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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里

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雨の里:協力3

 ユキたちが森に向かっている頃、アッシュはアリスたちをレインに任せて、里を一望出来る場所に立っていた。

 入口と屋敷しか見ていなかったからどんなものか気になってはいたし、もしもの事も考えて全体図を見たかったというのもある。


 そんな彼と一緒にルーファスもそこに居た。


 心配なのか、それとも何をしているのか気になって着いて来ている。



(んー、結界を見る限りだと、特に人に対しては隙がなさそうなんだけど、僕の予想が正しければ……)


「あの、アッシュ君」

「ん? 何だい?」

「アヴェルス君の事、なんですが……、いいんですかね?」

「何が?」

「ほら、結構噛み付いてる様子だったので、ノア君やユキ君の事を彼について行かせてたので、少々意外というか……」



 あれだけ敵意丸出しで、しかもよそ者を嫌うような言い草をする人は彼が嫌がると思っていた。まだ友好的なレインに頼むかと思えばそうじゃない。


 彼やユキを説得してまで、何故、ついて行くように言ったか、疑問だった。


 ルーファスの質問にアッシュは、”そうだねぇ”と呟く。



「さっきも言った通り、二人を信じているって言うのと、土地勘がある人の方が安全なのは間違いないんだ。それに、あぁいうタイプはどう動くか、どうなるか、結構分かりやすくてさ」

「……? と、言いますと?」

「んー、まぁ、時が来たら、分かるかな。どうなるかは、彼次第だけど少なくとも、ユキの事だもん、きっと大丈夫」

「……えーと、話が、よく見えてこないんですが……」



 言っている意味が理解出来ない。


 時が来たら? アヴェルス君次第? ユキ君の事だから?


 何を想定してしているか不明だが、しばらくすると、アッシュがピクッと反応する。



「……あ〜ぁ、コレは、思ったより早かったなぁ」

「えっ? 早い……とは?」

「こっちの話。さて、結界も見れた事だから後は夜待ちだよ。ルーファスはアリスと話さなくていいのかい?」

「アリス君からこの件が終わってから、と、言われましたからね。それまではまだお話はお預けです」

「そうなんだ。話してても良かったのにね」

「彼女の相談内容的に、時間がかかりそうな内容でしたから、今回の事が終わってから、ですね」

「そっか」



 話をするかどうかはアリスが決める事だからあまり口出しするのも良くないだろう。なら、今は僕が出来る最大限でやって早く終わらせてあげないと。


 立ち上がり、レインの屋敷へ戻ろうとすると、ルーファスが、”あっ”と声を上げる。



「そういえば、アッシュ君、前にお渡しした夢玉は視られましたか?」

「ん? 夢、玉…………あっ?!」



 先程まで冷静にしていたアッシュの顔が唖然とする。


 しまった、すっかり忘れていた。魔封じの一件があったし、僕の身体が動かなかったり、スノーレインの事もあってバタバタしすぎて忘れてしまっていた。


 アッシュの反応に、ルーファスはクスクスと笑う。



「おやおや、その反応だと、まだ視ていないようですね?」

「う、うぅ、本当にごめん。アイテムボックスの中に入れっぱなしだ……。せっかく君が忠告で見せてくれたのに」

「ふふふ、いえいえ、視たものは実際に起こっているならあれですが……、彼女たちの様子から見てまだ起こってないかと思います。今回の事の後でいいので、視ておいてください」

「そうするよ……」



 申し訳なさそうにする彼もこういう顔をするんだと思わずルーファスは笑ってしまう。夢玉の内容はけっして笑えるような内容では無いが……、彼のこういう人間らしいところを見れたのだから、一先ずは良しとしよう。


 クスクスと笑うルーファスにアッシュは自身の頬をかく。



「わ、笑わないでよ。言い訳かもだけど、色々あり過ぎて抜けてしまってたんだ」

「では、今度は忘れないように、今回の事が終わったらお声をかけましょう」

「うぐっ……。わ、わかった。頼もうかな……」

「えぇ、そうしましょう」



 なかなか見ないアッシュの様子にルーファスは楽しそうにしながら、二人は屋敷へと戻っていく。



 ◇ ◇ ◇



 一方、ユキは剥いだ兵士の鎧を来て、兵士の中へと混ざっていく。


 雨が強いからか、みんな兜を付けたままだ。おかげで顔をよく見られないで済む。


 それにしても、どうも自分たちが以前会ったマーダー帝国の兵よりも温厚、というか警戒心はない訳では無いが野蛮さが少ない、と言ったらいいのだろうか。それでも人を殺していることは魂を視れば変わらない。まぁ、それは自分たちも変わらないものだけども。


 とはいえ、潜入している間に気付けば、外は真っ暗で食事の片付けをしている兵士たちは世間話をしていた。


 都合がいい。食後という事もあり、どうも気が抜けているのかもしれない。


 片付けをしながら聞き耳を立ていると気になる話が聞こえてくる。



「おい、聞いたか? 例の件」

「あぁ、また出たんだろ?」

「そうだ。これで何人目だ?」


(例の件? 何人目?)



 どんな話か見えてこないので、話をしている兵士に自然に近寄っていく。



「例の件って、何かありましたか?」

「お? なんだお前、知らねぇの? ……てか、見ない顔だけど、新兵か?」

「ははは、お恥ずかしながらそうなんですよ。僕、配属されたばかりで、物覚えも悪く、申し訳ないです」

「まぁ、配属されたばかりならじゃ、しゃあねぇな。つーか敬語いらねぇよ。同じ兵士の(よしみ)なんだ。気軽に聞いてくれよ」

「いえいえ、そうはいきません。先輩にあたる方々にタメ口は恐れ多いです。それに、これは僕の癖なので気にしないでください」

「おぉ、そうか。……ってそうだ、さっきの例の件の話気になってたんだよな?」



 先輩と言われていい気分になっている兵士の問いにユキは小さく頷く。


 皿を共に洗いながら兵士は話をしてくれた。



「お前も知っている通り、元々、国の指示で俺らは此処の調査に来ただろ」

「(調査?) えぇ、そうですね」

「その調査中に、実は、何人も失踪しちまっているっていう話なんだよ。今回で確か……11人、いや、12人目だったか。この二ヶ月でそれだけ出ちまってるな」

「失踪? 調査中に、ですか?」

「そう、調査中にだ。最初は脱走兵とかかと思っちまったけど、お前も知ってる通り、うちの隊の隊長は()()ジャンヌ隊長だ。大半があの人の強さに惹かれて入隊していた者も多い。現に、いなくなっちまったって聞いた奴もジャンヌ隊長の事を凄い尊敬していたからな」

「そうですよね。あの、ジャンヌ隊長なのに、脱走兵なんて……」

「だろ? それに失踪した兵士を隊長も心配してて、任務もあるのに並行して捜してるって話だ」

「なるほど……」



 そのジャンヌという人は分からないが、嘘はついていないようだ。それに、失踪の件の被害は此処でも受けているようだし、それとは別に探し物をしているようだ。



(これはもう少し探してみるしかないですね。あとは、そのジャンヌという人。聞いた限りだと、マーダー帝国の人にしては少し変わった方のようですし、話が出来れば、ですが……)



 とはいえ、今、自分が装っている一般兵に隊長クラスが話を聞いてくれるか微妙だけども。



「教えて頂きありがとうございます。ここの片付けは後は致しますので先輩方はお先におやすみくださいませ」

「お、いいのか。頼んだぜ」

「えぇ、お任せ下さい」



 軽く手を振って見送る。彼らの姿がテントへと消えた頃にバババッと素早く終わらせて、再び探索へと戻っていく。


 先程の話である程度のことはわかったが、まだまだ情報が足りない。


 辺りを見渡して人がこちらを認識していないか確認し、闇に紛れていこうと、明かりが無い方へと足を進める。気配を消そうとした瞬間――。



「おい、そこの兵士、待て」



 女性の声が聞こえた。


 突然の声かけに思わずユキはビクッと身が跳ねる。ゆっくりと振り返るとそこには女性の兵士、いや、騎士が立っていた。彼女は兜はつけておらず、後ろに長く束ねられた紅い髪に黒曜石のような黒い瞳を持った凛々しいという言葉が似合うような女性は睨むようにこちらを見ていた。


 背筋を伸ばし姿勢を整えていると、こちらへと近寄ってくる。


 なんとも言えない威圧感が心なしか感じる気がする。まさか先程のジャンヌ隊長というのは、この人なのかもしれない。


 それにしても声を掛けられるまで、全く気づかなかった。周りに魂の気配がなかったはずだけど……。



「貴様、そこで何をしている?」

「ハッ 申し訳ございません!」



 もし、彼女が隊長ならば敬礼をしつつしっかりと答えなければ、怪しまれる。



「片付けが完了致しましたので、外の見回りをと」

「見回りだと? 貴様一人でか?」

「はい」



 そう答えると女騎士は考えるように腕を前に組ながら、手を口元に添える。ジーッと見られているが表情を変えずにユキは敬礼の姿勢のまま崩さない。




「貴様、名前は?」

「ハッ ユキと申します」

「ユキか」



 名前に嘘をついてしまうと、怪しまれる可能性もある。睨む女騎士はスッとユキの横を通り過ぎたと思えば、すぐ立ち止まり、こちらを振り向く。


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