思いすごしだったようだ。それでもこいつのことは気に食わない。
「アッシュ」
「ん?」
「アリス達を頼む」
「……っ! 任せてね。約束の件、よろしくね、ヴィンセント」
「ふん」
アッシュがさった後、ヴィンセントはひんやりと冷たい空気が肌に感じながら目を閉じる。
久々に会った、弟。
守護者のくせに神子をおいて寝ていたあいつを1発ひっぱたいてやろうかかと思ったがまさか防がれるとは思わなかったが、一瞬エドワードの様子がおかしかった。
拳を防いだ時と起こした時に感じたあの妙な気配。
戻ったら少し調べてみよう。
ーーーーーーーーーーー
翌朝。身支度を整え、それぞれ出発の朝。
アッシュ達はヴィンセントの見送りのため、騎士団の地下にある、ワープゲートのところへ赴いていた。
無機質な機械音とその中心に大きな魔法陣。そして数人の魔導士が待機していた。
「んじゃあヴィンセント、また手紙書くわね。その時はみんなで取った写真と添えててあげる」
「いらん。いつも通りの報告だけでいい」
「えー、ハッ!私の写真メインの方がいい?しょうがないなぁ~」
「お前……、あ~、もういい、勝手にしろ」
「むふふ~」
ニヤニヤとしながらアリスはヴィンセントを指でつっつく。そんなアリスにヴィンセントは鬱陶しそうにしながらエドワードの方を見る。
「次の行き先は決まってるのか?」
「あぁ、アリスの希望で次はスノーレインに行く予定だ」
「スノーレインか。あそこに行くには魔封じの森を通るだろ。あそこは妙な磁場の影響か魔法が使えない。それに加え、マーダー帝国の人間があそこで怪しい動きがある。大丈夫なのか?」
そう、今回の森は結構危険。魔獣はいるも、魔法が使えない森の為、年々被害が出ているほど。かといって森を迂回しようとするとかなり日にちを要する。そのため、森を迂回せず通る人がかなり多いのだ。
もう一つ、マーダー帝国は禁忌魔法や非道な実験、麻薬など黒い噂が絶えない国のこと。できれば関わりあいたくはない。
そんな心配をよそにアリスがドヤ顔しながらアリスはエドワードとヴィンセントの間に入り、仁王立ちをする。
「ふっふー!そこは神子である私の出番なのです!」
キラキラとさせるもヴィンセントはそれを無視する。
無視されたアリスはムスーッと顔をさせながらヴィンセントをポカポカと殴ろうとするも片手で防がれる。
「で、アリスが何かするのか?」
「アリスが神子の力、人の心を読む能力で何か来たり危なくなったらそれで回避しようという話だ」
「……絶対にやめた方がいいと思うが」
「兄様、それはわかってるが、アリスは一度言い出したら止まらない。一応別の方法も考えてはあるから最初はアリスのやりたいように任せるつもりだ」
「はぁ……。まぁ無事に行けるならそれでいい。気を付けていけ」
「わかった」
頷いたエドワードを見て、ヴィンセントは軽く手をあげてワープゲートへ向かう。
見送りながらアリスはぴょんぴょんとジャンプをしながら手を振り、その隣にいたリリィも真似をしながら無表情で真似をする。
微笑ましいようだけど、あの無表情はちょっと怖い。
無事にワープゲートを通ったことを確認してアリス達も出発の為、ルーファス達のいる執務室に向かう。
「おや、アリス君達も、もう行くのですね」
「えぇ、数日間だけどお世話になったわ。また寄ることがあったらお願いね」
「はい。いつでもお待ちしております」
笑みを見せるルーファスにアッシュの方を見て、彼のもとに寄る。
何だろうと思っていると、ルーファスから何かを渡された。
「なにこれ?」
手に取ると何か飴玉のように梱包されたもの。一粒しかないようだが何だろうかとまじまじと見ているとルーファスは少し困ったような顔をしながら言う。
「これはーー」
ルーファスが放つ言葉は共通語とは違う古代語。それもかなり古い言葉で話し始める。
その言葉を理解してないのであろう隣にいたエドワードは首を傾げて聞き取ろうとするがわからない様子。
「これは夢玉というものです。その中に私が見た夢を詰めております」
「……わざわざ古代語使って話すこと?」
「えぇ、あなたのみにお伝えした方がいいと思ったので。思った通り、古代語分かるようでよかったです。それと以前に夢であなた達のことを見たとお話わかりますしましたね?」
「あー、そういえばそうだね。……って夢ってこの前のことじゃなかったの?」
「あれとは別件ですね。見たらわかります」
「うわ~、マジか~」
あの時とは別件で怖いこと起こるのは勘弁してほしい。
額に手を当てながら天を仰ぐアッシュにエドワードは古代語がわからないから何しているんだという目をする。少ししてため息をしながらアッシュは夢玉に再度、目をやる。
「……これ、一回きりだよね?」
「はい、なので安全な場所で使用してください。一度覚めるとこれは二度と見れません。なので服用する際は注意してください」
「わかったよ」
アッシュの返事を聞いて、再度標準語にルーファスは戻す。
「では、アッシュ君、あなたには無理を承知でお願いするようになってしまいますが、どうか、彼女たちをお願い致します」
「もちろん。任せてよ」
アッシュは軽く頭を下げる彼に対して、ニコリと笑い、手元にある夢玉をジッとアッシュは見つめる。
ルーファスは先に起こる未来と言っていた。エドワードから予知夢の特徴を聞いている。
予知夢で視たものはどう足掻いても避けることはほとんどできない。もし視る内容が絶望的なものであっても、その前後でどう動くかがカギになるはず。
目を細め、受け取った夢玉をアイテムボックスにしまう。今は使えないし、使うなら安全な次の街についた時だろう。
アイテムボックスにしまいながら隣を見ると、ずっと横にいたエドワードはどういう話だったのか気になるという顔でこちらをジッと見ていた。
「なんだい?」
「さっきの言葉なんだ?」
「あー、あれは古代語だよ。なになに?何話してたか気になっちゃった?」
「……気になるがわざわざ私たちにわからないようにしてるなら何かしら理由があるのだろ」
「君、いい子過ぎない?」
「なんだ、常識的に考えてそう思っただけだ。秘匿内容を無理に暴くのもよくないからな」
「まぁ確かに……」
アッシュが納得した様子でいると、後ろからアリスが走ってアッシュに飛びつく。グルンッと横に一回転すると、こけそうになりながらもうまくバランスとりながらアリスがずれ落ちないように腕を掴む。
「っとと~、危ないよ、アリス」
「アンタなら落とさないでしょ」
「そりゃ落ちたら危ないからね。それでどうしたんだい?」
「みんなに挨拶すんだから行きましょ!」
「そうだね、行こうか」
いたずらに笑いかけるアリスにつられアッシュも笑ってしまう。
執務室から正門まで出ると、後ろからユーリが走ってくる。その後をルーファスが歩いてきており、走ってきたユーリはアッシュに握手を求めるように手を出す。
「ユーリ、わざわざ走ったの?」
「俺、さっきまで執務室いなくて、何も言えて、ねぇかんな。それに……」
「?」
首を傾げながらユーリと握手するとユーリは握り返すように力を入れながらアッシュの目をまっすぐ見る。
「あの後バタバタしちまったから言えなかったけど、山賊来た時、ルーファス達を助けてくれてありがとよ。俺が本当はルーファス守んなきゃいけなかったのに、ただ後ろで見てただけだったし、ルーファスやちび助たちが怪我しなかったのはお前のおかげだ」
まっすぐな目で、はっきりとこう面と礼を言われたのはあまりなかったからかアッシュは少し驚きながらもすぐ少し暗い顔をする。
「……君はまっすぐと言えるのはすごいね。でも、僕には君のお礼を受け取る資格はないよ」
アリスやエドワードから言われない限り、自分は傍観するつもりだった。アリス達がどうにかしたいと思ったり、お願いされなければ、僕自身は助けることはしなかったと思う。
「お礼ならアリス達に言いなよ。僕はーー」
「でも行動してくれたのはお前だ。助けてくんなかったら怪我したのはあいつだと思う。だから、俺はどんな形であれ助けてくれたお前に礼が言いたかった」
「……そっか」
ユーリの気持ちは何となくわかる。
もし僕が行かなければナイフの怪我や呪いとか、ルーファスが受けてしまっていて、最悪死んでしまう事が起こってしまってた可能性もあるからだ。
「だから、この恩はぜってぇ返す。なんか俺にできることとかあったら遠慮なく言えよ!」
「あはは、ありがと。ならもしもの時はお願いするよ」
「おう、いつでも待ってるぜ」
再度手を握り、アリス達のところまで駆ける。
後ろを振り返り、手を振りながら、アリス一行は魔封じの森へと歩みを進めた。




