クロノス騎士団:エフェメラル兄弟2
雷鳴が轟く。
部屋の窓は全て割れてしまい、焦げ臭い臭いが充満する。
アッシュがいた場所の床が黒く焦げ、ドサリと“何か”が倒れた。
崩れ落ちていった黒いものを見てアリスは青ざめながらそれに近寄ろうとするがエドワードから止められる。
それでも、足が勝手に動いた。
「あ、アッシュ? う、うそよね……?」
「ふん」
ヴィンセントは手を叩き、アリスたちの方を向く。
「アリスにさっさと街に——」
そう言ってアリスの元にへ行こうとすると、すぐ後ろから声がした。
「あはは、生死も確認しないで勝利したと思うのは、さすがに愚行じゃないかい」
「なッ?!」
後ろを向くと傷のないアッシュが笑顔で立っていた。
そのままヴィンセントの腕を掴み、壁に向かって背負い投げをする。
今度は壁に当たることはなく、アッシュの腕を振り払い、ダァンッ!! と地面に強く着地してこちらを睨む。
「……クソ化け物め」
「いやいやぁ、土人形みて勝利を勘違いしたのは君でしょ」
アッシュに言われて、先程の黒焦げになっている場所を見る。
人の形をしていた土塊。それがボロボロと崩れていく。
(あの一瞬で、いつの間に……)
背後で、息を詰めていたアリスが崩れ落ちる音がした。
再び、アッシュを睨むヴィンセントだが、アッシュは余裕な表情で笑みを崩さない。
「さて、次は僕の番だ」
パチンッと指を鳴らし、アッシュの周りに蒼い炎が現れる。
現れた炎を見た瞬間、ヴィンセントは眉を顰める。
「その蒼い炎……、貴様、アウロラフラムか?」
「あれ、君、僕のこと知ってるの?」
炎をよく扱うが、この蒼い炎を見て気付かれたのは初めてかもしれない。
基本ただの炎魔法と思われていることも多いし、そう指摘するほど、神子や守護者と関わりのある人と会ったことがあまりない、というのもあるけど。
「先々代から聞いている。我々と同じ神子に仕える一族。だが、三年前に死滅したと聞いていたが……、なるほど、貴様はその生き残りか」
「……」
ヴィンセントの問いに答えない。
「まぁ、もし、そうであっても私がすることは変わらん。貴様がそうなら、なおさらアリスのもとに置くわけにはいかない。この場で始末する」
そう言ってヴィンセントはまた魔法を展開し始める。
だが、アッシュは避けず素振りを見せず、指先に灯る炎をピンッと弾き、回転させる。
ボソッと炎に向けて何かを詠唱し、炎を放った。
放たれた炎は、蒼い火花が輪を描き、増え、網のように広がった。
同時に触れたヴィンセントの魔法陣は、ガラスみたいに——パリン、と割れる。
炎が触れるたびに消えていく魔法にヴィンセントは驚きを隠せない。
「——魔法が……ッ?!」
「さぁ、次は、どうするんだい? ヴィンセント君」
魔法陣がなくなったことで防ぐものはなくなる。
アッシュはヴィンセントのところまでゆっくりと歩く。
ギリッとこちらを睨みつけて剣を持ち直すヴィンセントに一気に距離をつめ、蹴り飛ばす。
見ている限り、ヴィンセントはどうやら体術よりも魔術の方が優れてる。
なら、魔法を封じてしまえばあとは、簡単だ。
反撃に転じようとするヴィンセントの攻撃のパターンを予測して、防いでいく。
魔法であろうが、剣技だろうが、隙を与える気はない。
「言ったでしょ、ねじ伏せるって」
「貴様ッ!!」
さらに追撃で殴り、窓まで吹っ飛ぶ。
——ガシャンッ
とガラスがさらに割れる音がした。
よたよたと痛む身体を無理やりヴィンセントは動かしながら正面に魔法陣を展開させる。
「無駄だよ」
蒼い炎を発動する前に飛ばす。
魔法をキャンセルし、ヴィンセントの肩と腹部に2、3発被弾させる。
魔法陣を砕かれ、炎の追い打ちをかけたところで、舌打ちをするが動けるような素振りがなくなる。
動かないヴィンセントに炎を向けるが、追撃はしない。
これ以上の反撃は殺しかねない。それにアリスの命令は止めることだから。
アッシュは炎は消さず、少しヴィンセントを見てからアリスの方を見る。
「アリス、終わったよ」
その一言を聞いて、ようやくエドワードは結界を解除する。
彼の後ろにいたアリスは顔を出して驚く。
「アンタ、ほんとすごいわ……。ヴィンセントにも勝てるの?」
「いや、ヴィンセントも強いよ。ただ加減しながらはちょっと難しいものだね。何処までしたらダメかわからないし」
「ちなみに本気出した?」
「全然。出したら殺しかねないもん」
彼の言葉に『ふ~ん』と言いながらアリスはアッシュのところへ、そしてエドワードはヴィンセントのところまで駆け寄る。
傷だらけの自分の兄に心配そうに声をかけた。
「兄様……。大丈夫か?」
負けたからか、それとも心配されて屈辱なのか、ヴィンセントはエドワードの声掛けにギリッと睨みつける。
「触るな、愚弟が……!!」
「そうは言っても傷の手当てをした方が——」
「うるさい!! ただ守護者に選ばれたというだけで、なんの能力もない無能のくせに、私を見下すな!!」
「あにさ——っ!!」
ドンッとエドワードは弾き飛ばされ、衝撃で後ろへとよろめく。
彼の身体が、割れた窓枠を越えた。
そのままバランスを崩して、窓の外側に出してしまう。
落ちていきそうになるエドワードに、ハッとしたヴィンセントは痛む身体を無視して、弟へと手を伸ばす。
だが——
(届かない……!!)
空振りしたヴィンセントの表情が強張る。
だが、その後ろから。
——ダンッ
迷いなく、アッシュが飛び出し、エドワードの腕を掴むと、部屋へ引き戻してヴィンセントの方へ投げる。
「うわっ?!」「ッ!」
引き戻されたエドワードをヴィンセントが掴む。
けれど、アッシュは引き戻した時の勢いが止まらず、窓から飛び出てて、そのまま落下する。
見下ろすだけで足がすくむ高さだった。
落ちて行ったアッシュにアリスは小さな悲鳴を上げる。
「アッシュ!!」
アリスが慌てて窓から下を見る。
が、その下には誰もいない。
アッシュの姿も何処にも見当たらなかった。
「え、えぇっ?! ど、何処に行ったの?!」
見失った彼を探すように、きょろきょろとしていたら後ろから風か吹く感覚。
そして、鈍いゴンッと音がした。
音の方へ振り向くとアッシュが床に倒れていた。
「あいたた……。やっぱ無属性の魔法は苦手だな……」
頭から落ちたのか、痛そうに頭を押さえながらアッシュは起き上がる。
無事な姿にアリスは安堵した。
「よ、よかった……。アンタ無事だったのね」
「あはは、まぁ着地に失敗はしたけど、なんとかね。それよりエドワードは大丈夫?」
「あ、あぁ。助かった……」
少し戸惑いながらエドワードは隣でまだ彼の腕を掴んだまま自身の膝を抱えているヴィンセントの姿があった。
咄嗟にヴィンセントの方に投げたけど、一応二人とも無事のようだ。
動かなくなった兄に、エドワードはそう声をかければいいのか迷いながら、袖を引っ張る。
「あの、兄様……」
「…………」
ヴィンセントは黙ったまま、大きく息を吸って息を吐いてはブツブツと何か呟いていた。
ぼそぼそとしゃべる姿は、先程まで好戦的にしてきたのは幻覚だったんじゃないかと思うほど、大違いなくらいな姿にアッシュもアリスも互いに見てからもう一度、彼を見る。
何を思ったのか、そっ、とアリスはヴィンセントと同じ目線の高さになるようにしゃがみ、肩をなでる。
そして、『あ、これ懐かし』と言って、なでながらもう一度アッシュの方を見る。
「たぶん、これいじけモードだ」
「いじけモード」
思わずアッシュは同じ言葉を口にする。
「いつもあんな感じだけど、たまにあるのよ。落ち着いたらしゃべり始めると思うわよ」
ポンポンといじけモードのヴィンセントが落ち着くようにアリスは撫でているが、身動きが取れなくなったエドワードはどうしたらいいものかと、アッシュとアリスを見るけども、返事が返ってこない。
困った様子で、隣に座るアリスの方を最終的に見る。
「わ、私はどうしたら……?」
「一旦ステイで」
「え、えぇえ……」
何とも言えないエドワードはため息を吐いて、諦めた。
とりあえずヴィンセントが落ち着くまでの間、ユキ、ノアの二人で修復魔法を使いながら部屋を片付けていく。
そして、さすがに騒ぎになってしまい、ユーリが部屋まで駆けつけて来て、全員、かなり怒られてしまった。
一番怒られたのは、どうやら上からアッシュが落ちてきていたところを目撃されていたらしく、そこの件でかなり怒られた。
もっと他に言うところがあるとは思ったが、部屋よりも身の安全の方を気にするのは彼らしい。
◇
数時間後くらいには、ようやくヴィンセントも落ち着た。
最初と相変わらず顔は不機嫌そうな顔をしているが、先程の様に高圧的な様子もなく、黙って客室のソファに座っていた。
落ち着いて話し合いをするためにも、忙しいところルーファスに来てもらい、部屋で起こったことを全て説明しており、一緒に同席してもらうことになった。
事情を聞いたルーファスは半分ほど呆れた顔をしていたのは、言うまでもない。
「はあ……。ヴィンセント君、アリス君が心配なのはわかりますが、強制はいけませんよ。強制は」
「…………」
「ヴィンセント君」
「わかっている……。何度も言うな。先生」
ルーファスのことを『先生』と呼ぶヴィンセントは聞く限りだと、幼少期にこの騎士団で修行していたそうだ。
エドワードからもここで世話になったことを来た当初に聞いていたが、まさか、ヴィンセントも世話になっていたのは意外だった。
視線を合わせず、仏頂面のヴィンセントにルーファスは頭をコツンと軽く叩く。
「まったく、あなたたちは昔、兄弟で仲良かったんですから、ヴィンセント君もあまり突っかかってはいけませんと、何度も言ったはずでしょうが」
「……別に、突っかかっていない」
「起こした後に殴ろうとしたのは? 突っかかっているうちに入るでしょう」
「殴る前に防がれた」
「ヴィンセント君、病人を殴るとこがダメってわかりませんか?」
「…………」
正論と理解しているのか、黙ってしまう。
淡々と怒られて、眉間の皴が濃くなるが、同じソファのひとスペース空けて座っているエドワードがおどおどしながら口を開く。
「ルーファス、兄様をそんなに責めないでくれ。それに、私は兄様を尊敬してるし、喧嘩というか、突っかかれてもそんなには気にしてるつもりは——」
「私はお前のそういうところが嫌いだ」
「す、すまん……」
「ヴィンセント君、やめなさい」
「チッ」
舌打ちする彼に対して、アッシュは口を挟もうかどうしようかそわそわする。
エドワードはエドワードでいつもみたいな元気がない。
(んー、僕は兄弟がいたことがないからこういうものなのかな)
そう思いながらも二人が座るソファーの後ろから間に入るように割り込む。
「君たち二人は依然仲良かったんだ。ちょっと意外だね」
「家族の中では、兄様とは仲はいい方だ、と思う……」
「んん~、それはちょっと触れにくいねぇ」
「おい、近づくな、殺すぞ」
「まぁまぁ、嫉妬深いヴィンセント君、そんなピリピリしてると幸運が逃げるぞぉ〜」
「黙れ。そもそも貴様がアリスと行動していることが原因だ。さっさと消えろ」
「あはは、いやだなぁ。負け犬の遠吠えって言葉、知ってる?」
「あ?」
「ちょっ! あ、兄様もアッシュも落ち着け」
バチバチなアッシュとヴィンセントは言い合いをしながらも今のところ互いに手を出す様子はない。
ルーファスも『はいはい、もうお二人ともいい大人なんですから、喧嘩しない』と注意を受けてしまう。
けれど、アッシュはそれよりも少し気になったことがある。
アリスやエドワードからは少々特殊な家系とは聞いていた。
代々神子に——アリスに仕えるエフェメラル家。主に魔法や刀を扱いに長けていて、特に雷の恩恵がかなり強い。そのためか、神子を守るために力を強く求められ、幼少から過酷な訓練や修行を受けるため、その修行先は、ここの騎士団でもある。
だからルーファスもヴィンセントのことを知っているんだろうけど……。
けど、それでもいくら何でも守護者であるエドワードとヴィンセントがここまで仲が悪いのは気がかりだった。
力に固執する家系で力を示せず、差別されてしまう子どもがいることは知ってる。
エドワードは力というか身体が弱いけども、刀の扱いも魔法も、弱くない。むしろ魔力に関しては一般よりは多い方だ。
「君、僕に対してあからさまに毛嫌いしてる理由はよくわかるけど、なんで家族であるエドワードに対してもそれなの?」
「何故、貴様に言わないといけない?」
「負けたんだから教えてよ。エドワードをずっと怯えさせてさ、兄ならもう少し気にかけてあげなよ」
「貴様に関係は——」
「あぁ、それは簡単な理由ですよ。純粋に守護者に選ばれなかった腹いせですよ」
「おい、先生」
横から口を出したルーファスにヴィンセントは睨む。
ため息をして、続ける。
「いつまでもそういうのもよくないですよ。ヴィンセント君が元々ここの騎士団に来て修行していたのも守護者としてアリス君を守れるようにするためでしたからね。子どもながら、真剣に取り組んでいましたし、どの子たちよりも常に成績も腕っぷしもトップでした」
「へー、そうなんだ」
「えぇ。ですが、その修行中、彼が十五歳の時にエドワード君が守護者だと判明しましてね。それ以来こんな感じです」
「……てことは、さ」
アッシュはチラッとヴィンセントを見る。
「自分が必至に守護者として修行していたのに、自分じゃなくて、弟のエドワードが選ばれたからっていう、嫉妬から来てるってこと?」
その問いに、ヴィンセントは何も言えないのか、黙ってそっぽ向いてしまう。
彼の態度にアッシュは『うっわ』と引き気味に言う。
「ぐれてんじゃん。てか何年も、ってことでしょ。いい歳してぐれすぎじゃん」
「……ッ、ブフォ!!」
耐えきれなかったアリスは思わず吹き出す。
ルーファスとアッシュの言葉でエドワードも困惑してる横で、ヴィンセントは黙って目を背ける。
「あっはっはっは!! なになに! もしかしてそういうこと?! 可愛いわねぇ〜」
「あーうるさい、うるさい。もういい、しゃべるな」
ソファの手すりに頬杖をつくヴィンセントの隣まで、わざわざきたアリスはニヤニヤ笑いながら、彼の頬を突っつく。
鬱陶しそうに払おうとするヴィンセントを見てユキが『あ、なるほど』と呟く。
「何が、なるほどなんだよ?」
「いえ、僕とノアの時にあからさまに態度が違かった理由が何となく分かりまして……」
「え、まじ?」
もうひとつのソファに座っていたユキとノアの声に、ヴィンセント以外全員そちらを向いた。
「まず、一つ目が僕とアッシュはアリスの守護者ではないじゃないですか。自身も守護者ではないから同行して守ることを諦めてるのに、一緒にいることが気に食わないのでしょう。二つ目がアッシュを特に嫌ってるのは他の神子の守護者なのに同行してる、というのが尚更、気に食わないのでは無いでしょうか?」
「あってると思うわよ、多分それ」
ケタケタ笑いながらアリスは答えた。次にヴィンセントを見ると身体ごとそっぽを向いてこちらを見ない。どうやら図星のようだ。
さらに追い打ちをかけるようにアッシュがニヤニヤと笑いながらヴィンセントの方を見る。
「なーんだ、そんなこと。嫉妬深いはやっぱり間違いじゃないじゃん。んで? エドワードにはなれなかった八つ当たり? うわぁ、しょうもな」
「貴様——ッ?!」
煽ってくるアッシュに睨みつけようと振り向いたヴィンセントにアリスは抱きつく。
グリグリと額をヴィンセントの背中に擦り付け、何事かと振り向いた彼に、彼女はニカッと笑う。
「そんなにアリスちゃんのこと大好きなら言ってくれたら旅の土産話以外に私の写真もつけてあげたのにぃ〜」
「なぁっ?!」
ヴィンセントは顔を真っ赤にして立ち上がる。
「だ、誰がいるか!! アリス、お前、調子に乗るなよ!! さっさと離れろ!!」
「ふふふーん。やーだ!」
ぶんぶんと身体を揺らすが、アリスは一切離れる気配もない。むしろ離さないと言わんばかりにがっちりと掴まっていた。
「ヴィンセントが私のためにいつも頑張ってんの、アンタが子どもの時から知ってたけど、私が知らないところで、もっともっと頑張ってたんだね」
「いきなりなんだ」
「褒めてんのよ。むっかしからアンタは『守護者の家系として』って責任感も、当主になってからも私たちの旅のサポートも、めちゃくちゃ頑張ってたの、もっとわかってやれなくてごめんね」
アリスがそう言うと、ヴィンセントは仏頂面のままだが、耳元が少し赤くなる。
そんな彼にアリスは『えへへっ』と笑うが、今度は彼女がぷくぅと頬を膨らませる。
「でも、エドワードとはちゃんと仲直りしなさいよ? 結構気にしてんだからね。エドは」
「…………」
ヴィンセントはチラッとエドワードの方を見る。
エドワードの顔は目が合うとビクッと身を震わせて、視線を逸らしてしまう。
そんな彼にヴィンセントはため息をつきながら、再度ソファに腰かけて、またそっぽを向く。
「ほら、顔見て!」
「痛っ?!」
アリスが強制的にヴィンセントの首をエドワードに向ける。
無理矢理向けさせられた時に、ごきっ、と痛そうな音が聞こえ、ヴィンセントも痛みで首筋を擦るが、言われた通り、渋々エドワードに視線を移す。
「……おい、エドワード」
「あ、はい、なんだ? 兄様」
恐る恐る、エドワードは顔を上げる。
言葉をまだ迷っているのか、少しだけ視線が泳ぐ。それでも、言いたいことは決まったようで、再びヴィンセントの瞳がエドワードを見つめた。
「……さっきは悪かった。私のくだらない意地だ」
間が空く。
「別にお前が本当に、その、き、嫌いという訳では無い……」
その言葉にエドワードは顔が明るくなる。
「……っ! あ、あぁ大丈夫だ。兄様の気持ちを私も汲み取れず、知らぬ間に傷つけていたんだな……」
「別に。さっきも言った通り私の意地が原因だ。お前は守護者として精一杯、頑張っているのは知っている。だから、その、謝るのは、私だ」
「……ありがとう、兄様」
耳を真っ赤にしてるヴィンセントと嬉しそうな顔をするエドワードを見てアッシュもつられて笑う。
二人のやり取りにルーファスも『うんうん』と頷き、少し間を置いて手を叩く。
「さ、問題はひとまず解消しましたね。兄弟なのですからこれからは仲良くするんですよ」
ルーファスの言葉にエドワードは頷き、ちらっと見たヴィンセントは無視をし、ため息を吐きながら立ち上がる。
まだ後ろにアリスはしがみついたままなのをアッシュが引き剥がす。
ようやく解放されたヴィンセントは、部屋を出るのか、扉の方まで行こうとして、立ち止まる。
「アリス」
「ん?」
振り返ったヴィンセントは仏頂面は無くなっていた。むしろ優しい表情に変わっている。
呼ばれたアリスは何だろうと首を傾げる。
「ヴィンセント、どうしたの? あ、私の写真希望とか?」
「バカか、違う。……ひとまず、帰るというのは保留だ。そこのくそ野郎が強いことはよくわかったし、お前たちに危害どころか身を挺してまで助けに行くことも」
「ちょっとくそは余計じゃない?」
思わずツッコむアッシュだったが、視線が合うと、舌打ちをされる。けど、殺気は向けられてない。
「保留にするが、もしコイツがお前たちに手を出すというなら、全力で殺しに行く」
「わー、物騒」
呑気に返事するアッシュを他所に、アリスとエドワードは思った。
先日のアッシュの事件の事は絶対にヴィンセントにバレないようにしよう。
そう二人は思ったが口に言わなかった。
バレたら絶対ややこしくなるし、それどころではなくなりそうだからだ。




