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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:協力7

 ユキは隊長のテントへと連れていかれる。ジャンヌはテントに入ると、隊長は鎧に着いたマントを外し、それを椅子にかける。


 同様にユキもテントへと入るが焦りでジワッと汗が滲む。


 やっぱりバレたのでしょうか? アッシュの姿も見られていた。でも関係性は見せてはいないはず。もしくは、先程の模擬戦で?


 心の中で冷や汗が止まらないユキは平常心を装い、真顔でジャンヌに問う。



「それで、どうされましたでしょうか?」

「……貴殿の言う通り、面白い男だな」

「えっ? うわっ?!」



 ユキが驚いていると、後ろからガシッと肩を組んできた。



「お前は相変わらず面倒事に首を突っ込むな」

「グ、グレン?!」



 誰が肩を組んできたと思えばグレンだった。


 グレンは驚いているユキの兜を外して、顔を覗き込む。悪魔特有の深紅の瞳、ユキで間違いないようだ。



「で、お前は此処で何をしているんだ?」

「グレンこそ、いったいどうして此方に?」

「はぁ、質問を質問で返すな」

「グレン殿は我々と調査の手助けをしてもらっていたのだ」



 ハッとユキはジャンヌがいた事を改めて思い出す。


 思わず顔を隠すようにグレンから取られた兜を被り直したが、ジャンヌはクスクスと笑う。



「隠さなくていい。貴様の事はグレン殿から昨夜、話をして把握している。そして、把握していたからこそ、貴様を利用させてもらった」

「利用、ですか?」



 不安そうにグレンの方を見ると、相変わらず余裕そうな顔をしている。彼の様子を見る限り、悪い意味の利用じゃなさそうだ。



「それにしても、お前はよく反撃しなかったな。以前のお前なら、後先考えずに反撃していただろ」

「……一瞬、それも考えました。ですが、もし僕が反撃をするよりも攻撃を凌いだ方が、ノアたちの安全を考えたらそれが良いと判断したんです」

「その判断は間違ってない。もし、それをしたなら私が出なければいけなかった。冷静に判断してくれて助かる」

「とはいえ、結構ギリギリでしたよ。少し死ぬかと思いました。ジャンヌ隊長が庇ってくださらなければ危うかったです」



 ユキはジャンヌの方を向いて軽く頭を下げる。



「顔を上げてくれ。先程も言ったが、確認のためとはいえ貴様を利用してしまった。申し訳ない」

「いえ、まぁ、一応無事ですし、新兵にあそこまでさせるとは思いもよりませんでしたが」

「それはすまなかった。ちなみに朝練は嘘だ。貴様を呼び止めるための口実を作っただけだ」

「……あ〜、その、確認とはなんでしょうか?」



 ユキの問いにジャンヌはグレンの方を見る。彼は彼女の視線に小さく頷きを確認すると質問に答えた。



「ジークフリート」

「副隊長の事ですか?」

「今朝の報告はジークから来た。宣戦布告の件も、ジークからだ。まるで、隊と里を対立させるように仕向けてきているのだ」

「……えっと、隊として報告してきた、とかではなくですか?」

「いいや、ジークとは長い付き合いなんだが、本来そういう選択はしない奴だ。私が知るジークフリート・フリーデンは、戦いを積極的にしない、臆病な性格だ。前にも言ったが、私の国では武力が全て、勝った者が正義、負けた者が悪。だが、私の部隊たちはそうは思わない者が多く、私を尊敬し、無駄な暴力は振るわない。ジークフリートもそうなのだが、あんな好戦的に戦う事もほとんど無い男、だったんだがな」

「……ふむ、なら十中八九、黒で間違いなさそうだ。お前の嫌な予感が当たってしまったな、ジャンヌ」



 グレンがそう言うとジャンヌは大きくため息を吐く。


 二人は何か知っているようだけど、聞いてもいいのだろうか?



「あの、一つ聞きた――」

「ジャンヌ隊長!!!!」



 聞こうとしたユキの言葉を遮るように外から兵士が入ってくる。慌てた様子の兵士は中にいるジャンヌとグレン、そして彼から見ると見覚えのない兵士が居ることにも驚く。



「も、申し訳ございません、ジャンヌ隊長!! 取り込み中のところ大変失礼致します!! 火急の報告がございましたので発言をお許し頂けますでしょうか?!」



 敬礼をしながらそう言う兵士にグレンは心底嫌そうな顔をして顔を背ける。


 うるさいのが嫌いなグレンからするとこのテント内に響くくらい大きな声を出されて、うるせぇと思っているんじゃないかと思う。



「発言を許す。報告をしろ」

「ハッ!! 今朝、ご報告のあった目撃されていた者を見回り中の兵が見つけたとの事です!! ジークフリート副隊長が既に向かっているそうです!!」


(え、えっ?! アッシュ、見つかったんですか?!)



 届いた報告内容に内心焦ってチラッとユキはグレンの方を見ると目を瞑って黙っている。


 早朝の件をグレンも知らないわけじゃないだろうし……。


 ソワソワしそうになっているとジャンヌは部屋に置いたマントを再度羽織り直す。



「わかった、すぐ向かう。グレン殿も同行を願いたい」

「あぁ」



 二人がテントを出た後に服の中に忍び込ませていたクロを覗き込む。スヤスヤと寝ているところを見ると、クロとアッシュのリンクは切れているのだろうか……。


 状況をまだ把握してないユキは焦りながらも出ていった二人の後を追う。



 ◇



 ところ変わり、アッシュ。


 昨夜、見た蜘蛛の魔物の巣が近くにないか里の周りを確認していた。周りの気配を探っても流石にユキのように魂が見える訳では無いから巣が簡単に見つかるとは思わない。


 まぁ、一応、見つけられるようにはしてはいるけどね。若干距離あるし、昨日みたいに変なところに出てしまっても困る。さっさと行って終わらせてアリスたちを安心させたい。



「……それにしてもあっち方面に逃げたはずだから、反応的にもこの辺りにありそうなんだけどなぁ。阻害されてる訳じゃないけど、入口見つけるのも一苦労だね」



 トントンと木の上を飛び移りながら、”アリスたちも連れてくれば良かったかなぁ”と考えて、森を見ていると、ビュンッと風を切る音と共に何かが飛んでくる。


 軽くそれを躱して、飛んできた方を見ると今度は剣を振り降ろされてきたが、それもスルリと避ける。



「危ないじゃないか」

「余程の手練のようだな、貴様」

「あはは、いやいや、まさかぁ。そんな遅い攻撃に当たる方が難しいんじゃないかな」



 ケラケラと笑い挑発するような言い方をするが、剣を振り下ろした男、大きな身体を覆う鎧に、マーダー帝国の紋章。クロの視覚と聴覚共有から見えていたこの男は確か、副隊長と呼ばれていた男だ。



「それで、急に盗賊のように奇襲をしてきたマーダー帝国の人が僕に何の用だい?」

「そうだな、貴様には恨みはないが……死んでもらおうと思ってな」

「……僕を殺して何をしたいんだい? 僕はたまたまこの場所を通ってる旅人だよ。殺されるにしろ、そっちにメリットもないじゃないか」

「死ぬ貴様が知る必要はない」


(めんどくさいな……)



 ……此方の面識は一応無いはずなのに、やたらと殺そうとしてくるな、コイツ。マーダー帝国は関係ない様子だったからあまり関わりたくは無かったんだけど、アレックスのように好戦的なのか、それとも――。


 殺気を放ってくるジークフリートに興味無さそうにしているアッシュは彼に意識を1割向けた状態に魔物の巣がないか確認しようと副隊長から目を離す。



(あの蜘蛛の魔力跡が無くなると困るし、さっさと探しに戻ろう)


「よそ見ったぁいい度胸じゃねぇのッ!!」

「おっとと」



 ジークフリートは再びアッシュへと切りかかってくる。切りかかってくる彼の攻撃を最小の動作で躱していき、距離を取っていく。


 マーダー帝国の人間には良い印象もないから、アリスの頼み事の障害になるなら殺してしまってもいいけど、以前に殺すなって言われてもいる。それに背くのもあまりよろしくはない。



(けど、アリスのお願いが僕の中では最優先なんだよねぇ)



 念の為、腰につけていた剣に手が伸びる。抜剣しようとした時――



「待てッ!!」



 女性の叫び声が聞こえた。これは確か、ジャンヌと呼ばれた人の声だ。


 声の方を見ると、グレンと複数の兵士を連れてジャンヌが此方へと走って向かってきていた。アッシュと攻撃してきていたジークフリートは動きを止める。

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