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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:協力5

 少し時を戻す。


 アッシュはレインの屋敷の屋根の上から里中に、まるで蜘蛛の糸のように張り巡らせた炎の気配を感じ取り、自分の頭の中にある地図にマークのつけた炎の位置を把握する。


 この程度の里の広さであれば、把握するだけなら十分(じゅぶん)


 全ての位置を認識したアッシュはゆっくりと目を開ける。



(さぁ、餌はたくさんある。君がどれに喰らいついても、捕まえてあげるよ)


「本当に今日、また起こるのか?」

「うん、来ると思うよ。きっとね」



 アッシュに傘をさして雨が当たらないようにしているエドワードが隣でそう聞いてきた返事にアッシュは笑顔で答える。


 ユキが言っていた通り、マーダー帝国の方が関わりがないし、ましてやルーファスの結界で人間がした様子がない。

 あと気になるのはチワワ君が言っていた週に二回か三回の周期なら、まるで獲物を狩るような狩人のような行動パターン。


 失踪が昨日、起こってないのなら、今日の夜、誰かがいなくなる可能性が高い。



「それにしても、里の人、全員に炎で印つけるなんてよく出来るな」

「まぁ、万人超えるとさすがに難しいけど、里の人数はそんなに多くないからねぇ。てか、君は部屋に居なくていいの? 風邪ひいちゃうよ」

「大丈夫だ。アリスに薬をもらったからな。身体を冷やさないように気をつければ大丈夫だ」

「そっか。もし寒かったら言ってね」

「あぁ、ありがとう」



 そう話していると、アッシュの張り巡らせた炎に一つ反応が起こる。その場から立ち上がり、傘から出ていく。



「ちょっと行ってくるね」

「え、あ、おい!」



 エドワードが声を上げたが、反応した炎の座標に向けて彼はパチンッと指を鳴らす。


 転移魔法を使い、そこへ飛ぶ、が、やはり苦手な魔法のため、座標の位置はあってたけど、高さが合わなかったため、上空へと飛ぶ。


 上空へ飛んだアッシュはクルッと身体を旋回し、辺りを見渡すと、視覚でそれを見つけた。何かが里の人を引き()っていくのが見える。


 風魔法を使い、すぐさまそちらへと向かい、引き()られて行く女性を掴み、身体を持っていかれないように引き寄せる。



「みーつけた」



 アッシュが見つめた先のものに対してニヤリと笑う。


 それは黒く、巨大な物体。月明かりから見えない位置にいるため、正体が見えない。それを仕留めようと剣を顕現し、切り捨てようとしたが、思ったよりも素早く避けられてしまった。



「思ったよりも速いなぁ」

「アッシュ!!」



 遠くから息を切らしてエドワードが走ってきた。



「おま……、急に行くな……ッ」

「あ、ごめんごめん、やばそうだったからさ。それと、この人お願いしてもいいかい? 見失う前に捕まえる」

「あぁ、わかった。気をつけろ」

「ん」



 身体に力の入っていない女性をエドワードに任せて、先程の黒い物体を追う。


 バシャバシャッと水飛沫を上げて追っていく。


 スルスルと物陰へと消えて行くところに炎を放つが、それは器用に避けていく。剣を顕現して、さらに加速して距離を詰める。


 手を伸ばし、それを掴み、剣を振り下ろす。


 だが、まるでトカゲの尻尾切りのように、掴まれた所を振り下ろした剣で切り落とさせて、そのまま里の外へと消えていってしまった。


 トンッと外壁の上に立ち、見渡しながら魔力で探るもどうやら遠くへ消えてしまっているようだ。



「んー、逃げ足速いなぁ。もう見失ったや」



 森の方を見ても姿は見当たらない。


 けど、この失踪はやはり人が原因じゃなさそうだ。


 切り落とされたものを見ると、まるでそれは何かの昆虫の脚のようなものだった。見た目からして魔物、とは思う。これだとルーファスの結界は対人用のものだから反応がなかった可能性がある。でも、ルーファスと確認した際に彼の張った結界とは別に魔物避けの結界もあった気がする。



「……ま、とりあえず先にアリスとルーファスに報告かな」



 深追いはせず、エドワードの方へと戻ると、どうやら任せた女性に解毒薬を施しているところだった。


 アッシュが戻ってきたのを確認するこちらへ顔を向ける。



「おかえり、戻ったのか。早かったな」

「逃げられちゃってさ。あ、でも、ほら見て」



 エドワードに切り落とした虫の脚を見せる。


 見た目が完全に虫のため、うわぁ、と言いたげな顔で少し引かれた。



「なんだそれは?」

「虫の脚じゃない?」

「いや、見たらわかるが……、でかくないか? それ」

「確かにでかいねぇ」



 持っている脚の大きさは、だいたい1メートル前後くらいだろう。脚でこの大きさなら本体は3、4メートル程の大きさだろう。


 かなりの大きさの魔物と思うが、それが今までよく見つからなかったと感心してしまうが、あの素早い動きと、そこで倒れている女性を見るに音もなく、連れていかれたから気付かれなかったじゃないかと思う。



「ただ、この虫、その場で食べずにその人を何処かに連れて行こうとしてたって事は何処かに巣があるはずなんだよね。ただ、見つかった挙句、脚を怪我したなら今日は出て来ないんじゃないかな」

「そう考えると逃したのは痛いな」

「あはは、そうだねぇ。申し訳ないことをしたよ」

「お前の速さでも追いつかなかったんだろ? 仕方ないと思うぞ」

「うん、思ったよりもすばしっこかったや」



 持っている虫の脚をアイテムボックスへしまうと、倒れていた女性を持ち上げる。

 さすがにこのまま放置するのも良くない。エドワードが処方した薬が効くまでは動くのも難しいだろう。



「さ、アリスたちはもう寝てるし、明日話をしようか。エドワードも付き合ってくれてありがと」

「別に」



 プイッとするエドワードの耳元は少し赤くなっていて照れているのがよく分かる。


 彼は一人でしているのを心配して一緒に待っていてくれていた。もしもの時、力になれるかは分からないけどとも言っていたけど、心配してくれるのも手を貸してくれるのも嬉しい。


 思わず、口元が緩くなっていると、それを見てエドワードから横腹を肘で殴られる。痛くは無いけども照れている彼をからかうのも面白い。



「じゃあ僕は彼女を近くの人のところに届けたら僕も少し寝るよ」

「そうか、なら、私は先に戻る」



 そう言って彼は先に部屋へと戻って行った。


 アッシュは毒がまだ抜けきれていない女性を近くの家へ訪ねて任せた。どうもご近所の人だったらしく、快く引き取ってくれた。


 念の為、もしさっきの虫の魔物が来てもいいように、張り巡らせた炎はそのままにして、眠ったが特に反応はなく、朝を迎える。



 そして、アリスやルーファスたちと改めて集まり、机の上に、昨夜、切り落とした脚を置く。



「うっわ、何それ?」

「昨日の夜、捕まえ損ねた犯人の脚」

「犯人の脚ってか、虫じゃない!」



 ゾワゾワとしているアリスは嫌そうにしながらもそれを突っつく。触らなければいいのにと思いつつも、クスクス笑うアッシュは続ける。



「昨日、里の人たちに炎をつけて、印がある人がもし危機になったら反応するようにしてたんだけど、捕まえて仕留めようとしたら脚だけ残して逃げられちゃったんだよねぇ」

「こんなでっかい脚のある虫がいたの?」

「うん、結構おっきな黒い塊くらいしか見えなかったんだけどね。でも、なんの虫だろ? 僕、あまり昆虫とか詳しくないんだよね」

「ん〜、そうねぇ……、ルーファスはわかんない?」

「私もちょっと……」



 ルーファスも首を傾げていると、目の前にある脚をジーッと凝視していたエドワードはアイテムボックスから本を取り出して、ペラペラと本を数ページ捲ると開いたページを見せながら口を開く。



「蜘蛛、と思うぞ」

「え、蜘蛛?」

「あぁ、昨日は暗くて分からなかったがな」



 見せられた本と、目の前にある虫の脚は確かに見た目が似ている。里で女性を連れていこうとした蜘蛛の魔物、なのだろうか。


 レインは頭を抱えるように手を額に当てて深いため息を吐く。



「まさか、魔物の仕業とは……」

「でも、この里は魔物避けの魔法結界ありました……よね?」

「あぁ、先生から僕も習っている魔法結界で魔物避けをしていた。失踪の件が起こる前からそれはしていたんだ」

「ですよね」


(……なるほど、だから、ルーファスの結界は人用の結界だけだったのか)



 レインとルーファスの会話でエドワードは少し気になってた事に納得してしまう。


 ルーファスが何故、対人用の結界しか張らなかったのかと思っていたが、その前に魔物避けの結界を張ってあるなら人用の結界に特化させたものを行使したのか。


 アッシュはそのページにある蜘蛛の絵に触れてからレインの方を見る。



「レイン、この里の近くに魔物が生息している洞窟とか何かあるのかい? 大きさ的にかなりの大きさの巣があるはずだけど」

「……いや、僕は長くこの里にいるけど、この近くに洞窟があるのは聞いたことがない。崖や小さな洞窟はあるが、魔物が生息するような洞窟はないはずだぞ」

「んー、そっかぁ」

「その、もし見つけられるなら、お願いはできないだろうか? 地元民である我々で見つけられないのにこう頼むのも申し訳ないが……」

「まぁ、出来なくもないけど……」



 昨日の魔物と、()に印をつけている。だから特定自体は難しくは無い。それなら明るいうちに一度里の周りを確認した方がいいかもしれない。ユキがマーダー兵の動向を見ていてくれているし、少しの間離れていても問題はないはずだ。



「じゃあ僕は里の周りを確かめてくるよ。アリスとエドワードたちはここで待ってて。何かあればすぐ戻るからさ」

「わかったわ。無理はしちゃダメだからね」



 アリスの言葉に頷いて、アッシュは部屋を後にして、外へと飛び出して行く。

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