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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里
206/214

雨の里:協力1

 ユキはノアと一緒にアッシュたちの話を聞いていた。普段こういう話の時はあまり参加することは無かったけども、流れで同室してるようなものだ。


 それに、アリスたちが悩んでいるようだ。

 僕は前回、怪我をして何も彼女たちの力になれなかった。何か、僕も役に立てることは無いだろうか。


 そう思っていると、潜入するかどうかの話になっていた。



「あの、アリス」

「あら、何よ? ユキ」



 軽くユキが手を上げると、アリスたちの視線がユキへと向く。こちらに視線が集まるとユキは自分から声をかけたのに、ビクッと驚いてしまう。緊張を紛らわせるためか、ふぅ、と息を吐いて彼は一歩前に出た。



「僕とノアで潜入してきますよ」

「え? 君とノアが?」

「はい。それに、潜入の隠密調査は得意な方なんです。ノアも構いませんか?」

「俺は良いけどよ、お前はいいのかよ?」

「えぇ、僕もアリスたちの力になりたいですからね。前回は怪我をして全くでしたが、今は怪我も治ってます。お任せ下さい」



 ニッコリと笑うユキにアリスはジッと見る。心を詠んでいるのか、それとも任せていいのか考えているのか、彼女はアッシュの方へ視線を移す。



「アッシュはどう思う?」

「いいんじゃないかな。僕が一緒じゃなくて大丈夫かい?」

「はい。アッシュはアリスたちを守って頂きたいです。あなたがいるなら安心して潜入出来ますし、何かあれば対処してくださるでしょう」

「あはは、まぁね」



 とはいえ、少し心配だ。

 アッシュはフードの中でスヤスヤと寝ている黒猫、クロを取り出して、ユキに手渡す。


 引っ張りだされたクロはあくびをして伸びをする。



「潜入は任せるよ。その代わりクロを連れて行っておいで。何かあれば僕もサポートするからさ」

「それは心強いですね」



 まだ眠そうにしているクロを受け取ると、ノアも否定的だった割には珍しくやる気満々な様子で立ち上がる。



「っし! んじゃあ、俺とユキで探ってくるか」

「頼んだぞ」

「おう。アリスがやるっつってんだったら、俺らも頑張んねぇとな」



 そう言って二人が部屋を出ようとした時、レインが呼び止める。



「待て、アヴェルスを連れて行くといい。森に慣れて土地勘がある者がいた方がいいだろう」

「俺?! んで俺がよそ者と馴れ合わないといけねぇんだよ!」

「他に誰がいる? それに今回、神子殿が手を貸してくれるんだ。我々も何もしない訳にはいかないだろ。それともボクが行った方がいいか?」

「ぐっ……、ば、ババァは大した戦力にならねぇだろ……?!」

「あなたも存外戦力にならなそうに見えますけどね」

「んだと?! この根暗野郎!!」



 ユキの挑発的な言葉にギャンギャンと騒ぐ。


 いくら戦闘には役立つかもしれないけども潜入なのにうるさくされては困る。土地勘があるのはありがたいが……、これならノアと二人の方が動きやすい。


 正直、いらない。



「僕とノアだけで大丈夫です。えーと、レインさん、でしたかね? お心遣い感謝しますがさすがに犬を散歩に連れていく訳にはいきません」

「あぁん?!」

「んー、僕は連れて行ってもいいと思うけどね」

「え、いります? このチワワ」

「誰がチワワだ!!!!」



 本当にチワワのように騒ぐアヴェルスを無視して、アッシュは地図を持ってユキに見せる。彼が見せてきた地図には一部分茶色に潰されているところがあった。


 これが何なのかと首を傾げる。



「この辺りは恐らく崖がある所かなって思うんだ。特に雨で視界も悪い。土地勘のあるチワワ君が一緒なら崖から落ちてしまうリスクが減る。だから、静かにしてもらって一緒に行ったらいいよ」

「崖、ですか……。気をつけていれば大丈夫じゃないでしょうか?」

「ユキ」

「ッ!」



 不要じゃないかと思いそう言うと、笑顔のままのアッシュの目が笑っていない。少し威圧的な感じもする。



「連れていきなよ。僕がその場にいるなら良いけど、今回は君とノアを信じて任せるんだ。リスクを回避出来るなら、うるさく吠えているチワワくらい、連れて行っても問題はないさ」

「……わ、わかりました」



 少し怖気ついたユキにアッシュはまだ先程の笑顔のまま頷く。心配なのは分かるけど、やはり過剰な気がする。


 それに、その肝心(かんじん)チワワ(アヴェルス)はまだ嫌がっていた。提案してくるアッシュの胸ぐらを掴みあげる。



「おいおいおいおい!! 俺は行くなんて言っねぇだろ?!」

「大丈夫だよ、チワワ君。危ないかどうか居てくれるだけでいいからさ」

「チワワチワワ言うんじゃねぇよ!! はっ倒すぞ!!!!」

「いやぁ、チワワ君くらいじゃあ僕は倒せないかなぁ〜。それに、ね」



 アッシュは胸ぐらを掴んでいる腕を握る。初めは痛みが無かったようだが、だんだんと力を込めているのか、アヴェルスは苦悶の表情を浮かべる。


 ついには手を放してしまうが、アッシュはそのまま彼の手を捻りあげ、ちぎれるような痛みが走るだろうが捻りあげている本人は何食わぬ顔で笑ったままだ。



「ちょーっと、こっちに来て、二人で話をしようか」

「痛でででッ!! ちょっ?! まっ?!」



 部屋の外へと連れ出されたアヴェルスだったが、さすがに誰か止めないのかとルーファスは少し焦った顔でアリスたちの方を見ると、”まぁ、大丈夫じゃない?”と彼女が答えるので、待つことに。


 連れていかれて約5分後、カチリッと扉が開くと、二人は戻ってきた。が、何故かアヴェルスは顔を青ざめていた。



「すんません!! ちゃんと案内させてもらいます!!」

「と、言うことでチワワ君も手伝ってくれるってよ」


(何があった?!?!?!)



 礼儀正しい、とは言えないが身体を90度に曲げて頭を下げるアヴェルスは何か怯えている様子でいた。それに反してアッシュは笑顔のまま、彼の肩をポンポンッと叩く。


 叩かれると何故かビクビクとしている彼に先程までの威勢のよさが無くなってしまい、驚くような変わりようで何をしたのかと部屋にいた全員が思ったが、どうも触れるといけない気がしてしまう。



「さて、彼も協力的になってくれた事だ。ノアもユキも気をつけてね」

「あ、ありがとうございます」



 チラッとアヴェルスを見ると今度は捨てられそうな子犬のような状態になっている。気の毒に思いつつも、ノアとユキは顔を見合わせて、頷く。



「んじゃ、久々に二人でやってやるか!」

「えぇ、ノア、頑張りましょう」

「おう! あ、おい! アリス!」

「あら、なによ?」



 座っていた棚から飛び降りてアリスの元へノアは駆け寄る。何だと思い、首を傾げていると、彼は得意気な顔をして、拳をアリスに向ける。



「俺とユキで調べとくからさ、ルーファスと話すんならしとけよ。安全を考えて、俺も反対はしてたけどよ、アッシュが言った通り、お前がやんなら、俺らに出来ることはお前のために頑張ってやんだからさ。信用してる待ってろよ」

「あら何よ、ノアやユキの事だもん。きっと出来るってもちろん信じてるから」

「おん。じゃあ行ってくっからな」

「うん。二人とも頑張って。活躍を期待して待ってるわ」



 ノアとユキに向けてアリスは手を軽く振る。


 神子と守護者だからなのだろうか、(あるじ)であるアリスに期待していると言われたのは何処か嬉しさを感じている。


 笑顔で二人を見送り、その後をアヴェルスがトボトボとついて行く。三人の姿が扉が閉まり、見えなくなったところでルーファスが口を開く。



「あの、アッシュ君」

「何だい?」

「アヴェルス君に何をしたんです?」

「え、チワワ君にかい? ん〜、そうだねぇ」



 ルーファスの問いに周りも気になるようでアッシュを見る。そんなに見られるとは思っていなかったのか、困ったような顔をしながらも笑った表情を崩さずに、アティの頭を撫でる。



「犬ってさ、自分より上だって分からせてあげると従順になるって聞いてさ。試しただけだよ」

「え、シバいたの?」

「あはは、やだなぁ、アリス。僕がそんな野蛮な人に思えるのかい?」

「だってアンタ、私たちの事になると野蛮どころか魔王にでもなるじゃないかって事するじゃない」

「それは、私も思う」



 アリスとエドワードの言葉にアッシュはクスクスと笑うだけで何をしたか答えてはくれなかった。


 きっとろくでもない事だとは思うけども、元気に吠えていたアヴェルスが気の毒になってきてしまう。



「じゃあ、マーダー帝国の件は二人に任せて、もう一つの困り事の失踪事件の方を片付けようか」

「アイツらだけでいいのか?」



 正直、内容が内容だけにアッシュ一人で片付けると思っていたのに、ユキとノアに任せるとは思わなかった。ユキが提案してきたのも驚きだったけど、今までのコイツなら断って自分でしていたと思う。


 疑問にエドワードが首を傾げているとアッシュはニッコリと笑う。



「大丈夫。二人の事、信用してるからさ。それはそうとルーファス、聞きたい事があるんだけどいいかい?」

「はい、なんでしょうか?」

「君が今、里に結界を張っているのは間違いないのかな?」

「えぇ、私が張ってます。外の雨もゆっくりなので結界は問題なく機能はしてますね」

「あ、雨がゆっくりなのはルーファスの結界が原因なんだね」

「はい。結界が機能しているのを目視できる方がいいとアヴェルス君に言われましてね。結界内に入ってくる雨はゆっくり落ちるようになってます。後は悪意がある人物に関してもそれが適応されるようにしてますね」

「ふーん、なるほど。ちなみにルーファスが結界を張った後も失踪は起こってる?」

「……えぇ、お恥ずかしながら、起こってます」



 申し訳なさそうに俯くルーファスだが、アッシュは慌てて否定する。



「あ、別に責めてる訳じゃないんだよ。状況を聞きたいって言うのと結界の効力も聞きたかったからさ。ありがとう、教えてくれて」

「お気遣いありがとうございます。アッシュ君」



 ヘラッと笑う彼にアッシュも笑顔で返す。そして、足を組み、紙に状等を書き出す。アッシュは少し考えた後、小さく頷くと、ペンを置いてアリスの方を見る。



「多分、これマーダー帝国は恐らくこの失踪の件には関与してないと思うよ」

「え、そうなんですか?」

「さっきも言った通り、捕まえて何がするという事なら、即刻囲って里の人たちを一網打尽にする。でもしないし、攻めてくる様子が無いなら別の目的で辺りを彷徨いている可能性があるんだ。だから、この里で起こってる失踪を糾明するなら……、これが一番簡単かな」



 そう言ってアッシュは蒼い炎を取り出す。取り出した炎は床へとポトリと落とすと、炎は糸を張るように一気に拡がる。だが、炎は建物を燃やさずに何処かに散るように消えていった。


 消えていった方向をエドワードは目で追ったが消えてしまったため、不思議そうな表情で炎を放った彼の方を見る。



「どうする気なんだ?」

「まぁまぁ、任せてよ。チワワ君の話がそうなら今日の夜か明日には判明するんじゃないかな」


(そんな簡単に終わるものなのでしょうか……)



 心配そうにしていたが、アッシュは微笑んだまま窓を見つめていた。


 彼がどう動くかは分からないけども、今は彼らに任せるしかない。ルーファスは窓から外を眺めて、無事に解決する事を祈る。

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