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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:元凶3

 レイン(ババァ)は俺たちの、親代わりだった。


 他所から来た俺らの親代わり。雨の里は元々余所者揃いの場所だ。立地も悪く、外敵といえば魔物くらいで俺らのような連中には都合がよかった。


 昔からある里にレインはフラッとやってきて、ガキの俺らを世話をしてくれた。だから、ババァの為なら俺らは頑張ってたし、疑いなんてした事も無い。


 ない、のに……。


 あの日の夜、レインに、襲われたなんて、笑えねぇわ。



 ◇ ◇ ◇



 アヴェルスの言葉に、アッシュは目を見開く。


 レインが、敵? 殺意なんて感じなかった。敵愾心(てきがいしん)も、害意(がいい)も。


 唖然としているアッシュだが、グレンはまだしがみついているアヴェルスに問う。



「敵とは、どういう事だ?」

「そのままの意味だよ!! えっと、コイツの仲間、神子、だっけ、先生から神子は大事だって聞いてるし、里の連中の事も、俺は、俺は!!」



 吠えるアヴェルスの言葉を最後まで聞かずに、アッシュは外に出ようと繭のあった部屋を飛び出す。廊下に出て、階段を目指す。



「おい、アッシュ殿!!」



 ジャンヌが呼び止めるがそれを無視する。



(判断を見誤った!! 餌にかかったのは、僕じゃないか……ッ)



 初めからおかしかった。


 結界魔法がかかってるのに、何故、蜘蛛の魔物があの里に入れた? ルーファスと確認した時、対人用の結界と、彼の前に張られていた魔物用の結界。張っているならかなり強い魔物じゃない限りは入ってこられないはず。

 なのに、あの魔物はどうもそんな強力な魔物じゃなかった。なんで入ってこられたのか、その違和感にすぐ気付いて、自分で結界を張り直しておくべきだった。

 いや、今はそれよりも問題は入口だ。あのクソ硬い壁を壊さないといけない。それは覚醒すれば、問題なく壊せるはず。


 アッシュはグルグルと思考をしながら階段の近くまで行ったところで――



「まぁ、待て」

「ッ!」



 バッと行く手をジークフリートが遮る。目の前に飛び出してきた彼をジャンプして躱そうするが、シュルンッと風を切る音がなり、腕に何かが巻き付く。それに目をやると蜘蛛の糸のようなものがついていた。


 すぐに燃やそうするも、蜘蛛の糸とは別に風を切る。それを逆の腕で咄嗟に防ぐ。それは大きな大剣を振り下ろしていたジークフリートだった。



「くっ! 何のつもりだい?」

「悪いが、此処から貴様らを出す気は無い」

「何を――ッ?!」



 ジークフリートはアッシュの首を掴み、ギリギリと締め上げる。持っていた剣で目の前の男を切ろうとしたが、見えない何かに弾かれてしまう。


 明らかに人の力とは思えない程の怪力に首元がミシミシと音が鳴る。苦しくなる息に、どうにか振りほどこうとするが、思ったよりも力が強く、振りほどくことが出来ずにいるとグレンが駆け寄り、ジークフリートの顔に向けて、強烈な足蹴りを喰らわせ、そのままアッシュの首を掴む腕と糸ごと、切り落とす。


 ゴギュリッと嫌な音を立てて、ジークフリートの首は曲がる。



「ゲホッゲホッ!! グレン、ありがと……ッ」

「あぁ、気にするな。……それで、貴様は何者だ? 確かに首を、へし折ったはずなんだがな」



 彼の問いに、道を塞ぐジークフリートはグレンの蹴りによって本来、人が回せる許容範囲外の首の向きになっているが自身の頭を両手で掴み、ゴギゴギッと音を鳴らし元に戻す。戻した後、アッシュの血が付いた大剣を見て、滴る血を美味しそうに舐める。



「ヒ、ヒヒッ! クッハッハッハッハッハッ!! あぁ、さすがだ、あの方から聞いた通りだァ!! 特別な人間の血は格別なんだなァ!! あぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ……ッ 甘くて、美味しいなァ……ッ」

「じ、ジーク……? 貴様、なんなんだ?」



 こんなジークフリートは知らない。私が、私が知っている彼は、こんなに歪んだ笑いをしない。


 いや、グレン殿と話した時に怪しいとは話していた。いつもと違う彼が偽物なのか、それとも精神系の魔術で操られているのか判断出来ずにいた。だからこそ、同行させていたのに、こんな事が……!


 思考が纏まらないジャンヌに、ジークフリートはニヤリと笑う。



「ヒヒヒッ 俺かぁ? 俺は、眷属、あのお方の眷属にして、新たな肉体を頂いた!! あの方の、お気に入りだぁあ!! そしてぇ!!」



 そう言ってジークフリートは魔法石を取り出し、発動させる。パリンッと音が鳴ったかと思うと、再び床が消えた。



「お前らは……我々の餌だァ……ッ」



 床が消えたと同時に、下から糸が伸びると彼らの身体に巻き付き、消えた床に拡がる暗闇の中へと引き()り込まれていった。



 ◇ ◇ ◇



 エドワードは目を覚ます。ゆっくりと身体を起こし、痛む頭を押さえながら辺りを見渡す。


 埃っぽいような場所。先程までいた場所とは全然違う。

 そう、先程……ッ!!



「アリス!!」



 ハッとしてエドワードはアリスを探すが、彼女は自分のすぐ隣に倒れていて、まだ目を覚ましていなかった。


 気失う前に見た、彼女に向けて無数の手が上から伸びてきたかと思うと、それは自分にまで迫ってきて、その後、気を失ってしまった。



(……気を失ってどれくらい経ったんだ? それに、ここは一体、何処なんだ?)



 倒れている彼女をそのままにしておくわけにはいかない。最近鍛えたおかげか、彼女を背中に背負い、動くことは出来るようだ。


 アリスが持っているアッシュの自立型の炎を灯す。紫水晶の色をした炎は辺りを照らして周囲の確認が取れるようになった。



(アリスがアイツからコレを貰ってて良かった。おかげで周りが見える、が、見えててもかなり汚い空間だ。臭いも酷い……)



 袖で口元を押さえ、壁伝いに進んでいく。



「ゴ主人、サマ?」

「ッ?!」



 聞き覚えのない声に即座にアリスを前に抱え直し、刀を顕現させる。



「だ、誰だ?!」

「ゴ主人様、オハヨウ、ゴ主人様ゴシュ、ゴシュジンサマ」



 ギリッと警戒しながら辺りを睨む。だが、姿が見えない。見えない姿に暗闇の向こうばかり睨んでいたが、ハッとした顔をして、エドワードは上を見上げる。


 そこには、天井の上に何かが手を伸ばしてきていた。


 あの時の、手ッ?!


 咄嗟にその場から飛ぶように離れて、アリスを左腕で自分の胸元に抱え込む。右腕で刀を上から覗き込んできた魔物に向けるが、カタカタッと震えが止まらなかった。



(な、なんだ、あれは……ッ)



 伸びていた腕の本体の姿が、紫水晶の炎によって姿を現す。


 そこには下半身は蜘蛛の体、上半身は人間なのに、口元は蜘蛛の口だった。人間の体の部分から先程まで見えていた腕が生えており、その姿は恐怖そのものにしか見えない。

 よく見れば蜘蛛の部分になっている足の一本は切られているのか、第二関節から先がない。



(昨日、アッシュが仕留め損ねた奴は、この魔物か……!)


「ネェ、ゴ主人様、ナンデ、ナンデ逃ゲルノ? ネェネェ」

「ち、近付くな!!」

「……近付ク、ダメ? ナンデ? ナンデ、ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ……?」

「ッ!」



 ゆっくりと蜘蛛の魔物は近付いてくる。


 無数の腕をこちらに伸ばし、エドワードの頭と腕、肩や首を掴みあげようとする。それに彼は持っていた刀の力を使う。



「ッ よ、” 妖刀=三日月:月光時停(げっこうときとめ)”!!」



 カチリッと音がなり、蜘蛛の魔物の腕からエドワードは抜け出す。まだ気を失ったままのアリスを脇に抱えながらその場から走って逃げようとしたが――



「あぐっ?! あ、足……?!」



 自身の足に蜘蛛の糸が伸びていた。それに足を取られてしまい、倒れる。

 足に絡みつく糸を切ろうとしたが、手元がおぼつかず、切れない。



「く、クソッ……ッ!」

「ゴ主人様……、オ、オ願イ……」



 蜘蛛の魔物の手がこちらへと伸びてくる。


 エドワードはアリスにそれが触れられないように身体で隠すように抱き込む。


 アリスだけは、アリスは命に変えても守らないと……!!


 覚悟をするようにギュッと目を閉じるエドワードの頬に何かが触れる。目を開けると、先程の乱暴な掴み方ではなく、大切なものを壊さないように魔物の腕が触れてくる。



「オ願イ、逃ゲナイデ。怖イ思イ、サセタ、謝ル。ネェ、ゴ主人様」

「ご主人? わ、私の事を言っているのか?」

「ソウ、ソウソウ、ゴ主人、様、ボクノゴ主ジン、サマ」



 どういう事なのだろうか。魔物にご主人様と言われるような事も、契約も何もしていない。それなのにご主人様だと?


 今のところ、敵意? は、感じられないが……。



「私がご主人様と言うのはどういう事だ?」

「ゴ主人様ハ、ゴ主人様。ネェ、ネェ、ゴ主人様、ソレハ? ゴ主人様ト一緒二アッタ、持ッテキタ」



 魔物はアリスの方を見てそう言う。アリスに向けて手を伸ばそうとして来るため、ソレを手で払う。


 敵意が無いにしろ、魔物にアリスを触れさせる訳には行かない。


 振り払われるとは思わなかったのか魔物はビクッとして驚く。



「ゴメ、ゴメンナ、サイ。ゴ主人様ノ、エサ、触ッタ、ダメ?」

「アリスは餌じゃない。というか、離れろ。近寄るな」

「ハナレタラ、逃ゲル、ナイ? ゴ主人、様、ナイ?」

「……あぁ、逃げない。逃げないから、離れろ」

「ソウ、ナラ、ハナレル」



 ゆっくりと魔物は身体を動かしてエドワードとアリスから2メートル程離れていく。


 コイツは何なんだろうか? 魔物で間違いは無いだろうが、人の言葉を喋る魔物なんて聞いたことがない。それに、コイツはなんで私の事を、”ご主人様”と呼ぶのだろうか。



「お前、私の言葉が、理解できるんだな?」

「ウン、理解、デキル。ゴ主人様ト、話ス、シタカッタ。話タラ、捨テラレナイ?」



 捨てるも何も、私はコイツの事分からないんだが……。


 だが、コイツがこちらの事をその”ご主人様”と勘違いさせておいたままにしておこう。それまではおそらく、襲ってこないはずだ。



「あぁ、捨てない」

「ッ! 嬉シイ! 頑張ッタカラ、ゴ主人様ト、話シシテモラエル、嬉シイ!」


(ま、魔物相手なのにこうも純粋に喜ばれると申し訳ない感が……。いやいや、相手は人食いの魔物だ。いつ牙を向いてくるか分からない。せめて、アリスだけでも逃がしたいのだが……)



 目の前の魔物に警戒しながらも、周りを見るが、炎の範囲外のため、他の周りが良く見えない。出入口も、まだ見つけてないのに、どうするか。


 眉間に皺を寄せながら考えていると、魔物は心配そうにこちらの顔を覗き込む。



「ゴ主人様、ドウシタ?」

「ッ! な、なんでもない。とにかく、こちらには近寄るな。いいな?」

「……ワカッタ。何アレバ、呼ンデ」



 寂しそうな顔をして魔物は闇に紛れる。


 姿の消えた魔物に、エドワードは大きくため息を吐いて、アリスをギュッと抱きしめる。


 ひとまずは、大丈夫と思ったらいいのだろうか。姿は見えなくなったが、出口を急いで見つけないとまずい。もし、こちらがその”ご主人様”とやらではないと分かったら今度こそ喰われるかもしれないからだ。


 守れないかもしれない恐怖に身体が震える。自分の恐怖をどうにか隠すように頭を振るっていると、いつの間にか目の開いていたアリスとバチッと目が合う。



「あ、アリス! 大丈夫か?!」

「エド、ワード……」

「……アリス?」



 アリスの様子がおかしい。いつもの彼女なら目を開けた途端に騒がしくしているはずなのに、今はそうじゃない。


 混乱と、恐怖が混じった顔をしており、目だけ動かせるのか、涙を流しながらこちらを見る。



「え、エド……、やだ、からだ、が、動か、ない……!」

「ッ!!」



 泣いている彼女の身体を急いで確認する。すると、足の方に何かの噛み跡があり、そこの部分は青紫色になっていた。


 まさか、毒……?!



「だ、大丈夫だ! アリス! 落ち着け、大丈夫だから!」



 神経毒なのか、なんなのか。訳の分からない毒に侵されてしまっている。

 慌てて自分のアイテムボックスを出そうとするが、魔法が、アイテムボックスが、出てこなかった。



「なん……ッ?!」

「あー、ダメだぞ。今この部屋では魔法は此処では使えない。アンチマジックの魔法がかかった部屋だから」

「ッ!」



 アリスと自分以外の声にエドワードは振り向く。


 そこにはにっこりと笑い、濁った(まなこ)でこちらを見つめるレインがそこに立っていた。

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