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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:元凶4

 魔法が発動しないで焦るエドワードの前に、レインが姿を現す。濁った瞳はエドワードたちを捉えていた。



「レイン?! なんで此処に?!」

「何で? ご主人様が困っているようだから来たんだ」

「……お前まで、私をその”ご主人様”と呼ぶのか? どういう意味だ?」

「? ご主人様はご主人様だ。ねぇ、ボクたちのご主人様」



 どうもレインの様子がおかしい。会った時とは全く違うようにも見える。何なんだ?


 困惑していると、レインは膝まつき、頭を下げる。



「ご主人様、お帰りなさい。ご主人様がきっとお腹すいていると思って兄弟が餌の準備しているから、待ってて」

「ま、待て、レイン! アリスが毒にやられてしまっている! 此処がアンチマジック魔法がかかっているなら、部屋から出して――」

「ダメだよ、ご主人様」

「ッ!」



 ガッとエドワードの首にレインの手が鷲掴む。小さな子供のような腕なのに、その姿には似つかわしくない程の強い力で首が絞まる。


 カヒュッと締められたエドワードの喉から空気が漏れる。



「ご主人様はここにいないといけない。もう、捨てられないように、いなくなってしまわないように、ご主人様はここにいないといけないの」

「ッ……が……ッ! ぁ…ぁ、…!」

「だから、ご主人様は、……あ」



 首を絞められて苦しそうにしているエドワードに気付き、レインは慌てて手を離す。首から手が離れてようやく空気が吸えるようになったエドワードは大きく咳き込む。



「ゲホッ! ゴホッゴホッ!」

「ご、ご主人様、ごめんなさい。苦しくするつもり無かったの、ご主人様、大丈夫?」

「れ、レイン……ッ 貴様、我々を、どうするつもりだ……?!」

「どうする? どうするって、何?」

「こんな所に閉じ込めておいて、どうするつもりだと、聞いているんだ」

「どうも、何も無い。ただ、ボクらはご主人様がまた居なくならないで欲しいだけ、居なくならないならご主人様のお願いは何でも聞く」

「……なら、アリスの毒を治すための薬を持ってきてくれ。無理なら此処から出せ」

「くすり、クスリ、薬……? あぁ、薬、いいよ。薬、()()()に持ってきてもらう。待ってて」



 そう言ってレインは部屋から消えていく。


 どうあっても部屋から出て欲しくないのか。


 ため息を吐いて、再びアリスの方を見る。



「アリス、身体が動かない以外で何かないか?」

「ほ、ほか……? ほか、は、だいじょ…ぶ、よ……」


(だんだん呂律が回らなくなってきている。早く治療しないと……。他に私で何か持ってないか?)



 ゴソゴソと自分のポケットを漁る。何か使えるもの、何でもいい、アリスを助けられる。何かが欲しい……ッ


 切羽詰まった表情でいると、アリスがエドワードの服を引っ張る。



「ッ! アリス……?」

「だ、だい、じょ、ぶ……、めが、みのしゅくふく、つかう、から……ッ」

「女神の祝福を? いいのか?」

「ん……」



 ”女神の祝福”


 週に一度、女神の祝福で神子の身を回復させる事が出来る。どんな怪我も異常状態も治る。それこそ、覚醒しているアッシュやグレンのように、だろう。


 けど、本当に危ない時しか使わないようにはしていた。致命傷なんて起こったことはないけど。


 アリスは自分の胸元に手を置くと、キラキラと淡い光が彼女を包む。先程まで動かなかった身体が、うごくようになった。



「はぁ……、しんど、エドワードは身体、大丈夫?」

「……私よりも自分の身体の心配しろ。もう、大丈夫なんだな?」

「えぇ、女神の祝福のおかげでね。それより、状況的にどうなの?」

「私もわからん。アイツらは何故か私を、”ご主人様”、と呼ぶ。意味がわからん事ばかりだ」

「……アンタ、いつの間にお山の大将なったの?」

「なっとらんわ! やめろ!」

「アッハッハ、冗談よ、冗談」



 アリスはケラケラと笑いながら立ち上がる。



「さて、私とアンタでどうにかしましょう。じゃないと、過保護なアッシュが暴れちゃうかもよ」

「さすがに、居なくなってるなんて知らないだろ。が、クロの事もある。見た時にいなかったら焦るだろうな」

「わー、ありえそぉ〜」



 とはいえ、魔法も使えないから入り口を破壊しようとしても出来ない。



「んじゃま、心配性のアッシュが帰ってくる前に一芝居うつわよ!」

「…………は?」

「ふふっ!」



 自信満々でいるアリスにエドワードは間抜けた声を出した。



 ◇ ◇ ◇



 ……


 …………


 ………………。


 声が、聞こえる。


 誰だ? 

 身体が痛い。

 頭が痛い。

 心が、痛い。



「…………! …………ヌ! …ジャン……!!」



 うるさい、誰なんだ……?



「起きてください!! ジャンヌ!!」



 誰かが自分を抱えてるのか視界が大きく揺さぶる。ジャンヌの(うっす)らと目に必死に呼びかける誰か。赤く染った視界なのに、その深紅に光る瞳が見えた。



「……? ゆ、き?」

「えぇ! 僕ですよ!! 僕の事よりも、目を覚ましたなら早く身体を起こして、手を貸してください!!」

「……え?」



 ユキの言葉に揺れる視界から周囲を確認する。息を呑むような光景が拡がっていた。


 辺りを埋め尽くすほどの大きな蜘蛛や小さな蜘蛛、見たことの無い魔物たちがこちらに向けて襲いかかってきていた。それをアッシュとグレンが応戦している。



「な、なんだ、これは……?!」

「最深部の5階、魔物の、巣窟ですよ!! アホほどの魔物がいて、アッシュとグレンが押さえ込んでくれている内に、あなたとあなたの兵士たちを逃がせって言われてるんです!! けど、僕の言うことなんて聞きやしないんですから、ようやく見つけたあなたが指示してくれないと、危ういんですよ!!」



 バシャンッと飛沫を上げて降り立つ。結界の中へ入ったのか、境界線から魔物たちが入ってくる様子は無く、逆にこちらの方にいる兵士たちも出ることも出来ないようだ。



「ど、どういことだ……?」

「グレンが魔物がこちらに来ないように結界を張ってくれているんです。あと、血の気の多いあなたの兵士たちが、”あなたを見つけたい”と言って出ようとするの同じように結界で出られないようにしてくれてるんですよ。さすがに、あんな危ないところに出られては守りきれませんからね」



 そう言ってジャンヌを降ろすと、結界内にいた兵士たちがワッとこちらへと来る。



「隊長!! ご無事で何よりです!!」

「お怪我を治します!! 治癒魔法をおかけしますので、安静にしてくださいませ!!」

「隊長!!」

「お、お前、たち……?!」



 エントランスで落ちていった兵士たちもいる。パッと見渡すと、半数以上いるようだ。



「一体、何があったんだ?」

「ジークフリートから落とされたんですよ。落ちてすぐに魔物に襲われましたが、二人のおかげで被害は最小になってるかと」



 ……正直、アッシュがこの場から離れなかったのは僕がいる事と、()()()をしたからかもしれない。じゃなければ、今、アリスたちが危ないかもしれないのに、此処で足止めされていないと思う。



「おい、クソ野郎!!」

「なんですか、全裸チワワ君」

「全裸は余計だ!!!! 里の何人かも見つかった、さっさと出るぞ!!!!」

「今回ばかりはうるさい犬の言葉には賛成ですね」

「テメェらはいちいち俺を貶さねぇと気がすまねぇんかよ!!!!」



 腰布一枚のアヴェルスが騒ぐが、ユキは無視してジャンヌの方を改めて向く。



「ジャンヌ隊長、先程も言いましたが、兵士を連れて地下から出ていただきたいです」

「何故だ、私たちも戦――」

「ダメです」



 ユキが食い気味に拒否をする。



「な、何故だ?! 私たちも手を貸した方が数で――」

「ダメと言いましたのは、あなた方のためだけではありません。僕らがいると、彼らの本来の力を発揮できません。むしろ、邪魔になります」

「くっ!! それ、は……ッ」



 それは、わかる。()()()、わかる。


 彼女はアッシュたちの方を見ると、目にも止まらないほどの速さで殲滅していた。二人は息が合う動きで、こちらに魔物が近寄らないようにしつつ、その中でも繭を切り、中で無事がいないか確認をし、救助していた。

 その中では不安定要素の自分たちが入れば、その連携も崩れかねない。



「グレン!! 左だ!!」

「わかっている!!」



 グレンは魔物の間をすり抜けて、床に転がっている兵士を掴み上げ、その場から走り抜ける。そのままジャンヌたちが居る結界の中へと放り投げられ、それをユキがキャッチした。


 トンッと着地をすると、グレンとジャンヌたちと目が合う。



「起きたならさっさと(うえ)()がれ。邪魔だ」

「ま、待て! 我々も戦う!! まだ他の兵の者たちも数人居ない!!」

「見つけたら後を追わせる。それに、私よりも今、本気でキレそうになってる奴がいるから、下手したら巻き込まれるぞ。それに、ジークフリートの件だ、アレの相手は今のお前では出来ないだろ」

「……ッ」

「分かったらさっさと出ろ。出口はあそこ以外あるはずだ。探し出して脱出しろ。ユキ、任せるぞ」

「……はぁ、そうですね。僕も邪魔ですから、アッシュの事、お願いします」

「無論だ」



 再び、グレンは魔物たちの方へと飛んでいく。


 ため息を吐いてユキはアヴェルスとジャンヌの腕を掴む。



「では、行きますよ」

「お、おい、本当にいいのかよ?!」

「いいんですよ、チワワ君。僕らがいると邪魔になると、言いましたでしょう。あと、ジャンヌ隊長、あなたも馬鹿ではありません。むしろ、聡明な方と存じます。隊の方々の身を案じるのであれば……、分かりますよね」

「…………わかった。総員ッ!!!! 撤退だッ!!!!」

「ハッ!!」



 ジャンヌの号令にマーダー帝国の兵士たちは結界と逆の方へと走っていく。



「アッシュ、グレン!! 見た限りですと、この階の生きていそうなのは後右奥の人で最後です!! それ以外は、もう手遅れなので……、いいですね?!」

「ありがと、ユキ。気をつけて帰ってね」

「はい!」



 そう言って走っていく。全員が走って消えたのを確認して、グレンがユキの指示のあった方へ向かう。繭の根元ごと中にいる人を掴む。



「グレン、僕の近くに来て」

「ん」



 トンッとアッシュの背後に降り立つ。彼が来た事を確認して、炎を纏う。二人を中心に蒼い炎がユラユラと渦巻いていく。



「僕は、早くアリスたちのところに帰らないといけないんだ。遊んでいる暇はないんだよ、だから――」



 襲いかかる魔物を炎が一気に飲み込んでいく。



「消し炭にしてあげるよ」

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